時系列スタック法

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すべてのカードを時系列で保存していく。分類しない、検索しない、時系列を更新しない。

書いたカードは、分類せず、すべて書いた順に「時系列」でドックに蓄積していきます。

分類しない

PoIC では、すべてのカードを、書いた順に、そのままドックの中に蓄積していきます。これを「時系列スタック法」と呼びます。

時系列スタック法では、一番新しいカードがドックの一番手前に来ます。このような情報の蓄積方法は、情報へのアクセス頻度を考えると非常に合理的です。

4カード」では、身の回りの情報を記述する4種類のカードを導入しました。しかし、ドックの中でカードを4カードによって分類するといったことはしません。なぜなら、そのような分類は、個人的なカードシステムではかならずボトルネックになってしまうからです。

公共のシステムと個人のシステムの違い

情報の分類が必要となる場合について、野口(1993)は、非常に明解な判断基準を述べています。すなわち、個人のシステムでは時系列による情報蓄積、公共のシステムでは分類による情報蓄積が好ましい、というものです。

公共のシステムとは、例えば図書館や博物館などです。図書館で、利用者から続々と返却されてくる本を時系列で管理したとすると、図書館というシステムがすぐに破綻してしまうことは容易に想像できます。公共のシステムでは、みんなが一つのシステムを共有します。そのため、共通の検索キーとしての分類が必要になります。逆に、共有する必要のない個人のシステムでは、こういった分類は(ほとんど)必要ありません。

分類におけるグレイゾーンの問題

分類(左)と時系列(右)の違い。時系列ではグレイゾーンが発生し得ない。

分類という工程を考えた時に、状況を難しくするのは、つねに「グレーゾーン」があるということです。A のプロジェクトにも、B のプロジェクトにも属するカードが大量に発生します。悩んでいるうちに、「まあいいや」ということになって適当にAのプロジェクトに放り込んでしまいます。

このような心理的な妥協は、カードの増加にともなって蓄積していきます。当初の分類の基準が曖昧なため、あとになって B のプロジェクトの所を探しても見つかりません。これが重なると、分類を導入したカードシステムは、自分でも信頼できないものになってしまいます。

時系列ではグレイゾーンが発生し得ない

分類の判断基準があいまいな以上、分類にこだわるのは時間の無駄です。PoIC では、厳格にカードを分類することが目的でもありません。むしろ、積極的に分類しないことで、カードに多様性が生まれます。カードシステムを導入すると、どうしても分類しなければならないような、強迫観念にとらわれてしまいがちです。しかし、個人的なカードシステムでは、分類による利便性よりも、時系列で連続的にアイディアを引き出していくことの方が重要です。また、分類の基準がしばらくしてから明確になってくることもしばしばあります(いわゆる「パターンが発現する」状態)。

分類と時系列の違いは、次元で考えてみると見通しが良くなります。分類は「空間」、すなわち2次元的 (x, y) です。一方で、時系列は「時間」、すなわち1次元的 (t) です。ある人が、ある瞬間に書くことのできるカードは、原理的に一枚しかありません。したがって、時系列で管理する限り、グレイゾーンは発生し得ません。これが、時系列スタック法で信頼のおけるカードシステムを構築できる理由です。

検索しない

PoIC のようなアナログシステムで問題となるのは「いかに検索するか」ということです。

カードシステムと検索

カードが増えるにしたがって、検索はより困難なものとなります。

PoIC の時系列スタック法において、検索の基準となるのは、自分の中の時間軸、すなわち「自分の歴史」です。そうなると、今度は「歴史」を補うために、カードの索引が必要になるでしょう。カードの数が容易に数百・数千を超えることを考えると、検索のために索引を作り、かつ、常時更新することは現実的ではありません。そもそも、一枚一枚のカードの情報量は小さいものです。ドックは、それだけですでに一種の索引と見なすことができます。

新しいカードをどんどん書く

このような、検索にまつわる心配事をよそに、私の PoIC 経験を通じて言えることは「検索する機会なんて滅多にない」ということです。

これにはさまざまな理由があります。

  • PoIC では主に新しいアイディアを引き出すことに集中する。
  • 完全に忘れてしまっている事柄を探す必要はない。
  • もし部分的に憶えているのであれば、そのカードを探すよりも、むしろ新しいカードにそれを書いてしまう。この方が速い。
  • 検索するとしても、その領域は実は限られている。せいぜい1週間以内。これは自分の記憶力による。

