PoIC マニュアル v. 2.6

From PoIC
Jump to: navigation, search

Contents

はじめに

2006年7月から、私は情報カードを使った情報整理の方法を、写真共有サイト Flickr において紹介してきました。このマニュアルは、写真だけでは伝えきれない、方法論の細部を補うために作られました。

このマニュアルについて

コレクトの情報カード 5x3 方眼(C-3532)。

このマニュアルでは、アナログ・メディアである情報カードを使って、自分のアイディアを蓄積し、それを生産性の向上につなげていく方法を紹介します。このシステムおよびメソッド(方法)を、簡単に "PoIC" (Pile of Index Cards, カードの積み重ね) と呼びます。PoIC は、「デジタル世代の私たちが、アナログ・メディアを使って何ができるのか」という問に対する、一つの答えです。

このマニュアルの最初のバージョン(Ver. 1.0)は、英語で書かれました。私にとって、英語でマニュアルを書くことは、極めて難しい作業でした。この問題を克服するために、私自身、PoIC のシステムとメソッドを使いました。このマニュアルに関する全てのアイディアは、PoIC を使って収集・蓄積され、再生産されたものです。

このマニュアルから、あなたの生産性を向上させる「何か」を見つけていただければ、とても光栄です。

PoIC の中の人 a.k.a. Hawkexpress

コメントと質問

PoIC に関する質問・コメント・提案・批判、なんでも歓迎いたします。下記までメールを送って下さい。

hawk(att)pileofindexcards.org

このサイトはリンクフリーです。以下の URI をご利用下さい。

http://pileofindexcards.org/wiki/

このマニュアルは、常に改訂中です。明らかな日本語のミスを見つけられた場合は、ウィンドウ上部の「edit」をクリックして、修正して下さい。Wiki で編集するのが初めての方はこちらへどうぞ。 :)

謝辞

情報カードのシステム構築に際して、1960年代から1970年代にかけて日本で書かれた、カードと生産性に関する本(梅棹氏、川喜田氏、渡部氏、板坂氏)から、多数のアイディアを取り込みました。これらの本は、デジタル世代の私たちにとってはもはや「古典的」と言えるかもしれません。当時は「Hipster PDA」や「Life Hack」なる言葉も存在しませんでした。しかし、これらの本の中には、生産性の向上に関する、普遍の知恵と知識にあふれています。カードを使ったタスクの処理に関しては、GTD(David Allen氏)からアイディアを得ました。また、時系列による情報整理は、「超」整理法(野口氏)を参考にしました。私はこれらの巨人の肩の上にのり、少しだけ遠くが見えたに過ぎません。偉大な先人たちの偉業に敬意を表します。

Flickr における Josh DiMauro 氏、Dave Gray 氏(米国 XPLANE 社 CEO)、Edward Vielmetti 氏、Jamie Parks 氏、RJStew 氏との議論はこのマニュアルを書く上で、大変参考になりました。Thorsten von Plotho-Kettner 氏には、ブログを書くことを勧めていただきました。

Erik Luden 氏には、ブログ、サーバの運営、ドメインの取得、そして PoIC に関する非常に有用なアドバイスを受けました。現在のブログと Wiki は、彼のアドバイス無しにはあり得ません。Jeniffer 氏、Sarah 氏、Felix 氏、Abdulla 氏、Rick 氏、Jeevs 氏には、ブログの記事に関して有用なコメントをいただきました。Robert Brook 氏は、flickr の写真、PoIC マニュアルを Creative Commons にすることを勧めていただきました。彼のコメントは、PoIC のアイディアを世に広めるのにとても役立ちました。Tom 氏 と Mikail 氏には、私のつたない英語を直していただきました。Leopard 氏、Gregkise 氏、John 氏、Ayalan 氏、David 氏、Alina Mikadze 氏、Kaj 氏には、情報カードの違いに関する情報を寄せていただきました。ありがとうございます。

PoIC のアイディアのいくつかは、2ちゃんねる・文房具板の情報カードについて語るスレ 2の議論の中で生まれました。このスレッドの参加者の皆さんには、日本語化を進めるにあたって、あたたかい声援と、非常に有用なコメントを多数いただきました。この場を借りて感謝の意を表します。

外部リンク

PoIC とは?

近年、David Allen の提唱する GTD と相まって、デジタル世代の私たちにとっては、もはや時代遅れとも思えるような、情報カード(Index Cards)が、人気を博しています。

情報カードの新時代

情報カードの新時代へのブレイクスルーになったと考えられるのは、次の二つのイベントです。

この二つは、具体的なカードの使い方を示したものではなく、コンセプチュアルなものでした。しかし、アナログ回帰への方向性を示したものとして、極めて重要なイベントであったと考えられます。アナログ媒体である「紙」が、このデジタル、ハイテクの時代の中で人気を回復しつつある事実は、私自身にとって興味深く、とても新鮮なことでした。

新しい風はアメリカからやってきました。一方で、日本には、梅棹(1969)を初めとして、情報カードと生産性を取り扱った本が豊富にあります。これらを融合し、「何か新しいこと」、「何か面白いこと」はできないでしょうか?

PoIC のエッセンス

378188030 43de03efe4.jpg

このマニュアルで説明する Pile of Index Cards (PoIC) とは、私が構築した、情報カードを使った生産性向上のためのシステムと、それに付随するメソッド(方法論)を指します。PoIC のエッセンスは極めてシンプルに表現できます。

  1. 頭の中のアイディア・身の回りの情報を、カードを使って収集する
  2. それを箱の中にすべて時系列で保存していく
  3. それをあとで利用し、新しい知恵・知識・成果の再生産を行う

PoIC の目的は、この3行を成し遂げるためのものに他なりません。

ストレス・フリー

時系列でカードを蓄積していく方法は、アイディア・情報をストレス・フリーの状態で蓄積していくことを可能にします。私たちはこれから、プロジェクトに関連するすべてのアイディア・情報を捕らえることを試みます。カードが十分に貯まったところで、箱から抜き出し、新しい知恵・知識・成果を再生産します。その時が来るまでは、検索・分類に煩わされることはなく、情報収集に集中することができます。

常に情報を収集する習慣

David Allen (2002) は、たびたび情報を収集する習慣の偉大さ (great habit of collection)について述べています。

"まだ収集していない情報を全て収集する。そうすると、気分が楽になります (You'll feel better collecting anything that you haven't collected yet)。" (p. 232)
"生産性の向上を実現させるには、(頭の中の)全ての情報を捕らえる必要がある (To fully realize that more productive place, you will need to capture it all)。" (p. 233)
"アイディア収集のプロセスをできるだけ完全に行うこと、新しいアイディアが浮かんだ時に捕まえる習慣を織り込むことで、あなたはより生産的になるでしょう (Doing the collection process as fully as you can, and then incorporating the behaviors of capturing all the new things as they emerge, will be empowering and productive)。" (p. 233)

この提案をいかに実現するかを考えた時に、PoIC は一つの可能性を提示します。

チェックボックスだけでは足りない!

このマニュアルを読んでいる人の多くが、GTD について関心があり、私よりも良く理解していると思います。私の理解では、GTD の哲学は、頭の中のモヤモヤを紙に書き出し、大きなプロジェクトを細かいタスクに分解し、あるフローにしたがって機械的に処理していくことです。タスクが完了したら、リストから削除し、長期タスクは Someday/Maybe (いつか/たぶん)リストに放り込みます。

しかし、プロジェクトは、全て To Do タスクのチェックボックスだけで表現することができるのでしょうか。例えば、「車を買う」という個人の生活におけるプロジェクトがあるとします。GTD は、カタログをもらいに行く、展示場に行ってみる、といったタスクはカバーできても、どういう車に乗りたいのか、何色が良いのか、自分にはどういう車が向いているのか、他の車と比べて何が違うのか、という自分自身の小さな記録や発見をカバーできません。

Four Icons. Left to right : Record, Discovery, GTD, and Reference

まず自分が何をしたいのかを知ることが、何かを成し遂げるための第一歩です。そのためには、私は記録や発見も積極的に収集すべきだと考えます。これを実現する手段として、4カード(記録・発見・GTD・参照)を導入します。

全てのアイディアを捕らえる試み

私たちの頭の中の考えは、非常にランダムに見えます。何か一つのことを始めると、すぐに他の考えが浮かんできます。例えば私の場合、仕事に関して何か難しいことを考えているほんの数秒後に、「今日の夕食は何にしようかな?」などと考えていることは良くあります。

人間は、一度に一つのことしか考えられません。同時に複数のことを考えることのできるマルチ・タスクの人間はいません。頭に浮かぶランダムな事柄を、浮かんだ順に実行していたとしたら、一貫性のない行動となってしまいます。しかし、このような、ランダムな思考の背後には必ず長期的なトレンドが隠れています。人間の思考は、例えて言うならば、短周期(高周波)の波と長周期(低周波)の波を重ね合わせたようなものです。

生産性を向上させるには、この二つの波を同時に捕らえることが重要になります。私はこれを実現するために、デジタル、アナログに関わらず、いろいろな方法を試してみました。そして最後に生き残ったのが、「紙」を使う方法でした。PoIC では、頭の中の考え・身の回りの情報を、すべて 5x3 サイズの情報カードを使って捕らえます。バラバラのカードを使うことで、短周期・長周期の2つの波を同時に追跡し、個人の生産性の向上につなげていきます。

カードシステムの構築

PoIC は、カードを使った生産性に関する本から様々な方法を取り込んだ、言わばハイブリッド・システムです。このシステムは、カードが増えるにしたがって、中・長期プロジェクトにおけるアイディアの貯蔵庫へと変化していきます。

シンプルなシステム

カードの数は、日を追うごとに増え、すぐに数百枚・数千枚を超えるようになります。もしシステムが複雑ならば、すぐにコントロールを失い、破綻してしまいます。この傾向は、紙を使うアナログ・システムでは特に強いと言えるでしょう。

システムの中の情報の乱雑さ(エントロピー)は、時間と共に増えていきます。これは自然の摂理であり、どうしても避けられない問題です。そこで、いかにしてシステムの維持にかかる労力を少なくし、余った力をアイディア収集に注ぎ込むかがカギとなります。

私は PoIC の中で、システムの崩壊をまねくような、いかなるシステム、ルールも排除しました。他のシステムではうまく働いていても、アナログ、カードという特有の状況から来る制約のために排除した機能もたくさんあります。例えば、「超」整理法型のシステム更新ルール(野口、1993)、デジタルが得意とする検索性・分類性、Mac OS のエイリアス(Windows のショートカット、Unix の ln)などです。このマニュアルを通じて証明したいことの一つは、これらを排除してもなお、知的生産は大いに可能であるということです。むしろ、これらを見切ることで知的生産は活き活きとさえしてきます。

システムは極めてシンプルであるべきです。私は PoIC のシステム・メソッドを、数年以上の単位で使い続けることを想定してデザインしました。長く使い続けるには、結局のところ、Less is more、Simple is best という結論に辿り着きました。ここでは、パソコンもプリンターも要りません。私たちに必要なのは、紙とペンと箱と、ちょっとした技術だけです。これ以上にシンプルなカードシステムは、存在しないかもしれません。

楽しいシステム

私は自分の好きなことを始めると、止められないという側面があります。良く言えば熱中性、悪く言えば中毒性です。このベクトルを、「消費すること」ではなく、なんとかして「生産すること」に向けることが、私の生産性を向上させる上で重要であることに気付きました。

これを実現する一つの方法は、自分で使っていて「楽しい」システムを構築することです。PoIC システムを構築するにあたり、私はいろいろな文房具を実際に買って試してみました。このカードシステムを楽しく使うためには、どういう文房具を使ったら良いかを考えることは、私にとってとても楽しいことでした。そして、自分の好きな文房具を使うからこそ、長続きします。

現在の PoIC システムを構成する文房具は、 私の試行錯誤の結果です。しかし、これらはあくまでも推奨であって、強制ではありません。カードの種類・サイズ、ペンの色などは、個人の用途と好みによるところが大きいでしょう。一番大切なのは、私たちがこのシステムを楽しく使い続け、カードを書き続けることです。そこで、基本的なルール(4カード時系列スタック法など)を守った上で、あなたのお気に入りの文房具を積極的に使って下さい。このシステムの中心にいるのは、いつも私たち自身です。

Build for me

このマニュアルでは、カードシステムに関する、いろいろなコツ、裏技、ハックを紹介します。これらは全て、私が PoIC を使い続ける上で、いかにして楽しむかについて、あれこれと知恵を絞った結果です。その意味では、PoIC は私自身のために構築したものだと言えます。しかし、そこからあなたの生産性の向上につながる「何か」を見つけていただければ、とても光栄です。

なにが新しいの?

PoIC は、1960年代から1970年代にかけて日本で書かれた、カードを使った個人の生産性向上に関する本(梅棹、川喜田、渡部、板坂)と、2000年代に入って書かれたGTD(David Allen)、さらにデジタル世代の経験を組み合わせたものです。

さらに楽しく使い続けるために、私は以下の新しい機能を追加しました。

このカードシステムは、数年以上の単位で使い続けることを想定しています。機能を最小限に留めることで、システムを頑強にしています。

PoIC の在り方

PoIC は、「デジタル世代の私たちが、アナログの情報カードを使って何ができるの?」という問いに対する、一つの「実験」という側面があります。そこで、このマニュアルでは、再現性を重視します。ここで起こったことを追体験するには、なにが必要か、それをどう使うのか、その結果、分かったこと、そして最後に、参考にした資料が書かれています。この結果を踏まえて、PoIC は、生産的・建設的に乗り越えられるべきです。

メインシステム

カードを書く環境の実際。

PoIC を始めるには、コンピューターもプリンターも要りません。初めに必要なのは次の3つだけです。

  • 情報カード 5x3 方眼
  • ペン
  • カードボックス(ドック)

PoIC は、完全にアナログなシステムです。このシンプルさがシステムを頑強でパワフルなものにしています。

ペンは引き出しの中にありますよね。箱はカードが入れば最初は何でも良いです。情報カードだけを準備するなら、初期投資は300円も掛かりません。これで私たちの生産性がグンと向上したら、とても面白いと思いませんか?

情報カード 5x3 方眼

コレクトの情報カード 5x3 方眼(C-3532)。100枚入り、税込み294円(2007年6月1日現在)。

情報カードは、5x3 サイズの「方眼(セクション)」を使います。私は一日10〜20枚書き、約1週間で、一パック(100枚入り)を使い切ります。

なぜ方眼を使うの?

