PoIC マニュアル v. 2.5

From PoIC
Jump to: navigation, search

Contents

はじめに

2006年7月頃から、私は写真共有サイト Flickr において、情報カードを使った情報整理の方法を紹介してきました。このマニュアルは、写真だけでは伝えきれない、方法論の細部を補うために作られました。

ここでは、5インチ x 3インチの情報カードを使って、自分のアイディアを蓄積し、それを生産性の向上につなげていく方法を紹介しています。このシステムおよびメソッド(方法)を、ここでは簡単に "PoIC" (Pile of Index Cards, カードの積み重ね) と呼びます。

このマニュアルは、初めに英語で書かれました。それは、日本では(もしくは世界でも)情報カードを使った情報整理は、まだまだマイナーな存在であると考えたからです。また、日本には、1960年代から1970年代の高度経済成長期に書かれた、情報カードを使った生産性向上に関する優れた本が多数あることを世界に紹介し、情報を共有するためでもありました。それがめぐりめぐって、日本に戻ってきました。

このマニュアルから、あなたの生産性を向上させる「何か」を見つけていただければ幸いです。

PoIC の中の人 a.k.a. Hawkexpress

このマニュアルについて

アイディアを Wiki にまとめるまでの過程。

このマニュアルは、もともと英語で書かれました。私にとって、マニュアルを書くこと、そしてそれを英語で書くことは、極めて難しい作業でした。これらの問題を克服するために、私自身 PoIC のシステムとメソッドを使いました。PoIC は、このマニュアルを書く作業の、根本的な部分をサポートしています。このマニュアルに関する全てのアイディアは、PoIC を使って収集・蓄積され、再生産されたものです。

第一世代のマニュアルは、蓄積した情報カードを抜き出し、ブログに書いたものが元となりました。基本的に一つの記事に一つの話題のみを書き、それをあとで並べ替えてマニュアルにしました。これは、ちょうどアナログのカードをそのままデジタルに置き換えたものに相当します。マニュアルが複雑になり、またブログの読者が増えるにしたがって、マニュアルの根本的な部分の修正・追加が難しくなりました。そこで、第二世代からは、Wikipedia でも採用されている MediaWiki を導入しました。これによって、より自由に文章を編集することができ、第一世代では取りこめなかった残りカードを、全て取り込むことが可能になりました。

コメントと質問

PoIC の情報が役に立ったよ (=゚ω゚)ノ という方は、下記までメールを送って下さい。PoIC に関する質問・コメント・提案・批判、なんでも歓迎いたします。

hawk(att)pileofindexcards.org

謝辞

PoIC は、情報カードを使って個人の中・長期タスクを扱う方法です。情報カードのシステム構築に関しては、1960年代から1970年代に日本で書かれた生産性に関する本(梅棹氏、川喜田氏、渡部氏、板坂氏)から、多数のアイディアを取り込みました。これらの本は、デジタル世代の私たちにとってはもはや「古典的」と言えるかもしれません。当時は「Hipster PDA」や「Life Hack」なる言葉も存在しませんでした。しかし、これらの本には生産性の向上に関する普遍の知恵と知識にあふれています。また、カードを使ったタスクの処理に関しては、David Allen 氏の GTD に依るところが大きいです。PoIC は、GTD の補間であり、外挿であると言えるかもしれません。偉大な先人たちの偉業に敬意を表します。

Flickr における Josh DiMauro 氏、Dave Gray 氏、Edward Vielmetti 氏、Jamie Parks 氏、RJStew 氏との議論はこのマニュアルを書く上で、大変参考になりました。Thorsten von Plotho-Kettner 氏には、ブログを書くことを勧めていただきました。

Erik Luden 氏には、ブログ、サーバの運営、ドメインの取得、そして PoIC に関する非常に有用なアドバイスを受けました。現在のブログと Wiki は、彼のアドバイス無しにはあり得ません。Jeniffer 氏、Sarah 氏、Felix 氏、Abdulla 氏、Rick 氏、Jeevs 氏には、ブログの記事に関して有用なコメントをいただきました。Robert Brook 氏は、flickr の写真、PoIC マニュアルを Creative Commons にすることを勧めていただきました。彼のコメントは、PoIC のアイディアを世に広めるのにとても役立ちました。Tom 氏 と Mikail 氏には、私のつたない英語を直していただきました。Leopard 氏、Gregkise 氏、John 氏、Ayalan 氏、David 氏、Alina Mikadze 氏、Kaj 氏には、情報カードの違いに関する情報を寄せていただきました。ありがとうございます。

PoIC のアイディアのいくつかは、2ちゃんねる・文房具板の情報カードについて語るスレ 2の議論の中で生まれました。加えて、このスレッドの参加者の皆さんには、日本語化を進めるにあたって、あたたかい声援と、非常に有用なコメントを多数いただきました。この場を借りて感謝の意を表します。

Pile of Index Cards とは?

近年、デジタル世代の私たちにとっては、もはや時代遅れとも思えるような、インデックスカード(情報カード)が、人気を博しています。この新しい時代へのブレイクスルーとなったと考えられるのは、次の二つのイベントです。

この二つの例は、カードを使った GTD の具体的な方法を示したものではなく、非常にコンセプチュアルなものでした。しかし、アナログ回帰への方向性を示したものとして、極めて重要なイベントであったと考えられます。私自身にとっても、アナログな媒体である「紙」が、このデジタル・ハイテクの時代の中で人気を回復しつつある事実は、とても興味深く、新鮮なことでした。

Pile of Index Cards とは

Pile of Index Cards (PoIC) とは、情報カードを使った生産性向上のためのシステムと、それに付随するメソッド(方法論)を指します。PoIC は色々な言葉で言い表すことができます。

  • 中・長期 GTD (Get Things Done)
  • 生活追跡システム
  • ハイブリッド・カード・システム
  • 情報カードを使った生産性向上の方法

キーワードは、情報カードGTD (Getting Things Done = 何かを成し遂げる) です。

PoIC のエッセンス

Great habit of collection.

PoIC のエッセンスは極めてシンプルに表現できます。

  1. 頭の中の考え、身の回りの情報をカードを使って収集する
  2. それを箱の中に時系列で保存していく
  3. それをあとで利用する

このマニュアルで紹介するシステム、メソッドの目的は、この3行を成し遂げるためのものに他なりません。

ストレス・フリー

時系列でカードを蓄積する方法は、ストレス・フリーの状態でアイディア・情報を蓄積していくことを可能にします。PoIC では、プロジェクトに関連する全てのアイディア・情報を捕らえることを試みます。そして、カードが十分に貯まったところで、箱から抜き出し、新しい知恵・知識・成果を再生産します。その時が来るまでは、検索・分類に煩わされることはなく、情報収集に集中することができます。

常に情報を収集する習慣

David Allen (2002) は、たびたび "収集する習慣" の偉大さ (the great habit of collection)について述べています。

"あなたに関する全て情報を収集する。そうすれば、気分が楽になるのに気付くでしょう (You'll feel better collecting anything that you haven't collected yet)。" (p. 232)
"生産性の向上を実現させるには、(頭の中の)全ての情報を捕らえる必要がある (To fully realize that more productive place, you will need to capture it all)。" (p. 233)
"アイディア収集のプロセスをできるだけ完全に行うこと、そして新しいアイディアが浮かんだ時に捕まえる習慣を織り込むことで、あなたはより生産的になる (Doing the collection process as fully as you can, and then incorporating the behaviors of capturing all the new things as they emerge, will be empowering and productive)。" (p. 233)

この David Allen が提案していることをいかに実現するかを考えた時に、PoIC はその一つの可能性を提示します。

チェックボックスだけでは足りない!

このマニュアルを読んでいる大半の人が、GTD について、私よりも良く理解していると思います。私の理解では、GTD の哲学は、大きなプロジェクトを細かいタスクに分解し、それをあるフローにしたがって処理していくことです。タスクが完了したら、リストから削除し、長期タスクは Someday/Maybe (いつか/たぶん)リストに放り込みます。

しかし、プロジェクトは、全て To Do タスクだけで表現することができるのでしょうか。例えば、「車を買う」という個人の生活におけるプロジェクトがあるとすると、GTD は、カタログをもらいに行く、展示場に行ってみるというタスクはカバーできても、どういう車に乗りたいのか、何色が良いのか、どういう車が向いているのか、他の車と比べて何が違うのか、という自分自身の小さな発見や記録はカバーできません。

まず自分が何をしたいのかを知ることが、何かを成し遂げるための第一歩なのではないでしょうか。そのためには、To Do タスクの他に、発見や記録も収集すべきだと考えます。PoIC では、これを実現するために、4つのカード(記録・発見・GTD・参照)を導入します。

全てのアイディアを捕らえる試み

私たちの頭の中の考えは、非常にランダムに見えます。例えば、何か一つのことを始めると、すぐに他の考えが浮かんでくることがよくあるのではないでしょうか。私の場合、仕事に関して何か難しいことを考えているほんの数秒後に、「今日の夕食は何にしようか」、などと考えていることは良くあります。

人間は、一度に一つのことしか考えられません。同時に複数のことを考えられるマルチ・タスクの人間は少ないと思います(もしくは、「いない」と言えるかもしれない)。頭に浮かぶ事柄を、浮かんだ順番で実行していたとしたら、一貫性のない行動を取ることになります。しかし、このような、ランダムな思考の背後には長期的なトレンドが隠れています。人間の思考は、例えて言うならば、短周期(高周波)の波と長周期(低周波)の波を重ね合わせたようなものです。そこで、この二つの波を同時に捕らえることがカギになると考えます。

私は、これを実現するために、デジタル、アナログに関わらず、いろいろな方法を試してみました。そして最後に生き残ったのが情報カードを使う方法でした。PoIC では、頭の中の考え・身の回りの情報をカードを使ってとらえることで、この2つの波を同時に追跡し、個人の生産性の向上につなげていきます。

カードシステムの構築

PoIC は、いろいろな方法を取り込んだ、ハイブリッドシステムです。カードは、個人の中長期プロジェクトにおけるアイディアのデータベースとなります。

シンプルなシステム

システムの中のカードの数は、日を追うごとに増え、すぐに数百枚・数千枚を超えるようになります。もしシステムが複雑ならば、コントロールを失い、すぐにシステムは破綻するでしょう。PoIC は、紙を使うアナログシステムであるため、デジタルに比べて特にその傾向は強いです。システムの中の情報の乱雑さ(エントロピー)は、時間と共に増えていきます。これは自然の摂理であり、避けられない問題です。そこで、いかにしてシステムの維持にかかる労力を少なくし、余った力をアイディア収集に注ぎ込むかがカギとなります。そこで私は、システムは極めてシンプルであるべきだと考えました。

PoIC では、システムの崩壊をまねくような、いかなるシステム、ルールも排除しました。実際、他のシステムではうまく働いていても、アナログ、カードという特有の状況から来る制約のために排除した機能もたくさんあります。例えば、超整理法型のシステム更新ルール(野口、1993)や、デジタルが得意とする検索性・分類性、Mac OS のエイリアス(Windows のショートカット、Unix の ln)などがそれにあたります。このマニュアルを通じて証明したいことの一つは、これらを排除してもなお、知的生産は可能であるということです。

PoIC は数年以上の単位でシステムを使うことを想定しています。長く使い続けるには、結局のところ、Less is more、Simple is the best という結論に辿り着きました。これ以上シンプルなカードシステムは存在しないかもしれません。

楽しいシステム

私は何か好きなことを始めると、止められないという側面があります。良く言えば熱中性、悪く言えば中毒性です。この熱中性・中毒性のベクトルを、なんとかして生産性に向けることが、私の生産性を向上させるための重要な要素であると分かりました。

これを実現する方法の一つは、自分が使っていて「楽しい」システムを構築することです。このカードシステムを構築するにあたり、私はいろいろな文房具を試してみました。現在の PoIC システムを構成する文房具は、 私の "trial and error" の結果であると言えるかもしれません。カードシステムを楽しく使うためには、どういう文房具を使ったら良いかを考えることは、私にとってとても楽しいことでした。そして、自分の好きな文房具を使うからこそ、長続きします。

このマニュアルで紹介する文房具は、あくまでも推奨であって、強制ではありません。それは、カードの種類・サイズ、ペンの色などは、個人の用途と好みによるところが大きいからです。一番大切なのは、私たちが楽しくこのシステムを使い続け、書き続けることです。システムの中心にいるのは、いつも私たち自身です。そこで、基本的なルール(4カード時系列スタック法など)を守った上で、あなたのお気に入りの文房具を積極的に使って下さい。

Build for me

このマニュアルでは、カードシステムに関する、いろいろなコツ、裏技、ハックを紹介しています。これらは全て、私が PoIC を使い続ける上で、いかにして楽しむかについて、あれこれと知恵を絞った結果です。その意味では、PoIC は私自身のために構築したものである言えます。しかし、そこからあなたの生産性の向上につながる「何か」を見つけていただければとても光栄です。

なにが新しいの?

PoIC は、1960年代から1970年代にかけて日本で書かれた、カードを使った個人の生産性向上に関する本(梅棹、川喜田、渡部、板坂)と、2000年代に入って書かれた David Allen の GTD 、さらにデジタル世代の経験を組み合わせたものです。

PoIC を楽しく使い続けるために、私は以下の新しい機能を追加しました。

このカードシステムは、数年以上の単位で使い続けることを想定しています。機能を最小限に留めることで、システムを頑強にしています。

PoIC の在り方

PoIC には、「デジタル世代の我々が、アナログの情報カードを使って何ができるの?」という問いに対する、一つの「実験」という側面があります。

そのため、このマニュアルでは、再現性を重視しています。ここで起こったことを追体験するには、どういうものが必要か(システム)、どうしたら良いのか(メソッド)、その結果(導入例)、分かったこと(考察とまとめ)が書かれています。そして、最終的には、この結果を踏まえて、PoIC は批判的・生産的・建設的に乗り越えられるべきです。

PoIC システム

メインシステム

カードを書く環境の実際。

PoIC を始めるには、コンピューターもプリンターも要りません。初めに必要なのは次の3つだけです。

  • 情報カード 5x3 方眼
  • ペン
  • カードボックス(ドック)

PoIC は、完全にアナログなシステムです。このシンプルさがシステムを頑強でパワフルなものにしています。

ペンは引き出しの中にありますよね。箱はカードが入れば最初は何でも良いです。情報カードだけを準備するなら、初期投資は300円も掛かりません。これで私たちの生産性がグンと向上したら、とても面白いと思いませんか?

情報カード 5x3 方眼

コレクトの情報カード 5x3 方眼(C-3532)。100枚入り、税込み294円(2007年6月1日現在)。

情報カードに関しては、5x3 サイズの方眼を使うことをおすすめします。私は一日10〜20枚くらい書きます。だいたい1週間ぐらいで、一パック(100枚入り)を使い終えます。

なぜ方眼を使うの?

京大式カードの影響で、情報カードの中で一番よく使われているのは、横線だけの罫線カードかもしれません。私の大学院時代の恩師も罫線カードを使っていました。

ここで方眼を使う理由は、絵を描く時に、横線だけでなく、縦線もあった方が、より自由な感じがするからです。方眼では、グリッドの間にも、グリッドの上にも、文字を書くことができます。その気になれば、縦書きもできます。罫線に比べてはるかに自由度が高い。無地でも良いですが、方眼の縦線・横線をガイドにして書いた方が、格段にキレイに見えます。

PoIC では、方眼カードの上辺に見えるグリッドが、タグを付ける時にとても重要になります。このタグは、方眼以外のカードではうまく描けません。ちなみに、数百枚・数千枚のカードをドックに入れた時、タグが一連の「コード」を構成します。これが、私のブログの副題である「文化の遺伝子(cultural genetic code)」の由来です。

コレクトの方眼カード

コレクトの方眼カードについて、ちょっと詳しく見てみましょう。世界のカードの比較表を見ると、コレクトの方眼カードだけが世界で唯一の5 mm 間隔グリッドです。6mm 間隔グリッド に比べると、全体的に引き締まった感じがします。コレクトの方眼カードの束を上から見ると、切り口に現れるグリッドの線がちゃんと揃っています。これも世界的に見て非常に珍しいようです。タグを付けた時に、ピチッと揃っているのを見ると、なんだか気持ちいいものです。

大きさは、一般の5x3カードよりもほんの少しだけ小さくなっています(125 mm x 75 mm)。グリッドが "5" mm 間隔で、サイズが "125" mm x "75" mm。125と75は5で割り切れます。これが、コレクトの方眼カードの上辺のグリッドがいつも揃っている秘密です。

コレクトのカードは、再生紙を使っていません。そのため、表面はツルツルで、インクがしみ込んでしまうこともありません。これは、カードを書く時の労力を幾分か減らしてくれます。

私の主観で言えば、コレクトの方眼カードはマスターピース、職人芸の域に達していると思います。これがその辺の文房具屋で買えるのは、実はとてもすごいことなのかもしれません。

自分に合ったサイズの決め方

ここでは、5x3 を紹介しましたが、サイズは個人の好みと用途に大きく依存しています。大きさを決める時は、例えばレポート用紙や B6 情報カードなどの 5mm 方眼の紙を用意し、5x3(= 125 mm x 75 mm)、6x4(= 150 mm x 100 mm)、B6(= 183 mm x 129 mm)のサイズに切って、実際に書き込んでみます。実際に書くと、自分にあったサイズが分かります。サイズが決まったら、一パック買ってきて、実際に使ってみます。

ストックに関して

向こう6ヶ月分のストック。

数パック分のカードを書いてみて、「この大きさでよい」と確実に決まったら、今度は一度にたくさん買ってストックしておきます。これは、カードをたくさん書くからというのもありますが、字を間違ったカードはどんどん捨てるためでもあります。たくさん買っておけば、手元にカードがどのくらい残っているか心配する必要がありません。カードの残量を気にしながら書くのは、バッテリーを気にしながらノートパソコンを使うようなものです。

梅棹忠夫氏は、「知的生産の技術」の中で、カードを使った情報整理術を紹介しています。その中でカードのストックについて、次のように述べています。

「だいじなことは、カードをかく習慣を身につけることである。どうしたら、その習慣が身につくか。根気よくつとめるほかないのだが、たとえば、つぎのような方法はどうだろうか。それは、おもいきってカードを一万枚ぐらい発注するのである。一万枚のカードを目の前につみあげたら、もうあとへはひくわけにはゆくまい。覚悟もきまるし、闘志もわくというものだ。」(P. 64)

この驚くべき提案は、例えば野口悠紀雄氏の超整理法など、いろいろな生産性の本でもたびたび引用されています。コレクトの方眼カードは100枚で1.8cmですから、10,000枚積み上げたら、1.8mになります。大抵の人は怖じ気づいてしまうでしょう。個人のカードシステムでは、これは実行するのは、なかなか難しいです。私の場合は、6ヶ月分として、一度に2,000枚(20パック)ぐらい買うようにしています。

いずれにせよ、文房具をたくさん買っておく、という習慣は良いことだと思います。私の場合、野帳、水性ペン、クリアファイル、プロジェクトペーパー(レポート用紙)なども、たくさん買っておきます。デジタルのオモチャに比べれば安いものです。

ペン

(上)パイロットドローイングペン 0.5 mm (S-15DR5-L)

カードを描くのに適したペンを求めて、色々な種類を試してみました。鉛筆に始まり、ボールペン、水性顔料、そして油性染料。必要な機能としては、

  1. 視認性が高いこと
  2. 消えないこと
  3. 弱い筆圧でも書けること

私たちの書いたカードは、全てドックと呼ばれる箱に保存されます。ドックの中のカードを繰る時に、字が見えやすいということはとても大切です。また、PoIC は、長期に渡って使うことを前提としています。いわば人生の記録の様なものです。カードの文字が消えてしまっては、その記録を失ってしまうことになります。三番目は、カードをたくさん書いても、手が疲れないようにするためです。物理的な労力は極力少なくします。

パイロットのドローイング・ペン

コレクトの情報カードは表面がツルツルなので、鉛筆で書くと、擦れてボヤけてしまいます。また、私は字を濃く書く習慣があるので、ボールペンを使うとすぐ手が痛くなってしまいます。油性染料では、文字が太過ぎるし、臭いも気になります。最終的に残ったのは、水性顔料でした。

