仮想メモリとしての野帳

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脳の機能の一部を外部記憶に頼ることで、脳を CPU・RAM として最適化する。

PoIC では、野帳を脳の外部記憶装置として使います。

PoIC の野帳の始まり

コクヨの測量野帳。

PoIC では、情報をより良く収集するための道具として「野帳」を使います。私が野帳を使うようになったのは、仕事で野外観測に行くようになってからです。それまで、私にメモを取る習慣はありませんでした。

自分だけの野帳を持つ

私の所属するグループには、いわゆる「公式の」野帳があります。観測機器一台につき、野帳1冊を割り当て、その器械の担当者が責任を持って携行し記録を行います。通常の観測では、大きい器械1台 + 小さい器械2台を使用するので、3冊の野帳を使うことになります。観測から戻ると、野帳はグループの責任者の元で保管されます。

しかし、これでは自分の思ったことが自由に書けません。そこで私は、公式の野帳とは別に自分の野帳を用意し、肌身離さず持ち歩くようにしました。この野帳には、自分の思ったことも自由に書けます。また、野帳を参照したい時には、いつも手元にあります。これが、いま PoIC で使っている野帳の始まりです。

すべてを記録する

私が野帳にすべてを記録しようと思い立ったのは、次の3つの理由からです。

  • 私の記憶力の弱さを補うため。
  • いくら他の人の記憶力が良いとしても、それは当てにならないため。
  • 起きたことが重要かどうかは、その時点では判断できないため。

記憶力の弱さは、まめに記録を取ることでいくらでも補うことができます。また、いかに記憶の良い人でも、相手がどんなに偉い人でも、それが何らかの記録として残っていないものは、まったく当てにはならないし、してもいけません。人間は、自分の都合の良いように物事を解釈して憶えているからです。自分の目で見、耳で聞き、肌で感じて野帳に書いたことだけが、自分の信頼できる情報です。

観測では、これまで行ったことのないところで、これまで経験したことのないことが、雪崩のように押し寄せます。何が原因で、何が結果か、すぐには判断できない時があります。そこで、とりあえず野帳に記録を書き残しておいて、重要かどうかはあとで判断します。

野帳を書く習慣の獲得

野外観測は一週間ほど続きます。自分の野帳を導入して初めての観測では、身に起こったこと(記録)、気付いたこと(発見)、やるべきこと(GTD)を、朝起きてから眠るまで、時刻も含めてすべて野帳に記録しました(この当時はまだ記録と参照を区別していなかったので、3種類しかなかった)。

私の場合、すべての情報を収集する習慣は、この一週間の練習で身に付いたものです。そして、それは今でも続いています。梅棹(1969)は、手帳をつける習慣を「獲得」し、「二十数年後のいまでも、きえることなくづづいている」と述べています(p. 22)。たしかに、この習慣は、ちょっとした訓練によって誰にでも獲得できるもののようです。

野帳を使い始めると、「ひらめきすぎる」、「発見しすぎる」という経験をします。これは、今まで自分の脳にかけていたフィルターを外した反動です。キノコを一つ見つけると、ここにも、あそこにも、色んなところにキノコが見つかるのと同じです。アイディアや発見は、止めるものが何もないと、どんどん出てきます。無理に止めようとせず、書けるだけ書くようにします。身に起こったこと、思い浮かんだことは、文字通り「なんでも」書くようにします。

仮想メモリとしての野帳

PoIC では、脳の機能の一部を外部記憶に頼ることで、脳を考えること・発見することに最適化します。

カードとの連携

野帳に記録する習慣が付いたところで、徐々にカードに転記するようにしていきます。カードにしておくことで、のちの再利用性を高めます。野帳とカードの使い分けは、コンピューターを使って例えると良く理解できるでしょう。

  • 脳 = CPU, RAM
  • 野帳 = 仮想メモリ(HDD)
  • カード + ドック = HDD

野帳は、あくまでも脳とカードの間をつなぐ一時的な記憶媒体という位置付けです。

メモリを解放する

アイディアは、思い浮かんだ瞬間に、すぐに野帳に書き込むようにします。「あとで書こう」と思っていると、それを覚えていることに労力を費やしてしまったり、時には忘れたりします。歩いている時は、立ち止まってでも野帳に書き込みます。これは、「仮想メモリにデータを書き込み、物理メモリ(RAM)を開放すること」に例えることができます。こうして確実に記録を残した上で、安心して次のことを考えられます。