日本で一番よく使われている情報カードは、梅棹(1969)の影響で、横線だけの罫線カード(いわゆる京大式カード)かもしれません。

ここで方眼を使う理由は、文字や絵を描く時により自由な感じがするからです。方眼は、グリッドの間にも、上にも文字を書くことができます。その気になれば、縦書きもできます。罫線に比べてはるかに自由度が高いと言えます。無地でも良いですが、方眼のグリッドをガイドにして書いた方が、格段にキレイです。

PoIC では、方眼カードの上辺に見えるグリッドが、タグを付ける時にとても重要になります。このタグは、方眼を使った時に一番きれいに書けます。ちなみに、数百枚・数千枚のカードをドックに入れた時、タグが一連の「コード」を構成します。私のブログの副題である「文化の遺伝子(cultural genetic code)」は、このコードが遺伝子のように見えるところから来ています。

自分に合ったサイズの決め方

ここでは、5x3 を紹介しましたが、サイズは個人の好みと用途に大きく依存しています。大きさを決める時は、例えばレポート用紙や B6 情報カードなどの 5mm 方眼の紙を用意し、5x3(= 125 mm x 75 mm)、6x4(= 150 mm x 100 mm)、B6(= 183 mm x 129 mm)のサイズに切って、実際に書き込んでみます。実際に書くと、自分にあったサイズが分かります。サイズが決まったら、一パック買ってきて、実際に使ってみます。

ストックに関して

向こう6ヶ月分のストック。

一パック分のカードを書いてみて、「この大きさでよい」と決まったら、今度は一度にたくさん買ってストックしておきます。これは、カードをたくさん書くからというのもありますが、書き損じたカードをどんどん捨てるためでもあります。たくさん買っておけば、手元にカードがどのくらい残っているか心配しなくても良くなります。カードの残量を気にしながら書くのは、バッテリーを気にしながらノートパソコンを使うようなものです。

梅棹忠夫氏は、「知的生産の技術」の中で、カードを使った情報整理術を紹介しています。その中でカードのストックについて、次のように述べています。

「だいじなことは、カードをかく習慣を身につけることである。どうしたら、その習慣が身につくか。根気よくつとめるほかないのだが、たとえば、つぎのような方法はどうだろうか。それは、おもいきってカードを一万枚ぐらい発注するのである。一万枚のカードを目の前につみあげたら、もうあとへはひくわけにはゆくまい。覚悟もきまるし、闘志もわくというものだ。」(P. 64)

この驚くべき提案は、例えば野口悠紀雄氏の「超」整理法など、様々な生産性の本の中で引用されています。コレクトの情報カードは100枚で1.8cmですから、10,000枚積み上げたら、1.8mになります。これには大抵の人が怖じ気づいてしまうでしょう。個人のカードシステムで、これは実行するのは、なかなか難しいので、私は半年分として、一度に20パック(2,000枚)買うようにしています。

いずれにせよ、文房具をたくさん買っておくのは良い習慣です。私は、カードの他にも、測量野帳、水性ペン、クリアファイル、プロジェクトペーパー(レポート用紙)も、たくさん買ってストックしておきます。デジタルのオモチャに比べれば安いものです。

ペン

(上)パイロットドローイングペン 0.5 mm (S-15DR5-L)

カードを描くのに適したペンを求めて、色々な種類のペンを実際に買って試してみました。鉛筆に始まり、ボールペン、水性顔料、そして油性染料。カードを書くのに必要なペンの機能は、以下の三点です。

  1. 視認性が高いこと
  2. 消えないこと
  3. 弱い筆圧でも書けること

私たちの書いたカードは、全てドックと呼ばれる箱に保存されていきます。ドックの中のカードを繰る時に、字が見えやすいということはとても大切です。また、PoIC は、長期間に渡って使うことを前提としています。いわば人生の記録の様なものです。カードの文字が消えてしまっては、その記録を失ってしまうことになります。三番目は、カードを何十枚書いても、手が疲れないようにするためです。物理的な労力は極力少なくします。

パイロットのドローイングペン

コレクトの情報カードは表面がなめらかなので、そこに鉛筆で書くと、擦れた時に字がボヤけてしまいます。また、私は昔から字を濃く書く習慣があるので、ボールペンを使うとすぐ手が痛くなってしまいます。油性染料は、文字が太過ぎるし、臭いも気になります。最終的に残ったのは、水性顔料でした。

いま私が使っているのは、パイロットのドローイングペンです(S-15DR5-L)。このペンは製図用で、ペン先は十分強く、耐水性です。私は、筆跡幅 0.5 mm、目に優しい青いインクを使っています。値段も一本150円と良心的です。

ドック

コレクトのカードボックス(C-153DF)。PoIC では、カードを入れる箱を「ドック」と呼ぶ。

カードを保存する箱は、最初は、どんなものでも良いです。紙箱、プラスチックの箱、木の箱、なんでも良いです。部屋を探すと、お菓子の箱などが見つかると思います。私も初めの頃は、キッチントレイを使っていました。

カードが数百枚に増えてきたら、もうちょっと本格的な、大きいカードボックスを用意します。PoIC ではこれをドックと呼びます。それは、小さい船が埠頭(ドック)に入ってくるように、自分の書いたカードの全てがそこに集まってくるからです。

ドックの役割は、カードの数が増えるにしたがって、重要度が増していきます。言うまでもなく、カードはバラバラの状態ですから、適当に置いておくとすぐに散逸してしまいます。全てのカードをドックに入れるのを習慣付けることで、カードの紛失を防ぎます。

コレクトのカードボックス

写真に私が家で使っているドックを示しました。私はコレクトのカードボックス(C-153DF)を使っています。後のシステム拡張性を考えて、値段の手頃な MDF 製を選びました。これ一つで1,500枚(公称では1,000枚)の情報カードが入ります。コレクトのカードボックスには、カバーも付いてきます。しかし、中のカードがいつも見えるようにするために、普段は使いません。

私は、自宅に一つ(家ドック)、会社に一つ(会社ドック)、計二つのドックシステムを持っています。会社では、ドックは引き出しの中に入れています。誰かに見られているとしたら、カードに正直なことは書けません。なんでも書いていいからこそ、いろいろなアイディアが出てきます。家の部屋では、誰にも見られる心配がないので、机の上に堂々と置いています。

ポケット一つ原則

野口(1993)は、「ポケット一つ原則」という考え方について述べています。もしポケットが一つしかなく、全てをそこに入れるのであれば、探すのはそのポケット一ヶ所だけで済みます。しかし、ポケットが二つ、三つとあったら、その全部を探さないといけなくなります。あとで探す労力を減らすのなら、ポケットは一つしか使わないのが賢明である、ということです。

ドックは、PoIC システムの中で、情報の「貯蔵庫」として働きます。私たちの書いたカードは、全てドックに集まってきます。「カードをどこにやったっけ?」といった類いの問題に悩まされることはありません。ドックの中を探せばそこに必ずあります。

アナログシステムでは、ファイルやカードをいつも全て持ち歩けるわけではありませんから、この原則を完全に実践するのは難しいです。野口氏も、自宅と研究室に一つずつ、二つの独立なファイルシステムを持っていると言っています。いずれにせよ、ポケット(PoIC ではドックシステム)の数は少ない方が良いのは確かです。

人生そのもの

PoIC では、カードを使って生活を追跡していきます。ドックは、私たちが見たもの、考えたこと、発見したこと、やってみたこと、聞いたこと、読んだことで満たされていきます。これは、単なる日記以上のものです。いわば、私たちの人生そのものです。

外部リンク

サブシステム

Transfer of cards in the PoIC

ここでは、さらに効率良く情報を収集するための道具を紹介します。一つ目は、測量野帳です。これは、一時的な記憶媒体(メモリ)として使います。もう一つは、モレスキンのメモポケットです。これを改造して、カードの持ち運びに使います(icPod)。

アイディア捕獲を昆虫採集に例えるなら、野帳は虫を捕まえる「アミ」、icPod は捕まえた虫を入れておく「カゴ」に当たります。チョウチョが目の前に現れた時にすぐ捕まえられるように、いつも備えておきます。

コクヨ 測量野帳

コクヨの測量野帳。ゴムバンドを自分で付けた。これだけの改造で野帳が格段に使いやすくなる。

測量野帳(field note、以下、簡単のため「野帳」)は、測量技師や野外科学者によって、長い間使われています。梅棹忠夫氏川喜田二郎氏は、ともに野外科学者であり、かつカードで生産性を上げる技術の本を書いています。彼らの本を読んでみると、この種の野帳を野外での研究活動の中で使っていたようです。私自身、実際に仕事で野帳を使っています。この実経験を通じて、野帳は野外での研究活動だけでなく、個人的なアイディア捕獲メディアとして使えるのでは、ということに気付きました。

日本最大の文房具メーカーであるコクヨは、スケッチブック(3 mm 方眼)、レベルブック(測量用)、トランジット(これも測量用)の3種類の野帳を販売しています。私の知る限り、日本で野帳を売っているのは、コクヨだけのようです。3種類の中で、私はやっぱり方眼を使っています。

コクヨの野帳はとてもシンプルなものです。私は、写真に示したように、自分でゴムバンドを付けて使っています。野帳の厚さは 8 mmですが、表紙の左右両端をグッと押すと背表紙が1cmぐらいまで広がります。ページの間にシャープペンシルを挟み、ゴムバンドでパチンとくくっておきます。こうすると、ちょうどシャープペンシルがしおりがわりになって、書き込むページをすぐ開けるようになります。

なぜ野帳を使うの?

コクヨ測量野帳(セ-Y3)。厚さ8 mm、80 ページ、80 g、3 mm 方眼。

頑丈さ:野帳は、もともと野外で使うことを前提に作られています。表紙が十分堅いので、どんな体勢でもメモを取ることができます。カードを使いはじめると、いろいろな場面で、カードを書けない・書きづらいという場面に遭遇します。カードは後にデータベースを構成するデータとなりますから、なるべくきれいに書いておきたいものです。アイディアは、電車の中、ベッドの中、暗闇の中など、時と場所を選ばずに浮かんできます。こういう状況でアイディアを捕獲するメディアとして、野帳は最適です。

手頃な値段:コクヨの測量野帳はたったの180円です。この値段でも、品質は最高級です。私は野帳をコンピューターで言うところの「仮想メモリ」のように、一時的な記憶媒体として使っています。憶えておくべきこと、小さなアイディアをどんどん書き込みます。これは、野帳が安いからできることです。もし、モレスキンの手帳のように、1冊で2,000円もしたら、私には、こういう使い方は絶対にできません。高級なノートには、なにか素晴らしいことを書かないといけないような気がしてしまいます。しかし、そうして書いたアイディアがいつも素晴らしいわけではありません。むしろ、一見ちっぽけなアイディアの方が、後で重要になる場合が往々にしてあります。手帳は飾っておく「記念品」ではありません。手帳は毎日使わないと意味が無いのです。野帳のこの手頃さは、私に「何を書いても良いんだ」という気分にしてくれます。穴を開けたり、ゴムバンドを付けたりと改造できるのも、この手頃な値段のおかげです。

Hipster PDA は使わないの?

Hipster PDA は、情報カードをクリップで留めたものです。名前の巧妙さと、手軽さから、最近人気を博しています。

PoIC は情報カードを使ったシステムですから、「どうして同じ情報カードを使う Hipster PDA は使わないの?」という質問はとても自然です。実際、私は野帳を使いはじめる前に、Hipster PDA を使ってみたことがあります。しかし、しばらくして気付いたのは、Hipster PDA は PoIC と全く互換性がないということでした。

Hipster PDA は、

  • 情報カードを縦向きに使う:これは、ドックにカードを保存する時に問題になります。また、横幅が狭過ぎて PoIC のカードの書き方には不向きです。逆に、Hipster PDA を横向きに使うのは、手にフィットしないのでとても書きづらい。
  • きれいな字が書けない:小さいカードを手に持った状態では、ペンを持つ手が安定しません。この状態できれいな字を書くのは難しいです。PoIC では、カードは後のデータベースを構成するデータですから、視認性が良いようになるべくきれいな字で書いておきたいものです。
  • 散逸しやすい:Hipster PDA は、バラバラのカードをクリップで留めただけのものです。また、小さいので無くしやすい。私は、シャツのポケットに入れたまま一緒に洗濯してしまったこともあります。

野帳は、どんな姿勢でも書くことができます。また、仮想メモリとして使うため、きれいな字を書く必要はありません。一冊綴じなので、散逸してしまうこともありません。PoIC と Hipster PDA を一緒に使おうとすると、様々なジレンマに直面します。逆説的ではありますが、PoIC にはカードを使う Hipster PDA よりも、むしろ野帳の方が適しています。

野帳の具体的な使い方については後ほど見ることにしましょう。

野帳の改造例

モレスキン メモポケット(icPod)

モレスキンのメモポケットを改造した icPod。

私は、情報カードの持ち運びにモレスキンのメモポケットを使っています。PoIC では、GTD だけでなく、記録・発見・参照も取り込みます。一日に書くカードが30枚を超えることもあります。カードをクリップで留めただけの Hipster PDA は、PoIC に向いているとは言えません。私たちに必要なのは、PDA のような「持ち運びのできる RAM」ではなく、むしろ iPod のような「持ち運びのできるハードディスク」です。

メモポケットで5x3 カードを持ち歩くというのは、Emory 氏のアイディアです。しかし、買ったままのメモポケットでは、ポケットが 5x3 サイズにぴったりすぎて、カードの出し入れにとても不便です。また、ポケットが深過ぎるので、中にどういうカードが入っているか見えません。

これらの諸問題を解決するために、ここではメモポケットを次のように改造します(詳しい手順)。

  1. ポケットのアコーディオンを、谷折りから山折りにする。
  2. ポケットを、高さの半分だけ切り取ってしまう。
  3. 各ポケットに見出しカードを入れる。

メモポケットには6つのポケットがあります。奥の方から5つのポケットに月曜日〜金曜日、一番手前のポケットに Someday/Maybe と Next Action の見出しカードを入れます。全てのカードは、見出しカードの手前に入れていきます。こうすると、手前のカードのヘッダ部分が目に入るようになります。

ドックとポッド

PoIC ではカードを入れる箱のことを "ドック" と呼んでいますから、モバイルのメモポケットを "ポッド" と呼ぶのは、私にとって自然な成り行きでした。Apple の携帯音楽プレイヤー iPod のコンセプトである「1000曲の音楽をポケットに」や、SF に出てくる「ポッド」と呼ばれる小さな宇宙船にも似ています。そこで、情報カード(Index Cards)用のポッド(Pod)ということで、固有名詞としては icPod と呼ぶことにします。

ドックの手前に icPod を置くと、その象徴的な意味が良く理解できます。据え置き型のドックと、持ち運び型のポッド。ドックの奥の方から手前のポッドに向かって、時間軸が過去から現在に、一直線に伸びているのが分かります。

どんなカードが入ってるの?

屋外でのアイディア捕獲には野帳を使いますから、icPod の中には、すでに書いたカードだけが入っています。屋外でもカードを書ける環境(例えば図書館や喫茶店)にいることが多いのであれば、カードも持ち歩きます。icPod には、計100枚程度の情報カードが入ります。

私は、会社では icPod を開いて机の上に置いておき、書き込んだカードを仕事・生活の区別なく放り込んでいきます。帰宅する時に、icPod をそのままパチンと閉じて鞄に入れ、自宅に持ち帰ります。週末に一週間分のカードを仕分けして、仕事のカードは会社ドックに、生活のカードは家ドックに入れます。

折り紙ポッド

A4用紙3枚で作る「折り紙ポッド」。

icPod のアコーディオン折りを参考にして、自分で作れる「折り紙ポッド」を作ってみました。必要なのは、A4 サイズの紙3枚です。簡易卓上ドックとしても使えます。実際にメモポケットを icPod に改造する前に、その構造を理解するのにも良いでしょう。

作り方のポイントは、以下の3つです。

  • 折り畳み動作に耐え得る、厚手で柔らかい紙を選ぶこと
  • 折る前にカッターの先(刃を出さない状態)を使って折り癖を付けること
  • 強度を考えてノリではなくボンドを使うこと

折り紙ポッドは、折り紙を経験したことのある人であれば、誰でも簡単に作れるように設計しました。作り方のコツは、Flickr の写真 icPod(英語+日本語)もしくはブログの記事 "OrigamiPod : icPod for Everyone"(英語)を参考にして下さい。

ダウンロード:折り紙ポッド テンプレート (PDF, 1.2 MB)

icPod のバリエーション

  • Akiyo さんは、千代紙を使ってicPod にきれいな装飾を施しています。
  • S_h_i_r_o_u_t_o さんは、SeedPod という、革製の icPod を自作しています。

外部リンク

4カード

ここでは、私たちの頭の中の思考・身の回りの情報をより良く追跡するための、4種類のカード(記録、発見、GTD、参照)を導入します。実は、私たちの内外の情報には、この4種類しかありません。

記録カード

記録カード (拡大する)
  • アイコン :
  • タグ  : 左から二番目のブロック

タグとは、情報カードの上辺を一ブロック分塗りつぶしたものです。一番左はマージンとして使わず、二番目のブロックから始めます。

この記録カードは、私たちの身の回りの現象や事実を記録するのに使います。例えば、日記(生活、仕事、夢)、お金の収支、健康状態(体温・血圧・体重)、食事、天候(天気・気温・湿度)などが、この一番目の種類に分類されます。

日記から始めよう

PoIC をはじめるにあたって、一番簡単なのは、日記から始めることです。日記はこの記録カードに属します。しばらくすると、その中にはいくつかの「発見」が含まれていることに気が付きます。その時は、この発見を、次に紹介する「発見カード」に話を展開します。実際、私は一日のカードの書き始めを、日記から始めています。これが一日の単位でも、書きはじめるのに一番簡単な方法だからです。

長期的なパターンを見つける

それぞれの記録カードは、単なる記録であり、一見すると役に立つ情報を含んでいないようにも見えます。時には、単に数字だけの場合もあります。アイコンが単なる円なのは、これを象徴しています。

しかし、しばらくあとになってから、その数字をグラフ化すると、パターンが現れます。逆に、ある程度データが集まらないと、パターンは見えてきません。つまり、記録カードが重要になるのは、長期的なパターンを見つけたい時です。こうして見つけた長期的なパターンは、自分自身の記録に基づいた、新しい発見・知識となります。記録カードが普通の日記やノートと大きく違うのは、パーツ毎に分かれているということです。これが、時間的・空間的に離れたカードの比較を容易にし、パターンが探しやすくなります。こうして人間に特有の先入観を避けることができます。

このような長期的なパターンの他に、私たちは一瞬にしてパターンを見つけることがあります。「分かった!」、「見つけた!」という瞬間がそれです。こういう直感的な発見は、次の「発見カード」に属します。

発見カード

発見カード (拡大する)
  • アイコン : 電球 (ひらめき)
  • タグ  : 3番目のブロック

私たちの頭、心から湧き出てくるものは、すべて発見カードに属します。例えば、生活・仕事のアイディア、発見、直感、理解、認識、ジョーク、詩、俳句などは、この二番目の種類に入ります。

発見を強化する

私自身の PoIC 経験から、4種類のカードの中で、この発見カードが一番楽しく、かつ重要であると言えます。発見カードは、私の書くカードの80 % 以上を占めます。

私たちの脳は、トレーニングによって発見を強化することができるようです。発見カードがドックの中で増えていき、次第に優勢になっていくのを見て、楽しくなります。なぜなら、これが自分の生活を基礎とした自分自身のアイディア、発見だからです。同時に、アイディアを収集・蓄積する手段がないとき、いかに多くのアイディアが忘却の彼方に消えていたかを見るでしょう。

なぜこれが楽しいの?