私が使っているのは、パイロットのドローイングペンの0.5mmです(S-15DR5-L)。製図用なのでペン先は十分強く、耐水性で、しかも安い。私は、目に優しい青いインクを使っています。色に関しては、好みの問題ですから、あなたの好きな色を選んで使って下さい。

ドック

コレクトのカードボックス(C-153DF)。PoIC ではカードを入れる箱を「ドック」と呼ぶ。

箱は、最初は、どんなものでも良いです。紙箱、プラスチックの箱、木の箱、なんでも良いです。部屋を探すと、お菓子の箱などが見つかると思います。実際、私はキッチントレイをカードホルダーとして使っていました。

カードが数百枚に増えてきたら、もうちょっと本格的な、大きいカードボックスを使います。PoIC ではこれをドックと呼んでいます。なぜなら、書いたカードの全てがそこに集まってくるからです(小さい船が埠頭(ドック)に入ってくるイメージ)。ドックの役割は、カードの数が増えるにしたがって、重要になります。カードは、言うまでもなくバラバラの状態ですから、適当に置いておくと散逸してしまいます。全てのカードをドックに入れるのを習慣付けることで、カードの紛失を防ぎます。

コレクトのカードボックス

写真に私の家ドックを示しました。私はコレクトのカードボックスを使っています。素材は MDF です。3つのパーティションが付いてきます。これ一つで1,500枚のカードが入ります(公称では1,000枚)。コレクトのカードボックスは、カバーも付いてきますが、中のカードが常に見えるようにするために、普段は使いません。

私は、自宅に一つ(家ドック)、会社に一つ(会社ドック)、計二つのドックシステムを持っています。会社では、ドックは引き出しの中に入れています。誰かに見られているとしたら、カードに正直なことは書けません。なんでも書いていいからこそ、いろいろなアイディアが出てきます。家の部屋では、誰にも見られる心配がないので、机の上に堂々と置いています。

ポケット一つ原則

PoIC システムの中で、このドックは情報の「貯蔵庫」として働きます。私たちの書いたカードは、全てドックに集まってきます。「カードをどこにやったっけ?」といった類いの問題に悩まされることはありません。ドックの中を探せばそこに必ずあります。

野口(1993)は、「ポケット一つ原則」という考え方について述べています。ポケットが一つしかなく、全てをそこに入れるのであれば、探すのはそのポケット一ヶ所だけで済みます。もしポケットが二つ、三つとあったら、全部探さないといけなくなります。あとで探す労力を減らすのなら、ポケットは一つしか使わないのが賢明である、ということです。

アナログシステムでは、ファイルやカードをいつも全て持ち歩けるわけではありませんから、完全にこの原則を実践するのは難しいです。野口氏も、自宅と研究室に一つずつ、二つの独立なファイルシステムを持っていると言っています。しかし、いずれにせよ、ポケット(PoIC ではドックシステム)の数は少ない方が良いのは確かです。

人生そのもの

PoIC では、カードを使って生活を追跡していきます。ドックは、私たちが見たもの、考えたこと、発見したこと、やってみたこと、聞いたこと、読んだことで満たされていきます。これは、単なる日記以上のものです。いわば、人生そのものです。

サブシステム

Transfer of cards in the PoIC

ここでは、さらに効率良く情報を収集するための道具を紹介します。一つ目は、測量野帳です。これは、一時的なメモリ(記憶媒体)として使います。もう一つは、モレスキンのメモポケットです。私はこれを改造して、カードの持ち運びに使っています(icPod)。

アイディア捕獲を昆虫採集に例えるなら、野帳は虫を捕まえる「アミ」、icPod は捕まえた虫を入れておく「カゴ」に当たります。

コクヨ 測量野帳

コクヨの測量野帳。ゴムバンドは自分で付けました。これだけの改造で野帳が格段に使いやすくなります。

測量野帳(field note、以下、簡単のため「野帳」)は、測量技師や野外科学者によって、長い間使われています。日本最大の文房具メーカーであるコクヨは、スケッチブック(方眼)、レベルブック(測量用)、トランジット(これも測量用)の3種類の野帳を販売しています。私の知る限り、日本で野帳を売っているのは、コクヨだけのようです。3種類の中で、私はやっぱり方眼を使っています。

梅棹忠夫氏川喜田二郎氏は、ともに野外科学者であり、かつカードで生産性を上げる技術の本を書いています。彼らの本を読んでみると、この種の野帳を野外での研究活動の中で使っていたようです。

私自身、仕事で実際にこの野帳を使っています。この実経験を通じて、野帳はなにも野外での研究活動だけでなく、個人的なアイディア捕獲メディアとして使えるのでは、ということに気付きました。コクヨの野帳はとてもシンプルなものです。私は、写真に示したように、自分でゴムバンドを付けて使っています。

野帳の厚さは 8 mmですが、表紙の両端をグッと押すと背が1cmぐらいまで広がります。ページの間にシャープペンシルを挟み、ゴムバンドでパチンとくくっておきます。ちょうどシャープペンシルがしおりがわりになって、書き込むページをすぐ開けるようになります。

なぜ野帳を使うの?

コクヨ測量野帳(セ-Y3)。厚さ8 mm、80 ページ、80 g、3 mm 方眼。

頑丈さ:野帳は、もともと野外で使うことを前提に作られています。表紙が十分堅いので、どんな体勢でもメモを取ることができます。カードを使いはじめると、いろいろな場面で、カードを書けない・書きづらいという場面に遭遇すると思います。カードは後にデータベースのデータとなりますから、なるべくきれいに書いておきたいものです。アイディアはいつでも・どこでも浮かんできます。例えば、電車の中、ベッドの中、暗闇の中など。野帳は、こういう状況でアイディアを捕獲する時に最適です。

手頃な値段:コクヨの測量野帳はたったの180円です。この値段でも、品質は最高級です。私は野帳をコンピューターで言うところの「仮想メモリ」のように、一時的な記憶媒体として使っています。憶えておくべきこと、小さなアイディアをどんどん書き込んでいます。これは、野帳が安いからできることです。もしモレスキンの手帳のように、1冊2,000円もしたら、こういう使い方は絶対にできないと思います。高級なノートには、なにか素晴らしいことでも書かないといけないような気がしてしまいます。でも、そうして書いたアイディアがいつも素晴らしい訳ではありません。むしろ、一見ちっぽけなアイディアの方が重要だったりします。それに、手帳は毎日使わないと意味が無いのです。手帳は飾っておく「記念品」ではありません。野帳のこの手頃さは、私に「何を書いても良いんだ」という気分にしてくれます。

Hipster PDA は使わないの?

Hipster PDA は 5x3 カードをクリップで留めたものです。名前の巧妙さと、手軽さから、最近人気を博しているようです。

PoIC はカードを使ったシステムですから、「どうして Hipster PDA は使わないの?」という質問はとても自然だと思います。実際、私も、野帳を使いはじめる前に、Hipster PDA を使ってみたことがあります。しかし、そのうち PoIC とは全く互換性がないことに気がつきました。

  • Hipster PDA では 5x3 カードを縦向きに使う。PoIC ではドックのなかでカードを横向きに入れますから、これは問題です。加えて、横幅が狭過ぎて PoIC フォーマットで書くには不向きです。逆に、Hipster PDA を横向きに使うのは、手にフィットしないのでとても書きづらいです。
  • Hipster PDA にはきれいな字が書けない。カードを手に持った状態では、なかなかきれいな字を書くのは難しいです。PoIC では、カードはデータベースを構成するデータですから、視認性が良いようになるべくきれいな字で書いておきたいです。
  • Hipster PDA は散逸しやすい。Hipster PDA は、バラバラのカードをクリップで留めただけです。また、小さいので無くしやすい。私は、シャツのポケットに入れたまま一緒に洗濯してしまったことがあります。

逆説的ではありますが、PoIC にはカードを使う Hipster PDA よりも、野帳の方が適しています。野帳の使い方については後ほど詳しく紹介します。

モレスキン メモポケット(icPod)

モレスキンのメモポケットを改造した icPod。

私は、カードの持ち運びにモレスキンのメモポケットを使っています。PoIC では、カードを使って GTD だけでなく、記録・発見・参照カードも取り込みます。一日に書くカードが30枚を超えることはよくあります。クリップで留めただけの Hipster PDA は、PoIC にはあまり向いているとは言えません。私たちに必要なのは、PDA のような持ち運びのできる RAM というよりも、むしろ iPod のような持ち運びのできるハードディスクです。

5x3 カードをメモポケットで持ち歩くというのは、Emory 氏のアイディアです。しかし、メモポケットのポケットは5x3サイズにぴったりすぎて、カードの出し入れに不便です。また、ポケットが深過ぎるので、中にどういうカードが入っているか見えません。

こういう問題を解決するために、私はメモポケットを次のように改造しました。

  1. ポケットのアコーディオンを谷折りから山折りにする。
  2. ポケットを高さの半分だけ切り取ってしまう。
  3. 各ポケットに見出しカードを入れる。

Flickr に詳しい改造の手順を 示しました。メモポケットには6つのポケットがあります。私は、奥の方から5つのポケットに月曜日〜金曜日、一番手前のポケットに Someday/Maybe と Next Action の見出しカードを入れています。全てのカードは、見えやすいように見出しカードの手前に入れます。こうしておくと、タイトルと日付・時刻が見えます。

ドックとポッド

PoIC ではカードを入れる箱のことを "ドック" と呼んでいますから、モバイルのメモポケットを "ポッド" と呼ぶのは、私にとって自然な成り行きでした。iPod のコンセプトである「1000曲の音楽をポケットに」や、SF などに出てくるポッドと呼ばれる宇宙船にも似ています。そこで、ここではカード用のポッドということで固有名詞としては icPod と呼ぶことにします。

ドックの手前にポッドを据え付けると、その象徴的な意味が良く理解できます。据え置き型のドックと、持ち運び型のポッド。ドックの奥の方から手前のポッドに向かって、時間軸が過去から現在に、一直線に伸びているのが分かると思います。

icPod の中にはどんなカードが入ってるの?

屋外でのアイディア捕獲には野帳を使っていますから、基本的に icPod の中に予備のカードを入れておく必要はありません。icPod には、私がすでに書いたカードだけが入っています。

icPod には100枚程度の情報カードが入ります。屋外でもカードを書ける環境(例えば図書館や喫茶店)にいることが多いのであれば、カードも持ち歩きます。この時、予備のカードを icPod に入れておいて、使えるスペースを少なくするよりも、カードをパックごとカバンに一緒に入れておいた方が良いでしょう。PoIC では、カードを沢山書くので、この方が現実的です。

オフィスでは icPod を開いて机の上に置いておき、書き込んだカードを仕事・生活の区別なく放り込んでいきます。帰宅する時に、icPod を閉じて鞄に入れ、自宅に持ち帰ります。週末に一週間分のカードを仕分けして、仕事のカードは会社ドックに、生活のカードは家ドックに入れます。

折り紙ポッド

A4用紙3枚で作る「折り紙ポッド」。

icPod のアコーディオン折りを参考にして、自分で作れる「折り紙ポッド」を作ってみました。A4 サイズの紙3枚にプリントして、作ってみて下さい。作り方のポイントは、

  • 折り畳みに耐え得る、厚手で柔らかい紙を選ぶこと
  • 折る前にカッターの先(刃を出さない状態)を使って折り癖を付けること
  • ノリではなくボンドを使うこと

です。簡易卓上ドックとしても使えます。

折り紙ポッドは、折り紙を経験したことのある人であれば、誰でも簡単に作れます。作り方のコツは、Flickr の写真 icPod(英語+日本語)もしくはブログの記事 "OrigamiPod : icPod for Everyone"(英語)を参考にして下さい。

ダウンロード:折り紙ポッド テンプレート (PDF, 1.2 MB)

外部リンク

ガジェット

ここでは、PoIC システムを陰で支える「縁の下の力持ち」を紹介します。

カードトレイ

カードはトレイに入れてたくさん積み上げておく。

新しいカード(ブランクカード)は、常に机の上に置いておきます。自然と目に入る場所、手の届く範囲に置いておくことがポイントです。

私は以前、ブランクカード入れとして、プラスチックの箱(コレクト CB-5332PE)を使っていました。しかし、カードを縦にして置いておくと、非常に取りづらく、これがカードを書かないことにつながってしまうことに気付きました。カードをたくさん書く PoIC では、カードの取り出しやすさはとても重要です。この経験を踏まえて、PoIC の要求としては、以下のようになります。

  • 机の上においても場所を取らないもの
  • カードを横置き(pile)にするもの

最適なブランクカード入れを求めて、文房具屋を渡り歩きましたが、なかなか見つかりません。ある日、文房具用品とは全く違うところでそれを発見しました。100円ショップのキッチンコーナーに売っていた料理用のプラスチックトレイです。サイズも 5x3 のピッタリのものを見つけました。

カッティングマット

PoIC の特徴の一つであるタグを付ける時、どうしてもカードからペンがはみ出してしまいます。汚れても良いように、下敷きを使います。

私は、この下敷きの代わりとして、カッティングマットを使っています。サイズは 5x3 カードが4枚分ぐらいの大きさで、下敷きに比べて厚みがあります。緑色で、1cm x 1cm の方眼が入っています。Flickr に投稿するカードの写真を撮る時には、背景としても使いました。

私の机の上には、パソコン、本、ドック、カードトレイ、ファイルトレイ、ペン、スタンプなど、色々なものが置いてあります。このような中では、カードを書くという目的が漠然としてしまいがちです。カッティングマットを使うことで「カードを書くスペース」を確保します。カッティングマットを物理的に手元に持ってくることで、心理的にカードを書く準備ができます。

また、カッティングマット、カードトレイ、ペンのセットを持っていけば、自分の机の上だけでなく、リビングの机の上、どこでもカードが書けます。家の中で、場所を変えてカードを書くのも楽しいものです。

時計

時刻スタンプに使うデジタル時計。

PoIC フォーマットでは、全てのカードに日付・時刻スタンプを書き込みます。使う時計は、壁掛け時計、目覚まし時計、腕時計、パソコンのメニューバーの時計、腹時計など、なんでも良いです。

コツとしては、時計をなるべくカードを書く環境に近いところに置いておくことです。こうすれば、目の移動が少なくて楽です。なるべく小さくて電池駆動の時計が良いです。腕時計なら、外して目の前に置いておくと良いかもしれません。アナログ時計だと、時計の針を読んで、頭の中で4桁の数字(例えば15:58)に変換する必要があります。どちらかといえば、デジタル時計の方が楽です。

時計屋さん、電気屋さんを含め、要求を満たす時計をいろいろ探して回りました。写真の時計は、私が最近(ようやく)見つけたものです。100円ショップで発見しました。幅は10.5cmで、場所を取りません。ボタン電池駆動です。12時間表示ですが、100円ショップで買えたので良しとします。

追記:この時計は電池の消耗が激しく、2ヶ月程度で電池を交換する必要がありました。もっと良い時計を購入しようと画策中(2007.06.01)

デイトスタンプ

野帳に使うデイトスタンプ。

一日に何枚ものカードを書く時、日付を書き込むことは、繰り返しの作業になります。そこで、スタンプを使うことを考えます。スタンプの字は、手書きに比べてきれいなので、視認性が高まります。持っているペンを手から放し、スタンプを使って日付を押すことは、カードを連続的に書いている時には妨げになります。

そこで、私はカードには手書きで日付を入れ、野帳にはスタンプを使っています。野帳には、手元にスタンプがある時に、ポンポンと日付を押していきます。一日に一回ぐらいのペースです。

野帳からカードに転記する作業は、多少面倒なのですが、野帳の日付がスタンプできれいに押してあると、なんだかやる気も出てくるから不思議です。

このスタンプも100円ショップで購入しました。スタンプのインクは、カードを書く時のペンの色に合わせて青を使っています。

ラベルプリンター

手書きよりも、ラベルプリンターのきれいな字の方が、手を伸ばす(アクセスする)頻度が確実に高くなります。ラベルプリンターは以下の場面で使います。

  • ドックの月ごとの仕切り
  • icPod の週ごとの仕切り
  • 野帳のボリューム(何冊目か)

私が使っているのは、キングジムのエントリーモデル TEPRA SR220 です。仕切り板のラベルを作る時は、9 mm の透明テープを使います。野帳には12 mm のテープを使います。仕事用には黄色テープ、生活用には白テープを使って、ぱっと見てすぐどちらか判別できるようにしています。

ラベルプリンターは、PoIC システムの中では、このぐらいしか使う機会はありません。しかし、バインダーや文房具入れのラベルなど、色々な場面で役に立ちますから、持っていて損はないと思います。ラベルプリンターを使って、ラベルを作る作業自体が楽しいものです。David Allen もラベルプリンターについて「非常に重要なツール」であると言っています。

SR220 は、電源アダプターがとても大きいので、電池を使うことをおすすめします(単三電池x6)。実使用時間が短いのと、構造的に電池の消耗が少ないため、電池交換の頻度は半年に一度程度で済みます。また、電源コードに束縛されないので、持ち運びにも便利です。

ダーマトグラフ

ダーマトグラフ。

私がダーマトグラフの存在を知ったのは、板坂(1973)梅棹(1969)を読んだ時でした(梅棹(1969)ではデルマトグラフと表現)。ダーマトグラフは、ロウの入った芯を、紙で巻いたものです。使っていくうちに、芯が短くなったら、ヒモを引き、紙をクルクルとむいて、新しい芯を出します。キャップも鉛筆削りも要りません。三菱鉛筆が、12色のダーマトグラフを販売しています。

ダーマトグラフは、本に線を引く時に使っています。以前は鉛筆を使っていたのですが、黒一色で本を読むよりも、色を塗りながら読む方が断然楽しいことに気付きました。色々な色を試してみて、一番良かったのは黄色とピンクでした。ピンクは、線の濃淡で重要度を表現することもできます。

ダーマトグラフは、買った状態では長すぎるので、半分に切って使います。現在読んでいる本一冊に一本、しおり替わりに挟んでおきます(野帳とシャーペンの関係と同じ)。

ゴミ箱

ペンを使ってカードを書くと、必然的に書き損じが多くなります。また、個人のシステムですから、カードは、個人的な内容を含みます。プライバシーが補償されてこそ、色々なアイディアが出てきます。

そこで、私は、普通のゴミ箱とは別に、カード専用のゴミ箱を使っています。そして、カードを捨てる時は、十分気をつけて捨てるようにしています。シュレッダーがあるとさらに便利かもしれません。

外部リンク

PoIC メソッド

4カード

ここでは、我々の思考をより良く追跡するための、4つのカード(記録、発見、GTD、参照)を導入します。実は、自分の頭の中のアイディア、身の回りの情報には、この4つの種類しかありません。

記録カード

記録カード (See large size)
  • アイコン :
  • タグ  : 左から二番目のブロック

タグは、いつも二番目から始めます。一番左は使いません。

この記録カードは、私たちの身の回りの現象や事実の記録です。例えば、日記、お金の収支、健康状態(体温・血圧・体重)、食事、天候(天気・気温・湿度)などが、この一番目の種類に分類されます。

日記から始めよう

PoIC を導入するにあたって、一番簡単なのは、日記から始めることです。日記はこの記録カードに属します。しばらくすると、日記の中にはいくつかの「発見」が含まれていることに気が付きます。その時は、この発見を次に紹介する発見カードで話を展開することができます。実際、私は一日のカードの書き始めを、日記から始めています。これが一日の単位でも、書きはじめるのに一番簡単な方法だからです。

長期的なパターンを見つける

それぞれの記録カードは、単なる記録であり、一見したところ役に立ちそうな情報を含んでいないようにも見えます。時には、単に数字だけ、という時もあるかもしれません。アイコンが単なる円なのは、これを象徴しています。しかし、しばらくあとになってから、その数字をグラフにした時に、パターンが現れます。つまり、記録カードは長期的なパターンを見つける時に、重要な役割を果たすことになります。そして、これは自分の記録に基づいた、新しい情報・知識となります。普通の日記やノートと大きく違うのは、これがパーツごとのカードであるということです。これにより、時間的・空間的に離れたカードの比較を容易にし、パターンが探しやすくなります。これは人間に特有の先入観から逃れるのにも良いでしょう。

このような長期的なパターンの他に、我々は一瞬にしてパターンを見つけることがあります。「分かった!」、「見つけた!」という瞬間がそれです。こういう直感的な発見は次の "発見カード "に属します。

発見カード

発見カード (See large size)
  • アイコン : 電球 (ひらめき)
  • タグ  : 3番目のブロック

私たちの頭、心から湧き出てくるものはすべてこの発見カードに属します。例えば仕事や生活におけるアイディア、発見、直感、理解、認識、ジョーク、詩、俳句などは、この二番目のカードに分類されます。

発見を強化する

私自身の PoIC 経験からすると、4つのカードの中でこの発見カードが一番楽しく、かつ重要であると言えます。私たちの脳は、トレーニングによって発見を強化することができるようです。この発見カードがドックの中で増えていき、次第に優勢になっていくのを見て、楽しくなると思います。なぜなら、これが自分の生活を基礎とした自分自身のアイディア、発見だからです。同時に、こういったアイディアを捕まえる手段がないとき、いかに多くのアイディアが忘却の彼方に消えていたかを見るでしょう。

なぜこれが楽しいの?

