PoIC マニュアル v. 3.0

From PoIC
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Contents

はじめに

2006年7月から、私は情報カードを使った情報組織化の方法を、写真共有サイト Flickr において紹介してきました。このマニュアルは、写真だけでは伝えきれない、方法論の細部を補うために作られました。

このマニュアルについて

コレクトの情報カード 5x3 方眼(C-3532)(拡大する

このマニュアルでは、アナログ・メディアである情報カードを使って、自分のアイディアを蓄積し、それを生産性の向上につなげていく方法を紹介します。このシステムおよびメソッド(方法)を、簡単に "PoIC" (Pile of Index Cards: 情報カードの積み重ね) と呼びます。PoIC は、「デジタル世代の私たちが、アナログの情報カードを使って何ができるの?」という問に対する、一つの答えです。

このマニュアルの最初のバージョン(Ver. 1.0)は、英語で書かれました。それは、全世界の情報カードユーザーと情報交換をしたかったからです。私にとって、英語でマニュアルを書くことは、極めて難しい作業でした。この問題を克服するために、私自身、PoIC のシステムとメソッドを使いました。PoIC に関する全てのアイディアは、PoIC 自身を使って収集・蓄積され、再生産されたものです。

このマニュアルから、あなたの生産性を向上させる「何か」を見つけていただければ、とても光栄です。

PoIC の中の人 a.k.a Hawk Sugano

コメントと質問

PoIC に関する質問・コメント・提案・批判、なんでも歓迎いたします。下記までメールを送って下さい。

hawk(att)pileofindexcards.org

このサイトはリンクフリーです。以下の URI をご利用下さい。

http://pileofindexcards.org/wiki/

このマニュアルは、常に改訂中です。明らかな日本語のミスを見つけられた場合は、ウィンドウ上部の「edit」をクリックして、修正して下さい(ボット対策のため、要ログイン)。匿名で参加したい方は名無しアカウントをご利用下さい。

謝辞

情報カードシステムの構築に際して、1960年代から1970年代にかけて日本で書かれた、カードと生産性に関する本(梅棹氏、川喜田氏、渡部氏、板坂氏)から、多数のアイディアを取り込みました。これらの本は、デジタル世代の私たちにとってはもはや「古典的」と言えるかもしれません。当時は「Hipster PDA」や「Life Hack」なる言葉も存在しませんでした。しかし、これらの本の中には、生産性の向上に関する、普遍の知恵と知識にあふれています。カードを使ったタスクの処理に関しては、GTD(David Allen氏)からアイディアを得ました。また、時系列による情報整理は、「超」整理法(野口氏)を参考にしました。私は巨人たちの肩の上に乗り、ほんのちょっとだけ遠くが見えたに過ぎません。偉大な先人たちの偉業に敬意を表します。

Flickr における Josh DiMauro 氏、Dave Gray 氏(米国 XPLANE 社 CEO)、Edward Vielmetti 氏、Jamie Parks 氏、RJStew 氏との議論はこのマニュアルを書く上で、大変参考になりました。Thorsten von Plotho-Kettner 氏には、ブログを書くことを勧めていただきました。

Erik Luden 氏には、ブログ、サーバの運営、ドメインの取得、そして PoIC に関する非常に有用なアドバイスを受けました。現在のブログと Wiki は、彼のアドバイス無しにはあり得ません。Jeniffer 氏、Sarah 氏、Felix 氏、Abdulla 氏、Rick 氏、Jeevs 氏には、ブログの記事に関して有用なコメントをいただきました。Robert Brook 氏は、flickr の写真を Creative Commons にすることを勧めていただきました。彼のコメントは、PoIC のアイディアを世に広めるのにとても役立ちました。Leopard 氏、Gregkise 氏、John 氏、Ayalan 氏、David 氏、Alina Mikadze 氏、Kaj 氏、Picolin 氏には、世界の情報カードの違いに関する情報を寄せていただきました。エディターの皆さん、特に、Brussell8 氏、Bevo 氏、Spring 氏、Kt283 氏、Gen.erik 氏、Kewms 氏、Vogelap 氏、BoBraxton 氏、Priyadarshan 氏、Crux 氏、Wambold 氏、Pe 氏、Tom 氏、Mikail 氏には、私のつたない英語を直していただきました。どうもありがとうございました。

PoIC のアイディアのいくつかは、2ちゃんねる・文房具板の情報カードについて語るスレ 2現行3)の議論の中で生まれました。このスレッドの参加者の皆さんには、日本語化を進めるにあたって、あたたかい声援と、非常に有用なコメントを多数いただきました。この場を借りて感謝の意を表します。

このマニュアルの利用許諾契約

PoIC : 情報カードの積み重ね
Copyright (C) 2007, 2008 Hawk Sugano and others

このサイトにおける私の全ての著作物を、フリーソフトウェア財団発行の フリー文書利用許諾契約書 GNU FDL(バージョン1.2かそれ以降から一つを選択)が定める条件の下で複製、頒布、あるいは改変することを許可します。この契約書の元での利用に際しては、利用許諾契約書(このサイトのGNU Free Documentation Licenseセクション)を読み、必ずメールにてご一報下さい。

このサイトにおいて私が紹介する、情報カードの使い方に関する全てのアイディアは「フリー」の「ソフトウェア」です。あなたは、このソフトウェアをフリーソフトウェア財団発行の一般公衆利用許諾契約書 GNU GPL バージョン3(もしくは、希望によってはそれ以降のバージョンのうちどれか)の定める条件の下で、再頒布または改変することができます。この契約書の元での利用に際しては、 利用許諾契約書(このサイトのGNU General Public Licenseセクション)を読み、必ずメールにてご一報下さい。

私の Flickr アカウントにある全ての PoIC 関係の写真を、Creative Commons ライセンス(表示-非営利-改変禁止) の定める条件の下で再配布することを許可します。あなたは、営利目的でない限り、PoIC の写真をブログに使ったり、教育活動に使ったり、ハードディスクに保存したり、友人とシェアすることができます。このライセンスの元で写真を使用する限り、改めて私の許可を取る必要はありません。写真と一緒に、"PoIC の中の人"、"Hawkexpress"、または "Hawk Sugano" と明記して下さい。

外部リンク

PoIC とは?