渡部昇一氏は、「知的生活の方法」 (1976) の中で、長い間理解できなかったものが理解できた瞬間、得も言われぬ幸福感を感じると述べています。彼はこの幸福感を「知的オルガスム」と表現しています。知的オルガスムにいたるには長い時間が掛かりますが、その幸福感は甚大なものです。また、最近の研究で、脳生理学者の茂木健一郎氏は、人間の脳が発見や「分かった!」という瞬間に、ある種の幸福を感じると主張しています。この時、脳の中の細胞は、0.1秒の単位で活性化されます。脳は、発見をすればするほど、幸せになり、さらなる発見を探そうとします。彼はこれを「アハ体験」と呼んでいます。

発見により幸福感を感じ、さらなる発見を促す。発見カードを導入することで、私たちの脳は、発見することに最適化されます。何よりも大切なのは、これらの発見が、他の誰のものでもなく、私たち自身の生活に基づいた発見だということです。そして、全ての発見は、信頼のおけるシステムの中で保存されます。

問題解決への道は、蓄積された発見によってもたらされます。このような問題解決法は、完全に楽観的な方法と言えます。

GTD カード

GTD カード (拡大する)
  • アイコン : 四角 (チェックボックス)
  • タグ  : 4番目のブロック 最初に縁だけ書き込む

GTD とは、David Allen 氏によって提唱された、タスク処理システムです。プロジェクトを細かいタスクに分け、フローにしたがって機械的に処理します。

GTD って何?

GTD の詳細については、David Allen の "Getting Things DONE" に譲るとして、ここでは本質的な部分だけを説明します。GTD の要点は、たった二つです。

  • 頭の中のモヤモヤを全て紙に書き出すこと
  • 大きいタスクを実行可能な小さいタスクに分解すること

例えば、部屋の電球が切れたとすると、「電球を買いに行く」というタスクが発生します。これを GTD では、電球のワット数・サイズを調べる、どこに行けば買えるか、いくらぐらいで買えるか、いつ買いに行くか、と細かく分解します。

この作業を、頭の中ではなく紙に書き出すのがポイントです。PoIC では、これにカードと野帳を使います。

オープンループ

GTD カードのタグは最初は塗りつぶしません。これは、David Allen の言うところの「オープン・ループ(閉じていない輪=終わっていない仕事)」を意味します。タスクが終わった時に、チェックボックスにチェックを入れ、タグを塗りつぶして「完了!(Get Thing Done!)」となります。

一枚の GTD カードに、いくつかの小タスクを含めます。上述の例では、「電球を買いに行く」がカードのタイトルとなり、その下に小タスクが並びます。こうして、GTD カードの数を減らすと同時に、小タスクがバラバラになるのを防ぎます。全てのタスクが終わった時点で、カードのチェックボックスにチェックを入れ、タグを塗りつぶします。

Hipster PDA と icPod

私のドックの中の、GTD カードの数は全体の 5% 以下です。私の場合、GTD カードの数は、日に1〜2枚程度です。これが、Hipster PDA が GTD とうまくはたらく理由です。従来の Hipster PDA + GTD では、カードを保存しておく必要すらありません。

しかし、PoIC では、GTD 以外に、私たちのアイディア、身の回りの情報の全てをカードを使って捕まえようとします。カードの数は、クリップでは綴じられないくらい多くなることもあります。このような状況に置いては、モレスキンのメモポケットのようなカードホルダーがより便利です。「サブシステム」の項では、一例としてメモポケットを改造した icPod を紹介しました。

参照カード

参照カード (拡大する)
  • Icon : 帽子 (頭の上にある何か)
  • Tag  : 5番目のブロック

本・テレビ・ウェブからのことばの引用、料理のレシピなどがこの四番目に分類されます。これは、自分以外の他の誰かのアイディアです。

このカードを書く時、そのタイトルは、私たち自身の言葉で付けるようにします。他の人の言葉を、自分の言葉で表現できるということは、私たちがそのことをよく理解していることを意味します。

誰のアイディア?

参照カードを書く時は、記録カード、発見カードと明確に区別します。記録/発見カードは自分の中から出てきた情報です。一方で、参照カードは私たちの外側からきた情報、誰かさんのアイディアです。誰かのアイディアを、自分の記録・発見として書くことはできません。PoIC は個人のシステムですから、ウソを書く必要はどこにもありません。

情報のソースを忘れずに

情報のソース(情報源)のない参照カードは利用価値がありません。本の場合、著者、本の名前、書かれた年、引用文があるページを記録するようにします。一つの本からたくさんの参照カードを書く時は、情報源の記録カードを作っておくと便利です。この記録カードに詳しい本の情報を書いておけば、各々の参照カードでは、著者、年、ページだけで済みます。この記録カードは本を読む時のしおりとしても使えます。

時系列スタック法

全てのカードをドックの中に時系列で保存していく。

PoIC では、「ドック」と呼ばれる箱の中に、全てのカードを書いた順に「時系列」で保存していきます。これを「時系列スタック法」と呼びます。一番新しいカードがドックの一番手前に来ます。

まわりを見渡してみると、Blog や Flickr など、いたるところで時系列による情報蓄積を見つけることができます。ページにアクセスした時に一番最初に目に入る一番上の部分に、一番新しい記事が来ます。時系列による情報の蓄積は、情報へのアクセス頻度を考えると非常に合理的です。

分類しない

4カードで頭の中のアイディア、身の回りの情報を記述する4種類のカードを導入しました。しかし、これはドックの中でカードを分類するためのものではありません。なぜなら、こういった分類は個人的なカード及びファイルシステムでは、必ずボトルネックになるからです。

分類が必要な場合について、野口(1993)は非常に明解な判断基準を述べています。すなわち、個人のシステムでは時系列による情報蓄積、公共のシステムでは分類による情報蓄積が好ましい、というものです。公共のシステムとは、例えば図書館や博物館などです。図書館で時系列で本を管理したら、すぐに破綻してしまうことは容易に想像できます。公共のシステムでは、みんなが一つのシステムを共有します。そのため、共通の検索キーとしての分類が必要になります。逆に、共有する必要のない個人のシステムでは、こういった分類はほとんど必要ありません。

時系列と分類の比較実験

私は、カードシステムを構築する際に、分類と時系列のどちらが良いかを、自分のドックを使って実験してみました。

私は家と会社に1つずつドックシステムを持っています(簡単に家ドック、会社ドックと呼ぶ)。家ドックでは、それほど切迫した状況ではないので、時系列でカードを蓄積しました。会社ドックでは、プロジェクト毎にカードを分類し、それぞれのプロジェクトの中でさらに時系列で管理しました。複数のプロジェクトを扱う場合は、分類の方が良いだろうと判断したからです。

しかし、数ヶ月が経過すると、その違いは目に見えて現れてきました。家ドックのカードはどんどん増えていき、一方で会社ドックのカードは一向に増えなくなってしまったのです。この違いは劇的でした。この原因は、一つしかありません。やはり、分類がボトルネックになっていたのです。会社ドックでは、カードを書いた後、カードがどのプロジェクトに属するか、ほんの数秒にせよ考える必要があります。そのほんの数秒が積み重なって、やがて心理的な抵抗になってしまっていたのでした。

この実験を通じて気付いたのは、個人的なカードシステムでは、分類による利便性よりも、時系列で連続的にアイディアを引き出していくことの方が重要であるということです。カードシステムを導入すると、どうしても分類しなければならないような強迫観念にとらわれてしまいがちです。しかし、これこそが個人のカードシステムで最も有害であるといえます。

時系列ではグレイゾーンが発生しない

分類(左、空間2次元+時間1次元)と時系列(右、時間1次元)の違い。時系列ではグレイゾーンが発生しない。

分類を考えた時に、状況を難しくするのは、つねに「グレーゾーン」があるということです。Aのプロジェクトにも、Bのプロジェクトにも属するカードが常に発生します。悩んでいるうちに、「まあいいや」ということになって適当にAのプロジェクトに放り込んでしまいます。このような心理的な妥協は、カードが増えるにしたがって蓄積していきます。分類の基準が曖昧なため、あとになって B のプロジェクトの所を探しても、見つかりません。これが重なると、分類を導入したカードシステムは、自分の中で信頼できないものになってしまいます。分類の判断基準があいまいな以上、分類にこだわるのは時間の無駄です。また、厳格にカードを分類することが目的でもありません。むしろ、分類しないことで、カードに多様性が生まれます。

分類と時系列の違いは、次元で考えてみると見通しが良くなります。分類は「空間」、すなわち2次元的 (x, y) です。一方で、時系列は「時間」、すなわち1次元的 (t) です。上述の実験では、会社ドックは分類+時系列で3次元、一方で家ドックでは時系列で1次元でした。つまり、家ドックでは、考えるべき軸が一本しかありませんでした。ある人が、ある瞬間に書くことのできるカードは、一枚しかありません。したがって、時系列では「グレイゾーン」が発生し得ません。これが、時系列スタック法で信頼のおけるカードシステムを構築できる理由です。

検索しない

PoIC のようなアナログ・システムで問題となるのは「いかに検索するのか」ということです。検索は、カードの数が増えるにしたがって、より困難になります。PoIC の時系列スタック法において、検索の基準となるのは、自分の中の時間軸、すなわち「歴史」に頼るしかありません。そうなると、今度は「歴史」を補うために、カードの索引が必要になるでしょう。カードの数が容易に数百・数千を超えることを考えると、これは現実的ではありません。

こういう心配事をよそに、私の PoIC 経験を通じて言えることは「検索する機会なんて滅多にない」ということです。これには色々な理由があります。

  • PoIC では主に新しいアイディアを引き出すことに集中する。
  • 完全に忘れてしまっている事柄を探す必要はない。
  • もし部分的に憶えているのであれば、そのカードを探すよりも、むしろ新しいカードにそれを書いてしまう。この方が速い。
  • 検索するとしても、その領域は実は限られている。せいぜい1週間以内。これは自分の記憶力による。

いずれにせよ、私が1年の間にドックの中を全て走査するほどの検索をしたのは、数回程度です。カードを書くのは「頭の中からはき出す」、つまり「忘れるため」です。記憶に頼って検索するのは矛盾しています。また、ドックの中であるカードを探すのに熱中するあまり、そのカードを使って何を書こうとしていたかを忘れてしまうこともあります。

二回書く

時間の効果を考慮に入れると、同じカードに見えても、ちょっと違うカードになっている。

PoIC のようなアナログシステムでは、「検索する」ということは手間がかかるだけでなく、アイディアを捕らえる上で危険にさえ思えます。分類・検索はコンピューターの得意とするところです。しかし、新しいアイディアを生み出すことは人間の脳にしかできません。検索しないことを逆手にとって、新しいカードをどんどん書いていきます。

似たようなことを何度も書くのは、時間と手間の無駄のようにも思えます。カードの内容を断片的に思い出すということは、そのカードに書いてからしばらく時間が経過したということです。時間をおいて書いたカードは、同じ話題でもちょっと違うカードになります。

これを利用すると、同じ話題に関して、色々な表現が可能になります。これは私たちがその話題を、いかに良く理解しているかを示す指標となります。また、同じ話題が何度も心に浮かんでくるということは、それが自分にとっていくぶん重要な話題であるということです。

時系列を更新しない

時系列による情報管理と言えば、真っ先に思い浮かぶのは野口(1993)の「超」整理法です。「超」整理法では、ファイルを時系列で並べていき、取り出したファイルは時系列の先頭(例えば本棚の右端)に置いていきます。こうすることで、システムを活性化させ、良く使うファイルとあまり使わないファイルが自然と選別されていきます。

しかし、PoIC では、時系列を更新することでシステムを活性化させるのが目的ではありません。「超」整理法と PoIC の時系列は、似ているように見えますが、情報のサイズ、いかにしてシステムに秩序をもたらすかが全く異なります。この違いに関しては後ほど詳しく見ることにして、差し当たっては、書いたカードはすべて時系列で保存し、その順序を更新する必要はない、と理解しておくだけで十分です。

パーティションの切り方

ドックのパーティションの切り方。

コレクトのカードボックスには、仕切り板が3枚付いてきます。ドックの中のパーティションは、時系列にしたがって作ります。例として、私が家で使っているドックシステムの写真を右に示しました。私は、家では2つのドックを使っています。

  • 左側のドック : 今日 / 今週 / 先週 + 過去三ヶ月
  • 右側のドック : 三ヶ月よりも前 / それよりさらに三ヶ月前

パーティションの切り方は、月ごとに一定ではありません。これは、アクセスの頻度が時間とともに直線的に減るのではなく、むしろ指数関数的に減るためです。「いま」という瞬間に良く使うカードは、せいぜい「いま」と、「いま」から1週間前までです。この部分がアクセスしやすい、一番手前にきます。

システムの拡張は容易です。カードが増えて、ドックが一杯になったら、新しいドックを追加するだけです。幸いにも、パソコンの HDD とは違って、システムを構築した後でも、パーティションはいくらでも変更できます。自分に合ったパーティションの切り方を試してみて下さい。

カタマリを「崩す」

パーティションを使わないでドックを使うこともできますが、カードが一つのカタマリのようになってしまい、アクセスしづらくなります。一つのカタマリにアクセスするというのは、意外に心理的な抵抗が大きいものです。そこで、パーティションを使って適当に崩します。頻繁にアクセスするように、うまくパーティションを切ってあげます。

聖域を作る

野口(1993)は、使う頻度の高いファイルを「神様ファイル」と呼び、時系列によるファイル管理から分離し、分類・保存しています(P.P. 40-41、51-52)。

再利用頻度の高いカードとしては、住所録、本のリストなどが考えられます。これらは、時系列から分離して、アクセスしやすいところに置いておくと、とても便利です。そこで、再利用頻度の高いカードを、野口(1993)にならい「神様カード」と名付け、ドックの一パーティションに保存しておきます。このパーティションは、神様のいるところですから「聖域」と呼ぶことにします。ここだけは、分類しない・検索しないという PoIC の基本ルールに関して、治外法権が適用されます。

検索・分類は最終手段

時系列でカードを蓄積していくと、自然の法則に従って、システムのエントロピー(情報の乱雑さ)は一方的に増えていきます。分類しない時系列では、なおさらです。このままでは、PoIC は破綻しそうにも思えます。私自身、カードが増えるにしたがって、このまま行ったらどうなるのだろうか、と心配になったことがありました。

この自然の法則に逆らってエントロピーを減らそうとする場合、人間の「努力」が必要になります。図書館では、「つねに分類する努力」によってこれを実現しています。しかし、前述のように PoIC では、積極的に(?)検索・分類しません。

では、どのようにしてシステムの破綻を防ぐのでしょうか。答えは簡単で、やはり検索・分類するのです。従来の方法と違うのは、これが一番最後に来ることです。PoIC において、カードを書くのは、個人の知識のデータベースを構築することです。しかし、これはまだ準備段階です。PoIC の本当の目標は、このシステムを使って、新しい知識・成果を再生産することです。そうして初めて "Get thing Done!" となります。

タスクフォースの編成

タスクフォースの編成。右側のドックが時系列、左側のドックがタスクフォース。

あるプロジェクトのカードが十分に蓄積したところで、ドックの中から、そのプロジェクトに関連するカードを全て抜き出します。渡部(1976) の言葉を借りて、これを「タスクフォース(機動部隊)を編成する」と言います(p. 132)。このタスクフォースを編成する時に、カードを検索・分類することになります。つまり、PoIC では、検索・分類は最終目標のちょっと手前でようやく登場します。そして、それで十分なのです。従来のカードシステムが破綻してしまうのは、この最終手段を一番初めに使ってしまうからです。

お役御免

タスクフォースに選ばれ、最終目標である再生産を果たしたあとのカードは「お役御免」となります(渡部、1976、p. 133)。これらのカードを、もとの時系列に戻す必要はありません。カードの内容を参照したい時は、再生産したものを参照します。そして、ドックの中のカードの量は、再生産する毎に減っていきます。それ以外のカードは、将来必ず何らかの形で利用されると信じて、ドックに残していきます。

このように、PoIC では、システムのエントロピーは、私たちが再生産に使う努力により減っていきます。私たちが限られた力を、これまでは検索・分類することに消費していたことを考えれば、このアプローチは「一石二鳥」と言えるのではないでしょうか。