最近の研究で、脳生理学者の茂木健一郎氏は、人間の脳が発見や「分かった!」という瞬間に、ある種の幸福を感じると主張しています。この時、脳の中の細胞は、0.1秒の単位で活性化されます。脳は、発見をすればするほど、幸せになり、さらなる発見を探そうとします。彼はこれを「アハ体験」と読んでいます。渡部昇一氏もまた、知的生活の方法 (1976) の中で、この種の幸福感について述べています。理解できなかったものが理解できた瞬間、得も言われぬ幸福感を感じると言っています。これには時間が掛かりますが、その幸福感は甚大なものです。彼はこの幸福感を「知的オルガスム」と表現しています。

発見により幸福感を感じ、さらなる発見を促す。発見カードを導入することで、私たちの脳は、発見することに最適化されます。そしてこの発見は、他の誰のものでもなく、私たち自身の生活に基づいた発見です。そして、こういった全ての発見は、信頼のおけるシステムの中で保存されます。このような方法は、完全に楽観的な問題解決法と言えると思います。

GTD カード

GTD カード (See large size)
  • アイコン : 四角 (チェックボックス)
  • タグ  : 4番目のブロック 最初に縁だけ書き込む

GTD とは、David Allen (2002)によって提唱された、To-Do 処理システムです。プロジェクトは細かいタスクに分けられ、GTD フローにしたがって処理されます。

GTD って何?

GTD の詳細については、David Allen の "Getting Things DONE" を見ていただくとして、ここでは簡単に説明します。GTD の要点は、たった二つです。

  • 頭の中のモノゴト(stuff, task)を全て紙に書き出すこと
  • 大きいタスクを小さいタスクに分解すること

例えば、部屋の電球が切れたとすると、「電球を買いに行く」というタスクが発生します。GTD では、「電球を買いに行く」こと自体をタスクにするのではなく、電球のワット数・サイズを調べる、どこに行けば買えるか、いくらぐらいで買えるか、いつ買いに行くか、と細かく分解します。これらの小さいタスクが、実はすべて2分以内に実行可能であることに気付くことが大切です。GTD では、この作業を、頭の中ではなく、紙に書き出してやります。PoIC では、これにカードと野帳を使います。

オープンループ

GTD カードのアイコンは、チェックボックスで、タグは最初は塗りつぶしません。これは、David Allen の言うところの「オープンループ(閉じていない輪=終わっていない仕事)」を意味します。そのタスクが終わった時、チェックボックスにチェックを入れ、タグを塗りつぶして「完了!(Getting Things Done!)」となります。

一枚の GTD カードには、いくつかの小タスクを書き込める、ということにします。こうすることで、GTD カードの数を減らすと同時に、小タスクがバラバラになるのを防ぎます。それぞれの小タスクには小さいチェックボックスを使い、全てのタスクが終わった時点で、カードのチェックボックスにチェックを入れます。

PoIC における GTD の立場

PoIC を導入したての頃は、GTD カードがたくさん出るかもしれません。頭の中にくすぶっていたモノゴトがカードという形で一気に放出されるからです。一つ一つのタスクをカードにしていくと、あまりの多さにビックリしてしまうかもしれません。しかしこれは、PoIC に限らず、GTD だけを単体で導入した時でも起こることです。初めのころは、カードではなく、もっと大きな紙(例えばレポート用紙)を使った方が良いかもしれません。

しばらくして、GTD のコツさえつかんでしまえば、中間の小タスクは頭の中で処理できるようになります。書き出すとしても、そのほとんどは、一時的な記憶媒体として使用する野帳で処理することが可能です。また、過去の GTD カードを参照するという機会はないので、野帳で処理済みのタスクをカードにして残しておく必要性は感じません。結果として、ドックの中に残る GTD カードは少なくなります。

PoIC は、長期の目標を達成するためのカード・システムです。その中で中心的な役割を果たすのは、発見カードと、それをサポートする記録カード・参照カードです。しかし、日々のタスクを地道に処理していくことも大切です。PoIC における GTD カードは、やらなければならないタスクを素早く処理し、残った時間を「発見すること」に有効に使うための切り札と言えるかもしれません。

Hipster PDA と icPod

GTD カードの数は、私のドックの中では、全体の 5% 以下です。私の場合、GTD カードの数は、日に2〜3枚程度です。これが、Hipster PDA と GTD の組み合わせがうまくはたらく理由です。従来の GTD では、カードを保存しておく必要すらありません。

しかし、PoIC では、GTD 以外に、私たちのアイディア、考えの全てをカードを使って捕まえようとします。カードの数は、クリップでは綴じられないくらい多くなることも、しばしばあります。したがって PoIC では、hipster PDA よりも、モレスキンのメモポケットのようなカードホルダーがより便利です。この状況は、PDA と iPod の間の関係に似ているかもしれません。「サブシステム」の項では、メモポケットを改造した icPod を紹介しました。

参照カード

参照カード (See large size)
  • Icon : 帽子 (頭の上にある何か)
  • Tag  : 5番目のブロック

本・テレビ・ウェブからのことばの引用、料理のレシピなどがこの四番目に分類されます。これは、他の誰かのアイディアです。このカードのタイトルは、内容を反映すべきですが、私たち自身の言葉で付けることができます。他の人の言葉を自分の言葉で表現できる、ということは、そのことをよく理解していることを意味します。

誰のアイディア?

このカードを書く上で重要なのは、記録カード、発見カードと明確に分けることです。記録/発見カードは自分の中から出てきた情報です。参照カードは私たちの外側からきた情報、誰かさんのアイディアです。誰かのアイディアを、自分のアイディアとして言うことはできません。そもそも PoIC は個人のシステムですから、ウソを書く必要はどこにもありません。

情報のソースを忘れずに

もう一つ重要なのは、情報のソース(情報源)のない参照カードは利用価値がない、ということです。本の場合、最低限として、著者、本の名前、書かれた年、引用文があるページを記録するようにします。一つの本からたくさんの参照カードを書く時は、情報源の記録カードを作っておくと便利です。この記録カードに詳しい本の情報を書いておけば、参照カードの方では、著者、年、ページだけで済みます。この記録カードは本を読む時のしおりとしても使えます。

参照カードを書くタイミング

私の場合、参照カードのほとんどを読書の間に書きます。そのときの大きな問題の一つは、カードを書く行為が読書を中断してしまうことです。参照カードの取り方には、二種類のタイミングがあります。

  • 一つは読書の最中です。これは、読書を中断しますが、そのトピックに関してすこし考える時間ができます。技術書や教科書などの難しめの本を読んでいる時に向いています。
  • もう一つは読書のあとです。これは読書を中断しません。趣味の本などの軽めの本を読む時に向いています。

もちろん、この二つの中間も可能です。読書中にカードを取るけれども、一つの章を読み終わってから、など便利です。このへんは自分に都合の良い長さで調整して下さい。読書の後にカードを取る場合は、本に直接鉛筆でコメントを残しておくと良いです。参照カードを書く時に、このコメントをカードのタイトルに使います。

時系列スタック法

全てのカードはドックの中に時系列で保存していく。

PoIC では、「ドック」と呼ばれる箱の中に、全てのカードを時系列で保存していきます。古いカードは奥に、新しいカードが手前にきます。まわりを見渡してみると、Flickr や Blog など、様々なところにこのような時系列の情報蓄積を見つけることができます。ページにアクセスした時に一番最初に目に入るのはページの一番上の部分ですから、このような時系列による情報の蓄積は、非常に理にかなった方法です。

分類しない

4カードフォーマットのところでタグとアイコンを導入しました。しかし、何度も繰り返すように、これはドックの中で4種類のカードを分類するために付けるのではありません。なぜなら、こういった分類は個人的なカード及びファイルシステムでは、ボトルネックになるからです。

分類が必要な場合について、野口(1993)は非常に明解な判断基準を述べています。すなわち、個人のシステムでは時系列による情報蓄積、公共のシステムでは分類による情報蓄積が好ましい、というものです。公共のシステムとは、例えば図書館や博物館などです。図書館で時系列で本を管理したら、すぐに破綻してしまうことは容易に想像できます。公共のシステムでは、みんなが一つのシステムを共有します。そのため、共通の検索キーとしての分類が必要になります。逆に、共有する必要のない個人的なシステムでは、こういった分類は(ほとんど)必要ありません。

時系列と分類の比較実験

私は、実際にカードシステムを構築するさいに、時系列と分類のどちらが良いかを、自分のドックを使って実験してみました。

私は家と会社にそれぞれドックシステムを持っています。ここでは簡単のため、家ドックと会社ドックと呼びます。家ドックでは、それほど切迫した状況ではないので、時系列でカードを蓄積しました。会社ドックでは、プロジェクト毎にカードを分類し、それぞれのプロジェクトの中でカードを時系列で管理しました。複数のプロジェクトを扱う場合は、分類の方が良いだろうと思ったからです。

しかし、数ヶ月が経過すると、その違いは目に見えて現れてきました。家ドックのカードはどんどん増えていき、一方で会社ドックのカードは一向に増えなくなってしまったのです。この違いは劇的でした。しかも、この原因は、一つしかありません。やはり分類がボトルネックになっていたのです。会社ドックでは、カードを書いた後、カードがどのプロジェクトに属するか、ほんの数秒にせよ考える必要があります。そのほんの数秒が積み重なって、やがて心理的な抵抗になってしまっていたのでした。

時系列ではグレイゾーンが発生しない

分類を考えた時に、状況を難しくするのは、つねに「グレーゾーン」があるということです。Aのプロジェクトにも、Bのプロジェクトにも属するカードが常に発生します。悩んでいるうちに、「まあいいや」ということになって適当にAのプロジェクトに放り込んでしまいます。このような心理的な妥協は、カードが増えるにしたがって蓄積していきます。後になって、たしかあれは B のプロジェクトに入れたんじゃなかったかな、とBのプロジェクトを探しても、見つかりません。その結果、分類を導入したカードシステムは信頼できないものになってしまいます。自分でも信頼できないカードシステムを誰が使うでしょうか。分類の判断基準があいまいな以上、分類にこだわるのは時間の無駄です。また、厳格に分類することが主な目的でもありません。

分類(左、空間2次元+時間1次元)と時系列(右、時間1次元)の違い。時系列ではグレイゾーンが発生しない。

この実験を通じて、個人的なカードシステムでは、分類による利便性よりも、時系列でどんどんアイディアを引き出していくことの方が重要である、ということが分かりました。カードシステムを導入すると、どうしても分類しなければならないような強迫観念にとらわれてしまいがちです。しかし、これこそが個人のカードシステムで最も有害であるといえます。

この状況は、次元で考えてみるともっと分かり易いかもしれません。分類は「空間」、すなわち2次元的 (x, y) です。一方で、時系列は「時間」、すなわち1次元的 (t) です。上述の実験でみると、会社ドックは空間2次元+時系列で3次元、一方で家ドックでは時系列で1次元でした。つまり、家ドックでは、会社ドックに比べて、考えるべき軸が2つも少なかったことが分かります。

ある人が、ある瞬間に書くことのできるカードは、厳密に一枚しかありません。従って、時系列では「グレイゾーン」が発生し得ません。これが、時系列で信頼のおけるカードシステムを構築できる理由です。

検索しない

PoIC のようなアナログシステムで問題となるのは「いかに検索するのか」ということです。カードの数が増えるにしたがって、検索はより困難になります。PoIC の時系列スタック法において、検索の基準となるのは、自分の中の時間軸、すなわち「記憶」と「歴史」に頼るしかありません。そうなると、今度は「記憶」、「歴史」を補うために、カードの索引が必要になってしまいます。カードの数が容易に数百・数千を超えることを考えると、これは現実的ではありません。

こういう心配事をよそに、私の PoIC 経験を通じて言えることは「検索する機会なんて滅多にない」ということです。これには色々な理由があります。

  • PoIC では主に新しいアイディアを引き出すことに集中する
  • ある事柄を完全に忘れてしまっていれば、探す必要はない。言い換えると、完全に忘れていることを探す手段はない。
  • もし部分的に憶えているのであれば、そのカードを探すよりも、むしろ新しいカードにそれを書いてしまう。この方が速い。
  • 検索する領域は実は限られている。せいぜい1週間以内。これは自分の記憶力による。

いずれにせよ、ドックの中を全て走査するほどの検索をしたのは、1年で数回ぐらいです。そもそも、カードを書くのは「頭の中からはき出す」、つまり「忘れるため」ですから、記憶に頼って検索するのは矛盾しています。また、ドックの中であるカードを探している間に、そのカードを使って何を書こうとしていたかを忘れてしまうこともありえます。

PoIC のようなアナログシステムでは、「検索する」ということは手間がかかるだけでなく、アイディアを捕らえる上で危険にさえ思えます。分類・検索はコンピューターの得意とするところです。しかし、新しいアイディアを生み出すことは人間の脳にしかできません。

二回書く

時間の効果を考慮に入れると、同じカードに見えても、ちょっと違うカードになっている。

似たようなことを何度も書くのは、時間と手間の無駄のようにも思えます。カードの内容を断片的に思い出すということは、そのカードに書いてからしばらく時間が経過したということです。時間をおいて書いたカードは、同じ話題でもちょっと違うカードになります。

これを逆に利用すると、同じ話題に関して、色々な表現が可能になります。これは私たちがその話題を、いかに良く理解しているかを示す指標となります。また、同じ話題が何度も心に浮かんでくるということは、それが自分にとっていくぶん重要な話題であるということです。

時系列を更新しない

時系列でファイル(PoIC ではカード)を管理する、というと、真っ先に思い浮かぶのは野口(1993)の「超整理法」です。超整理法では、ファイルを時系列で並べていき、取り出したファイルは時系列の先頭(例えば本棚の右端)に置いていきます。こうすることで、システムを活性化させ、良く使うファイルとあまり使わないファイルが自然と選択されていきます。

しかし、PoIC では、時系列を更新することでシステムを活性化させるのが目的ではありません。超整理法と PoIC の時系列は、似ているように見えますが、情報のサイズ、いかにしてシステムに秩序をもたらすかが全く異なります。この違いに関しては後ほど詳しく見ることにして、差し当たっては、PoIC では書いたカードはすべて時系列で保存し、順序を更新する必要はない、と理解しておくだけで十分です。

パーティションの切り方

ドックのパーティションの切り方。

コレクトのドックには、仕切り板が3枚付いてきます。ドックの中のパーティションは、繰り返すように、分類ではなく、時系列にしたがって作ります。幸いにも、パソコンの HDD とは違って、システムを構築した後でも、パーティションはいくらでも変更できます。

例として、私の家ドックの写真を右に示します。私は、家で2つのドックを使っています。

  • 左側のドック : 今日 / 今週 / 先週 + 過去三ヶ月
  • 右側のドック : 三ヶ月よりも前 / それよりさらに三ヶ月前

パーティションの切り方は、月ごとに一定というわけではありません。これは、アクセスの頻度が時間とともに直線的に減るのではなく、むしろ指数関数的に減ることを考慮しています。「いま」という瞬間に良く使うカードは、せいぜい「いま」と、「いま」から1週間前まで、すなわち今週です。この部分がドックのアクセスしやすいところ、すなわち一番手前にきます。

システムの拡張は容易です。カードが増えて、ドックが一杯になったら、新しいドックを追加するだけです。

カタマリを「崩す」

パーティションを使わないでドックを使うこともできますが、カードが一つのカタマリのようになってしまい、アクセスしづらくなります。一つのカタマリにアクセスするというのは、意外に心理的な抵抗が大きいものです。そこで、パーティションを使って適当に「崩す」のです。これは、カードが増えていった時に大切です。頻繁にアクセスするようにするためには、うまくパーティションを切ってあげる必要があります。

聖域を作る

野口(1993)は、使う頻度の高いファイルを「神様ファイル」と呼び、時系列によるファイル管理から分離し、分類・保存しています(P.P. 40-41、51-52)。

PoIC では、利用頻度の高いカードとしては、住所録、本のリストなどが考えられます。これらが時系列に埋もれていると、不便です。そこで、これらを、野口(1993)にならい「神様カード」と名付け、ドックの一パーティションに保存しておきます。このパーティションは、神様のいるところですから「聖域」と呼ぶことにします。ここだけは、分類しない・検索しないという PoIC の基本ルールに関して、治外法権が適用されます。

検索・分類は最終手段

時系列でカードを蓄積していくと、自然の法則に従って、システムのエントロピー(情報の乱雑さ)は一方的に増えていきます。分類しない時系列では、なおさらです。このままでは、PoIC は破綻しそうにも思えます。私自身、カードが増えるにしたがって、このまま行ったらどうなるのだろうか、と心配になったことがありました。

この自然の法則に逆らってエントロピーを減らそうとする場合、人間の「努力」が必要になります。図書館では、「つねに分類する努力」によってこれを実現しています。しかし、前述のように PoIC では、積極的に(?)検索・分類しません。

では、どのようにしてシステムの破綻を防ぐのでしょうか。答えは簡単で、やはり検索・分類するのです。従来の方法と違うのは、これが一番最後に来ることです。PoIC において、カードを書くのは、個人の知識のデータベースを構築することです。しかし、これはまだ準備段階です。PoIC が目指す最終目標は、このデータベースを使って新しい知識・成果を再生産することです。これが完了して初めて "Get things Done!" となる訳です。

タスクフォースの編成

タスクフォースの編成。右側のドックが時系列、左側のドックがタスクフォース。

プロジェクトのカードが十分に蓄積したところで、ドックの中から、そのプロジェクトに関連するカードを全て抜き出します。渡部(1976) の言葉を借りて、これを「タスクフォース(機動部隊)を編成する」と言います(p. 132)。このタスクフォースを編成する時に、カードを検索・分類することになります。つまり、PoIC では、検索・分類は最終目標のちょっと手前でようやく登場します。そして、それで十分なのです。従来のカードシステムが破綻してしまうのは、この最終手段を一番初めに使ってしまうからです。

お役御免

タスクフォースに選ばれ、最終目標である再生産を果たしたあとのカードは「お役御免」となります(渡部、1976、p. 133)。これらのカードを、もとの時系列に戻す必要はありません。カードの内容を参照したい時は、再生産したものを参照すれば良いのです。そして、ドックの中のカードの量は、再生産する毎に減っていきます。それ以外のカードは、将来必ず何らかの形で利用されると信じて、ドックに残していきます。

このように、PoIC では、システムのエントロピーは、私たちが再生産に使う努力により減っていきます。私たちが限られた力を、これまでは検索・分類することに消費していたことを考えれば、このアプローチは「一石二鳥」と言えるのではないでしょうか。

プロトコル

前の2つの章では、PoIC の基本となる 4つのカードと、時系列スタック法を紹介しました。ここでは、カードのどこに何を書くのか、といった取り決め(プロトコル)を詳しく見ていきます。インターネット上でのデータのやりとりの取り決めである TCP になぞらえて、これを ICP (= Index Cards Protocol)と呼びます。