いつでも、どこでも

野帳は、いつも肌身離さず持ち歩くようにします。普段着の場合、野帳はワイシャツの胸ポケットに入れ、この上にジャケットを羽織ります。ジャケットの内ポケットに入れないのは、ジャケットを脱いだ時に野帳を忘れてしまうからです。人込みの中、電車の中、布団の中、どこでも野帳を取り出して書き込みます。この光景は、端から見るとちょっと奇妙に見えるかもしれません。しかし、生産性のためと割り切って、堂々と書きます。野帳を書く時には、「まあいいや」、「あとで」はあり得ません。

立ちながら書く時は、野帳を開いて左手の手のひらの上に載せ、人さし指から小指までの四本指で野帳の上部をグッとつかむようにして持ちます。野帳は表紙が十分硬いので、これで安定してメモを取ることができます。

一日中座っているよりも、散歩に出た方が、さまざまな発見や疑問に気付きます。私は気分転換もかねて、歩いて20分ぐらいの距離のお店に昼食に行くようにしています。腕を組んで考え事をしながら歩く時は、歩き慣れた道の方が良いです。アイディアは、新幹線や飛行機で移動している時にも浮かんできます。移動している間はすることがないので、かえって考え事をするのに適しています。野帳を取り出し、頭に浮かんだことを一つ一つメモしていきます。

こまめに書き出す

野帳からカードへの書き出しはこまめに行い、野帳に溜めないようにします。一週間分溜めて週末に転記する、ということも試してみましたが、この時は一度に100枚近くのカードを書くことになり、とても大変でした。それからは、なるべくすきま時間を見つけて、まめに転記するようにしています。もし野帳に情報が溜まってしまった場合でも、いま頭に思い浮かんだことを最優先にカードに書いていきます。そのあとで、野帳の最新の項目→野帳の古い項目の順でカードに書いていきます。こうして転記の先延ばしを防ぎます。

転記している間にも、新しいアイディアが浮かんでくるので、それも新しいカードに書いていきます。野帳には、記憶を呼び戻す程度のキーワードやラフスケッチを書いておき、カードに書く時に情報を展開します。カードに書き写す際の労力は、少しでも減らしておきます。

野帳の書き方

野帳の書き方は、基本的にカードの場合と同じです。

  • 時系列:仕事・生活の区別なく、起こった順・思い浮かんだ順に書いていきます
  • 4アイコン:内容に応じて、記録・発見・GTD・参照のアイコンを付けます。
  • タイムスタンプ:日付スタンプは、各ページの上部にスタンプを使って押します。時刻スタンプは、一つ一つのメモに付けておきます。
野帳の書き方。Flickrの写真に細かいメモを付けてあります。

日付スタンプがきれいに押してあると、カードに移す時のモチベーションも格段に上がります。日付スタンプは、なるべくまめに、きれいに押すようにします。各トピックの横にある青ペンのチェックは、カードに書き写したことを表しています。

野帳は、カードに比べて面積が広いので、より自由に思考を表現できます。まだ固まっていないアイディアでも、思い浮かんだ時に、どんどん書き込みます。絵は、カードに描く時よりもラフに描けます。野帳は、下書き的な書き込みに向いています。

プラチナ・プレスマン

野帳を書く時は、なるべく紙面からペンを離さないようにして書きます。見た目はきれいなものではありませんが、素早く書くことができます。きれいな字を書くことよりも、むしろ、アイディアを捕まえることの方に専念します。字は、カードを書く時に判読できる程度であれば良しとします。眠る前に布団の中で思い浮かんだことを、電灯もなしに野帳に書くこともありますが、それでも朝になって見てみると何とか読めるものです。野帳は一時的な記録媒体ですから、これで十分です。

野帳の書き込みには、プラチナ社のシャープペンシル「プレスマン」を使っています。ペンと違い、フタを取る必要がないので、すぐに書く体勢に入ることができます。プレスマンは、その名の通り、記者(Press Man)が速記に使うシャープペンシルです。芯が0.9 mm で太く、力を入れなくても、サラサラと書くことができます。カードと野帳では、紙質が違うので、ペンとシャープペンシルを使い分けています。シャープペンシルは、野帳の紙の上での滑り具合がとても心地よいです。