ICP 規格

前の2つの章では、PoIC の基本となる 4カードと、時系列スタック法を紹介しました。ここでは、カードのどこに何を書くのか、といった取り決め(プロトコル)をさらに詳しく見ていきます。インターネット上でのデータのやりとりの取り決めである TCP になぞらえて、これを ICP (= Index Cards Protocol)と呼びます。

Index Cards Protocol (ICP) 規格

ICP 規格で書いた情報カードの例(拡大する

情報カードを書く際の取り決めを、Index Cards Protocol(ICP)として、規格化します。これは、個々人がスタイルを確立するまでの時間をなるべく節約し、残りの力を本来の目的である生産性に向けるために他なりません。

とは言うものの、ICP は、パソコンからプリントしなければならないほど、複雑なものではありません。むしろ、極めてシンプルで、一度覚えてしまえば、忘れることはありません。

あらかじめプリントしてカードを準備しておくことは、時間が掛かるだけでなく、アイディアを引き出す上でも足枷になってしまいます。私たちの思考は非線形ですから、次に来るアイディア・考えを予測することは不可能です。

私たちに必要なのは、何も書かれていない情報カードとペンだけです。ICP は頭の中に入れて持ち歩きます。

ヘッダ

私たちの書いた全てのカードは、ドックの中に時系列で保存されていきます。ドックの中の何百枚・何千枚のカードをめくっている時に見える部分は、せいぜい上の数行です。カードの下の方までのぞき込むことはありません。

そこで、圧縮した情報をカード上部に記述しておきます。カードの上辺から4行を「ヘッダ」、それより下を「ボディ」と定義します。ヘッダには、

  • タグ(上辺・左部分)
  • タイトル + アイコン(上から3段目)
  • タイムスタンプ(右部分)

が含まれます。カードをめくる時は、この部分に集中します。

アイコン

4カードの章で見たように、全てのカードは、記録・発見・GTD・参照の4種類に分類されます。重要なのは、私たちの内外の情報を表現するのには、実はこの4つだけで足りる、ということです。

カードの内容に対して、適切なアイコンとタグが付け加えられます。アイコンは、そのカードの内容を視覚的にとらえるのに役に立ちます。

Four Icons. Left to right : Record, Discovery, GTD, and Reference

PoIC のアイコンを上の図に示しました。それぞれ、丸・電球・チェックボックス・帽子をデザインしたものです。参照カードが帽子なのは、「自分の上には必ず上がいるよ」という謙虚さの暗示です。

記録・発見・参照の3つは、全て丸を基本としています。これは、記録・発見・参照の判断が難しい時があるという事実に基づいています。とりあえず丸を描いてから、この3つのどれにしようかと考える「間」ができます。

ここでは私の使っているアイコンを示しましたが、アイコンは、好きなようにカスタマイズして下さい。参照カードのアイコンに「本」を使っている人もいます。

タグ

タグは、カードの上辺のブロック1つを塗りつぶしたものです。一番左のブロックはマージンとして使用せず、2番目からをタグとして使います。アイコンに対応して、記録が2番目のブロック、以下、発見・GTD・参照と続きます。

思考の指標としてのタグ

オープンループは3番目のタグに2つの点として見える。

ドックに保存されたカードを見た時に、タグを見ただけで、どの種類が優位であるかが分かります。私たちの行動がいまどこにあるのかを、一目で捕らえることができます。これは、flickr におけるタグクラウド(タグの雲)、del.icio.us における タグロールの様なものであると言えば、理解しやすいでしょう。

ここで一つ強調しておくべきことは、このタグ(及びアイコン)の目的が、ドックの中でカードを分類するためではないということです。参照カードだけ抜き出す、ということはありません。私たちは全てのカードを、時系列でスタックしていきます。私たちがカードを書く時、それがどの種類に属するか、どの順番かについて気にする必要はありません。

オープンループを見つける

タグが威力を発揮する局面の一つが、GTD カードのオープンループ(未完了のタスク)を見つける時です。GTD カードのタグは、その名の通り「開いた輪」として見えます。この単純さが、未完了のタスクを見つけるのを容易にします。ドックの中のカードのタグを見ていった時に、3つめのタグで(4番めのブロック)で二つの点があったら、それがオープンループです。タスクが終わった時に、オープンループは塗りつぶされ、他の3種類のカードのタグと見かけが同じになります。

どうして4種類だけ?

コレクトの方眼カードの上辺には25個の方眼が並んでいます。これらの全てをタグとして使う、もしくは、2つのタグを組み合わせて使う、という可能性も考えられます。それでは、どうして PoIC ではたった4つのタグしか使わないのでしょうか。

その理由の一つは、人間の認識力の問題です。野口(1996)は、「Magic Number of Three」という概念について述べ、「3」という数字が人間が無意識に扱うことのできる最大の数であるとしています。つまり、1、2、3 までは無意識に識別できても、それ以上は「いっぱい」になってしまいうということです。4以上は途端に取り扱いが面倒になります。

この考えからいくと、理想的なタグの数は「3」ということになります。実際、PoIC の始めの頃は、記録・発見・GTD の3つしかありませんでした。しかし、一つの記録カードでは、「私自身の記録」と「他の誰かの記録」を区別するのが難しいことに気付きました。そこで、「他の誰かの記録」を表す4番目の参照カードが生まれました。

タグを4つしか使わないもう一つの理由は、もっと実際的な問題です。あまり多くのタグを使うと、タグを付ける時に、カードの端から数えていくのがとても面倒になります。3つまでは、ほぼ無意識に、ブロックを数えることなく、一瞬にしてタグを付けることができます。4つめになると、端から1、2、3、4と数えていくことになります。10個のタグを使ったら、タグを付けるだけで5秒は掛かるでしょう。たった5秒でも、それが毎回蓄積すると、やがて心理的な抵抗になり、カードシステムを止めてしまう原因になります。

PoIC のカードの「4」種類というのは、必要にして十分、最小にして最大の数なのです。

タイトル

タイトルは、短く、かつ本文の内容を適切に反映したものを付けます。こうすることで、カードを繰る作業が容易かつスピーディーになります。タイトルは、上から3段目のブロックに書かれます。

タイトルは、ダイナミックで注意を引くような表現を心掛けます。例えば、板坂(1973)は、タイトルには名詞文よりは動詞文を使うことを推奨しています(p. 92)。

参照カードの場合、引用文をそのままタイトルにするよりも、それに対して私たちがどう感じか、考えたかを表現します。これが、引用文に対する私たちの解釈を与えることになります。

タイムスタンプ

タイムスタンプ用の時計。機能として日付・曜日・24時間表示があると大変便利。時計をカードに近いところに置くと、目の移動が少なく快適。

David Allen(2004)は、手で書いたもの全てに日付を入れる習慣を推奨しています(p. 108)。タイムスタンプは、自分の中の時間軸の中から記憶を呼び戻し、カードとカードの間の背景を浮かび上がらせます。ドックの中のカードをめくっている時、タイムスタンプを見ると、「この時はこういうカードを書いた」と記憶が蘇ってきます。それが確実に自分の書いたカードだからです。

タイムスタンプは、カードの右上に以下の形式で書きます。

2007.01.20 Sun
  13:49

タイムスタンプは、個人の生産性において「自分の歴史」に関する重要な情報を含んでいます。こういう重要な情報ですから、カードの下の方ではなく、必ずヘッダ部分に書くようにします。

曜日も入れる

曜日に関する情報も重要です。なぜなら、私たちの生活は、一週間を単位としたシステムをもとに動いているからです。「先週の日曜日に何をしたか」と考える方が、「2006年11月19日に何をしたか」と考えるよりも楽です。

カードのタイムスタンプに、ゴム製のスタンプを使うことも考えられます。しかし、残念ながら、私は曜日まで含めたスタンプをいままで見たことがありません。また、スタンプを使うことは、カードを書き続けることを一時的に中断します。ペンを手から離し、スタンプを押し、またペンを手にするのは面倒です。手書きで書く方が、スタンプを使うよりも簡単で迅速です。

絶対参照名

PoIC では、タイムスタンプにはもう一つ大きな意味があります。タイムスタンプが、そのカードの「絶対参照名」を与えます。この一枚一枚のカードに固有の名前は、カード間でリンクを張る時に使われます。タイムスタンプに、日付だけでなく、時刻まで含めるのはこのためです。

カードのタイムスタンプは、絶対参照名を定義するために、唯一である必要があります。しかし、必ずしも正確である必要はありません。例えば、あるカードを書いて、次のカードに進んだ時に、そのカードの時刻は前のカードの時刻+1分であっても良いのです。こうすることで、カードを書いている間に、何度も時計を見る必要は無くなります。

このタイムスタンプによる絶対参照名の定義の仕方は、2ちゃんねるの「情報カードについて語るスレ」において初めて紹介されました。

ボディ

発見カードの例(拡大する

カードの上辺から4行目以下は、ボディ(本文)となります。文字数にして120字程度の文章が書けます。

一つのトピックに対して、一つのカードを使うようにします。カードの再利用性を考えて、一枚のカードにあまり内容を詰め込み過ぎないようにします。

本文の書き方に関しては、書いているうちに自分のスタイルを確立していくことでしょう。私の場合、まず本分を「起」「承」「転」の順で書き、「結」をタイトルにするとスムーズに書けます。こうすると、レビューの時にタイトルを見るだけで、そのカードの言わんとしていることをすぐに把握できます。また、タイトルを先に書くと良く起こる、本文とタイトルが食い違う、という事態を避けられます。

裏側は使わない

ほとんどの場合、一つの項目は一枚のカードの中に収めることができます。もし一つにおさまらない場合は、続きをもう一枚のカードに書き、タイトルに1/2、2/2 のように連番を付けておきます (梅棹、1969、p.p. 55-57)。

カードの裏側は使わないようにします。こうすることで、カードをめくって裏側を見る面倒がいっさいなくなります。これは、ドックのカードを繰る時だけでなく、ブレインストーミングの時にも重要になります。カードをめくる、という行為は意外に面倒です。また、裏側に何か書いてあっても、書いてあることを忘れてしまいがちです。

書きながら考えていると、結論は本文の最後に来る傾向があります。重要な内容が裏側に書いてあり、しかもそれを見逃してしまう、ということは致命的です。裏側を使わないのはこういう心配事を避けるために他なりません。

手書きの絵を含める

めだまちゃん。カードの中に現れる、自分の分身。

アナログ・メディアである紙を使う大きな利点は、絵を自由に素早く描けるということです。そして、これこそが、私がデジタルの世界からアナログの世界に戻ってきた大きな理由の一つです。発見を重視する PoIC では、この要素は大切です。

実際、パソコンで絵を描こうとすると、途端に面倒になります。ペンとカードでは10秒で描ける絵が、Adobe Illustrator を使うと、2分以上も掛かってしまいます。簡単な絵を描くのに時間が掛かっていたのでは、考えていたアイディアも吹き飛んでしまいます。また、パソコンを使って下手な絵を描くというのも、なかなか抵抗のあるものです。良く使う絵は、デジタルでテンプレート化しておくという手もあります。しかし、ゆくゆくはテンプレートにない絵は描かない、すなわち、思考がテンプレートによって制約を受けるという状況に陥ります。ペンタブレットをいつも持ち歩くのも、現実的ではありません。

アイディアを捕まえている時には、多少汚くても分かり易く、かつ速いフリーハンドの絵が一番です。カードに絵を書き込むことで、カードの内容を視覚的に捕らえることができます。たとえ小さな絵でも、本文を読むよりも的確に内容を把握できることがよくあります。言葉ではなく絵で表現することで、自分自身の理解を深めることにもなります。

めだまちゃん

ここで、私の書くカードに頻繁に現れる、お友達を紹介します。彼(彼女?)の名前は「めだまちゃん」と言います。めだまちゃんは、カードの中で私の代わりに考え、発言し、行動します。カードを書いたり、布団に入って眠ったりもします。発見カードに良く出没します。GTD カードはあまり好きではないようです。たいていは横向きで、たまに手が出てきます。二人、三人と増えることもあります。めだまちゃんのモデルは、私が中学生の時の理科の先生が「観測者」の絵として使ってた「目」です。 それが目玉になった後、体と足が生えて、現在のめだまちゃんになりました。長いまつ毛がチャームポイントです。

このようなお友達が一人いると、カードを書くのが断然楽しくなります。ぜひ使ってみて下さい。

リンク

タイムスタンプで定義する絶対参照名を使うことで、カードだけに限らず、いろいろなファイルの間で、一貫した方法でリンクを張ることができます。リンクを張る時は、Ref. (Refer = 参照せよ)を使って以下のような形式で書きます。

Ref. : 2007.01.20 13:49

実際、私は自分の手で書いたもの、コピーしたもの、プリントしたものに、全てタイムスタンプを書き入れるようにしています。アプリケーションによっては、プリントした時に自動的にタイムスタンプが入るものもあります(例えば、Safari や Eudora)。

写真の例では、下のカードの中で、絶対参照名を使って、上のカードにリンクを張っています。

絶対参照名を使ったリンクの張り方。下のカードで、絶対参照名を使って上のカードにリンク(ref. 2006.7.16 18:06)を張っている。

省略ルールと相対参照名

私の経験からすると、リンクを張るのが多いのは、圧倒的に同じ日に書いたカード間です。その際に便利なのが、「省略ルール」です。

  • もし同じ日に書いたカードの間でリンクを張る時は、時刻だけでよい

このルールを使うと、同じ日に書いたカードの間では、年・月・日・曜日を省略して、次のような短い形式でリンクを張ることができます。

Ref. : 18:02

これは、絶対参照名に対する、相対参照名です。HTML の相対リンク、UNIX の ./ や ../ に相当します。

トラックバック

トラックバックは、Weblog の一つの特徴で、自分の記事がどこにリンクされたかを知る機能です。これをカードに使うというアイディアは、flickr での議論の中で生まれました(riclav 氏のコメント)。

トラックバックを実際に使うのは簡単です。リンクの張り方を逆向きにし、Ref. の変わりに T. B. (Track Back)を使います。私は、トラックバックを強調するために、赤色のペンを使っています。カードに赤い日付がたくさんあれば、そのカードはいろいろな所から参照されている、頼もしいカードであることを示しています。

デジタルファイルへのリンク

デジタルファイルに絶対参照名を付ける。

これは実験的ですが、私はデジタルファイルの名前にも絶対参照名を使っています。写真に示したのは、絶対参照名を UNIX のコマンドで作るハックです。Kevin Marsh さんは、"ymd" とタイプしただけで絶対参照名に展開してくれる Mac OS X のアプリケーション TextExpander を紹介してくれました。

デジタルファイルにも絶対参照名を使うと、カードの方では、次の形式でリンクを張ることができます。

Ref. : @PDF, 2006.11.02 18:02

ファイル形式を指定しておくと、自分の記憶を呼び戻す引きがねとなります。コンピューター上でこのファイルを探す時は、ファイル名に "PDF"、"20061102"、"1802" を含む項目で検索します。

逆に、デジタルファイルの中でカードにリンクを張ることも可能です。しかし、本来カードの情報は小さいので、そういう機会はありません。カードを再生産に使うと言う意味では、リンクを張るよりも、むしろデジタルファイルの方にその内容を書いてしまった方が良いです。

接頭詞

リンクを張る時は、これらの接頭詞(Prefix)を絶対参照名の前に書いておくと、どの資料を探せば良いか一目で分かります。

  • アナログ
    • カード(デフォルトなので接頭詞なし)
    • @Proj. Pap. : レポート用紙(オキナのプロジェクトペーパー)
    • @Pr. : プリントアウトした資料
    • @Cp. : コピーした資料
  • デジタル
    • @mail : Eメール
    • @iphoto : デジカメの写真(Apple の写真管理ソフト "iPhoto")
    • @PDF : PDF ファイル
    • @Word : Word ファイル
  • Web

外部リンク

仮想メモリとしての野帳

脳の機能の一部を外部記憶に頼ることで、脳を CPU・RAM として最適化する。

仮想メモリとは、OS がハードディスクを仮想的に RAM として使う技術です。これと同じように、PoIC では、野帳(ハードディスク)を脳(RAM)の延長として使います。野帳は、脳とカードの間をつなぐ一時的な記憶装置として働きます。

記憶力を補う

コクヨの測量野帳。

私が野帳を使って記録をまめに取るようになったのは、仕事で野外観測に行くようになってからです。

私の所属するグループには、いわゆる「公式の」野帳があります。観測機器一台につき、野帳1冊を割り当て、その器械の担当者が責任を持って携行し、記録を行います。通常、大きい器械1台 + 小さい器械2台を使用するので、3冊の野帳を使うことになります。観測が終わると、これらの野帳はグループの責任者の元で保管されます。つまり、最終的にはグループで共有する野帳です。

これでは、自分の思ったことが自由に書けません。そこで、公式の野帳とは別に、自分の野帳を肌身離さず持ち歩くようにしました。これが、今 PoIC で使っている野帳の始まりです。ちなみに、会社から支給される野帳は、表紙が布張りで、ペンホルダーが付いています。これが私には使いづらいので、自分でコクヨの測量野帳(セ-Y3)を購入し、さらに改造したものを使っています。