Index Cards Protocol (ICP)

ICP 規格で書いた情報カードの例。

ここでは、情報カードを書く際の取り決めを、Index Cards Protocol(ICP)として、詳しく定義します。これは、個々人がスタイルを確立するまでの時間をなるべく節約し、残りの力を本来の目的である生産性に向けるために他なりません。

とは言うものの、ICP は、パソコンからプリントしなければならないほど、複雑なものではありません。むしろ、極めてシンプルで、一度覚えてしまえば、忘れることはありません。

私たちの思考は非線形ですから、次に来るアイディア・考えを予測することはほぼ不可能です。あらかじめプリントしてカードを準備しておくことは、時間が掛かるだけでなく、アイディアを引き出す上でも足枷になってしまいます。

私たちに必要なのは、方眼の 5x3 カードとペンだけです。あとは、ICP を頭の中に入れて持ち歩けば十分です。

ヘッダ

私たちの書いたカードは、すべて、ドックの中に時系列で保存されていきます。ドックの中の何百枚・何千枚のカードをめくっている時に、カードの下の方までのぞき込むことは決してありません。見える部分は上の数行だけです。

そこで、カードの上部に圧縮した情報を記述しておくと、とても便利です。カードの上辺から4行を「ヘッダ」、それより下を「ボディ」と定義します。ヘッダには、

  • アイコン
  • タグ
  • タイトル
  • 日付+時刻スタンプ

を書き込みます。カードをめくる時は、このヘッダ部分だけに集中します。

アイコンとタグ

4カードの章で見たように、PoIC における全てのカードは、記録・発見・GTD・参照の4種類に分類されます。重要なのは、私たちの内外の情報を表現するのには、実はこの4つだけで足りる、ということです。

カードの内容に対して、適切なアイコンとタグが付け加えられます。アイコンは、そのカードの内容を視覚的にとらえるのに役に立ちます。

Four Icons. Left to right : Record, Discovery, GTD, and Reference

PoIC のアイコンを上の図に示しました。それぞれ、丸・電球・チェックボックス・帽子をデザインしたものです。参照カードが帽子なのは、「自分の上には必ず上がいるよ」という謙虚さの暗示です。

記録・発見・参照の3つは、丸を基本としています。これは、アイコンを付ける際に、これら3つの判断が難しい時があるという事実に基づいています。とりあえず丸を描いてから、記録・発見・参照のどれにしようかと考える「間」ができます。

アイコンは、あなたの好きなようにカスタマイズして下さい。参照カードのアイコンに「本」を使っている人もいます。

思考の指標としてのタグ

ドックに保存されたカードを見た時に、タグを見ただけで、どの種類が優位であるかが一目で分かります。私たちの行動がいまどこにあるのかを捕らえることができます。これは、flickr におけるタグクラウド(タグの雲)、del.icio.us における タグロールの様なものであると言えば、理解しやすいかもしれません。

しかし、ここで一つ強調しておくべきことは、このタグ(及びアイコン)の主な目的が、ドックの中でカードを分類するためではないということです。参照カードだけ抜き出す、ということはありません。私たちは全てのカードを、時系列でスタックしていきます。私たちがカードを書く時、それがどの種類に属するか、どの順番かについて気にする必要はありません。

オープンループを見つける

オープンループは3番目のタグに2つの点として見える。

タグが威力を発揮する局面の一つが、GTD カードのオープンループ(未完了のタスク)を見つける時です。PoIC では、オープンループはその名の通り、「開いた輪」です。この単純さが、時系列の中で未完了のタスクを見つけるのを容易にします。ドックの中のカードのタグを見ていった時に、3つめのタグで(4番めのブロック)で二つの点があったら、それがオープンループです。GTD カードのタスクが終わった時に、オープンループは塗りつぶされます。こうなれば、他の3種類のカードのタグと同じになります。

どうして4種類だけ?

コレクトの方眼カードの上辺には25個の方眼が並んでいます。これらの全てをタグとして使う、もしくは、2つのタグを組み合わせて使う、という可能性も考えられます。それでは、どうして PoIC ではたった4つのタグしか使わないのでしょうか。

その理由の一つは、人間の認識力の問題です。野口悠紀雄氏は「超整理法」のコラムの中で、「Magic Number of Three」という概念について説明しています。これは、3という数字が人間が無意識に扱うことのできる数で最大のもの、ということです。もっと分かり易く言えば、1、2、3までは無意識に識別できても、それ以上は「いっぱい」になってしまうということです。4以上は途端に取り扱いが面倒になります。

この考えからいくと、理想的にはタグは3つということになります。実際、PoIC の始めの頃は、記録・発見・GTD の3つしかありませんでした。しかし、一つの記録カードでは、「私自身の記録」と「他の誰かの記録」を区別するのが難しいことに気付きました。そこで、「他の誰かの記録」を表す4番目の参照カードが生まれました。

タグを4つしか使わないもう一つの理由は、もっと実際的な問題です。あまり多くのタグを使うと、タグを付ける時に、カードの端から数えていくのがとても面倒になります。前述の Magic Number of Three の言うように、3つまでは、ほぼ無意識に、ブロックを数えることなく、一瞬にしてタグを付けることができます。4つめになると、端から1、2、3、4と数えていくことになります。例えば10個目のタグを使ったら、タグを付けるだけで5秒は掛かります。たった5秒と思われるかも知れません。しかし、このような類いの煩雑さは、無意識のうちに蓄積し、やがて心理的な抵抗になり、そのうちカードシステムを使うのを止めてしまう原因になります。また、あまり多くのタグを導入しても、しばらくすると、どのタグがどの種類に属するかを忘れてしまいます。

PoIC のカードの「4」種類というのは、最小にして最大の数なのです。

タイトル

タイトルは、短く、かつ本文の内容を適切に反映したものを付けます。こうすることで、カードを繰る作業を容易かつスピーディーにします。タイトルは、上から3段目のブロックに書かれます。ドックの中のカードを繰る時は、この部分にだけ集中します。

タイトルは、ダイナミックで注意を引くような表現を心掛けます。例えば、板坂(1973)は、タイトルには名詞文よりは動詞文を使うことを推奨しています(p. 92)。

参照カードの場合、引用文をそのままタイトルにするよりも、それに対して私たちがどう感じか、考えたかを表現します。これが、引用文に対する私たちの解釈を与えることになります。

タイムスタンプ

David Allen(2004)は、手で書いたもの全てに日付を入れる習慣を推奨しています(p. 108)。タイムスタンプは、カードの右上に以下の形式で書きます。

2007.01.20 Sun
  13:49

タイムスタンプは、自分の中の時間軸、すなわち「自分の歴史」の中から記憶を呼び戻し、カードとカードの間の背景を浮かび上がらせます。タイムスタンプは、個人の生産性において重要な情報を含んでいます。ですから、必ずカードのヘッダ部分に書くようにします。

曜日も入れる

曜日に関する情報も重要です。なぜなら、私たちの生活は、一週間を単位としたシステムをもとに動いているからです。「先週の日曜日に何をしたか」と考える方が、「2006年11月19日に何をしたか」と考えるよりも楽です。

タイムスタンプに、ゴム製のスタンプを使うことも考えられます。しかし、残念ながら、私は曜日まで含めたスタンプをいままで見たことがありません。また、スタンプを使うことは、カードを書き続けることを一時的に中断します。ペンを手から離し、スタンプを押し、またペンを手にするのは面倒です。手書きで書く方が、スタンプを使うよりもよっぽど簡単で迅速です。

絶対参照名

PoIC では、タイムスタンプにはもう一つ大きな意味があります。タイムスタンプが、そのカードの「絶対参照名」を与えます。この一枚一枚のカードに固有の名前は、カード間でリンクを張る時に使われます。そのために、タイムスタンプには、日付だけでなく、時刻まで含めます。

カードのタイムスタンプは、絶対参照名を定義するために、唯一である必要があります。しかし、必ずしも正確である必要はありません。例えば、あるカードを書いて、次のカードに進んだ時に、そのカードの時刻は前のカードの時刻+1分であっても良いのです。こうすることで、カードを書いている間に、何度も時計を見る必要は無くなります。

このタイムスタンプによる絶対参照名の定義の仕方は、2ちゃんねるの「情報カードについて語るスレ」において初めて紹介されました。

ボディ

発見カードの例。

ヘッダより下の部分は、ボディ(本文)となります。

文字数にして120字程度。一つのトピックに対して、一つのカードを使うようにします。カードの再利用性を考えて、一枚のカードにあまり内容を詰め込み過ぎないようにします。

本文の書き方に関しては、書いているうちに自分のスタイルを確立していくでしょう。私の場合、まず本分を「起」「承」「転」の順で書き、「結」をタイトルにするとスムーズに書けます。こうすると、レビューの時にタイトルを見るだけで、そのカードの言わんとしていることをすぐに把握できます。また、タイトルを先に書くと良く起こる、本文とタイトルが食い違う、という事態を避けられます。

裏側は使わない

ほとんどの場合、一つの項目は一枚のカードの中に収めることができます。もし一つにおさまらない場合は、続きをもう一枚のカードに書き、タイトルに1/2、2/2 のように連番を付けておきます (梅棹、1969、p.p. 55-57)。

カードの裏側は使わないようにします。こうすることで、カードをめくって裏側を見る面倒がいっさいなくなります。これは、ドックのカードを繰る時だけでなく、ブレインストーミングの時にも重要になります。カードをめくる、という行為は意外に面倒です。また、裏側に何か書いてあっても、書いてあることを忘れてしまいがちです。

書きながら考えていると、結論は本文の最後に来る傾向があります。重要な内容が裏側に書いてあり、しかもそれを見逃してしまう、ということは致命的です。裏側を使わないのはこういう心配事を避けるために他なりません。

手書きの絵を含める

めだまちゃん。カードの中に現れる、自分の分身。

アナログ・メディアである紙を使う大きな利点は、絵を自由に素早く描けるということです。そして、これが私がデジタルの世界からアナログの世界に戻ってきた大きな理由の一つです。

実際、これをパソコンでやろうとすると、途端に面倒になります。ペンとカードでは10秒で描ける絵が、Adobe Illustrator を使うと、2分以上も掛かってしまいます。簡単な絵を描くのに時間が掛かっていたのでは、考えていたアイディアも吹き飛んでしまいます。

良く使う絵をデジタルでテンプレート化しておくという手もあります。しかし、ゆくゆくはテンプレートにない絵は描かない、すなわち、思考がテンプレートによって制約を受けるという状況に陥ります。また、パソコンを使って下手な絵を描くというのも、なかなか抵抗のあるものです。ペンタブレットをいつも持ち歩くのも、現実的ではありません。

アイディアを捕まえている時には、多少汚くても分かり易く、かつ速いフリーハンドの絵が一番良いです。カードに絵を書き込むことで、カードの内容を視覚的に捕らえることができます。たとえ小さな絵でも、本文を読むよりも的確に内容を把握できることがよくあります。また、言葉ではなく絵で表現することで、自分自身の理解を深めることにもなります。

めだまちゃん

ここで、私の書くカードに頻繁に現れる、お友達を紹介します。彼(彼女?)の名前は「めだまちゃん」と言います。めだまちゃんは、カードの中で私の代わりに考え、発言し、行動します。カードを書いたり、布団に入って眠ったりもします。発見カードに良く出没します。GTD カードはあまり好きではないようです。たいていは横向きで、たまに手が出てきます。二人、三人と増えることもあります。めだまちゃんのモデルは、私が中学生の時の理科の先生が「観測者」の絵として使ってた「目」です。 それが目玉になった後、体と足が生えて、現在のめだまちゃんになりました。長いまつ毛がチャームポイントです。

このようなキャラクターが一人いると、カードを書くのが断然楽しくなります。ぜひ使ってみて下さい。

リンク

タイムスタンプで定義する絶対参照名を使うことで、カードだけに限らず、いろいろなファイルの間で、一貫した方法でリンクを張ることができます。リンクを張る時は、Ref. (Refer = 参照せよ)を使って以下のような形式で書きます。

Ref. : 2007.01.20 13:49

実際、私は、自分の手で書いたもの、コピーしたもの、プリントしたものに、全てタイムスタンプを書き入れるようにしています。写真の例では、下のカードの中で、絶対参照名を使って、上のカードにリンクを張っています。

絶対参照名を使ったリンクの張り方。下のカードで、絶対参照名を使って上のカードにリンク(ref. 2006.7.16 18:06)を張っている。

省略ルールと相対参照名

私の経験からすると、リンクを張るのが圧倒的に多いのは、同じ日に書いたカードの間です。その時に便利なのが、ここで紹介する「省略ルール」です。

  • もし同じ日に書いたカードの間でリンクを張る時は、時刻だけでよい

このルールを使うと、同じ日に書いたカードの間では、年・月・日・曜日を省略して、次のような短い形式でリンクを張ることができます。

Ref. : 18:02

これは、絶対参照名に対する、相対参照名です。HTML の相対リンク、UNIX の ./ や ../ に相当します。

トラックバック

トラックバックは、Weblog の一つの特徴で、自分の記事がどこにリンクされたかを知るための機能です。これをカードに使うというアイディアは、flickr での議論の中で生まれました(riclav 氏のコメント)。

トラックバックを実際に使うのは簡単です。リンクの張り方を、逆向きに使うだけです。私は、トラックバックを強調するために、赤色のペンを使っています。カードに赤い日付がたくさんあれば、そのカードはいろいろな所から参照されている「役に立つ」カードであることを示しています。

デジタルファイルへのリンク

デジタルファイルに絶対参照名を付ける。

これは実験的ですが、私はデジタルファイルの名前にも絶対参照名を使っています。写真に示したのは、絶対参照名を UNIX のコマンドで作る hack です。Kevin Marsh さんは、"ymd" とタイプしただけで絶対参照名に展開してくれる Mac OS X のアプリケーション TextExpander を紹介してくれました。

デジタルファイルにも絶対参照名を使うと、カードの方では、以下の形式でリンクを張ることができます。

Ref. : @PDF, 2006.11.02 18:02

ファイル形式を指定しておくと、自分の記憶を呼び戻す引きがねとなります。コンピューター上でこのファイルを探す時は、ファイル名に "20061102"、"1802" を含む項目で検索します。

逆に、デジタルファイルの中でカードにリンクを張ることも可能ですが、カード上の情報は小さいので、そういう機会はほとんどありません。カードを再生産に使うと言う意味では、リンクを張るよりも、むしろその内容を書いてしまった方が良いです。

接頭詞

リンクを張る時は、これらの接頭詞(Prefix)を絶対参照名の前に書いておくと、どの資料を探せば良いか一目で分かります。

  • アナログ
    • カード(デフォルトなので接頭詞なし)
    • @Proj. Pap. : レポート用紙(オキナのプロジェクトペーパー)
    • @Pr. : プリントアウトした資料
    • @Cp. : コピーした資料
  • デジタル
    • @mail : Eメール
    • @iphoto : デジカメの写真(Apple の写真管理ソフト "iPhoto")
    • @PDF : PDF ファイル
    • @Word : Word ファイル
  • Web

外部リンク


野帳のススメ

コクヨの測量野帳。

アイディア捕獲を昆虫採集に例えると、野帳は虫を捕まえる「アミ」当たります。虫を捕まえる時は、手で捕まえるよりも、アミを使った方が効率が良いですよね。ここでは、野帳の具体的な使い方、カードとの連携について説明したいと思います。

野帳を書く習慣

私は PoIC 以前は、記録をまめに取る方はありませんでした。この習慣は、ある経験を通過してから、身に付いたものです。

それは、仕事で野外観測に1週間ほど出掛けた時です。私の所属するグループには、いわゆる「公式の」野帳があります。観測機器一台につき、野帳1冊を割り当て、その器械の担当者が責任を持って携行し、記録を行います。通常、大きい器械1台 + 小さい器械2台を使用するので、3冊の野帳を使うことになります。観測が終わると、これらの野帳はグループの責任者の元で保管されます。つまり、最終的にはグループで共有する野帳です。

これでは、自分の思ったことが自由に書けないので、この公式の野帳とは別に、自分の野帳を肌身離さず持ち歩くようにしました。これが、今 PoIC で使っている野帳の始まりです。

私が自分の野帳に全てを記録しようと思い立ったのは、

  • 私の記憶力の弱さを補うため
  • いくら他の人の記憶力が良くても、それは当てにならないため
  • 起きたことが重要かどうかは、その時点では判断できないため

という理由からです。記憶力の弱さは、まめに記録を取ることでいくらでも補うことができます。また、いかに記憶の良い人でも、それが何らかの記録として残っていないものは、全く当てにはなりません。人間の記憶は、自分の都合の良いように物事を解釈してしまうからです。

この観測期間中、身に起こったこと(記録)、気付いたこと(発見)、やるべきこと(GTD)を、観測の間、朝起きてから眠るまで、時刻も含めて全て野帳に記録しました(この当時はまだ記録と参照を区別していなかったので、3種類しかなかった)。私の場合、「全ての情報をとらえる」という習慣は、このたった1週間の集中的な訓練で身に付けたものです。そして、それは今でも続いています。

梅棹(1969)は、手帳をつける習慣を「獲得」し、「二十数年後のいまでも、きえることなくづづいている」と述べています(p. 22)。私は、今になってようやく、梅棹氏の書いていることは正しいと理解出来たのでした。

初めの1冊は使い倒すつもりで

アイディアや発見は、止めるものが何もないと、どんどん出てきます。野帳を使い始めると、「ひらめきすぎる」、「発見しすぎる」経験をすると思います。これは今まで自分の脳にかけていたフィルタを外した反動です。キノコを一つ見つけると、ここにも、あそこにも、色んなところにキノコが見つかるのと同じです。

ですから、初めの1冊目の野帳は、練習・訓練のつもりで、使い倒します。まずは、カードに写すことは考えず、身に起こったこと、思い浮かんだことは、何でも書くようにします。そして、なんでも記録する習慣が身に付いたところで、徐々にカードに書き写す習慣に移行していきます。

野帳の書き方

野帳の書き方には、カードと同じ書き方が適用できます。

  • 時系列:思い浮かんだことを、仕事・生活の別無く、思い浮かんだ順に書き込みます。
  • 4つのアイコン:内容に応じて、記録・発見・GTD・参照のアイコンを付けます。
  • 日付・時刻スタンプ:日付スタンプは、各ページの上部にスタンプを使って押しています。日付スタンプがきれいに押してあると、カードに移す時のモチベーションが格段に上がります。なるべくきれいに、まめに押すようにします。時刻スタンプは、個人的な用途の場合は、あまり厳格である必要はありません。思い出した時に書いておき、カードに書き写す際に、飛び飛びの時刻を埋める形で書いていきます。
野帳の書き方。Flickrの写真に細かいメモを付けてあります。

PoIC において、野帳は、脳とカードの間をつなぐ、中間的・一時的な記憶媒体になります。野帳の内容は、あとで必ずカードに書き写すことを前提に書きます。パーツごとのカードにしておくことで、後の再利用性を高めます。上の写真の中で、各トピックの横にある青ペンのチェックは、カードに書き写したことを表しています。小さな GTD タスク(例えば○○を買う、など)は、野帳の上で処理すれば、必ずしも GTD カードに書いて残す必要はありません。作業記録として残す場合は、チェックボックスとタグを埋めた形の GTD カードとして書いておきます。

野帳は、カードに比べて面積が広いですから、より自由な思考を表すことができます。まだ固まっていないアイディアでも、どんどん書き込みます。絵も、カードに描く時よりもラフに描けます。野帳は、下書き的な書き込みに向いています。カードに書き写す段階で、内容を吟味します。

グラフィティ

携帯端末 Palm には、アルファベットを1〜2ストロークで書けるようにした「graffiti」という独自の入力方法があります。ペンを画面から離すことなく書けるので、慣れると素早く入力できます(日本語は、ローマ字入力をさらに漢字に変換する必要があるので、遅くなってしまう)。