いずれにせよ、私がドックの中をすべて走査するほどの検索をしたのは、1年の間に1、2回程度です。

光あるうち、光の中を進め

時間の効果を考慮に入れると、同じテーマのカードでも、違うカードになっている。

カードを書くのは「頭の中から掃き出す」、つまり「忘れるため」ですから、記憶に頼って検索するのはそもそも矛盾しています。また、検索に熱中するあまり、そのカードを使って何をしようとしていたかを忘れてしまうこともあります。

機械的な検索はコンピューターの得意とするところです。しかし、カードの内容の行間や文脈を読んだり、新しいアイディアを生み出すことは、いまのところ人間の脳にしかできません。検索しないことを逆手にとって、新しいカードをどんどん書いて蓄積していきます。

似たようなことを何度も書くのは、時間と手間の無駄のようにも思えます。しかし、同じ話題が何度も心に浮かんでくるということは、それが自分にとっていくぶん重要な話題であるということです。カードの内容を断片的に思い出すということは、そのカードに書いてからしばらく時間が経過したということです。時間をおいて書いたカードは、同じ話題でもちょっと違うカードになります。

これを利用すると、同じ話題に関して、いろいろな観点から捉えることが可能になります。そして、ある話題の重要度は、最終的に、カードの枚数となって客観的に浮かび上がってきます。

時系列を更新しない

時系列による情報整理と言えば、まっさきに思い浮かぶのは野口(1993)の「超」整理法です。「超」整理法では、ファイルを時系列で並べていき、取り出したファイルは時系列の先頭(例えば本棚の右端)に置いていきます。こうすることで、システムを活性化させ、よく使うファイルとあまり使わないファイルが自然と選別されていきます。

PoIC の目的は、時系列を更新することでシステムを活性化させることではありません。「超」整理法と PoIC の時系列は、一見すると似ているように見えますが、取り扱う情報のサイズ、そしていかにしてシステムに秩序をもたらすかがまったく異なります。

この違いに関しては「PoIC を通じて見えたこと」で詳しく考察することにします。

タスクフォースの編成

時系列でカードを蓄積していくと、自然法則に従って、システムの中のエントロピー(情報の乱雑さ)は一方的に増えていきます。分類しない時系列では、なおさらです。

いかにしてエントロピーを減らすか?

このままでは、PoIC というシステムは破綻してしまいそうにも思えます。私自身、カードが増えるにしたがって、このまま行ったらどうなるのだろうか、と心配になったことがありました。

この自然法則に逆らってエントロピーを減らそうとする場合、人間の「努力」が必要になります。図書館や博物館の例では、「つねに分類する努力」によってこれを実現しています。そのために、これらの公共施設では高いコスト(人件費、時間)を支払っています。

一方で、前述のように、PoIC では積極的に(?)検索・分類せず、時系列も更新しません。では、どのようにしてシステムの破綻を防ぐのでしょうか?

検索・分類は最終手段

タスクフォースの編成。右側のドックが時系列、左側のドックがタスクフォース。

答えは簡単で、やはり検索・分類するのです。従来の方法と違うのは、この作業が一番最後に来ることです。

PoIC において、カードを書き蓄積することは、すなわち、個人の知識のデータベースを構築することに他なりません。しかし、これはまだ準備段階です。

PoIC の最終的な目標は、このシステムを使って、新しい知恵・知識・成果を再生産することです。あるテーマに関するカードが十分に蓄積したところで、ドックの中から、そのテーマに関連するカードをすべて抜き出します。渡部(1976) の言葉を借りて、これを「タスクフォース(機動部隊)を編成する」と表現します(p. 132)。このタスクフォースを編成する時に、ドックの中のカードを検索・分類することになります。

PoIC では、検索・分類は最終目標のちょっと手前でようやく登場します。そして、それで十分なのです。カードシステムが破綻しがちなのは、この最終手段を一番初めに使ってしまうからです。

お役御免

タスクフォースに選ばれ、最終目標である再生産を果たしたあとのカードは「お役御免」となります(渡部、1976、p. 133)。お役御免となったカードは、元の時系列に戻す必要はありません。カードの内容を参照したい時は、再生産したものを参照すれば良いのです。

こうして、ドックの中のカードは再生産する毎に減っていきます。そして、それ以外のカードは、将来必ず何らかの形で利用されると信じて、ドックに残していきます。

このように、PoIC というシステムの中のエントロピーは、私たちが再生産に支払う努力により減っていきます。私たちの限られた力を、これまでは検索・分類することに浪費していたことを考えれば、このアプローチは「一石二鳥」と言えるのではないでしょうか?