私が自分の野帳に全てを記録しようと思い立ったのは、

  • 私の記憶力の弱さを補うため
  • いくら他の人の記憶力が良いとしても、それは当てにならないため
  • 起きたことが重要かどうかは、その時点では判断できないため

という理由からです。記憶力の弱さは、まめに記録を取ることでいくらでも補うことができます。また、いかに記憶の良い人でも、それが何らかの記録として残っていないものは、全く当てにはならないし、してもいけません。人間の記憶は、自分の都合の良いように物事を解釈してしまうからです。自分の目で見、耳で聞き、肌で感じて野帳に書いたことだけが、自分の信頼できる情報です。

野帳を書く習慣の獲得

この観測期間中、身に起こったこと(記録)、気付いたこと(発見)、やるべきこと(GTD)を、朝起きてから眠るまで、時刻も含めて全て野帳に記録しました(この当時はまだ記録と参照を区別していなかったので、3種類しかなかった)。

私の場合、全ての情報を捕らえる習慣は、この1週間の練習で身に付いたものです。そして、それは今でも続いています。梅棹(1969)は、手帳をつける習慣を「獲得」し、「二十数年後のいまでも、きえることなくづづいている」と述べています(p. 22)。この習慣は、確かに訓練によって、誰にでも獲得できるもののようです。

アイディアや発見は、止めるものが何もないと、どんどん出てきます。野帳を使い始めると、「ひらめきすぎる」、「発見しすぎる」という経験をします。これは、今まで自分の脳にかけていたフィルタを外した反動です。キノコを一つ見つけると、ここにも、あそこにも、色んなところにキノコが見つかるのと同じです。

初めの1冊目の野帳は、練習のつもりで、使い倒します。あとでカードに写すことは考えず、身に起こったこと、思い浮かんだことは、文字通り「なんでも」書くようにします。まずは、脳の中のフィルターを外し、発見を楽しむところから始めましょう。

仮想メモリとしての野帳

野帳は、あくまでも脳とカードの間をつなぐ、中間的・一時的な記憶媒体です。野帳に記録する習慣が付いたところで、カードに書き写すようにします。パーツごとのカードにしておくことで、後の再利用性を高めます。

カードとの連携

1週間貯めた結果。野帳は、あくまでも一時的な記録媒体として使う。

PoIC における野帳とカードの使い分けは、コンピューターを使って例えると良く理解できます。

  • 脳 = CPU, RAM
  • 野帳 = 仮想メモリ(HDD)
  • カード + ドック = HDD

脳の中の記憶する機能(HDD)を外部に頼ることで、脳を発見すること・考えることに最適化します。野帳はあくまでも一時的な記録媒体(仮想メモリ)です。野帳の内容は、全てカードに写し、ドックに保存していきます(HDD)。カードへの書き出しはこまめに行い、野帳には溜めないようにします。私は、会社に行くまでに野帳に書いた分は朝の日記の後、昼食の散歩の時に浮かんだ分は昼食の後など、空いた時間にちょこちょこと写すようにしています。1週間分貯めてしまうと、一気に100枚近くのカードを書くことになり、写すのがとても大変になります。外出が多いと、この傾向が強くなります。なるべく時間を見つけてまめに写すようにします。

野帳は、最初からカードに書き写すことを前提に使っているため、内容は簡略的に書いておきます。こうして、カードに書き写す際の労力を少しでも減らしておきます。記憶を呼び戻す程度のキーワードであったり、ラフスケッチで十分です。カードに書く時に、キーワードやラフスケッチに圧縮した情報を展開します(Zip にして転送量を減らすイメージ)。

小さな GTD タスク(例えば○○を買う、など)は、野帳の上で処理すれば、必ずしも GTD カードに書いて残す必要はありません。作業記録として残しておきたい場合は、チェックボックスとタグを埋めた形の GTD カードとして書きます。

RAM を解放する

アイディアは、思い浮かんだ瞬間に、すぐに野帳に書き込むようにします。「後で書こう」と思っていると、覚えていることに労力を費やしてしまったり、時には忘れたりしてしまいます。歩いている時は、立ち止まってでも野帳に書き込みます。これは「仮想メモリにデータを書き込み、物理メモリ(RAM)を開放すること」に例えることができます。こうして、確実に記録を残した上で、安心して他のことを考えられます。

いつでも書く

私は気分転換も兼ねて、歩いて15〜20分ぐらいの距離のところに昼食に行きます。実際、一日中座っているよりも、散歩に出た方が、さまざまな発見や疑問に気付きます。あまり知らない道を歩いていると、新しい発見にとらわれてしまって、考え事ができません。歩きながら考え事をする時は、歩き慣れた道の方が良いです。

PoIC では、野帳を使って浮かんでくるアイディアを捕まえます。どんな小さなアイディア、発見も野帳に書き留めるようにします。野帳は、私たちの関心のアンテナ・レーダーにも例えることができます。

どこでも書く

野帳はいつも肌身離さず持ち歩きます。私は、いつもワイシャツの胸ポケットに野帳を入れておきます(ズボンの尻ポケットに入れておくと、湿気で表紙がふやけ、曲がってしまう)。そのため、私は胸ポケットのないシャツは着られません。普段は、この上にジャケットを羽織ります。

人込みの中でも、電車の中でも、布団の中でも、どこでも野帳を取り出して書きます。この光景は、端から見るとちょっと奇妙に見えるかもしれません。しかし、生産性を向上させるためと割り切って、堂々と野帳を書きます。立ちながら書く時は、野帳を開いて左手の手のひらの上に載せ、人さし指から小指までの四本指で野帳の上部をグッと掴むようにして持ちます。野帳は表紙が十分硬いので、これで安定してメモを取ることができます。

アイディアは、時と場所を選びません。車や電車に乗っていたり、新幹線や飛行機で移動している時の方にも、ポンポンと浮かんできます。こういった移動時にアイディアを捕まえる手段として、野帳は最適です。

野帳の書き方

野帳の書き方には、カードと同じ方法が適用できます。

  • 時系列:仕事・生活の別無く、起こった順・思い浮かんだ順に書いていきます
  • 4アイコン:内容に応じて、記録・発見・GTD・参照のアイコンを付けます。
  • タイムスタンプ:日付スタンプは、各ページの上部にゴムスタンプを使って押しています。時刻スタンプは、個人的な用途の場合は、あまり厳格である必要はありません。思い出した時に時計を見て書いておき、カードに書き写す際に、飛び飛びの時刻を埋めていきます。
野帳の書き方。Flickrの写真に細かいメモを付けてあります。

日付スタンプがきれいに押してあると、カードに移す時のモチベーションが格段に上がります。なるべくまめに、きれいに押すようにします。各トピックの横にある青ペンのチェックは、カードに書き写したことを表しています。

野帳は、カードに比べて面積が広いので、より自由に思考を表現できます。まだ固まっていないアイディアでも、思い浮かんだ時に、どんどん書き込みます。絵は、カードに描く時よりもラフに描けます。野帳は、下書き的な書き込みに向いています。野帳を書く時には、「まあいいや」、「あとで」はあり得ません。とにかく書いておいて、カードに書き写す段階で、内容を吟味します。

グラフィティ

携帯端末 Palm には、アルファベットを1〜2ストロークで書けるようにした「graffiti」という独自の入力方法があります。ペンを画面から離すことなく書けるので、慣れると素早く入力できます(日本語は、ローマ字入力をさらに漢字に変換する必要があるので、遅くなってしまう)。

私が野帳に書く字は、これを応用したものです。なるべく紙面からペンを離さないようにして書きます。きれいなものではありませんが、素早く書くことができます。きれいな字を書くことよりも、むしろ、アイディアを捕まえることの方に集中します。カードを書く時に、判読できる程度であれば良しとします。私は、眠る前に布団の中で思い浮かんだことを、電灯もなしに野帳に書くこともあります。暗闇の中で書いた字でも、朝になって見てみると、何とか読めるものです。野帳は一時的な記録媒体ですから、これで良いと考えています。

野帳の書き込みには、プラチナのプレスマンを使っています。その名の通り、記者(Press Man)が速記に使うシャープペンシルです。芯が0.9mmで太く、力を入れなくても、サラサラと書くことができます。カードと野帳では、紙質が違うので、ペンとシャープペンシルを使い分けます。シャープペンシルは、野帳の紙の上での滑りが大変良いです。ペンと違い、フタを取る必要がないので、すぐに書く体勢に入ることができます。

カレンダー

野帳に貼るカレンダーを自分で作る(拡大する

野帳の最後のページにカレンダーがあると便利です。野帳はだいたい1ヶ月で1冊使い切るので、今月±1ヶ月で、3ヶ月分のカレンダーがあれば十分です。自分でカレンダーを作る一番簡単な方法は、UNIX の cal コマンドを複数回使うことです。

% cal 02 2007 ; cal 03 2007 ; cal 04 2007

これで2007年2月〜4月までの3ヶ月分のカレンダーが縦に並んで出てきます。

これをテキストエディタにコピー&ペーストし、整形した後、プリントします。Mac OS X では、ターミナルのウィンドウをそのままプリント(command + P)します。あとは、切り取って、野帳の後ろのページに糊で貼り付けておきます。

もう一つの方法は、Dave Seah さんが作成した、"Compact Calendar" を使うものです。こちらは、見た目もきれいです。PDF ファイルがダウンロードできます。

カードを書く

カードを書く習慣を生活の中に実装します。カードを書き続けるのは難しいことでしょうか?そんなことはありません。ここでは、カードを書き続けるコツを伝授します。

日記から始める

日記から始める。

4カードのところで書いたように、PoIC の導入として一番簡単なのは、情報カードを使って日記を書くことです。

私が情報カードを使いはじめた頃、一番難しかったのは、いかにしてその日の最初のカードを書き始めるかでした。カードを前にして、「何を書こうか」と悩んでいるうちに時間だけがどんどん過ぎていきました。ひどい時には、一枚のカードも書けない時がありました。

しばらくして、これを克服するコツを発見しました。答えは単純で、「なんでもいいからとにかく書き始める」ということです。しかし、「なんでもいいから書く」という漠然とした目標には、ある種の抵抗を感じます。むしろ、「日記でも書こうか」と自分に言い聞かせると、すんなりと書き始められます。書くことがなくても、とにかくカードとペンを取り出すのが大切なようです。

カードの本文には、「晴れ」、「くもり」など、その日の天気から書き始めます。続いて、朝の出来事を記録します。例えば、「7:00に起床」、「朝ご飯はトースト、スクランブルエッグ、ベーコンにコーヒー2杯」、「8:30に出勤」など。このカードは記録カードになります。

結局、一日のカードの書き始めの引き金となるのは、フタを開けてみれば、その日の天気を表す2・3文字だけで良かったのです。これは単なる事象の記録ですから、「何を書こうか」と考える必要もありません。

雪崩式著述

雪崩式著述。

私は、会社の自分の席に着いてから日記を書き始めるようにしています。会社に向かう間に、電車の中でいろいろ考え事をしたり、駅から会社に向かって歩いている時に、何かを発見します。日記を書いていると、「そういえばこんなことも考えた」、「こんなものも見つけた」と思い出してきます。手を動かすことで記憶が蘇ってきます。

カードを使って日記を書き始めると、5x3 というサイズが日記を書くには小さいということにすぐ気が付きます。そこで、書ききれない部分を次のカードに書きます。最初の日記を書き終えたら、考えたこと・発見を、忘れないうちに、一つ一つの独立した発見カードに書いていきます。この発見カードを書いているうちにも、昨晩寝る前に考えたことや、朝起きてすぐに考えたことも思い出してきます。野帳にメモを残していたら、それもカードにします。

会社に着いてから初めの15〜30分はこうして過ごします。この時は、仕事だけでなく、生活に関すること、とりあえず頭の中に浮かんだことをすべてカードに書いていきます。こうして、記録カードから始め、次々と発見カードを書いていくことを、私は「雪崩式著述(Avalanche writing)」と呼んでいます。重要なのは、この雪崩を起こすのはちっぽけな石ころ(日記としての記録カード)でも十分であるということです。

このような習慣を続けていると、よい意味での「パブロフの犬」状態になります。会社でイスに座った途端に、すぐカードとペンを取り出して、記録カードを書き始めます。ここまで来ると、カードを書き始めるのに何の抵抗も感じなくなります。朝の段階で、一枚の記録カードと、平均5枚の発見カードを書いたとしても、一ヶ月で100枚以上のカードが、確実にドックに溜まっていきます。ドックを自分の書いたのカードで満たすことは、決して難しいことではありません。

PoIC の中の GTD

PoIC を導入したての頃は、GTD カードがたくさん出ます。これは、頭の中にくすぶっていたモヤモヤがカードという形で一気に放出されるからです。一つ一つのタスクをカードにしていくと、あまりの多さにビックリしてしまうかもしれません。これは、GTD を単体で導入した時でも起こることです。初めのころは、カードではなく、もっと大きな紙(例えばレポート用紙)を使った方が良いです。

しばらくして、GTD のコツを掴むと、中間の小タスクは頭の中で処理できるようになります。書き出すとしても、そのほとんどは、一時的な記憶媒体として使用する野帳で処理できます。また、過去の GTD カードを参照するという機会はあまりないので、野帳で処理済みのタスクをカードにして残しておく必要は、必ずしもありません。結果として、ドックの中に残る GTD カードは少なくなります。

PoIC は、長期の目標を達成するためのカード・システムです。その中で中心的な役割を果たすのは、発見カードと、それをサポートする記録カード・参照カードです。しかし、日々のタスクを地道に処理していくことも大切です。PoIC における GTD カードは、「やらなければならないこと」を素早く処理し、残った力と時間を「やりたいこと」に有効に使うための切り札と言えます。

朝のマインド・スイープ

GTD の用語の一つに、「マインド・スイープ(mind sweep)」というものがあります。頭の中・心の中にある「やらなければならないこと」、「モヤモヤ」を全て紙に履き出す(sweep)作業です。

毎朝、日記を書く段階で、気が付いたことを発見カードとして書きます。この時、その日にやるべきことも一緒に浮かんできます。これを GTD カードに書いておきます。これはその日に処理すべきカードとして、記録・発見カードとは別に仕分けておきます。そして、処理し終わったら、チェックボックスとタグを埋め、ドックに放り込みます。

本との付き合い方

本に直接線を引き、メモを書き込む。

本の読み方に関しては、様々な本が出ているので、それを参考にして、自分のスタイルを確立していくことでしょう。私は、読んだ本の内容を抜き出すのに、参照カードを使っています。これには、いろいろなメリットがあります。

  • 手で書くことにより、記憶を強化する
  • あとで見返した時に、記憶が強化される
  • 完全な記録としてドックの中に残る

参照カードの取り方

参照カードの取り方、頻度に関しては、個人に依るところが大きいでしょう。私にとって本を読むことは、「食べること」、「消化すること」と同じ意味ですから、どんどん線を引き、鉛筆で書き込みます。そのため、読みたい本は必ず買います。

本から参照カードを取るには、2種類のスタイルがあります。時と場合に応じて使い分けます。

  • 読書の最中:読書を中断しますが、カードを書いている間、そのトピックに関して考える時間ができます。技術書や教科書などの難しめの本を読んでいる時に向いています。
  • '読書のあと:これは読書を中断しません。趣味の本などの軽めの本を読む時に向いています。

もちろん、この二つの中間も可能です。読書中にカードを取るけれども、一つの章を読み終わってから、など。このあたりは自分に都合の良い長さで調整します。読書の後にカードを取る場合は、本に鉛筆でコメントを残しておき、参照カードを書く時に、タイトルに使います。

本の著者の言っていることが理解できた時、それを自分の言葉で表すことができます。参照カードのタイトルには、内容をそのままタイトルにするのではなく、自分の言葉で表すようにします。一つの事柄を二つの表現(作者の表現、自分の表現)で表すことになり、より理解が深まります。ドックの中のカードをめくっている時には、自分の言葉で付けたタイトルの方が記憶を呼び戻しやすいです。

参考書・技術書などの難しめの本を読む時は、一日十枚以上の参照カードを書く時もあります。参照カードを書くのは、情報源(ソース)に関する記述が必要なため、他の3つのカードに比べて、多少労力が要ります。しかし、インプット無しのアウトプットはあり得ません。いつか自分の中で芽吹く時が来ると信じて参照カードを書きます。

記憶をフィルターにする

専門書を線を引きながら読むと、時には1ページのほとんどが線だらけになる、ということもしばしば起こります。これを全てカード化するのは、非常に骨の折れる作業です。そもそも本が手元にあるのだから、全てをカード化するのはあまり意味がありません。本当に必要であれば、いつでも本に戻って確認することができます。