私が野帳に書く字は、これを応用したものです。なるべく紙面からペンを離さないようにして書きます。きれいなものではありませんが、素早く書くことができます。きれいな字を書くことよりも、むしろ、アイディアを捕まえることの方に集中します。カードを書く時に、判読出きる程度であればよしとします。私は、眠る前にベッドの中で思い浮かんだことを、電灯もなしに書くこともあります。暗闇の中で書いた字でも、朝になって見てみると、何とか読めるものです。野帳はいずれにせよ一時的な記録媒体ですから、これで良いと考えています。

野帳の書き込みには、プラチナのプレスマンを使っています。その名の通り、記者(press man、筆圧の強い人とのダブル・ミーニング?)が速記に使うシャープペンシルです。芯が0.9mmで太く、力を入れなくても、サラサラと書くことができます。また、紙の上での滑りが大変良いです。野帳は一時的な記憶媒体なので、字が多少消えやすくても構いません。

カードとの連携

1週間貯めた結果。野帳は、あくまでも一時的な記録媒体として使うべし。

PoIC における野帳とカードの使い分けは、コンピューターを使って例えると分かり易いです。

  • 脳 = CPU, RAM
  • 野帳 = 仮想メモリ(HDD)
  • カードとドック = HDD

野帳はあくまでも一時的な記録媒体として使います。野帳の内容は、全てカードに写し、ドックに保存していきます。カードにする事で、後の再利用性を高めます。

野帳からカードに写す作業は、最初は多少面倒臭いです。こまめにカードに写し、野帳にはあまり溜めないようにします。私は、会社に行くまでに野帳に書いた分は朝の日記の後、昼食の散歩の時に浮かんだ分は昼食の後など、時間の空いた時にちょこちょこと写すようにしています。1週間分貯めてしまうと、一気に100枚近くのカードを書くことになり、写すのがとても大変になります。出張にいくと、この傾向が強くなります。なるべく時間を見つけて写すようにします。

野帳は、最初からカードに書き写すことを前提に使っているため、内容は詳しくは書きません。記憶を呼び戻す程度のキーワードであったり、ラフスケッチであることが多いです。カードに書く時に、圧縮した情報を展開します。こうすることで、少しでも野帳からカードに書き写す時の労力を減らします。

カレンダー

野帳に貼るカレンダーを自分で作る。

野帳の最後のページにカレンダーがあると便利です。野帳はだいたい1ヶ月で1冊使いきるので、今月±1ヶ月で、3ヶ月分のカレンダーがあれば十分です。カレンダーを作るのに一番簡単なのは、UNIX の cal コマンドを複数回使うことです。

% cal 02 2007 ; cal 03 2007 ; cal 04 2007

これで2007年2月〜4月までの3ヶ月分のカレンダーが縦に並んで出てきます。

あとは、これをテキストエディタにコピー&ペーストし、整形した後、プリントします。Mac OS X では、ターミナルのウィンドウをそのままプリント(command + P)すれば良いです。あとは、切り取って、野帳の後ろのページに貼り付けます。

もう一つの方法は、Dave Seah さんが作成した、"Compact Calendar" を使うものです。こちらは、見た目もきれいです。PDF ファイルがダウンロードできます。

野帳を常に持ち歩く

渡部(1976)野口(1993)は、散歩の効用について説いています。私もよく気分転換も兼ねて、歩いて15分ぐらいの距離のところに昼食に行きます。実際、一日中座っているよりも、散歩に出た方が、さまざまな発見や疑問に気付きます。あまり知らない道を歩いていると、新しい発見にとらわれてしまって、考え事ができなかったりします。歩きながら考え事をする時は、歩き慣れた道の方が良いです。

PoIC では、野帳を使って浮かんでくるアイディアを捕まえます。どんな小さなアイディア、発見も野帳に書き留めるようにします。野帳は、私たちの関心のアンテナ・レーダーのようなものです。

いつでも、どこでも

アイディアは、思い浮かんだ瞬間に、すぐに野帳に書き込むようにします。「後で書こう」と思っていると、覚えていることに労力を費やしてしまったり、時には忘れたりしてしまいます。歩いている時は、立ち止まってでも野帳に書き込みます。これは「仮想メモリにデータを書き込み、物理メモリ(RAM)を開放すること」に例えることができます。こうして、記録を残した上で、安心して他のことを考えられます。

そのために、野帳は肌身離さず持ち歩きます。私は、普段はワイシャツの胸ポケットに入れて行きます(ズボンの尻ポケットに入れておくと、湿気で表紙がふやけ、曲がってしまう)。そのため、私は胸ポケットのないシャツは着られません。机に着いている時は机の上に広げて、眠る時は枕元に置いておきます。

人込みの中でも、電車の中でも、布団の中でも、どこでも野帳を取り出して書きます。この光景は、端から見るとちょっと奇妙に見えるかもしれません。しかし、生産性を向上させるためと割り切って、堂々と野帳を書きます。立ちながら書く時は、左手の手のひらに野帳を開いて載せ、人さし指から小指までの四本指で野帳の上部をつかむようにして持ちます。

アイディアは、歩いていたり、車や電車に乗っていたり、新幹線や飛行機で移動している時の方が、ポンポンと浮かんできます。こういった移動時にアイディアを捕まえる手段として、野帳は最適です。

導入例

カードを書き続ける

日記から始める

Great habit of collection.

4つのカードのところでも書きましたが、PoIC の導入として一番簡単なのは、情報カードを使って日記を書くことです。

私がカードを使いはじめた頃、一番難しかったのは、いかにしてその日の最初のカードを書き始めるかでした。カードを前にして、「何を書こうか」と悩んでいるうちに時間だけがどんどん過ぎていきました。ひどい時には、一枚のカードも書けない時もありました。

しばらくして、これを克服するコツを発見しました。答えは単純で、「なんでもいいからとにかく書き始める」ということです。ペンとカードを取り出して、書き始めれば良いことに気付きました。

しかし、「なんでもいいから書く」という漠然とした目標には、ある種の抵抗を感じると思います。むしろ、「日記でも書こうか」と自分に言い聞かせると、すんなりと書き始められます。書くことがなくても、「まず日記でも書くか」とカードとペンを取り出すのが大切なようです。

カードには、その日の天気から書き始めます。例えば、「晴れ」、「くもり」など。続いて、朝の出来事を記録します。「7:00に起床」、「朝ご飯はトースト、スクランブルエッグ、ベーコンにコーヒー2杯」、「8:30に出勤」など。このカードは記録カードになります。

結局、一日のカードの書き始めの引き金となるのは、フタを開けてみれば、その日の天気を表す2・3文字だけだということです。一枚目は単なる記録ですから、あまり考える必要もありません。

雪崩式著述

一日のカード書きを日記から始める。

私は、会社の自分の席に着いてから、日記を書き始めます。会社に向かう間に、電車の中でいろいろ考え事をしたり、駅から会社に向かって歩いている時に、何かを発見したりします。日記を書いていると、「そういえばこんなことも考えた」、「こんなものも見つけた」と思い出してきます。手を動かすことで記憶が蘇ってきます。

カードを使って日記を書き始めると、5x3 というサイズが日記を書くには小さいということにすぐ気が付きます。そこで、書ききれない部分を次のカードに書きます。日記を書き終えたら、忘れないうちに、その考えたこと・発見を、一つ一つ、独立の発見カードに書いていきます。発見カードを書いているうちにも、昨晩寝る前に考えたことや、朝起きてすぐに考えたことも思い出してきます。布団の中で野帳に書いていたら、それもカードに書いていきます。会社に着いてから初めの15〜30分はこうして過ごします。この時は、仕事だけでなく、生活に関すること、とりあえず頭の中に浮かんだことをすべてカードに書いていきます。

こうして、記録カードから始め、次々と発見カードを書いていくことを、私は「雪崩式著述(Avalanche writing)」と呼んでいます。重要なのは、この雪崩を起こすのはちっぽけな石ころ(記録カード)でも十分であるということです。

このような習慣を続けていると、よい意味での「パブロフの犬」状態になります。会社でイスに座った途端に、すぐカードとペンを取り出して、記録カードを書き始めます。そうすると、カードを書き始めるのに何の努力も抵抗も感じなくなります。朝の段階で、一枚の記録カードと、平均5枚の発見カードを書くと、これだけでも一ヶ月で100枚以上のカードがドックに溜まっていきます。そう考えると、ドックを自分のカードで満たすことは、難しいことではないということが分かります。

カードの価値

カードや野帳には、どんなちっぽけなアイディアでも書くようにします。しかし、実際のところ、自分が書いているカードの価値って、どのぐらいなのでしょうか。

カードに書いた時点ではちっぽけなアイディアでも、後になって他のカードと組み合わせることで、新しい価値を生み出すものもあります。私がいつも思うのは、カードの本当の価値は、書いた時点では判断できない、ということです。判断できるようになるのは、ある程度時間が経過してからです。例えば、今日の日経平均株価が高いのか、安いのか、それは数ヶ月先・数年先になってからしか判断できないのと同じです。ですから、PoIC では、カードを書いた時点で、そのカードに重要度(Priority)を付けることもしません。それが不可能だからです。

こう考えると、現時点の私たちにできるのは、「どんなアイディアも、とりあえずカードに書いておく」ということだけです。そして、それが将来何らかの形で、必ず自分の役に立つと楽観的に考えるしかありません。指針となるのは、自分の中の「ビジョン」です。それは、自分の目標であったり、どうしたいのか・どうなりたいのかといったことです。ビジョンは磁場のような働きをします。磁場は目には見えませんが、コンパス(カード)を置けば、必ず同じ方向を指します。

らせん階段を昇る

どんなちっぽけな事柄もカードにしていくと、必然的にカードの量は多くなります。カードの「質と量」の問題は、カードを書いていく上で、必ずぶつかる問題です。ドックの中のカードが1,000枚ぐらいになると、「本当に役に立つのかな」と不安になったりもします。

しかし、私たちの書くカードの質というのは、いつも同じレベルではありません。むしろ、カードの質は、書いていくごとに、徐々に向上していきます。イメージとしては、同じフロアをぐるぐると回っているのではなく、らせん階段を一段一段昇っていくようなものです。書けば書くほど良くなります。

少なくとも、カードを書くことで、らせん階段を下るということはありません。気分的に落ち込んでいる時でも、その状況をカードに書くこと、そしてそれを改善するにはどうすれば良いかをカードに書くことができます(PEACE 法の P(問題発生)→E(感情)→A(分析) の過程)。頭の中で考えるよりも、カードに書きながら考えた方が、上手くいきます。そして、それは記録として残るので、必ず将来役に立ちます。

本との付き合い方

本に直接線を引き、メモを書き込む。

本の読み方に関しては、様々な本が出ているので、それを参考にして、自分のスタイルを確立して下さい。

私は、読んだ本の内容を抜き出すのに、参照カードを使っています。本からノートを取るのには、いろいろなメリットがあります。

  • 手で書くことにより、記憶を強化する
  • あとで見返した時に、記憶が強化される
  • 完全な記録としてドックの中に残る

ノートの取り方、頻度に関しては、個人差に依るところが大きいです。私の場合、本を読むことは、「食べること」、「消化すること」と同じ意味ですから、どんどん線を引いたり鉛筆で書き込んだりします。そのため、読みたい本は全て身銭を切って買います。私の本に対するこの姿勢は渡部(1976)の影響を受けたものです(p. 70)。

4カードの参照カードのところでも書いたように、本の参照カードを取るには、2種類のスタイルがあります。時と場合に応じて使い分けます。

本の著者の言っていることが分かった時、私たちはそれを自分の言葉で表すことができます。そこで、参照カードのタイトルには、内容をそのままタイトルにするのではなく、自分の言葉で表すようにします。一つの事柄を二つの表現で表すことになり、より理解が深まります。また、ドックの中のカードを繰っている時、自分の言葉で付けたタイトルの方が、記憶を呼び戻しやすいです。

参考書・技術書などの難しめの本を読む時は、一日十枚以上の参照カードを書く時もあります。参照カードを書くのは、他の3つのカードに比べて、労力が要ります。しかし、自分の経験から言うと、インプット無しのアウトプットはあり得ません。参照カードは、インプットに当たります。いつか自分の中で芽吹く時が来ると信じて参照カードを書きます。

専門書を線を引きながら読むと、時には1ページのほとんどが線だらけになる、ということもしばしば起こり得ます。その全てカード化するのは、非常に骨の折れる作業です。そもそも本が手元にあるのだから、全てをカード化するのはあまり意味がありません。本当に必要であれば、いつでも本に戻って確認することができます。

私の場合、線を引いたところの中から、さらに重要と思われるところだけを参照カードに書いています。この時、線を引いた部分が重要かどうかは、実は先に読み進んでみないと分かりません。読み進んで、章の最後に「まとめ」があったりもします。そこで、本を読んでしばらくして、「あれは重要だな」と思い出せるところを、抜き出して参照カードにします。自分の記憶をフィルターとして使い、残ったところが自分にとって大切なところだと判断します。

本を読む時に書くカードは、参照カードばかりかというと、そうでもありません。本を読みながら、「分かった!」、「なるほど!」と思う瞬間があります。発見カードを書いている時のように、頭の中の電球が光る瞬間があります。むしろ、こういう事柄を積極的に「発見カード」として残しておくべきだと思います。しばらくしてカードを見直した時に、発見カードの方が記憶が強化されやすいです。カードを取る時は、空いたスペースには忘れずに参照情報を「Ref. : 」の形式で書いておくようにします。

本から作った発見カードは、自分の経験をベースにしているので再利用性が高いですし、本を読む・カードを取るという行為も楽しくなります。

カードをめくる

カードをめくることは、過去の自分との対話です。そこで生まれた新しいアイディアは、新しいカードにして、時系列の一番先頭に入れていきます。こうして、自分のアイディアの純度を高めていくことができます。

能動的にカードを「めくる」

過去のカードから新しいカードを産む。

時系列スタック法では、PoIC の「3ない(分類しない・検索しない・時系列を更新しない)」について述べました。知的生産におけるカードの使い方に関して、梅棹(1969)は次のように強調しています。

「くりかえし強調するが、カードは分類することが重要なのではない。くりかえしくることがたいせつなのだ。いくつかとりだして、いろいろなくみあわせをつくる。それをくりかえせば、何万枚のカードでも、死蔵されることはない。」(P. 59)

PoIC を本格的に使う前は、私はこの文章の本当の意味が良く分かりませんでした。しかし、数千枚のカードを書いた今、ここに書かれていることがようやく理解できました。

ここでいう「くる」とは、カードを「めくる」ということです。つまり、知的生産に使うカードは、何かの必要に駆られて「受動的」にめくる(分類・検索する)のではなく、むしろ、「能動的」にめくるベきものである、ということです。この二つは、外から見た時の行為としては同じ「めくる」ことですが、やっている本人の心構えは全く違っています。

過去の自分との対話

自分の好きな時・時間のある時にドックの中のパラパラとカードをめくっていると、過去の記憶を思い出してきます。私の経験からすると、ドックの中には今の自分が無くした記憶を保存する「もう一人の自分」が居ます。過去の自分との対話(カードをめくること)を通じて、新しいアイディアが思い浮かんできます。それをまた新しいカードに書き、時系列の一番先頭に入れていきます。カードを取り出したとしても、この場合は数枚ですから、使った後は時系列に戻しておきます。超整理法の時系列では、ファイルの順序そのものを更新しますが、PoIC ではカードの位置は保ったままアイディアを更新することになります。

このような、小さな再生産を繰り返すことで、自分のアイディアの純度を高めていきます。

フラグを立てる

カードをめくっている時、一時的にカードを取り出して作業したいときがあります。例えば、何枚か抜き出して、新しいカードを書いたり、Blog の記事を書く時などです。しかし、そのまま抜き出すと時系列に戻す時に大変です。2〜3枚なら良いですが、5枚以上になると、戻す時の面倒を考えて、取り出すのも億劫になります。ポストイットを目印に使う手もありますが、貼るのもはがすのも面倒です。

こういう時は、抜き出すカードのすぐ後ろのカードを立てておきます。カードそのものを目印として使います。カードの右側を上げておくと、ちょうど日付・時刻スタンプが見えます。カードを戻す時は、手元のカードとフラグのカードの日付・時刻を見比べて戻していきます。取り出したカードは、戻す前に手元で時系列に並べておくと、戻すのが楽です。

一日を振り返る

一日を振り返る意味で、その日に書いたカードをパラパラとめくるのが良いでしょう。

カードを書くのは「忘れるため」、「頭をからっぽにするため」ですが、徹底してやると本当に記憶力が無くなります。そこで、時々、カードを使って頭のトレーニングをします。

私は、渋沢(2004)の、

「若いときから今日まで、毎夜寝る前に、その日にあったことをすべて思い起こし、まず第一にはこんなことがあった、次には何があった、その次には何があったと一つひとつチェックしてから床に就く習慣を付けている。これは、言行の反省考案の方法で、精神修養の役に立つだけでなく、記憶力を育成発達させるうえにも効果がある。」(論語の読み方、p. 199)

という方法を、PoIC 流にアレンジして実行しています。眠る前にカードをパラパラとめくり、布団に入った後で、どんなことを書いたかを思い出すようにします。

一週間を振り返る

週末に面白そうなカードの写真を撮り、Flickr にアップロードする。

週末は、その週に書いたカードを振り返る良い機会です。icPod からカードを移す作業のついでに、一週間を振り返ります。

金曜日にもなると、icPod はカードでパンパンになっています。週末に icPod の中のカードを全てドックに移し、古い方から順に、パラパラとめくっていきます。その中で、もしあるカードに対してコメントがあるときは、分かり易いように赤ペンで書き込みます。これは、過去の自分(青ペン)と今の自分(赤ペン)が対話しているようで面白いです。また、カードから新しいアイディアが浮かんだ時は、それを新しくカードに書きます。新しく書いたカードは、ドックの時系列の一番先頭に放り込みます。

カードは、仕事と生活で仕分けして、生活のカードは家ドックに、仕事のカードは icPod で月曜日に会社に持っていき、会社のドックに入れておきます。未処理の GTD カードがあるときは、分かり易いように、icPod の一番手前のポケットに入れておきます。

PoIC マニュアルの第一世代(ブログ)を書いていた頃は、週末に面白そうなカードをドックから探し、それを元に記事を書いていました。また、デジカメで直接カードの写真を撮って、Flickr にアップロードし、Cardlog として公開していました。

データベースとしてのドック

ドックの中のカードがまだ数百枚だった頃は、PoIC は単に日記の延長のようなものでした。しかし、一日10枚から20枚のペースで書いていったところ、8ヶ月後には4,000枚近くに膨れ上がりました。この頃になると、PoIC システムは、始めの頃に比べて異なる様相を呈してきました。単なる日記の延長ではなく、それが「データベース」として機能することに気付いたのです。つまり、システムの中のデータを再利用して、新しい「何か」を生み出す準備ができたということになります。

知識データベースとしてのドック

ここで一つ重要なのは、このデータベースを頭の外に作ったということです。脳の中の情報は、それ自体がデータベースです。しかし、頭の中の情報は目に見えません。また、時間が経つと消えてしまうものもあります。PoIC では、データをカードという形で可視化し、ドックという形でデータベース化します。紙は、並べ替えたり、積み重ねたり、後から新しい情報を書き込んだりできます。何より、紙は忘れません。完全な記録として残ります。

データベースから知識を生み出す方法として良く知られているのは「データマイニング」です。統計的・数学的手段を使い、データ(data)から鉱脈を探し出します(mining)。統計的・数学的手法を使うことで、人間に特有の先入観から逃れ、「思わぬ発見」が生まれます。Fayyad et al. (1996) は、データベースから新しい発見を見いだす手法について詳しく述べています。英語で書かれていますが、この論文の中の図1に言わんとしていることの全て凝縮されています。

378188030 43de03efe4.jpg

この概念を PoIC に適用してみたのが、上の図です。PoIC フォーマットでカードを書き、ドックの中にカードを蓄積するというのは、まだ準備段階に過ぎない、ということがよく分かります。日々カードを書くことは、それ自体が楽しいことですが、PoIC の最終目的はそこから新しい何かを生み出すことです。そこで、カードが十分貯まったところで、ドックから選り抜き、それに解釈を加え、新しい知識・成果を再生産していきます。

ドップダウン? ボトムアップ?

プロジェクトを遂行する上で、トップダウン式と、ボトムアップ式があります。上の図で言うと、最初にピラミッドの形が分かっているかどうかです。PoIC に関して言えば、どちらもありです。最初に目標を決めて情報収集することもできますし、目標が漠然としているけど、取りあえずカードを書いていく、というのも可能です。PoIC のマニュアルに関して言えば、最初はマニュアルを書くことは全く想定していませんでした。ただ、日々の発見をカードに書いていっただけです。カードを書き始めてから、第一世代のマニュアルを書き始めるまで半年間、第二世代になると一年間掛かっています。重要なのは、マニュアルを書く段階になって初めて、自分がやってきたこと(PoIC に関するカードを書いてきたこと)の意味が理解できた、ということです。

玉石混交

私のドックの中のカードは、全てが宝石のようなカードばかりでは決してありません。もちろんキラリと輝くものもありますが、全てがそれであるとはこれっぽっちも思ったことはありません。むしろ石ころみたいなカードがたくさんあります。しかし、データベースの観点から言えば、これで良いのです。

例えば、エジプトのピラミッドを構成するのは、単なる石です。石そのものは大き過ぎて漬け物石にも使えません。しかし、一定の大きさに揃え、良く整頓すれば、あのように偉大な建造物になることが可能なのです。そこまでたくさんの石でなくても、数個の石が宝石に変わることがあります。PoIC で目指すのは、私たち自身の考えや、身のまわりにある出来事の間に隠れた「パターン」を見つけ出すことです。石のように、それ自身には価値のないカードでも、もしそれらの間にパターンを見いだすことができれば、それは新しい宝石(知恵・知識)を生み出します。

逆に、もしドックの中が宝石で一杯だったとしましょう。これは、本当によい考えだけを選んでカードを書くことです。聞こえは良いですが、これは自分の中の考えを先入観でフィルターを掛けて、選別していることを意味します。しかし、これは「全ての」アイディアを捕らえるのに成功していません。その次点はちっぽけな考えでも、後になって考えてみると正しかった、ということはよくあることです。

スティーブ・ジョブスの言葉にあるように、私たちは、人生における出来事を、過去に向かってつないでいくことしかできません。ドックの中には、一見価値のないカード、ちっぽけなアイディアで一杯になると思います。しかし、Jobs の言葉を PoIC に当てはめるなら、自分の書いたカードの本当の価値を知ることができるのは、今ではなく、ずっと先のことです。だからこそ、どんな出来事・アイディアでもできるだけカードにして残しておきます。ドックの中のカードは、一枚たりとも捨てることはありません。

とにかく重要なのは、将来なんらかの形で必ず役に立つと信じてカードを書き、保存しておくことです。このあたりの心境に関しては、渡部(1976)の中の化学者・真田左平のエピソード(P.P. 124-127)が参考になるかもしれません。

PoIC から新しい知恵・知識を獲得する

これは、実際に私が PoIC を使って石(ちっぽけな記録)を宝石(役に立つ知恵)に変えた話です。

私は、長い間原因不明の偏頭痛に悩まされてきました。この頭痛が起こると、脳味噌が締めつけられ、仕事に集中できなくなるほどです。しかし、その他の健康状態には全く問題ありませんでした。医者、会社の上司、同僚に相談してみましたが、彼らは口を揃えて「精神的な問題なのでは」と結論付けました。

私は、原因を探るため、脳と精神に関する本を読みました。また、物理的に改善するため、ジムに通い、水泳を始めました。しかし、頭痛に関してはなにも改善せず、進歩が見られたのは、脳に関する知識、水泳の技術だけでした。

ある日、せっかくなので PoIC を使って頭痛の記録を追跡してみようと思いつきました。それまで、健康状態を日記として記録カードに残していました。頭痛がひどい時は、独立のカードに記録しています。これらをドックの中から選り抜きました。

私は、これらの記録カードの間に、興味深いパターンを見つけました。土曜日と日曜日には頭痛が起きたことがなかったのでした。では、平日と土日では何が違うでしょうか。答えは簡単で、会社にいっているかいないかです。では、会社での対人関係が本当に精神的な問題を引き起こしているでしょうか。いいえ。むしろ逆に、頭痛が引きがねとなって、憂鬱になっているようです。物理的にも、精神的にも問題はありません。では、他にどういう原因が考えられるでしょうか。食べ物や飲み物はどうでしょうか。食べ物に関しては、会社でも家でもそれほど違っているとは思えません。私は、オフィスでも自分の部屋でも、コーヒーやお茶を頻繁に飲みます。しかし、コーヒーや紅茶自体はどちらでも銘柄は同じです。では、水自体はどうですか?水?しかし、水質って場所によってそんなに変わるものでしょうか。

とにかく、次の日それを試してみました。単に会社で水を飲まないのです。しかし、その結果は明白でした。その日は頭痛が起きなかったのです。確認のため、次の日も試してみました。やっぱり頭痛は起きません。こうして、ようやく頭痛の原因が判明しました。私の偏頭痛の原因は、会社の水でした。これが判明してからも、この結果をすぐに信じることはできませんでした。場所によってそんなに水質が変わるとは思えない。しかし、これは常識による偏見です。そして、この常識のため、私は長い間水に関してはこれっぽっちも疑いませんでした。

でも、カードシステムだけは真実を知っていました。この発見以降、飲み水に気をつけるようになり、あの偏頭痛から開放されました。自分の記録から、自分の生活に基づく新しい知恵を獲得した例です。

外部リンク

時間軸から空間軸へ

KJ 法は、川喜田二郎氏によって提案された、カードを使ったブレインストーミングの方法です。KJ 法は、PoIC のプロセスの中で、ドックからカードを抜き出し、グループに分け、解釈を加える段階でとても役に立ちます。PoIC では、分類しない・検索しない・パソコンを使わないというルールできました。それらはここでようやく登場します。

詳細は川喜田氏の「発想法」(1967)を参照していただくとして、ここでは、PoIC のマニュアル(第二世代)を例に KJ 法について説明していきます。ここで新たに必要なのは、ポストイット、赤ペン、輪ゴム、そして広い机です。

収集

あるテーマに関するアイディア・情報をカードを使って収集します。これは、PoIC では、ドックにカードを蓄積していくことに相当します。PoIC では、日常生活の中で、アイディアが浮かんだ時点で捕まえています。一般的な KJ 法では、複数の人数で、ブレインストーミング的にアイディアを収集することも可能です。

378188030 43de03efe4.jpg

選択

選択。左が PoIC マニュアルのタスクフォース。

あるプロジェクトに関してカードが十分貯まった時点で、次の段階に進みます。

空の箱を用意し、タスクフォース(機動部隊)を編成します。ドックの中のカードで、プロジェクトに関するカードを全て抜き出していきます。PoIC のマニュアル(第二世代)では、章建てがほぼ決まっていたので、空にしたドックにあらかじめ章ごとのパーティションを作っておきました。ドックの中のカードを過去から現在へ、時系列で一枚一枚見ています。関連したカードを、適切と思われる章のパーティションに入れていきます。この段階では、カード間の内容の前後関係については気にする必要はありません。

写真の中では、家ドックの中の約2,000枚のカードから、PoIC マニュアルに関連したカードを、約600枚抜き出したところです。次のグループ化では、カード間のパターンを見ていくことになりますが、600枚のカードで一気にやるのは大変なので、やはりこの「選択」の段階でおおまかなグループに分けておくと、この先の作業が楽です。

時間軸から空間軸へ

PoIC では、この段階で初めて、ドックの中のカードを「分類」することになります。これまでは、時系列(すなわち時間軸)でカードを扱ってきました。ここからは、平面(すなわち空間軸)でカードを操作していきます。

グループ化

グループ化

タスクフォースの編成が終わると、ドックの中には章ごとの大きなグループができます。次は、この大きなグループを小さなグループに分類していきます。

このグループ化では、カードとカードの間のパターンを探します。一枚一枚内容を吟味し、机の上に置いていきます。似たような内容のカードが出てきたら、それを重ねていきます。なければ、新しい場所にどんどん置いていきます。

この段階では、もはやカードの日付・時刻については全く気にする必要はなく、内容にだけ集中します。PoIC では、検索しないことで、内容の似たカードが出てきます。それらのカードはこの段階で同じグループに集まることになります。似たような内容で表現が違うため、文章を書く時にいろいろな表現ができることになります。

カードを眺めているうちに、新しいアイディアが浮かんできます。すでにあるカードに赤ペンで書き込んだり、改めてカードに書きます。

川喜田(1967)も指摘しているように(P. 66)、5x3カードを使うと、カードを広げた時に場所を取ります。そのため、広い机の上でやるのが良いです。畳の上に広げてやるのも良いでしょう。この作業は、100〜200枚でやると楽しいです。

名前付け

名前付け

グループ化が終わると、机の上にはカードの積み重ねがたくさんできます。ここではそれぞれのグループに名前を付けていきます。

それぞれのグループの一番上のカードに大きめのポストイットを貼っていきます。各グループを構成するカードの内容を吟味して、グループの名前を決めていきます。これは自分の分かり易さのためなので、短くても良いです。名前を貼り付けたポストイットに書いていきます。それぞれのグループが、文章にしたときの「節」に当たります。

ポストイットを使うことで、使用後に輪ゴム束ねた時に、区切りが分かりやすくなります。色つきのカードを使っても良いかもしれません。

この段階では、各グループの空間配置はまだランダムです。次の段階では、ここで付けた名前を元に、グループ間のパターンを探していきます。

空間配置

空間配置

今度は、グループとグループの間の共通点を見つけていきます。似たような内容のグループを、一ヶ所に配置していきます。グループの名前を見て、文章にした時に話が通じるように並べていきます。

ランダムに並んでいたグループの山が、整然と配置されていきます。混沌としていた情報が、だんだんとまとまっていきます。エントロピー(情報のランダムさ)が、私たちの努力によって、小さくなっていくのが目に見えて分かります。

机の上にポストイットを貼り、大グループの名前を付けます。これが「章」に当たります。選択の段階でおおまかな章に分けていますが、この空間配置の段階で、カードの内容に沿った章分けになります。

編纂

編纂

これで、マニュアルを書く準備ができました。あとは、グループを一つ一つ文章にしていきます。文章にしやすいように、グループの中でも、カードの並べ替えを行います。

この段階で、ようやくパソコンが登場します。必要であれば、Illustrator などを使って絵を描きます。

章を書き終えたら、その章のカードを輪ゴムで束ね、タスクフォースのドックに入れておきます。ポストイットを貼っているので、グループがどこで区切られているかが分かります。これで、必要な時にはいつでも取り出して机の上に展開することができます。

全ての文章を書き終えたところで、プロジェクト終了、「Get Things Done!」となります。このプロジェクトのタスクフォースに選ばれたカードは「お役御免」となります。これらのカードは、もとの時系列に戻す必要はなく、別の場所に保存しておきます。


統計とその解釈

アナログの「紙」を使うことで、もう一つ面白いことができます。私たちの書いたカードの数そのものから、役に立つ情報を抽出することができます。ここでは、一例として、私の家ドックの中のカードを使って、PoIC が私の生産性・創造性に与えた影響を見てみます。

アイディアを「計る」方法

重さを量って枚数を算出する。

前述のように、私は会社と家に、2つの独立したドックシステム(会社ドックと家ドック)を持っています。会社ではファイルシステムも併用していて、システムが多少複雑なので、ここでは簡単のために家ドックで統計を取ってみます。私がカードシステムを使いはじめたのは2005年7月からですが、サイズ(B6、名刺)・フォーマットが違うためにこの統計からは省きました。ここでは、5x3 方眼カードを本格的に使い始めた2006年2月以降のカードの数を数えます。

私の家ドックの中のカードのタグを見てみると、ほとんどが発見カードであることが分かります。カードの枚数はどのぐらいのアイディアが私の頭から出てきたかを反映しています。カードの枚数は私の生産性・創造性にほぼ比例していると考えられます。

アイディアの「重さ」

ここでは、カードの重さを量ることで枚数を算出しました。

  • はかりを使って、一カ月毎のカードの重さを量る。
  • それを一枚当たりの重さ 1.5 g (100枚で150 g)で割る。

このウラ技は、ノートのような一冊綴りの媒体ではなかなか難しく、一枚一枚がバラバラのカードだからこそできる技です。使うはかりの精度にも依りますが、カードにある程度の重さがあるので、枚数に換算した時の精度もそれほど悪くないと思われます。一枚一枚数えて正確に枚数を調べることもできますが、ここではそこまでの厳密さはあまり重要ではないと考えます。個人のシステムでは、このぐらいの大ざっぱなところがあっても良いと思います。

頭の中のアイディアは目に見えませんが、カードを使って可視化・顕在化することで確固たる「重さ」を持つようになります。カードによる「無」から「有」への変化というのは、面白い事実です。

結果とその解釈

2006年2月からの月ごとのカード数をグラフにしてみました。これを見ると、5x3 方眼カードを使い始めた2月には、一ヶ月で20枚しか書いていないことが分かります。しかし、私はこの半年も前に、カードシステムを導入しています。したがって、カードを使いはじめたから数が少ないという訳ではないようです。

非常に興味深いのは、その翌月にカードの数が一気に267枚にまで跳ね上がり、年間の最高記録を達成していることです。極小から極大へ。一体何が起きたのでしょうか。

2006年2月からの一カ月毎のカードの枚数。

PoIC メソッドの確立

個々のカードの内容を調べることで、2月から3月に掛けて起こったイベントを追跡することができます。それによると、以下のようなイベントが続いたことが分かりました。

こうして見ると、現在の PoIC メソッドのほとんどが、この時点で確立されたことが分かります。中でも、PoIC フォーマット時系列スタック法を確立したのが重要です。分類の煩雑さから物理的にも心理的にも開放され、脳からのアウトプットを止めていたものが無くなりました。カードを使うことで、頭の中でくすぶっていたアイディアが、一気に外に放出されました。

自分の書いたカードの数は、日を追うごとに増えていきました。私自身、PoIC が本当に効果的で楽しいものだと気付きました。カードの内容を読んでみると、発見カードが圧倒的に多く、カードを書くのが楽しい様子がうかがえます。 つまり、2月から3月にかけての劇的な変化は、「適切な方法を導入すれば、アウトプットは増える」ということを示しています。

サブシステムの充実

3月に一気にアイディアを放出した反動もあってか、それに続く4月、5月とカードの数が低迷します。その後、5月から8月にかけて、再びカードの数が増えていきます。この頃は、以下のようなイベントが続いています。

  • 野帳の導入(5月)
  • icPod(Moleskine Memo Pockets)の導入(7月)

これまで仕事で使っていた野帳を PoIC にも導入することで、いつでも・どこでもアイディアも捕まえることが可能になりました。どんなに小さなアイディアでも捕まえるようになります。野帳の内容はカードにして保存しますから、結果としてカードの数は増えます。また、icPod を導入することで、家・会社間でのカードの移動が容易になりました。したがって、5月からのカードの増加は、アイディアをさらに効率良く捕獲・運搬するためのシステムを確保したことによるものだと考えられます。

平衡点

1年のタイムスケールで見ると、カードの数の変動幅は、次第に小さくなっていくように見えます。年前半の激しい変動に比べて、年後半では変動が緩やかになり、平衡点(約200枚/月)に達しているように見えます。年後半では、書くカードの数の日ごとの差が少なくなり、毎日コンスタントに書いていることを表しています。1年ほどかけて、ようやく PoIC が自分の生活に馴染んだ、と言えるかもしれません。

季節変化

カードの数の変動の原因として、もう一つ考えられるのは、季節的なものです。私は、春から秋にかけて外での仕事(例えば野外観測など)が多くなります。カレンダーを確認してみると、実際、2006年9月は2週間ほど観測に行っていました。観測が入ると、準備・観測・後始末で、生活にかなりの擾乱が起こります。この時は、仕事の方のカードが増えますが、生活のカードの方はなかなか落ち着いて書くことができません。冬になると、相対的に野外観測が少なくなるので、机に向かっていることが多くなります。こうなると、空いた時間を利用して生活のカードを書くことができます。

ドックの中のカードの増加

カードの数の積算をグラフにしたのが下の図です。赤い線は、ドックの中のカードの増え方を表しています。これを見ると、家ドックの中のカードの数は、ほぼ一直線に増加していることがわかります。カードの数は、2月から12月までの11ヶ月間で計1,923枚(月平均で174枚、一日平均で約5.8枚)となりました。「カードを書き続ける」の項でも書きましたが、一日5枚程度のカードを書くことは、難しいことではありません。ちっぽけな石ころで雪崩を起こすだけで良いのです。

カードの数の積算。

カードの積み重ね

7月の時点で、ドックの中のカードは1,000枚を超えます。ドックの中のカードも、このぐらいの数になると、見栄えが良くなります。そこで、flickr で写真を公開したところ、大きな反響をいただきました。さらに、ブログで話題を提供することで、さまざまな意見・感想をいただきました。

ここで一つ重要なのは、結果(反響)は、自然とあとからついてきたということです。最初からあまり多くを期待せず、取りあえず毎日、地道にカードを積み重ねてきた、というのが良かったようです。

ドックの中のエントロピー

カードを使って頭の中の考えを書き出すことは、頭の中のエントロピー(情報のランダムさ)を減少させ、ドックの中のエントロピーを増加させることを意味します。頭とドックを一つの系として考えると、このなかでエントロピーは保存しています(ただし、人間の脳は「忘れる」ことでエントロピーを減らします)。

カードを書くことで、頭に掛かる負担は減らし、ストレスから開放する。これが PoIC のミソです。その一方で、ドックの中のエントロピーは日に日に増加していきます。ドックの中のカードが増えに増え、エントロピーが最高潮に達した時が再生産の時です。あるプロジェクトに関するカードを分類・検索し、タスクフォースを編成します。この再生産の過程を経ることで、ドックの中のエントロピーは一気に減少します。

「ミネルバのフクロウは黄昏に飛び立つ」という言葉があります。ミネルバとは、ローマ神話の知恵の神様で、フクロウはその使いです。この言葉には色々な解釈が可能なようですが、PoIC 流に解釈すると、あたりが暗くなり始める黄昏どき(ドックのエントロピーが最高潮に達した時)になってようやく、知恵と知識の神様の使い(再生産とその成果)がやってくる、といったところでしょうか。やはり、フクロウは朝イチには飛んできてはくれないようです。

考察とまとめ

PoIC を通じて見えたこと

PoIC は、方眼カードとドックを使った、極めてシンプルなシステムです。しかし、そこからは脳や情報に関する、とても興味深いものが色々と見えてきました。ここでは、カードを使った情報整理の経験を通じて、私が気付いたことを書いてみたいと思います。

発見について

脳の中のフィルターを外す。

私は、4カードの中では、「発見カード」が一番面白く、かつ重要なカードだと思います。PoIC では、発見を効率良く捕獲する手段として、野帳も使います。

脳の中のフィルター

日常生活における発見を考えると、脳は入ってくる信号の量を制限しているように思います。このようなフィルターの存在は、養老(2003)の中でも指摘されています。

例えば、私の家のソファーには、アフガニスタン産の敷き物が敷いてあります。長年使っているため、この敷き物には、真ん中に20 cm くらいの穴が空いています。しかし、私は、普段生活している限りにおいては、この穴の存在をほとんど気にすることはありません。

しかし、もし、私の友人が遊びにきて、この敷き物を見た時、その友人はちょっとビックリするかもしれません。私と友人の違いは、その穴を日常的に見ているかどうかです。私はその敷き物を日常的に見ているので、私の脳の方では「穴」という情報に「フィルター」を掛け、除外しているようです。つまり、自分の見慣れているモノは、目では見えていても脳の方では見えないことにできるのです。