そこで、線を引いたところの中から、さらに重要と思われるところだけを参照カードに書きます。この時、線を引いた部分が重要かどうかは、先に読み進んでみないと分かりません。読み進んで、章の最後に「まとめ」があったりもします。本を読んでしばらくして、また心に思い浮かんだところを、抜き出して参照カードにします。自分の記憶をフィルターとして使い、残ったところが自分にとって大切なところだと判断します。

線引き二回、最後に星

本を読む時は、まず黄色のダーマトグラフで線を引きます。一通り読み終わったら、今度は黄色で線を引いたところだけを流し読みし、ピンクのダーマトグラフで線を引いていきます。さらに、ピンクのダーマトグラフで線を引いたところで重要と思われるところの行頭に星マークを付けておきます。3回読むことで、重要と思われるところを絞り込みます。

本を見れば、星マークにすぐ辿り着くことができます。カードとして残しておきたい時は、参照カードとして書いておきます。

本から発見カードを書く

本を読んでいると、本の中の情報と自分の中の情報がリンクし、「分かった!」、「なるほど!」、「ああそうか!」と思う瞬間があります。こういう事柄を積極的に「発見カード」として残しておくべきです。しばらくしてカードを見直した時に、このような発見カードの方が記憶が強化されやすいです。

本を読みながら発見カードを書く時は、その発見の引き金となった情報源を、空いたスペースに必ず「Ref. : 」の形式で書いておくようにします。この発見カードは、自分の経験をベースにしているので再利用性が高いです。また、この発見カードが増えることは、本を読む・カードを取るという行為自体を楽しくしてくれます。

能動的にカードをくる

過去のカードから新しいカードを産む。

時系列スタック法では、PoIC の「3ない(分類しない・検索しない・時系列を更新しない)」について述べました。知的生産におけるカードの使い方に関して、梅棹(1969)は次のように強調しています。

「くりかえし強調するが、カードは分類することが重要なのではない。くりかえしくることがたいせつなのだ。いくつかとりだして、いろいろなくみあわせをつくる。それをくりかえせば、何万枚のカードでも、死蔵されることはない。」(P. 59)

ここでいう「くる」とは、カードをパラパラとめくり、いくつかを取りだし、組み合わせを作るという操作です。つまり、知的生産に使うカードは、何かの必要に駆られて「受動的にくる(検索・分類)」のではなく、むしろ、「能動的にくる」ベきであるということです。この二つは、外から見た時には、同じ「くる」行為ですが、やっている本人の心構えは全く違っています。

ブラウジング(拾い読み)

ウェブを閲覧する時に使うソフトを「ブラウザ」といいます。この私たちに馴染みの深い言葉には、元来、「草食動物が若葉を見つけてはムシャムシャ食む」という意味があります。私は、カードをパラパラとめくる行為には、「レビュー」といった堅苦しい言葉ではなく、むしろ「ブラウジング」という言葉の持つ、「食べ歩き」、「気ままさ」、「拾い読み」といったイメージの方が合うと思います。お茶やコーヒーを飲みながら、気ままにやるのが良いでしょう。

自分の好きな時・時間のある時にドックの中のパラパラとカードをめくります。カード一枚一枚にタイムスタンプを付けているので、「この時にはこういうことを書いた」と過去の記憶を思い出してきます。それは、タイムスタンプが自分の「歴史」に則したものだからです。時間が経過することで、カードの内容を客観的に見ることができます。それは、(肯定的な意味で)忘れているからです。

週末に面白そうなカードの写真を撮り、Flickr にアップロードする。

拾い読みをする中で、あるカードに対してコメントがあるときは、時間の経過が分かり易いように赤ペンで書き込みます。過去の自分(青ペン)と今の自分(赤ペン)の対話です。新しいアイディアが浮かんだ時は、それを新しいカードに書きます。新しく書いたカードは、時系列の一番先頭に放り込んでおきます。「超」整理法の時系列では、ファイルの順序そのものを更新します。PoIC ではカードの位置は保ったままで、アイディアを更新します。このような、小さな再生産を繰り返すことで、自分のアイディアの純度を高めていきます。

フラグを立てる

カードをめくっている時、一時的にカードを取り出して作業したいときがあります。例えば、何枚か抜き出して、新しいカードを書いたり、Blog の記事を書く時などです。2〜3枚なら良いですが、10枚以上にもなると、戻す時の面倒を考えて、取り出すのも億劫になります。

このような時は、抜き出すカードのすぐ後ろのカードを立てておきます。カードそのものを目印として使います。カードの右側を上げておくと、ちょうどタイムスタンプが見えます。カードを戻す時は、まず取り出したカードを手元で時系列に並べておき、フラグのカードのタイムスタンプと見比べながら戻していきます。

PoIC マニュアルの第一世代(Ver. 1.*)を書いていた頃は、週末に面白そうなカードをドックから拾い出し、それを元に記事を書いていました。また、デジカメで直接カードの写真を撮って、Flickr にアップロードし、Cardlog として公開していました。

カードの価値

カードや野帳には、どんなちっぽけなアイディアでも書くようにします。しかし、実際のところ、自分が書いているカードの価値って、どのぐらいなんだろうと考えることもあります。カードに書いた時点ではちっぽけなアイディアでも、後になって他のカードと組み合わせることで、新しい価値を生み出すものもあります。

私がいつも思うのは、カードの本当の価値は、書いた時点では判断できない、ということです。判断できるようになるのは、ある程度時間が経過してからです。例えば、今日の日経平均株価が高いのか、安いのか、それは数ヶ月先・数年先になってからしか判断できないのと同じです。ですから、PoIC では、カードを書いた時点で、そのカードに重要度(Priority)を付けることもしません。それが無理だからです。

現時点の私たちにできるのは、「どんなアイディアも、とりあえずカードに書いておく」ということだけです。そして、それが将来何らかの形で、必ず自分の役に立つと楽観的に考えることだけです。指針となるのは、自分の中の「ビジョン」です。それは、自分の目標であったり、どうしたいのか・どうなりたいのかといったことです。ビジョンは磁場のような働きをします。磁場は目には見えませんが、コンパス(カード)を置けば、必ず同じ方向を指します。

らせん階段を昇る

どんなちっぽけな事柄もカードにしていくと、必然的にカードの量は多くなります。カードの「質と量」の問題は、カードを書いていく上で、必ずぶつかる問題です。ドックの中のカードが1,000枚ぐらいになると、「本当に役に立つのかな」と不安になったりもします。

私たちの書くカードの質は、いつも同じレベルではなく、むしろ、書いていくごとに、徐々に向上していきます。同じフロアをぐるぐると回っているのではなく、らせん階段を一段一段昇っていくようなものです。「質より量」ではなく、「量とともに質も向上」です。だから、迷わずたくさん書きましょう。

少なくとも、カードを書くことで、らせん階段を下るということはありません。気分的に落ち込んでいる時でも、その状況をカードに書くこと、そしてそれを改善するにはどうすれば良いかをカードに書くことができます。これはちょうどマリノフ(2002)の P(問題発生)→E(感情)→A(分析) の過程です。これは、頭の中で考えるよりも、カードに書きながら考えた方が、必ずうまくいきます。そして、それは完全な記録として残るので、将来役に立ちます。

量を計る

アナログの「紙」を使うことで、カードの数そのものからも、役に立つ情報を抽出することができます。ここでは、一例として、私の家ドックの中のカードを使って、PoIC が私の生産性・創造性に与えた影響を見てみます。

アイディアを計る

重さを量って枚数を算出する。

私は会社と家に、2つの独立したドックシステム(会社ドックと家ドック)を持っています。会社ではファイルシステムも併用していて、システムが多少複雑なので、簡単のために家ドックで統計を取ります。5x3 方眼カードを本格的に使い始めた2006年2月以降のカードの数を数えます。

私の家ドックの中のカードのタグを見てみると、その 80 % 以上が発見カードです。カードの枚数はどのぐらいのアイディアが私の頭から出てきたかを反映しています。カードの枚数は私の創造性に比例していると考えることができます。

アイディアの「重さ」

ここでは、カードの重さを量ることで枚数を算出しました。これも一枚一枚がバラバラのカードだからこそできる裏技です。

  • はかりを使って、一カ月毎のカードの重さを量る。
  • それを一枚当たりの重さ 1.5 g (100枚で150 g)で割る。

頭の中のアイディアは目に見えません。しかし、カードを使って可視化・顕在化することで、アイディアは「重さ」を持つようになります。

統計とその解釈

2006年2月からの月ごとのカード数をグラフにしてみました。これを見ると、5x3 方眼カードを使い始めた2月には、一ヶ月で20枚しか書いていないことが分かります。これは、カードを使いはじめたから数が少ないという訳ではありません。私はこの半年も前に、カードシステムを導入しています。

面白いのは、その翌月にカードの数が一気に267枚/月にまで跳ね上がり、年間の最高記録を達成していることです。極小から極大へ。一体何が起きたのでしょうか。

2006年2月からの一カ月毎のカードの枚数。

PoIC メソッドの確立

個々のカードの内容を調べることで、2月から3月に掛けて起こったイベントを追跡することができます。

こうして見ると、現在の PoIC メソッドのほとんどが、この時点で確立されたことが分かります。中でも、ICP時系列スタック法を確立したのが最も重要です。カードの書き方を規格化し、時系列で蓄積することで、分類の煩雑さから物理的にも心理的にも開放されました。ボトルネックが解消され、これまで脳からのアウトプットを止めていたものが無くなりました。その結果、頭の中でくすぶっていたアイディアが、一気に放出されました。

カードの数は、日を追うごとに増えていきます。私自身、PoIC が本当に効果的で楽しいものだと気付きました。カードの内容を読んでみると、発見カードが圧倒的に多く、カードを書くのが楽しい様子がうかがえます。

2月から3月にかけての劇的な変化は、「適切な方法を導入したところ、アウトプットが増えた」という事実を示していました。

サブシステムの充実

4月、5月とカードの数が低迷しますが、それから8月にかけて、再びカードの数が増えていきます。この頃は、以下のようなイベントが続いています。

  • 野帳の導入(2006年5月)
  • icPod(Moleskine Memo Pockets)の導入(2006年7月)

これまで仕事で使っていた野帳を PoIC にも導入することで、どんな小さなアイディアでも捕まえるようになります。いつでも・どこでもアイディアも捕まえることが可能になりました。情報は最終的にカードに一元化して蓄積するので、結果としてカードの数は増えます。

また、icPod を導入することで、家・会社間でのカードの移動が容易になりました。icPod は PoIC を象徴するアイテムの一つとなります。

5月からのカードの増加は、アイディアをさらに効率良く捕獲・運搬するためのサブシステムを確保したことによるものです。

平衡点

1年のタイムスケールで見ると、カードの数の変動幅は、次第に小さくなっていくように見えます。年前半の激しい変動に比べて、年の後半では変動が緩やかになり、平衡点(約200枚/月)に達しているように見えます。書くカードの数の日差が小さくなり、毎日コンスタントに書いていることを表しています。カードを書く習慣が、1年ほどかけて、ようやく生活に定着したと言えます。

季節変化

カードの数の変動の原因として、もう一つ考えられるのは、季節的なものです。

私は、春から秋にかけて出張が多くなります。カレンダーを確認してみると、2006年9月は丸2週間出張に行っていました。こうなると、準備と後始末で、生活にかなりの擾乱が起こります。仕事のカードは増えますが、生活のカードはなかなか落ち着いて書けません。冬になると、相対的に机に向かっていることの方が多くなるので、空いた時間を利用して生活のカードも書くことができます。

ドックの中のカードの増加

カードの数の積算をグラフにしたのが下の図です。赤い線は、ドックの中のカードの増え方を表しています。これを見ると、家ドックの中のカードの数は、ほぼ一直線に増加していることがわかります。生活に関するカードの数は、2006年2月から12月までの11ヶ月間で計1,923枚(月平均で174枚、一日平均で約5.8枚)となりました。一日5枚程度のカードを書くことは、難しいことではありませんでした。ちっぽけな石ころ(記録カード)で雪崩を起こすだけで良かったのです。

カードの数の積算。

カードの積み重ね

2006年7月の時点で、ドックの中のカードは1,000枚を超えます。ドックの中のカードも、このぐらいの数になると、見栄えが良くなります。flickr で写真を公開したところ、大きな反響をいただきました。さらに、ブログで話題を提供することで、さまざまな意見・感想をいただきました。最初からあまり多くを期待せず、取りあえず毎日、地道にカードを積み重ねてきた、というのが良かったようです。これこそが PoIC(Pile of Index Cards = 情報カードの積み重ね)の力です。

ドックの中のエントロピー

カードを使って頭の中の考えを書き出すことは、頭の中のエントロピー(情報の乱雑さ)を、ドックに受け渡すことを意味します。頭とドックを一つの系として考えると、このなかでエントロピーはほぼ保存しています。カードを書くことで、頭に掛かる負担を減らし、ストレスから開放する。これが PoIC のミソです。

その一方で、ドックの中のエントロピーは日に日に増加していきます。ドックの中のカードが増えに増え、エントロピーが最高潮に達した時が再生産の時です。あるプロジェクトに関するカードを分類・検索し、タスクフォースを編成します。この再生産の過程を経ることで、ドックの中のエントロピーは一気に減少します。

「ミネルバのフクロウは黄昏に飛び立つ」という言葉があります。ミネルバとは、ローマ神話の知恵の神様で、フクロウはその使いです。この言葉にを PoIC 流に解釈すると、あたりが暗くなり始める黄昏どき(ドックのエントロピーが最高潮に達した時)になってようやく、フクロウ(再生産とその成果)がやってくる、といったところでしょうか。

再生産する

アイディアを可視化する。

一日5枚から10枚のペースで書いていくと、家ドックの中のカードは、8ヶ月後には2,000枚近くに膨れ上がります。始めの頃は単なる日記の延長だった PoIC が、この頃になると知識のデータベースとして機能するようになります。

データベースとしてのドック

人間の脳は、それ自体が情報の巨大なデータベースです。しかし、頭の中の情報は目に見えず、時間が経つと消えてしまうものもあります。どの情報が消え、どの情報が残っているかを目で確かめることはできません。

ここで重要なのは、データベースを「頭の外」に構築するということです。私たちは、情報をカードという形で可視化します。紙は、並べ替えたり、積み重ねたり、後から新しい情報を書き込んだりできます。何より、紙は忘れることがありません。これは完全な記録として残ります。

データマイニング

データマイニング」とは、データベースから新しい知識を生み出す一つの手法です。統計的・数学的手段を使い、データ(data)から鉱脈を探し出します(mining)。これにより、人間に特有の先入観から逃れ、「思わぬ発見」が生まれます。渡部(1976)は、化学者が長年蓄積したカードを使って推計学的な処理を行い、新しい接着剤を開発したエピソードを紹介しています(P. 126)。この推計学的処理とは、データマイニングのはしりでしょう。Fayyad et al. (1996) は、データマイニングの手法について詳しく述べています。「データマイニングの宝箱」には、データマイニングの基礎が分かり易く説明してあります。

378188030 43de03efe4.jpg


このデータマイニングの手法を PoIC 的に解釈したのが、上の図です。カードを書き、ドックの中に蓄積することは準備段階です。しかし、最初からデータベースを構築しようと気負うことはありません。毎日の記録や発見をカードにしていけばよいのです。楽しんで書いているうちにカードの数が増え、自然とデータベースができあがります。こうなれば、「新しい何かを生み出すこと」は、すぐそこです。ドックからカードを選り抜き、それに解釈を加え、新しい知識・成果を再生産します。

ドップダウン? ボトムアップ?