キノコの法則

もう一つ、例を挙げてみます。森にキノコ採りに行ったとしましょう。初め、森に入ったばかりの時は、落ち葉ばっかりで、キノコなんてどこにも見当たりません。しかし、しばらくすると、キノコを一つ発見します。そうすると、至るところにキノコがあるのに気付きます。この間、もちろん森が急激に変化してキノコが一気に生えてきた訳ではありません。変化したのは目(もしくはその先の脳)が、キノコを探すのに最適化されたのです。一つ見つければ、いっぱい見つかる。この現象を、私は「キノコの法則」と呼んでいます。

脳の中のフィルターは外すことができる

このような脳の中のフィルターによって、自分の興味の無いものは、目では見えていても、脳の方では見えていないことにできます。これによって、脳に入ってくる情報を制限し、情報のインフレを防いでいるようです。しかし同時に、このフィルターによって、私たちが見慣れていると思っているもの、日常生活のすき間に隠れた、面白いものも除外されてしまっているように思います。

私の PoIC の経験から言えることは、「脳の中のフィルターは、簡単な訓練で外すことができるらしい」ということです。フィルターを外すと、いままでとは違う世界が見えてきます。至るところにキノコ(なにか面白いもの)が生えているのに気付くでしょう。

フィルターを外す訓練として一番簡単なのは、目に入ったものに対して、「なぜだろう?」と問い掛けることです。問いに対して、思いついたことを、野帳やカードに発見として書いていきます。この問いに対して、すぐに答えを出す必要はありません。クイズ番組ではありませんから、時間制限はありません。一つの問いに対して、答えを出すのに1年以上掛かることもあります。もちろん、人に聞いたり、本を調べたり、ウェブを調べたりすることは構いませんが、答えそのものよりもヒントを探します。こうすることで、「自分の答え」を出すことができます。

自分で考える過程においては、ポリア(1954)の「いかにして問題をとくか」や、ルー・マリノフ(2002)のPEACE 法が役に立つかもしれません。

時系列について

PoIC では、カードを時系列でスタックしていきます。時系列による情報管理としては、「超整理法」(野口、1993)が有名です。ここでは、超整理法と PoIC の情報整理の違いについて考えてみます。

二種類の時系列

二種類の時系列。

Flickr やブログで、「PoIC の時系列スタック法は、超整理法と同じでしょう?」という質問を多く受けます。例えば、Edward 氏は、カード版の超整理法として PoIC を紹介しています。しかし、誤解を避けるために言えば、超整理法と PoIC の時系列は、似ているようで全く異なります。

超整理法 = 時系列 + 更新ルール

超整理法の時系列は、実は単純な時系列ではありません。超整理法では、まず時系列でファイルをスタックしていきます。ここまでは、PoIC と同じです。ここで、時系列に並んだファイルから、ある一つのファイルを取り出したとします。超整理法では、取り出したファイルは、元の位置に戻すのではなく、常に本棚の右端(一番新しいファイルがある方)に戻していきます。したがって、超整理法では、ファイルを取り出し、戻すたびにシステムが更新されることになります。もし、ファイルの中で、良く使われるものがあると、そのファイルは常に本棚の右側に駐在します。逆に、あまり使わないファイルは、時間とともに本棚の左側にスライドしていきます。

時系列に加え、この更新ルールが超整理法をダイナミックなファイルシステムにしている一因です。超整理法の時系列は「更新ルールのある時系列」です。

PoIC = 時系列

一方で、PoIC では、ドックの中から数枚のカードを取り出した時は、時系列の中の元の位置に戻します(ただし、大規模なタスクフォースの時は、戻しません)。PoIC では「更新ルールのない時系列」です。これが、超整理法と PoIC の時系列が同じである、と言えない理由です。

PoIC では、情報の単位がファイルに比べて小さいカードであるため、システムの中のカードの数が容易に数千を超えます。したがって、超整理法型の更新ルールをそのまま適用し、in control の状態に保つのは非常に困難です。PoIC では、時刻スタンプが唯一の検索キーですから、時系列を崩すことは、その検索キーをも失うことになります。逆に言うと、唯一、純粋な時系列だけが PoIC システムに一貫性と頑強さをもたらすものだと言えます。

ファイルとカードの違い

超整理法型の更新ルールが PoIC ではうまくいかない理由。

超整理法と PoIC の時系列をもう少し詳しく見てみましょう。私自身、PoIC を使っていく中で、超整理法がカードシステムではうまく働かない、ということは経験的に知っていました。しかし、なぜそれが働かないのかを説明するのに、非常に苦労しました。Jeevs 氏が flickr に 寄せたコメント を読んだ時、なぜそれが上手くいかないのか、ようやく分かりました。

超整理法では、新しくシステムに加わるファイルの数は、(個人の事情に大きく依存しますが)日にせいぜい1〜2ファイルか、もしかしたらそれ以下ではないでしょうか。これに加えて、超整理法では封筒を使っていくつかのファイルをまとめることで、システムの中のファイルの数を減らします。システムからファイルを取り出す頻度は、これよりも高いと思います。したがって、ファイルシステムでは、新ファイルが加わる頻度よりも、システムをレビューする頻度の方が高い - これを式で表すと、次のようになります。

超整理法 : 新ファイルが加わる頻度 < レビューの頻度

一方で、PoIC システムでは、カードは日に10枚以上の単位で増えていきます。ファイルに比べて、カードは情報の単位が小さく、新しいカードがシステムに加わる頻度はもっと高くなります。PoIC では、カードを束ねるということもしません。もし、超整理法型の更新ルールを導入したとしても、新しく加わるカードの数が圧倒的に多いために、更新したカードはすぐに新しいカードの後ろに埋もれてしまいます。この状況を式で表すと、次のようになります。

PoIC:新カードが加わる頻度 >> レビューの頻度

この二つの式の違いは不等号だけです。しかし、この違いがファイルシステムとカードシステムに大きな違いをもたらします。時系列での更新は、"<" (or "=") の時だけうまく働きます。

PoIC のカギはタスクフォース編成

PoIC の目的は、更新ルールを導入することで、カードシステムを活性化したり有機的にすることではありません。データベースを用いた知識の発見KJ 法で見たように、データベースを構築するのはまだ準備段階で、そこから何かを生み出すのが PoIC の最終目的です。

再生産の段階で、タスクフォースを編成する時、必要なカードはドックから全て抜き出されます。更新するとしないとに関わらず、タスクフォースに選ばれるカードは同じです。簡単な例で見てみましょう。初めに二つのプロジェクト(a、b)がドックの中に混在し、カードが abaa の順番で並んでいるとします。途中で新しく aba という3枚のカードを加えます。最後に b のプロジェクトに関してタスクフォースを編成するという条件で、更新あり(超整理法型)となし(PoIC 型)の違いを見てみます。

更新あり:abaa -> baaa -> ababaaa -> bbaaaaa -> bb, aaaaa(計4ステップ)

更新なし:abaa -> abaabaa -> bb, aaaaa(計2ステップ)

結果は同じなのに、ステップ数は倍も違います。これは、タスクフォースを編成する(= 自分のアイディアを将来何らかの形で再利用する)ことを前提とすれば、「更新あり」の途中のステップは、全く意味がないということを示しています。つまり、アイディアは時系列で、順序を更新せずにどんどん蓄積していけば良い、ということになります。

情報とエントロピーについて

「エントロピー」とは、「情報の乱雑さ」を表す概念です。自然界では、エントロピーは時間とともに増えていきます。例えば、コップに入れた水に一滴のミルクをたらすと、ミルクは時間とともに拡散し、コップの中の「乱雑さ」は増していきます。放っておいても、元の水と一滴のミルクに戻ることは決してありません。私たちは、エントロピーの低い状態を「秩序」と呼び、エントロピーの高い状態を「混沌」と呼んでいます。

システムの中のエントロピー

PoIC では、ドックの中のカードは日に5〜10枚程度の単位で増加していきます。情報の単位が小さいカードであることと、時系列で種類の区別なくスタックしていくことで、ドックの中の情報の乱雑さは、時間とともに一方的に増えていきます。途中で分類しないので、ドックの中のエントロピーは減ることはありません。上述の例で言えば、更新なしの状態(abaabaa)は、更新ありの状態(bbaaaaa)に比べて乱雑さが大きく、エントロピーは高い状態です。

情報整理を考える上で、「エントロピー」という考えは、避けて通れない話題のようです。ファイルシステムのエントロピーについては、野口(1993)でも度々触れられています。ファイルシステムに比べて、カードシステムのエントロピーの増え方は急激です。したがって、PoIC を使っていく上で、エントロピーの話題に敏感になるのは当然のことかもしれません。

エントロピーとサイクル

PoIC のエントロピーモデル。ドックの中のエントロピーはサイクルを繰り返す。

一度エントロピーという考え方を理解すると、それが自然界の様々なシステムの中に存在することに気が付きます。例えば、四季、生物の一生、遺伝、株式市場など。これらのシステムで興味深いのは、エントロピーがサイクル(周期)を持って変動しているということです。

時が満ち、エントロピーが頂点に達すると、情報の乱雑さを下げようとする存在が現れます。ここではこの存在を「レギュレーター(調整者)」と呼ぶことにします。先の例で言うと、レギュレーターは冬、死、減数分裂、暴落です。これらはシステムのエントロピーが一方的に増え、インフレーションが起きるのを防いでいます。一見ネガティブな出来事ですが、エントロピーという観点から見ると、システムの中での役割が良く理解できます。自然界は、極めて巧妙な手を使うものだと、つくづく感じさせられます。

PoIC の目標は、カードを使って何かを成し遂げることです(Get Things Done)。PoIC におけるレギュレーターは、システムの死ではなく、あくまでも再生産に払われる私たちの「努力」です。統計とその解釈でも述べたように、知識・知恵の使者は、決して朝イチにやって来るのではないようです。ドックの中のカードが増えに増え、心理的に「本当にまとまるのか?」と不安になり、エントロピーのインフレーションが起きそうなところで、ようやくフクロウが飛んできます。

カードが増える → エントロピーが増大 → 再生産 → カードが減る → エントロピーが減少

ドックの中のエントロピーは、数ヶ月から数年のスケールで、このようなサイクルを繰り返します。自然界のサイクルを考えると、カードを使った知識の生産過程は、自然な現象にも見えてきます。

PoIC のカードを使った知的生産に伴うエントロピーの増減をモデル化したのが、右上の画像です。エントロピーは、のこぎりの刃のような形をして、増加と減少を繰り返します。

環境エントロピー

「情報」という立場からすると、PoIC のシステムとしての最小単位は、「脳」と「ドック」です。脳の中の情報は、野帳とカードを介してドックに受け渡されます。脳の中のエントロピーが高いと、人はストレスを感じたり不安になります。そこで、脳の中の情報を紙に書き渡すことで、脳の中のエントロピーを減らします。その代わりドックの中のエントロピーは確実に増加していきます。脳とドックを一つと考えると、その中でエントロピーは保存しています(ただし、人間の脳は「忘れる」ので、完全には保存しない)。

この最小単位の一つ上の層として、「作業環境」を含めたシステムを考えることができます。生産性の観点から見ると、作業環境まで含めたシステムの方が、私にはより自然に見えます。

机の上にモノを散らかしていると、集中力が散漫になってしまいます。あれこれといろいろなものに手を出す一方で、あとで気付くと何もできていない。私は、個人的には、常にカードを机の上に散乱させておくことには、あまり賛成できません。普段はカードもドックの中にしまっておきます。私が常に机の上をきれいにしておくのは、私が几帳面だからではなく、むしろそうしないと仕事が進まないと自覚しているからです。

エントロピーのホットスポット

エントロピーがゼロの状態で何かを生産するというのも、「無」から「有」を生み出すことを意味しますから、無理な話です。どうやら、生産性の向上を考える上で重要なのは「システムの中のどこかにエントロピーを集中させる」ということのようです。

モノが散乱した机の上は、それ自体が情報が乱雑な状態、つまりエントロピーが高い状態です。しかし、いくら机の上のエントロピーが高くても、集中力を散漫にさせるだけで、生み出されるものは多くはありません。散らかった机は、脳・ドック・机のシステムの中で、限られたエントロピーを消費してしまいます。一方で、脳の中の情報は、時間とともに散逸してしまいます。それは、脳には情報量を少なくする極めて重要な、「フィルターを掛ける」と「忘れる」という機能があるためです。

そこで PoIC では、ドックの中でエントロピーを集中・極大化させていきます。

エントロピーは使う時だけ取り出す

脳の中の情報(アイディア)は、日頃からカードにして、ドックに渡しておきます。ドックの中のエントロピーが増大しても、ドックの注意力が散漫になったり、ドックがストレスを感じるということはありません。そして、必要な時(例えば、日次・週次レビューや再生産の時のKJ 法)になったら、ドックからカードを選り抜きます。検索・分類により、ドックの中のエントロピーは一気に下がります。

つまり、

  • 普段はエントロピーをドックにしまっておく
  • 使う時にはエントロピーを下げてから再び自分の脳に読み込む

ということになります。

知的生産の共通点

生産性の向上に関しては、様々な方法があります。皆さんも、次のような方法をどこかで聞いたことがあると思います。

そして、

  • PoIC

全く異なる5つの方法に見えますが、実はこれらの間にはある共通点があります。ブログでこの問を出したところ、読者の方々から次のような回答が寄せられました。

  • 脳(CPU)や心を自由にする。整理しない。
  • 全ての方法は(目には見えない)心の物理的な状態を表現している。
  • 一言で言うと「書くこと」。

皆さん大変良い点を突いています。これらは全て正解なのですが、さらに深いところで見てみましょう。私が出題者として用意していた答は、「この5つの方法はすべて PoIC エントロピーモデルで説明できる」ということです。これらは、共通して、頭の中の情報を外部(例えば紙)に書き出し、システムの中でエントロピーをどんどん増加させていきます。システムの規模は方法により異なります。それは、複数のカードを広げた机や黒板だったり、一枚の紙だったり、カードをスタックした箱(ドック)だったりします。そして、エントロピーがピークに達したと思われるところで、分類・整理・処理し、一気にエントロピーを減少させます。上記の5つの方法は、すべてこのようなサイクルを通じて、何かを生産・創造しています。

一つの同じ方法

PoIC エントロピーモデルを通じて見ると、BS、KJ 法、マインドマップ、GTD、そして PoIC には共通点があることは分かりました。それでは、もう一歩踏み込んで、なぜこれまでこれらの方法の共通性が見えなかったのでしょうか。

それは、この5つの方法の間で、システムの規模以外にも何かが大きく違っているためです。その違いとは、1サイクルが終わるまでに掛かる時間です。集団で行う BS や KJ 法では、2時間程度で一つのサイクルが終わります。マインドマップは30分から1時間程度。GTD は、最小単位を2分(2分タスク)として、全てのタスクを処理し終わるまで数日、長くて数ヶ月。PoIC ではさらに長く、数ヶ月から数年に及ぶことも考えられます。つまり、同じのこぎりでも、目が細かかったり(1サイクルの時間が短い)、粗かったり(1サイクルの時間が長い)するということです。

さらに一歩踏み込めば、「これらの方法は、時間をパラメーターとした、一つの同じ方法」とまで言えるかもしれません。使用する媒体として、黒板や一枚の紙ではなく、すべて統一して5x3のカードを使えば、あとは時間というパラメーターの取り方一つで、KJ 法にも、GTD にも、マインドマップにもなります。そして、その一番大きな枠組みを与えるのが PoIC であると言えるかもしれません。PoIC のフォーマットでカードを書いて、ドックに時系列でスタックしておけば、あとは何にでも利用できます。

デジタルとアナログ

PoIC を使っていく中で強く感じたことは、私にとってアナログの世界がとても心地良いということでした。この心地よさはどこから来るのでしょうか。

カードが増えることは幸せ

動物行動学者であるデズモンド・モリスは、「裸のサルの幸福論」(2005)の中で、いくら私たちの生活が近代化されたとしても、狩猟者としての本能は消えないと言います。現代の生活においては、食料とする動物を実際に自分の手で狩ることはほとんど無理です。そこで、人間は「代償行為」として、お金を稼いだり、本を買ったり、スポーツを楽しんだり、おもちゃを集めたりします。こうすることで、人間の脳の中に眠る野生の本能を慰めているようなのです。

アナログ・メディアであるカードは、書けば書いた分だけ手元に残ります。書いたカードには、厚み・重みがあります。めくったり、箱に入れた時の音を聞くこともできます。PoIC を面白くする一つの要素は、ドックが自分の書いたカードで満たされていくという、脳の原始的な部分を刺激する満足感があるからかもしれません。

アナログの安心感

デジタルでは、電源を消してしまえば、ファイルは目の前からは消えてしまいます。また、一行しか書いていないファイルと、何万行も書いたファイルの外見は全く同じです。パソコン上の全てのファイルは、有るのに無い、すべて仮想現実のものです。私の場合、自分がパソコンで書いた文章は必ず紙にプリントし、ファイルしておきます。こうすることで、私の中に眠る本能の幾分かを満たしているのだと思います。

生産性を向上させる携帯端末としては Palm が理想に近いかもしれません。それでも、バッテリーの残量を気にしたり、落とさないように注意する必要があります。しかも重い。野帳のように、いつでも・どこでも・どんな体勢でもというのは、実際問題として難しいと思います。また、デジタルのデータはすぐ消えてしまうという危うさもあります。例えば UNIX では、rm -rf * のコマンド一行で、数年分のファイルが一気に消えてしまうこともあります。

ドックの中のカードは、私たちが物理的に捨てない限り、いつまでもそこに居てくれます。こういう安心感が個人のシステムでは大切なのかもしれません。

デジタルは記録と参照の道具

パソコン上のファイルにPoICの4つの分類を適用してみた。その結果、ほとんどが「記録」と「参照」だった。

PoIC で身の回りの情報には4つの分類しかないことが分かってから、私は実験的に、この分類方法をパソコン上のファイルにも適用してみました。そこで分かったのは、パソコン上のファイルは、ほとんどが「記録」か「参照」だということでした。これには2つの原因が考えられます。

パソコンは、長い文章を書いたり、清書する時にとても便利です。PoIC で書いた「発見」カードを集めて、パソコンを使って文章を書いたとします。例えば、この PoIC のマニュアルは、約600枚の発見カードを元にして書いています。このマニュアル全体に4アイコンのうちの一つを付けるとしたら、それは「記録」となります。つまり、「発見」の「記録」です。したがってパソコンで書いた文章は、発見がたくさん含まれていても、外見的には1つの「記録」になることが多くなります。

また、4カードの分類でいくと、自分以外の誰かさんの記録や発見はすべて「参照」カードになります。この判断基準によれば、「面白いブログを発見した!」、「flickr で面白い画像を見つけた!」、「YouTube で面白い動画を見つけた!」といって HDD 上にスクラップしたり、Blog に書いたとしたとしても、それは自分自身の「発見」ではなく、すべて「参照」に分類されます。つまり、インターネットを通じて仕入れた情報は、ほとんど全てが「参照」となります。

デジタルとアナログの棲み分け

私のドックの中では圧倒的に優勢である「発見」が、パソコン上にはほとんどなかったという事実にはとても驚きました。上記の2つの理由以外に、パソコンでは「発見」が捕まえにくいという状況にも心当たりがあります。

そもそも、一つ一つの発見やアイディアというのは、頭に浮かんだ時点では、とても小さいものではないでしょうか。私の場合、頭にピカっと電球がついた瞬間に浮かぶフレーズは、文字にしてせいぜい10〜20文字ぐらい。それを野帳なりカードなりに書いて引き伸ばしても、最大で100文字ぐらいです。これは、情報量として、5x3カードにちょうど収まるサイズです。

試しに、この100文字を、パソコン上でテキストエディタに書いてみます。私の設定では、エディタを開いた時に開くウィンドウのサイズは、幅38文字、高さ37行です。ここに100文字の文章を書くと、たった3行しか埋まらず、残りの34行は空白になってしまいます。これでは自分の発見やアイディアがとても寒々と見えてしまいます。逆に、ウィンドウの方を小さくすると、広い画面の中で、とてもちっぽけに見えてしまいます。私の中では、こういう状況が、デジタルで「発見」を捕まえることに対する、心理的な抵抗になっているようです。

やはり、「発見」には5x3カードが、サイズとしても媒体としても、必要にして十分なのではないでしょうか。カードは「発見」と相性がよく、パソコンは「記録」と「参照」が得意である。個人の生産性の向上を考える上では、こういったデジタルとアナログの「棲み分け」がとても重要であると強く感じました。

「紙」の復権

PoIC を通じて私が感じたのは、生産性の向上、とくに個人の発見をうながすという意味においては、パソコンはあまり役に立たないということでした。これまで生活の中心にあったパソコンは、机のすみに追いやられ、私の作業環境の中心には紙が戻ってきました。机の上にはいつも十分な量のカードがあり、野帳は常に肌身離さず持ち歩いています。また、本が読みやすいように机の高さを変えたり、照明の明るさを考えたりもしています。PoIC を通じて、私の生活は確実に変わりつつあります。

文化の遺伝子

文化の遺伝子のらせん構造。

DNA(デオキシリボ核酸)は、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)の四種類の塩基を組み合わせることで、生物の遺伝情報を伝えます。

PoIC では、一枚一枚のカードに、4つのアイコンに対応したタグを付けます。この「4」という数字は、DNA の塩基の数と同じです。ドックの中に数百枚・数千枚のカードがたまった時、タグは一連のコードを形成します。また、再生産が完了した時には、カードの数は減ります(減数分裂)。これらの類推から、PoIC におけるドックは「文化の遺伝子」、カードはその遺伝子をなす情報と言えるのではないでしょうか。

カードを書くことが、自分の「文化の遺伝子」のらせん構造を紡いでいくことだと考えると、なんだか楽しくなってきませんか?