プロジェクトを遂行する上で、トップダウン(演繹的)と、ボトムアップ(帰納的)があります。この違いは、最初に目標(上の図のピラミッドの形)が具体的に分かっているかどうかです。PoIC では、最初に目標を決めて情報収集することも、目標が漠然としているけど、取りあえずカードを書いていくことも可能です。

このマニュアルに関して言えば、「完全に」ボトムアップです。最初は、マニュアルを書くことは想定していませんでした。漠然とした目標はありましたが、具体的に「マニュアルを書く」というものではありませんでした。ただ PoIC に関する日々の発見をカードに書いていっただけです。これは強制でも何でもなく、ただ楽しかったからです。これが、私が PoIC を楽観的生産性と考える所以です。

カードを書き始めてから、第一世代のマニュアルを書き始めるまで半年間、第二世代になると一年間掛かっています。重要なのは、マニュアルを書く段階になって初めて、自分がやってきたこと(PoIC に関するカードを書いてきたこと)の意味が理解できた、ということです。マニュアルにしようと思い立った時には、すでに素材がそこにありました。

玉石混交

私のドックの中のカードは、全てが宝石のようなカードばかりでは決してありません。もちろんキラリと輝くものもありますが、全てがそうであるとは思ったこともありません。むしろ石ころのようなカードもたくさんあります。しかし、データベースの観点から言えば、これが良いのです。

例えば、数個の石を組み合わせることで、新しい価値を産むことがあります。PoIC で目指すのは、私たち自身の考えや、身のまわりの出来事の間に隠れた「パターン」を見つけ出すことです。それ自身には価値のない記録カードでも、もしそれらの間にパターンを見いだすことができれば、それは新しい宝石(知恵・知識)となります。パターンを見つけようとするか、しないかは、私たち自身に掛かっています。

もう一つの例として、エジプトのピラミッドを見てみましょう。ピラミッドを構成するのは、単なる石です。しかし、そんな石でも、ある規格にしたがって大きさを揃え、数を集め、良く整理すれば、あのように偉大な建造物になることが可能になるのです。

逆に、もしドックの中が宝石で一杯だったとしましょう。これは、本当によい考えだけを選んでカードを書くことです。聞こえは良いですが、これは自分の中の考えを先入観というふるいに掛けて、選別していることを意味します。これは「全ての」アイディアを捕らえるのに成功していません。その時点はちっぽけな考えでも、後になって考えてみると正しかった、ということはよくあることです。

Steve Jobs(2005)は、人間は人生における出来事を、過去に向かってつないでいくことしかできないと述べています。ドックの中は、一見価値のないカード、ちっぽけなアイディアで一杯になります。しかし、自分の書いたカードの本当の価値を知ることができるのは、ずっと先のことです。だからこそ、どんなアイディア・出来事でもカードにして残しておきます。ドックの中のカードは、一枚たりとも捨てることはありません。私たちにできることは、将来なんらかの形で必ず役に立つと信じてカードを書き、ドックに蓄積しておくことだけです。

PoIC + データマイニング

データマイニングの例として、私が実際に石(ちっぽけな記録)を宝石(役に立つ知恵)に変えた話をしましょう。

私は、原因不明の偏頭痛に悩まされていました。この頭痛が起こると、孫悟空の金の輪っかがはめられたように脳が締めつけられ、仕事に集中できなくなるほどでした。しかし、その他の健康状態には全く問題ありませんでした。医者、会社の上司、同僚に相談してみましたが、原因は分かりませんでした。

私は、自分で原因を探るため、脳と精神に関する本を読みました。また、物理的に改善するため、水泳を始めました。しかし、頭痛に関してはなにも改善せず、進歩が見られたのは、脳に関する知識と、水泳の技術だけでした。

ある日、自分の書いたカード使って、頭痛の記録を追跡してみようと思いつきました。それまで、健康状態を日記として記録カードに残していました。頭痛がひどい時は、独立のカードに記録しています。これらをドックの中から選り抜きました。

私は、これらの記録カードの間に、あるパターンを見つけました。土曜日と日曜日には頭痛が起きたことがなかったのです。では、平日と土日では何が違うでしょうか。答えは簡単で、会社にいっているかいないかです。では、会社での対人関係が本当に精神的な問題を引き起こしているでしょうか。いいえ。むしろ逆に、頭痛が引きがねとなって、憂鬱になっているようです。

物理的にも、精神的にも問題はありません。では、他にどういう原因が考えられるでしょうか。食べ物や飲み物はどうでしょうか。食べ物に関しては、会社でも家でもそれほど違っているとは思えません。私は、オフィスでも自分の部屋でも、コーヒーやお茶をよく飲みます。しかし、コーヒーも紅茶も、銘柄は同じです。では、水自体はどうでしょう。水?しかし、水質って場所によってそんなに変わるものでしょうか。

次の日、自分でも半信半疑のまま、とにかくそれを実行に移しました。会社で水を飲まないようにしたのです。その結果は明白でした。その日は頭痛が起きなかったのです。確認のため、その次の日も試してみました。やぱり頭痛は起きません。こうして、ようやく頭痛の原因が判明しました。私の偏頭痛の原因は、会社の水でした。この発見以降、飲み水に気をつけるようになり、あの偏頭痛から開放されました。

これが判明してからも、この結果をすぐに信じることはできませんでした。場所によってそんなに水質が変わるとは思えません。しかし、これは常識による偏見です。そして、この常識のため、私は長い間水に関してはこれっぽっちも疑いませんでした。しかし、カードシステムだけは真実を知っていました。

PoIC + KJ 法

今度は、カードをたくさん使って、ピラミッドを作ってみます。例として、PoIC マニュアルを書く過程を見てみます。川喜田(1967)を参考に、これまで時系列で蓄積してきたカードを、机という2次元空間に広げ、考え、解釈を加えます。時系列スタック法の原則である3ない(検索しない・分類しない・時系列を更新しない)は、この段階でようやく登場します。

収集

これまで、頭の中の考え・身の回りの情報をカードにして蓄積してきました。アイディアを浮かんだ時点で捕まえているので、これは完全にストレス・フリーの状態でなされています。したがって、PoIC では収集の過程をスキップできます。

タスクフォースの編成

選択。左が PoIC マニュアルのタスクフォース(拡大する

ドックがカードで一杯になり、機が熟したところで、プロジェクトに関するカードを全て選り抜きます。これを渡部(1976)の言葉を借りて「タスクフォース(機動部隊)を編成する」と言います。

まず空の箱(もしくはドック)を用意します。ドックの中のカードを過去から現在に向かって走査し、用意した箱にプロジェクトに関するカードを全て抜き出していきます。

写真の中では、家ドックの中の約2,000枚のカードから、このマニュアルに関連したカードを、約600枚抜き出したところです。PoIC のマニュアル(Ver. 2.*)では、章建てがほぼ決まっていたので、空のドックに章ごとのパーティションを作っておきました。この段階では、抜き出したカードの前後関係について気にする必要はありませんが、おおまかなグループに分けておくと、次の作業が楽です。

グループ化

グループ化(拡大する

PoIC では、この段階で初めてカードを分類することになります。これまでは、時系列(時間軸)でカードを扱ってきましたが、ここからは、平面(空間軸)でカードを操作します。カードのタイムスタンプではなく、カードの内容に集中します。

タスクフォースの編成が終わると、ドックの中には章ごとの大きなグループができます。これを机の上に広げ、さらに小さなグループに分類していきます。

この段階では、カードとカードの間のパターンを探します。カードの数が多ければ多いほど、パターンは見つけやすくなります。カードを一枚一枚吟味し、似たような内容のカードが出てきたら、それを積み重ね(パイル)ていきます。なければ、新しい場所にどんどん置いていきます。それぞれのパイルが、後に文章にしたときの「節」に当たります。

検索しないことで、内容の似たカードが出てきます。それらのカードは同じパイルに集まります。似たような内容で表現が違うため、文章を書く時にいろいろな視点を与えてくれます。カードを眺めている間にも、新しいアイディアが浮かんできます。それを赤ペンで書き込んだり、改めて新しいカードに書きます。

5x3カードを使うと、カードを広げた時に場所を取ります。広い机の上や畳の上に広げてやると良いでしょう。

名付け

名前付け(拡大する

それぞれのパイルに名前を付けます。これは次の空間配置での分かり易さのためなので、短くて良いでしょう。

パイルの一番上のカードに大きめのポストイットを貼っていきます。ポストイットを使うのは、使用後に輪ゴム束ねた時に、区切りを分かりやすくするためです。各パイルを構成するカードの内容を吟味して、パイルの名前を決めます。

この段階では、各パイルの空間配置はまだランダムです。

空間配置

空間配置(拡大する

パイル間のパターンを見つけます。パイルに付けられた名前を元に、似たような内容のパイルを一ヶ所に配置していきます。

これまでランダムに並んでいたパイルの山が、この段階で整然と配置されていきます。混沌としていた情報に、秩序がもたらされます。グループ化した段階に比べて、エントロピー(情報の乱雑さ)が小さくなっていくのがよく分かります。

机の上にポストイットを貼り、パイルの集まりに名前を付けます。これが「章」に当たります。タスクフォースを編成する段階でおおまかな章に分けました。カードの内容に沿った章分けは、この段階で初めて決まります。

コンパイル

コンパイル(拡大する

書く準備が調いました。文章にしやすいように、パイルの中でも、カードの並べ替えを行います。

パイルを取りだしてカードを眺めながら、文章を書きます。パイルをまとめるので、コンパイル(com + pile)です。この段階で、ようやくパソコンが登場します。文章を書く時は、カードの一語一句をそのまま書くのではなく、パイルの印象・パターンを書いた方が、文章にまとまりが出やすいようです。必要に応じて、Illustrator などを使って絵を描きます。

章を書き終えたら、その章のカードを輪ゴムで束ね、タスクフォースのドックに入れておきます。ポストイットを貼っているので、グループがどこで区切られているかが分かります。必要な時にはいつでも取り出して机の上に展開することができます。

全ての文章を書き終えたところで、プロジェクト終了、「Get Things Done!」となります。タスクフォースに選ばれたカードはここで「お役御免」、「お疲れさまでした」となります。これらのカードは、もとの時系列に戻さず、別の場所に保存しておきます。このように、ドックの中のカードの数は、再生産のプロセスを経ることで減っていきます。

外部リンク

PoIC を通じて見えたこと

PoIC は、情報カードとドックを使った、極めてシンプルなシステムです。しかし、そこからは脳や情報に関する、とても興味深いものが色々と見えてきました。ここでは、カードを使った情報整理の経験を通じて、私が気付いたことを書いてみたいと思います。

発見について

脳の中のフィルターを外す。

4カードの中で一番面白く、かつ重要なカードは「発見カード」です。発見を効率良く捕獲する手段として、野帳も使いました。

脳の中のフィルター

日常生活における発見を考えると、脳は、入ってくる信号にフィルターを掛け、量を制限しているようです。

脳の中のフィルターの存在は、養老(2003)の中で指摘されています。このフィルターのはたらきは、y を脳への入力信号、a をフィルター、x を目からの入力信号として、次の簡単な式で表されます。

y = a x

いくら目からの入力信号(x)が大きいとしても、フィルターの除去効率が高ければ(a ~ 0)、脳への入力(y)は減ってしまいます。

例えば、私の家のソファーには、アフガニスタン産の敷き物が敷いてあります。長年使っているため、真ん中に約 20 cm の穴が空いています。しかし、普段生活している限りにおいて、私はこの穴の存在をほとんど気にすることはありません。しかし、もし私の友人が遊びにきて、この敷き物を見た時、その友人はビックリするかもしれません。私と友人の違いは、その穴を日常的に見ているかどうかです。私はその敷き物を日常的に見ているので、私の脳の方では「穴」という情報にフィルターを掛け、除外しています。自分の見慣れているモノは、目では見えていたとしても、脳の方では簡単に見えないことにできるのです。

キノコの法則

もう一つ、例を挙げてみます。森にキノコ狩りに行ったとします。初め、森に入ったばかりの時は、一面落ち葉ばっかりで、キノコなんてどこにも見当たりません。しかし、しばらくすると、キノコを一つ発見します。そうすると、今度は至るところにキノコが生えているのに気付きます。この間、もちろん森が急激に変化してキノコが一気に生えてきた訳ではありません。変化したのは目(もしくはその先の脳)が、キノコを探すのに最適化されたのです。一つ見つければ、いっぱい見つかる。この現象を、私は「キノコの法則」と呼んでいます。

脳の中のフィルターは外すことができる

脳の中のフィルターによって、目では見えていても、脳の方では見えていないことにできます。こうして、脳は入ってくる情報を制限し、インフレを防いでいるようです。しかし同時に、このフィルターによって、私たちが見慣れていると思っているもの、日常生活のすき間に隠れた面白いものも除外されています。

私の PoIC の経験から言えることは、「脳の中のフィルターは、簡単な訓練で外すことができるらしい」ということです。フィルターを外すと、いままでとは違う世界が見えてきます。至るところにキノコ(なにか面白いもの)が生えているのに気付くでしょう。

フィルターを外す訓練として一番簡単なのは、目に入ったものに対して、「なぜだろう?」と問い掛けることです。問いに対して、思いついたことを、思いついた時に、野帳やカードに「発見」として書いていきます。これはクイズ番組ではありませんから、時間制限はありません。すぐに答えを出す必要はありません。一つの問いに対して、答えを出すのに1年以上掛かることもあります。もちろん、人に聞いたり、本を調べたり、ウェブを調べたりすることは構いません。しかし、答えそのものよりもヒントを探すようにします。こうして、「自分の答え」を出すことができます。

自分で考える過程においては、ポリア(1954)や、マリノフ(2002)が役立つでしょう。

時系列について

PoIC では、全てのカードは時系列でスタックされます。これを時系列スタック法と呼びました。時系列による情報管理について言及したのはこれが初めてではなく、先鞭として「超」整理法(野口、1993)があります。ここでは、「超」整理法と PoIC の情報整理の違いについて考えてみます。

二種類の時系列

二種類の時系列。

Flickr やブログで、「PoIC の時系列スタック法は、「超」整理法と同じでしょう?」という質問を多く受けます。例えば、Edward 氏は、カード版の「超」整理法として PoIC を紹介しています。しかし、誤解を避けるために言えば、「超」整理法と PoIC の時系列は、似ているようで全く異なります。

「超」整理法 = 時系列 + 更新ルール

「超」整理法の時系列は、実は単純な時系列ではありません。まず初めに、ファイルを本棚に時系列で並べていきます。ここで、ある一つのファイルを取り出して使ったとします。ファイルを本棚に戻す時は、元の位置に戻すのではなく、常に右端(一番新しいファイルがある方)に入れていきます。したがって、ファイルを取り出し、戻すたびにシステムが更新されることになります。良く使われるファイルは、常に本棚の右側に駐在します。逆に、あまり使われないファイルは、時間とともに本棚の左側にスライドしていきます。

「超」整理法の時系列は「更新ルールのある時系列」です。この更新ルールがあることがファイルシステムをダイナミックにしてくれる一因です。

PoIC = 時系列

一方で、PoIC では、ドックの中から数枚のカードを取り出したとしても、一番手前ではなく元の位置に戻します。タスクフォースを編成し再生産が完了した時、使ったカードは他の場所に保管します。PoIC の時系列には更新ルールがありません。これが、「超」整理法の時系列と同じであると言えない理由です。

PoIC を構成しているのは、ファイルに比べて情報単位の小さいカードです。システムの中のカードの数は、容易に数千を超えます。したがって、「超」整理法型の更新ルールをそのまま適用し、秩序を保つのは困難です。「検索しない」ことが原則ですが、もし仮に検索する場合、タイムスタンプが検索キーとなります。更新ルールを導入して時系列を崩すことは、その検索キーをも失うことになります。

PoIC に一貫性と頑強さをもたらすのは、唯一、「純粋な時系列」だけです。

ファイルとカードの違い

「超」整理法型の更新ルールが PoIC ではうまくいかない理由。

「超」整理法と PoIC の時系列をもう少し詳しく見てみましょう。私自身、PoIC を使っていく中で、ファイルシステムでは上手くいく「超」整理法が、カードシステムではうまく働かないということは、経験的に知っていました。しかし、なぜそれが働かないのかを説明するのに、非常に苦労しました。Jeevs 氏が flickr に寄せたコメント を読んだ時、なぜそれが上手くいかないのか、ようやく分かりました。

「超」整理法では、システムに加わる新しいファイルの数は、個人の事情にも大きく依存しますが、日にせいぜい1〜2ファイルか、それ以下ではないでしょうか。加えて、封筒を使っていくつかのファイルをまとめ、システムの中のファイルの数を減らしています。システムからファイルを取り出す頻度は、システムに新しくファイルが加わる頻度よりも高いでしょう。これを式で表すと、次のようになります。

「超」整理法 : 新ファイルが加わる頻度 < レビューの頻度

一方で、PoIC では、カードは日に5〜10枚の単位で増えていきます。ファイルに比べて、カードは情報の単位が小さく、新しいカードがシステムに加わる頻度はもっと高くなります。また、何枚かのカードを束ねるということもしません。仮に、「超」整理法型の更新ルールを導入したとしても、新しく加わるカードの数が圧倒的に多いために、更新したカードは新しいカードの後ろにすぐに埋もれてしまいます。この状況を式で表すと、次のようになります。

PoIC:新カードが加わる頻度 >> レビューの頻度

この二つの式の違いは不等号の向きです。この違いがファイルシステムとカードシステムに大きな違いをもたらしています。時系列での更新は、"<" (または "=") の時だけうまく働きます。

PoIC のカギはタスクフォース編成

PoIC の目的は、更新ルールを導入することで、カードシステムを活性化することではありません。データベースを構築するのはまだ準備段階で、そこから何かを生み出すこと、再生産することが最終目的でした。

再生産の段階で、タスクフォースを編成する時、必要なカードはドックから全て抜き出されます。更新するとしないとに関わらず、タスクフォースに選ばれるカードは同じです。

これを簡単な例で見てみましょう。初めに二つのプロジェクト(a、b)がドックの中に混在し、カードが abaa の順番で並んでいるとします。途中で新しく aba という3枚のカードを加えます。最後に b のプロジェクトに関してタスクフォースを編成するという条件で、更新あり(「超」整理法型)となし(PoIC 型)の違いを見てみます。

更新あり:abaa -> baaa -> ababaaa -> bbaaaaa -> bb, aaaaa(計4ステップ)

更新なし:abaa -> abaabaa -> bb, aaaaa(計2ステップ)

結果は同じなのに、ステップ数は倍も違います。これは、タスクフォースを編成する(= 自分のアイディアを将来何らかの形で再利用する)ことを前提とすれば、「更新あり」の途中のステップは、全く意味がないということを示しています。つまり、アイディアは時系列で、順序を更新せずにどんどん蓄積していけば良いということになります。

情報とエントロピーについて

「エントロピー」とは、「情報の乱雑さ」を表す概念です。自然界では、エントロピーは時間とともに増えていきます。例えば、コップに入れた水に一滴のミルクをたらすと、ミルクは時間とともに拡散し、コップの中の「乱雑さ」は増していきます。放っておいても、元の水と一滴のミルクに戻ることは決してありません。私たちは、エントロピーの低い状態を「秩序」、エントロピーの高い状態を「混沌」と呼んでいます。

システムの中のエントロピー

ドックの中のカードは日に5〜10枚程度の単位で増加していきます。情報の単位が小さいカードであることと、時系列で種類の区別なくスタックしていくことで、ドックの中の情報の乱雑さは、時間とともに一方的に増えていきます。分類しないので、ドックの中のエントロピーが途中で減ることはありません。更新なしの状態(上の例では、abaabaa)は、更新ありの状態(同じく、bbaaaaa)に比べて乱雑さが大きく、エントロピーが高い状態です。

ファイルシステムのエントロピーについては、野口(1993)でも度々触れられています。「エントロピー」という考えは、情報整理を考える上で、避けて通れない話題のようです。ファイルシステムに比べて、1つ1つの情報量が小さいカードシステムのエントロピーの増え方はさらに急激です。PoIC を使っていく上で、エントロピーの話題に敏感になるのは当然のことです。

エントロピーとサイクル

PoIC のエントロピーモデル。ドックの中のエントロピーはサイクルを繰り返す。

エントロピーという考え方を一度理解すると、それが自然界の様々なシステムの中に存在することに気が付きます。例えば、四季、生物の一生、遺伝、株式市場など。興味深いのは、これらのシステムの中で、エントロピーがサイクル(周期)を持って変動しているということです。

時が満ち、エントロピーが頂点に達すると、情報の乱雑さを下げようとする存在が現れます。ここではこの存在を「レギュレーター(調整者)」と呼ぶことにします。先の例で言うと、レギュレーターは冬、死、減数分裂、暴落です。これらはシステムのエントロピーが一方的に増え、インフレーションが起きるのを防いでいます。レギュレーターの出現は、一見ネガティブな出来事ですが、エントロピーという観点から見ると、システムの中での役割が良く理解できます。自然界は、極めて巧妙な手を使うものだと、つくづく感じさせられます。

私たちの目標は、カードを使って何かを成し遂げること(Get Things Done)です。PoIC におけるレギュレーターは、システムの死ではなく、あくまでも再生産に払われる私たちの「努力」です。知識・知恵の使者は、決して朝イチにやって来るのではないようです。ドックの中のカードが増えに増え、心理的に「本当にまとまるのか?」と不安になり、エントロピーのインフレーションが起きそうなところで、ようやくフクロウが飛んできます。

カードが増える → エントロピーが増大 → 再生産 → カードが減る → エントロピーが減少

カードを使った知的生産に伴うエントロピーの増減をモデル化したのが、右上の図です。ドックの中のエントロピーは、数ヶ月から数年のスケールで、このようなサイクルを繰り返します。自然界のサイクルを考えると、カードを使った知識の生産過程は、自然な現象にも見えてきます。

環境エントロピー

「情報」という立場からすると、PoIC におけるシステムとしての最小単位は、「脳」と「ドック」です。脳の中の情報は、野帳とカードを介してドックに受け渡されます。脳の中のエントロピーが高いと、人はストレスを感じたり不安になります。そこで、紙に書き渡すことで、脳の中のエントロピーを減らします。その代わり、ドックの中のエントロピーは確実に増加していきます。脳とドックを一つと考えると、その中でエントロピーはほぼ保存しています(ただし、人間の脳は「忘れる」ので、完全には保存しない)。

この最小単位の一つ上の層として、「作業環境」を含めたシステムを考えることができます。生産性の観点から見ると、作業環境まで含めたシステムの方が、私にはより自然に見えます。

机の上にモノを散らかしていると、集中力が散漫になってしまいます。あれもこれもと、いろいろなものに手を出す一方で、あとで気付くと何もできていないこともあります。私が常に机の上をきれいにしておくのは、私が几帳面だからではなく、むしろそうしないと仕事が進まないと自覚しているからです。私は、個人的には、常にカードを机の上に散乱させておくことには、あまり賛成できません。カードは、普段はドックの中にしまっておきます。

エントロピーのホットスポット

逆に、エントロピーがゼロの状態で何かを生産するというのも、「無」から「有」を生み出すことを意味しますから、無理な話です。どうやら、生産性の向上を考える上で重要なのは「システムの中のどこかにエントロピーを集中させる」ということのようです。

モノが散乱した机の上は、それ自体が情報が乱雑な状態、つまりエントロピーが高い状態です。しかし、いくら机の上のエントロピーが高くても、集中力を散漫にさせるだけで、生み出されるものは多くはありません。散らかった机は、脳・ドック・机のシステムの中で、限られたエントロピーを消費してしまいます。一方で、脳の中の情報は、時間とともに散逸してしまいます。それは、脳には情報量を少なくする極めて重要な、「フィルターを掛ける」機能と「忘れる」機能があるためです。

そこで PoIC では、ドックの中でエントロピーを集中・極大化させていきます。

エントロピーは使う時だけ取り出す

脳の中の情報(アイディア)は、日頃からカードにして、ドックに渡しておきます。ドックの中のエントロピーが増大しても、ドックの注意力が散漫になったり、ドックがストレスを感じるということはありません。そして、機が熟したら、ドックからカードを選り抜きます。検索・分類により、ドックの中のエントロピーは一気に下がります。

つまり、普段はエントロピーをドックにしまっておき、使う時はエントロピーを下げてから再び自分の脳に読み込むということになります。

知的生産について

生産性を向上させる技術には、古今東西、様々な方法があります。ブレインストーミングKJ 法マインドマップGTD、そして、PoIC。ここに挙げた5つは全く異なる方法に見えます。しかし、これらの間には、ある共通点があるようです。

知的生産の共通点

ブログで「この5の方法の共通点は何?」という問を出したところ、次のような回答が寄せられました。

  • 脳(CPU)や心を自由にする。整理しない。
  • 全ての方法は(目には見えない)心の物理的な状態を表現している。
  • 一言で言うと「書くこと」。

皆さん大変良い点を突いています。私が用意していた答は、「この5つの方法はすべて PoIC エントロピーモデルで理解できる」ということでした。これらの方法は、共通して、頭の中の情報を外部(例えば紙)に書き出し、システムの中でエントロピーを増加させていきます。システムの規模は方法により異なります。そして、エントロピーがピークに達したと思われるところで、分類・整理・処理し、一気にエントロピーを減少させます。上記の5つの方法は、すべてこのようなサイクルを通じて、何かを生産・創造しています。

一つの同じ方法

では、なぜこれまでこれらの方法の共通性が見えなかったのでしょうか。それは、この5つの方法の間で、1サイクルが終わるまでに掛かる時間が違うためです。ブレインストーミングや KJ 法では、2時間程度で一つのサイクルが終わります。マインドマップは30分から1時間程度。GTD は、最小単位を2分(2分タスク)として、全てのタスクを処理し終わるまで数日、長くて数ヶ月。PoIC ではさらに長く、数ヶ月から数年に及ぶことも考えられます。

この5つの方法は、時間をパラメーターとした、一つの同じ方法とも言えます。使用する媒体をすべて統一して5x3 の情報カードを使えば、あとは時間というパラメーターの取り方一つで、KJ 法にも、GTD にも、マインドマップにもなります。ICPでカードを書いて、ドックに時系列でスタックしておけば、あとはどの方法にも利用できます。実際に PoIC と KJ 法を組み合わせた例は、「再生産する」の項で見た通りです。

デジタルとアナログ

PoIC を使っていく中で強く感じたことは、私にとってアナログの世界がとても心地良いということでした。この心地よさはどこから来るのでしょうか。

カードが増えることは幸せ

動物行動学者であるデズモンド・モリスは、「裸のサルの幸福論」(2005)の中で、いくら私たちの生活が近代化されたとしても、狩猟者(ハンター)としての本能は消えないと主張しています。現代の生活においては、食料とする動物を実際に自分の手で狩ることはほとんど無理です。そこで、人間は「代償行為」として、お金を稼いだり、本を買ったり、スポーツを楽しんだり、おもちゃを集めたりします。こうすることで、人間の脳の中に眠る野生の本能を慰めているようなのです。

このマニュアルの中で、アイディアを書き留めることを、「捕まえる」、「捕獲する」という言葉で表現してきました。また、アナログ・メディアであるカードは、書けば書いた分だけ手元に残ります。書いたカードには、厚み・重みがあります。めくったり、箱に入れた時の音を聞くこともできます。「量を計る」の項では、捕獲したアイディアの重さも量りました。

PoIC を面白くする一つの要素は、アイディアを捕まえたり、ドックが自分の書いたカードで満たされていくという、脳の原始的な部分を刺激する満足感なのかもしれません。

アナログの安心感

デジタルの世界では、電源を消してしまえば、ファイルは目の前からは消えてしまいます。一行しか書いていないファイルと、何万行も書いたファイルの外見は全く同じです。パソコン上の全てのファイルは、有るのに無い、すべて仮想現実のものです。私は、自分がパソコンで書いた文章は必ず紙にプリントし、ファイルしておきます。こうすることで、私の中に眠る本能の幾分かを満たしているのだと思います。

生産性を向上させる携帯端末としては Palm が理想に近いかもしれません。それでも、バッテリーの残量を気にしたり、落として壊さないように注意する必要があります。しかも重い。サイズはポケットサイズでも、重さはポケットサイズではありません。野帳のように、「いつでも・どこでも・どんな体勢でも」というのは、難しいのが現実です。また、デジタルのデータはすぐ消えてしまうという危うさもあります。必要なファイルをうっかり削除してしまったという経験は誰にでもあるでしょう。UNIX では、rm -rf * のコマンド一行で、数年分のファイルが一気に消えてしまいます。

ドックの中のカードは、私たちが物理的に捨てない限り、いつまでもそこに居てくれます。個人のシステムでは、こういう安心感が大切なのかもしれません。

「紙」の復権

私が PoIC を通じて感じたのは、生産性の向上、とくに個人の発見をうながすという意味においては、パソコンはあまり役に立たないということでした。これまで生活の中心にあったパソコンは、机のすみに追いやられ、私の作業環境の中心には紙が戻ってきました。机の上にはいつも十分な量のカードがあり、野帳は常に肌身離さず持ち歩いています。また、本が読みやすいように机の高さを変えたり、照明の明るさを考えたりもしています。PoIC を通じて、私の生活は確実に変わりつつあります。

文化の遺伝子

文化の遺伝子のらせん構造。

DNA(デオキシリボ核酸)は、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)の四種類の塩基を組み合わせることで、生物の遺伝情報を伝えます。

PoIC では、一枚一枚のカードに、4つのアイコンに対応したタグを付けます。この「4」という数字は、DNA の塩基の数と同じです。ドックの中に数百枚・数千枚のカードがたまった時、タグは一連のコードを形成します。そして、再生産の際にタスクフォースが編成されるさまは、まるで染色体の減数分裂のようです。これらの類推から、PoIC におけるドックは「文化の遺伝子」、一枚一枚のカードはその遺伝子を構成する情報と言えるのではないでしょうか。PoIC の本質も遺伝子と同じで、「情報を伝えること」にあります。

カードを書くことが、自分の「文化の遺伝子」のらせん構造を紡いでいくことだと考えると、なんだか楽しくなってきませんか?

まとめ

カードを使って何ができるのか。どうしたら効率良くアイディアを収集できるのか。どうしたらカードシステムを楽しく使えるか。PoIC は私自身の、カードを使った生産性向上の実験でもありました。

PoIC の定義

記録カード (See large size)

PoIC は 5x3 方眼カードドックを使った、極めてシンプルなカードシステムです

  • カードは、ICP規格で書かれます
  • 書かれたカードは、ドックと呼ばれる箱に時系列で保存されます
  • 機が熟したら、ドックからカードを選り抜き、知恵・知識の再生産を行います

新しい点

4 カード

4カードとは、次の4種類のカードのことです。

この中で、個人の生産性の向上を考える上で特に重要だと考えるのは、「発見カード」です。

時系列スタック法

ドックの中に時系列で保存されたカード。

PoIC では、書いたカードをドックに時系列で、書いた順番に貯めていきます。その際に大切なのは、以下の三点です。

  • 分類しない
  • 検索しない
  • 時系列を更新しない

これは、以下の立場を取るために可能となることです。

PoIC の時系列と「超」整理法(野口、1993)の時系列が異なるのは、以下の点です。

  • 更新ルールの有無
  • 情報の単位(ファイル v.s. カード)
  • システムのエントロピーの減少のさせ方(更新 v.s. タスクフォース編成)

その性質は、同じ時系列でも全く異なります。

カードの統計から分かること

統計とその解釈」では、家ドックのカードを使って、PoIC が私の生産性に与えた影響を見ました。そこで分かったのは、

  • 適切なシステム・メソッドを導入すれば、脳からのアウトプットは爆発的に増加する
  • 書くカードの量は、年間約2,000枚、日平均5〜10枚(実際にはこれに仕事のカードが加わる)
  • タスクフォースの編成に伴い、ドックの中のエントロピー(情報の乱雑さ)は、一気に減少する

エントロピー

KJ 法のグループ化の過程。まだエントロピーが高い状態。
KJ 法の編纂の過程。分類により、エントロピーが低くなった状態。

エントロピーとは、「情報の乱雑さ」を表す概念です。情報整理はこのエントロピーという観点から見ると、見通しが良くなります。

エントロピーは、

  • ドックの中のカードの増加とともに一方的に増えていく
  • タスクフォースの編成とその後の再生産に伴い、急激に減少する
  • 増加・減少には、サイクルがあり、一方的な情報の増加を防いでいる

これらを通じて、PoIC では、タスクフォースの編成とその後の再生産が、システムの崩壊を防ぐ重要なカギとなることが分かりました。

エントロピーのシステム

カードを使った個人の生産性を考える時、エントロピーのシステム(系)として考えられるのは、次の三つです。

  • 私たちの脳
  • ドック
  • 作業環境

エントロピーは、このシステムの中で、ほぼ一定です。人間の脳が一度に扱うことのできるエントロピーには限りがあります。それを超えると、脳は、入ってくる信号に意図的に「フィルターを掛け」たり、すでにある記憶(記録)を「忘れ」たりする。PoIC では、ドックの中でエントロピーを集中・極大化します。

生産性を向上させる上で大切なのは、以下の点です。

  • 作業環境のエントロピーはできるだけ下げておく(机の上をきれいにしておく、雑音を減らす etc.)
  • 脳の中のエントロピーを増加させる(例えば、読書、情報収集、禁欲など)
  • それをカードに書き出し、ドックに蓄積する(脳の中のエントロピーは減少し、ストレスは減る)
  • カードが十分貯まったところでタスクフォースを編成する
  • エントロピーを下げた状態で情報を脳に読み込み、処理する

アナログとデジタル

アナログの媒体である「紙」が得意とすることは、

  • 簡単な絵を素早く描くこと
  • いつでも・どこでも・どんな体勢でも情報を捕獲すること(野帳の使用)
  • 半永久的に記録が残ること
  • 書いたカードの量を眺めること、重さをはかること(無から有への変化)
  • カードを机の上に広げて、概観すること

これらが、私の個人的な生産性を向上させる上で、とっても心地が良かった。

一方で、デジタルにしかできないこともあります。

  • きれいな体裁(フォント、絵)
  • 瞬間的な分類・検索
  • 膨大なデータの保存
  • インターネットを使った情報の共有・交換

しかし、私が PoIC の経験を通じて気付いたのは、デジタルが得意とすることが、個人の生産性、特に発見を促すという意味においては、あまり意味がないということでした。

アナログの世界の心地よさ、自由さ、楽しさをもう一度見直してみませんか?

参考資料

このマニュアルを書く際にお世話になった資料たち。

書籍・文献

参考資料

カード五書

時系列による情報整理

脳生理学・認知心理学

問題解決のアプローチ

2ちゃんねる

文房具板

生活板

Flickr

Group

Photoset

Weblog