まとめ

カードを使って何ができるのか。どうしたら効率良くアイディアを収集できるのか。どうしたらカードシステムを楽しく使えるか。PoIC は私自身の、カードを使った生産性向上の実験でもありました。この実験を通じて分かったことを、最後にまとめておきます。

PoIC の定義

記録カード (See large size)

PoIC の新しい点

PoIC 4 カード

PoIC の4種類のカードとは、

  • 記録カード
  • 発見カード
  • GTDカード
  • 参照カード

です。この中で、個人の生産性を向上させる上で一番大切だと考えられるのは、「発見カード」です。

カードを時系列で蓄積する

ドックの中に時系列で保存されたカード。

PoIC では、書いたカードをドックに時系列で、書いた順番に貯めていきます。その際に大切なのは、

  • 分類しない
  • 検索しない
  • 時系列を更新しない

ということです。


これは、PoIC では、

という立場を取るために可能となることです。


「超」整理法(野口、1993)の時系列と異なるのは、

  • 更新ルールの有無
  • 情報の単位(ファイル v.s. カード)
  • システムのエントロピーの減少のさせ方(更新 v.s. タスクフォース編成)

です。つまり、同じ時系列と言っても、「超」整理法と PoIC の時系列では全く性質が異なります。


カードの統計から分かること

統計とその解釈」では、家ドックのカードを使って、PoIC が私の生産性に与えた影響を見ました。そこで分かったのは、

  • 適切なシステム・メソッドを導入すれば、脳からのアウトプットは爆発的に増加する
  • 書くカードの量は、年間約2,000枚、日平均5〜10枚(実際にはこれに仕事のカードが加わる)
  • 書くカードの量は、季節的にも変動する(仕事の忙しさなど)
  • ドックの中のカードは、時間とともに一方的に増える
  • ドックの中のカードは、タスクフォースの編成に伴い、一気に減少する
  • これに伴い、ドックの中のエントロピー(情報の乱雑さ)は一気に減少する

エントロピー

KJ 法のグループ化の過程。まだエントロピーが高い状態。
KJ 法の編纂の過程。分類により、エントロピーが低くなった状態。

エントロピーとは、「情報の乱雑さ」を表す言葉です。情報整理はこのエントロピーという観点から見ると、とても見通しが良くなります。

  • ドックの中のエントロピーは、カードの増加とともに一方的に増えていきます
  • ドックの中のエントロピーは、タスクフォースの編成とその後の再生産に伴い、急激に減少します
  • ドックの中のエントロピーの増加・減少には、サイクルがあります
  • このようなエントロピーのサイクルは、様々なシステムで見られます(四季・遺伝・株式市場)
  • エントロピーはサイクルを持つことで、一方的な情報の増加を防ぎます

これらから、PoIC では、タスクフォースの編成とその後の再生産が、システムの崩壊を防ぐ重要なカギとなることが分かりました。


PoIC のエントロピーシステム

カードを使った個人の生産性を考える時、エントロピーのシステム(系)として考えられるのは、

  • 私たちの脳みそ
  • ドック
  • 作業環境

です。このシステムの中でエントロピーは、ほぼ一定だと考えられます。言い換えると、人間の脳が一度に扱うことのできるエントロピーには限りがある。それを超えると、人間の脳は、入ってくる信号に意図的に「フィルターを掛け」たり、すでにある記憶(記録)を「忘れ」たりする。


生産性を向上させる上で大切なのは、

  • 作業環境のエントロピーはできるだけ下げておく(机の上をきれいにしておく、雑音を減らす etc.)
  • 脳の中のエントロピーを増加させる(読書、情報収集など。時にはストレスを掛けるのも良いかもしれない)
  • それをカードに書き出す(脳の中のエントロピーは減少し、ストレスは減る)
  • カードが十分貯まったところでタスクフォースを編成、さらに KJ 法のグループ化により、エントロピーを下げる
  • エントロピーを下げた状態の情報を脳に読み込み、処理する

ということです。


アナログとデジタル

アナログの媒体である「紙」が得意とすることは、

  • 簡単な絵を素早く描くこと
  • いつでも・どこでも・どんな体勢でも情報を捕獲できること(野帳の使用)
  • 半永久的に記録が残ること
  • 書いたカードの量を眺めること、重さをはかること(質としての存在、無から有への変化)
  • カードを机の上に広げて、概観すること(KJ 法

これらが、私の個人的な生産性を向上させる上で、とっても心地が良かった。


一方で、デジタルにしかできないこともあります。

  • きれいな体裁(フォント、絵)
  • 瞬間的な分類・検索
  • 膨大なデータの保存
  • インターネットを使った情報の共有・交換

しかし、私が PoIC の経験を通じて気付いたのは、デジタルが得意とすることが、個人の生産性、特に発見を促すという意味においては、あまり意味がないということでした。

参考文献

Productivity books

知的生産の技術

  • 梅棹忠夫, 知的生産の技術 , 1969.
  • 野外活動における野帳の使い方
  • 発見の手帳
  • 野帳からカードへ
  • 研究にカードを使う
  • 京大式カードと書き方の例
  • 分類しない

発想法

  • 川喜多二郎, 発想法 , 1967.
  • インデックスカードを使ったブレインストーミング(いわゆる KJ 法)

知的生活の方法

渡部, 知的生活の方法(新装版), 1976.
  • 渡部昇一, 知的生活の方法 , 1976.
  • 知的活動におけるカードの使い方
  • ドイツ留学時のカード使用体験
  • 知識データベースとしてのカード
  • 化学者のカードを使った知識発見エピソード
  • カードを使って本を書く
  • タスクフォース(機動部隊)
  • 知的正直さ

考える技術・書く技術

  • 板坂元, 考える技術、書く技術 , 1973.
  • アイディア捕獲媒体としてのインデックスカード
  • 5x3 カラーインデックスカード
  • 参照カードの取り方

「超」整理法

  • 野口悠紀雄, 超整理法, 1993.
  • 野口ファイルシステム(時系列スタッキング + 更新ルール)
  • ポケット一つ則
  • Magic number of three

バカの壁

Getting Things Done

  • David Allen, Getting Things DONE, 2001.
  • Processing stuffs with GTD (Get things done) method
  • GTD flow (collect, process, review)
  • Great habit of collection
  • Open loop
  • Next action
  • Mine factor
  • Mind sweep
  • 2 minutes rule
  • Set free from stuff (make empty brain, and concentrate to processing)
  • Brief introduction of how to use card for GTD
  • Mind like water
  • Power of relaxed control
  • In-box

Knowledge Discovery and Database

  • Usama Fayyad, Gregory Piatetsky-Shapiro, and Padhraic Smyth, From Data Mining to Knowledge Discovery in Databases (PDF File), 1996.

2ちゃんねる

Flickr グループ

Merlin Mann の Hipster PDA

Josh DiMauro の GTD photoset

Emory の Hipster PDA photoset

  • Rewl, Emory's Hipster PDA, photoset @ Flickr, 2006.
  • モレスキンメモポケットをインデックスカードホルダーに使う
  • Personal Blog : KVET.CH

付録

引用

書くことについて

内なる声を聞く

「あなたの内なる声を、他人の意見で埋もれさせてはならない。一番大切なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです。それらは、あなたが本当になりたいものを既に知っています。その他の全てのことは二次的なものです。」

スティーブ・ジョブス、スタンフォード大学 学位授与式、2005年6月12日.

これは、カードを書く上で、重要なことです。自分の内なる声を聞き、それをカードに書いていきます。PoIC はパーソナルシステムですから、自分の頭、心で考えたことを素直に書くのが大切です。

書くことの慣性

「書く作業でもっとも難しいのは、「始めること」だ。イナーシャ(慣性)が大きいのである。」

野口悠紀雄、「超」整理法、1993、 p. 177.


慣性とは、「動き出しにくさ」を表す物理用語です。0から1に動くのは、1から2に動くよりも、もっともっと難しいです。

メモの効用

「心に浮かんだ考えや見聞きした事実は、必ず書き留めておく習慣を付けるべきだ。そのほうが強く印象に残り、重要なことを忘れずにすむ。ベーコンは数多くの草稿を残して死んだが、それには「執筆用に書き留めた断想」というタイトルが付けられている。

パイ・スミスは、若いころ父親のもとで製本工の見習いをしていたが、当時から自分の読んだ本は抜粋して写し、自らの批評も書き留めるという習慣を養った。彼は、生涯を通じて資料収集に熱心に取り組んだが、「常に学び、常に進歩し、常に知識を蓄積していった」と伝記作家にいわしめるほどの努力家であった。こうして書き留めたメモ帳が、書物を著す際に古今の事例の無尽蔵の宝庫になったのは、言うまでもない。

名医ジョン・ハンターも、記憶力の弱さをメモで補っていたし、折りにふれてメモの効用を説いていた。彼はこう語っている。「考えたことや見聞きしたことを書き留めるのは、商人が棚卸しをするのと同じだ。それをしないと、自分の店に何が置かれていて何が足りないのか、さっぱり分からないじゃないか。」」

サミュエル・スマイルズ、自助論.

時系列について

過去に向かって点をつなぐ

「... もちろん、私が大学生の時、将来に向かって点(人生で起きる各々の事象)をつなぐことは不可能でした。しかし、10年後になって振り返った時に、それはとてもとても明解になりました。

もう一度言います。あなたは、点を将来に向かってつないでいくことはできません。あなたができるのは、点を過去に向かってつないでいくことだけです。だから、各々の点が、将来何らかの形で必ずつながるという信念を持たなくてはならなりません。あなたは、ガッツ、運命、人生、カルマ、どんな形であれ、信念を持っています。

このアプローチで、私は人生において、ねじ伏せられることはありませんでした。そして、全ての場面において、私の人生を変えてくれました。」

スティーブ・ジョブス、スタンフォード大学 学位授与式、2005年6月12日.

重要なのは、点は過去に向かってのみつなぐことができる、という事実です。点の間のパターンは、将来にならないと分かりません。私にとって、ジョブス氏の言う「点」はカードに当たります。カードとカードの関係は、あとになって振り返った時に、ようやく分かる、ということです。つまり、いま私たちにできるのは、カードを書いてゆくことだけです。

問題解決の指針として

いかにして問題をとくか

数学的な問題を解く時、ある指針(戦略)にしたがって問題を解くと良いです。ジョージ・ポリアは「いかにして問題をとくか」で、数学の問題を解く際の指針を示しました。この指針は、数学の問題に限らず、答えがまだ分からない一般的な問題を解く時にも便利です。暗い森の中を歩く時の、コンパスのようなものです。

  • 問題を理解しなさい:「何が未知か、何が与えられているか、何が条件か」を自分に問いかけなさい。
  • 絵を描きなさい:素描、グラフ、マインドマップなど。問題を視覚的に理解しなさい。
  • 似たような問題を探しなさい:多分、これと同じような問題を、過去に経験しているはずです。常にゼロから出発する必要はありません。
  • 関連する問題を解きなさい:その問題を解くことができそうにない時は、関連した問題を解いてみなさい。
  • 検算しなさい:答えが出たら、確認しなさい。正確な答えを知らない時は特に重要です。

ジョージ・ポリア、「いかにして問題をとくか」.

PEACE 法

  1. Problem(問題)
  2. Emotion(感情)
  3. Analysis(分析)
  4. Contemplation(思索)
  5. Equilibrium(安定)

ルー・マリノフ、「考える力をつける哲学の本」、2002.

問題が発生したあと、不安になったり、心配になったりします。しかし、これは誰にでも起きることです。重要なのは、この感情の段階で止まらず、次のステップに進むことです。

至るところにパターンがある

(マックス・コーヘンは数学者。株価のパターンを探す過程で、次のような仮定を考えた)

  1. 数学は、自然を表す言語である
  2. 私たちの身の回りの事象は、全て数字を使って表現できる。
  3. あるシステムの数字をグラフにしたら、パターンが現れる。
  4. したがって、私たちの身の回りには、至るところにパターンがある。

"Pi", Darren Aronofsky, 1998 (IMDb). Aronofsky.Net

PoIC 用語集

PoIC 
Pile of Index Cards の頭文字。カード-ドックシステム、及びそれを使った方法をこう呼ぶ。"Pile" とは、積み重ねのこと。当初は、"Indexcarding"、"Pile of Indexcards (PoI)" と呼んでいたが、"Indexcards" の間にスペースが入り、現在に至る。
ドック 
インデックスカードを貯める箱。埠頭に船が集まってくるイメージから。
ポッド 
インデックスカードを持ち運ぶフォルダのこと。PoIC では特に、モレスキン・メモポケットを改造したものを icPod と呼んでいる。
icPod 
インデックスカードを持ち運ぶために改造したモレスキン・メモポケットの固有名詞。以前は KM2P(Kaizo Moleskine Memo Pockets)と呼んでいました。
インデックスカード 
インデックスとは索引のこと。図書館で目録を作るのに使われていた。日本では「情報カード」という呼び方が定着しているが、PoIC では単にカードという呼び方を使っている。英語では、"index cards"。Index と cards の間にスペースが入るのが正しく、一般的に複数形で表されることが多いようだ。
カード五書 
カードと生産性を取り扱った、梅棹(1969)、渡部(1976)、板坂(1973)、川喜田(1967)、Allen(2002)の五冊をもって、「カード五書」と定義する。カード使い必読の書。
ICP 
Index Cards Protocol。カードを書く際の取り決め。詳細はプロトコル参照。

情報カードの比較

コレクトの5x3方眼カード。

いわゆる "インデックスカード (Index Cards)" と呼ばれるものは、5インチ x 3 インチ (127 mm x 76 mm) のカードです。日本では、この他に、6インチ x 4 インチ、B6 サイズ、また、海外では 5インチ x 8 インチのサイズなども存在します。5x3 サイズは、図書館で蔵書の索引(インデックス)を作るのに長い間使われてきました。また、6x4 と B6 サイズは、研究者の間で人気があるようです。

日本におけるインデックス・カード

世界堂のインデックスカードコーナー

日本では、インデックスカードは "情報カード" と呼ばれています。日本の文房具メーカーの一つであるコレクトは、様々な種類の情報カードを販売しています。サイズは名刺、5x3、6x4、B6、紙幣サイズ、種類は無地、罫線、方眼があります。世界的に見ても、これだけバラエティに富んだインデックスカードがあるのは、日本だけのようです。

それでは、インデックスカードは日本ではポピュラーであると言えるでしょうか。答えは「ノー」です。インデックスカードは、極めてマイナーな存在であると言えるでしょう。実際、文房具屋に行ってインデックスカードを見つけるのは大変で、5x3のサイズがないこともしばしばです。

このような中で、B6 サイズのインデックス・カードは、研究者の間で人気があり、文房具屋や大学の生協では比較的見つけやすいです。これは、1960年代に、梅棹忠夫氏(元京都大学教授、現・国立民俗学博物館顧問・名誉教授)が、著書「知的生産の技術」の中で、B6 サイズのカードを使った情報整理技術を紹介したことによります。これにより、B6 サイズのカードは、京大式カード とも呼ばれるようになりました。

東京・新宿での調査

東京・新宿でのインデックスカードの販売状況を調べるため、「世界堂 新宿本店」に行ってきました。新宿本店は、地下鉄丸ノ内線、新宿3丁目駅から徒歩5分の距離です。

世界堂本店は、5、6階からなるビルで、文房具・画材を販売しています。インデックスカードは、1階に置いてありました。ほとんどがコレクトの製品で、サイズは名刺、5x3、6x4、B6 があり、種類は、無地、プリント用、方眼、6 mm 罫線、8 mm 罫線がありました。ドック、見出しカード、パース(携帯用カード入れ)も置いてありました。

東京でも、これだけインデックスカード関連製品が置いてあるところは珍しいと思います。

インデックスカードを使う人にとっては、まさにメッカと言えるかもしれません。:)

外部リンク

アメリカにおけるインデックスカード

Patrick & Co.のインデックスカードコーナー

仕事でサンフランシスコに行った際に、空いた時間を利用してインデックスカードを探してみました。SFMOMA の近くに、Patrick & Co. という文房具屋を発見しました。店舗はビルの一階を占め、規模からすると中規模。世界堂と比べるのはあまりフェアーではないかもしれません。店員さんは気さくな方で、写真の撮影を快く許可して下さいました。

ペン類、ポストカード、封筒などが大量に売っています。インデックスカードのコーナーは、店の奥の方にありました。 5x3、6x4、さらに大きいサイズ(8x5?)も置いてありました。作っている会社は、Oxford 社、Mead 社の2社。在庫の量は、日本でもアメリカでもあまり変わらないように見えました。日本のインデックスカードと違っていて面白かったのは、青・黄色・赤など、カラーバリエーションが多かったことです。種類は、無地・罫線がありましたが、方眼は見当たりませんでした。

Patrick & Co. からしばらく歩くと、今度はオフィス・デポを見つけました。ここには、オフィス・デポブランドのインデックスカードが置いてあり、その中に方眼カードを発見しました。

アメリカの方眼カード

アメリカで売られている方眼カードを見て、非常に驚かされました。Lepard 氏と Gregkise 氏が指摘しているように、カードの束を上から見た時、グリッドの線がまったくバラバラだった、ということです。これでは、カードの方眼を利用して、タグを付ける PoIC の方法が全く使えません。コレクトの方眼カードしか見たことの無かった自分にとっては、これは衝撃的でした。

その他に気付いた点としては、グリッドの間隔が違っています。オフィス・デポの方眼は 6 mm 間隔なのに対し、コレクトのものは 5 mm 間隔です。私はコレクトの方眼カードを使い続けてきたので、5 mm の方眼の方が、全体に引き締まった感じに見えました。

5 x 3 インデックスカードの比較表

CompanyType*Cut and Grid**Grid Spacing**
Correct (Japan)p, pp, r, rl, rv, qAssociated5 mm
L!fe (Japan)p, r, c, qAssociated6 mm
Kokuyo (Japan)p, r--
Oxford (U.S.)p, r, c, qRandom6 mm
Office Depot (U.S.)p, c, qRandom6 mm
Mead (U.S.)p, r, c--
Ampad (U.S.)p, r, c--
3M (U.S.)rs, rs+c--
Exacompta (France)q+c Associated?

\* : p : 無地, pp : 無地プリント用, r : 罫線, rl : 罫線図書, rv : 罫線タテ, rs : 罫線ポストイット, q : 方眼, c : カラー \*\* : 方眼カードに関して

レポーター:Leopard, Gregkise, John, Ayalan, and David.

写真 @ flickr:Alina Mikadze, and by Kaj.

追加情報をお待ちしております。