近年、David Allen の提唱する GTD と相まって、デジタル世代の私たちにとっては、もはや時代遅れとも思えるような、情報カード(Index Cards)が人気を博しています。

情報カードの新時代

この情報カードの新時代へのブレイクスルーになったと考えられるのは、次の二つのイベントです。

この二つは、具体的なカードの使い方を示したものではなく、コンセプチュアルなものでした。しかし、アナログ回帰への方向性を示したものとして、極めて重要なイベントであったと考えられます。アナログ・メディアである「紙」が、このデジタル、ハイテクの時代の中で人気を回復しつつある事実は、私自身にとって興味深く、とても新鮮なことでした。

新しい風はアメリカからやってきました。一方で、日本には、梅棹(1969)を初めとして、情報カードと生産性に関するすぐれた本が豊富にあります。これらを融合し、デジタル世代の私たちにとって「何か新しいこと」、「何か面白いこと」はできないでしょうか?

PoIC のエッセンス

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このマニュアルで説明する Pile of Index Cards (PoIC) とは、私が構築した、情報カードを使った生産性向上のためのシステムと、それに付随するメソッド(方法論)を指します。

PoIC のエッセンスは極めてシンプルに表現できます。

  1. 頭の中のアイディア・身の回りの情報を、カードを使って収集する
  2. それを箱の中にすべて時系列で保存していく
  3. それをあとで利用し、新しい知恵・知識・成果の再生産を行う

PoIC の目的は、この3行を成し遂げるためのものに他なりません。

ストレス・フリー

PoIC では、全てのカードを、書いた順に「時系列」で蓄積していきます。この方法は、ストレス・フリーの状態でのアイディア・情報の蓄積を可能にします。私たちはこれから、プロジェクトに関連するすべてのアイディア・情報を捕らえることを試みます。そして、カードが十分に貯まったところで、箱から抜き出し、新しい知恵・知識・成果を再生産します。その時が来るまでは、検索・分類に煩わされず、情報収集に集中することができます。

常に情報を収集する習慣

David Allen (2002) は、たびたび情報を収集する習慣の偉大さ (Great Habit of Collection : GHC)について述べています。

"まだ収集していない情報を全て収集する。そうすると、気分が楽になります (You'll feel better collecting anything that you haven't collected yet)。" (p. 232)
"生産性の向上を実現させるには、(頭の中の)全ての情報を捕らえる必要がある (To fully realize that more productive place, you will need to capture it all)。" (p. 233)
"アイディア収集のプロセスをできるだけ完全に行うこと、新しいアイディアが浮かんだ時に捕まえる習慣を織り込むことで、あなたはより生産的になるでしょう (Doing the collection process as fully as you can, and then incorporating the behaviors of capturing all the new things as they emerge, will be empowering and productive)。" (p. 233)

この David Allen の提案をいかに実現するかを考えた時に、PoIC は一つの可能性を提示します。

チェックボックスだけでは足りない!

このマニュアルを読んでいる人の多くが、GTD について関心があり、私よりも良く理解していると思います。私の理解では、GTD の哲学は、頭の中のモヤモヤを紙に書き出し、大きなプロジェクトを細かいタスクに分解し、あるフローにしたがって機械的に処理していくことです。タスクが完了したら、リストから削除し、長期タスクはいつか/たぶん(Someday/Maybe)リストに放り込みます。

しかし、プロジェクトは、全て To Do タスクのチェックボックスだけで表現することができるのでしょうか。例えば、「車を買う」という個人の生活におけるプロジェクトがあるとします。GTD は、カタログをもらいに行く、展示場に行ってみる、といったタスクはカバーできても、どういう車に乗りたいのか、何色が良いのか、自分にはどういう車が向いているのか、他の車と比べて何が違うのか、という自分自身の小さな記録や発見をカバーできません。

Four Icons. Left to right : Record, Discovery, GTD, and Reference

まず自分が何をしたいのかを知ることが、何かを成し遂げるための第一歩です。そのためには、記録や発見も積極的に収集すべきです。PoIC では、これを実現する手段として、4カード(記録・発見・GTD・参照)を導入します。

全てのアイディアを捕らえる試み

短周期・長周期の波を同時に捕らえることで、背後に隠れるトレンドやパターンを探し出す(拡大する

私たちの頭の中の考えは、非常にランダムに見えます。例えば私の場合、何か一つのことを始めると、すぐに他の考えが浮かんできます。仕事に関して何か難しいことを考えているほんの数秒後に、「今日の夕食は何にしようかな?」などと考えていることは良くあります。

人間は、一度に一つのことしか考えられません。同時に複数のことを考えることのできるマルチ・タスクの人間はいません。頭に浮かぶランダムな事柄を、浮かんだ順に実行していたとしたら、一貫性のない行動となってしまいます。しかし、このような、一見ランダムに見える思考の背後には必ず長期的なトレンドやパターンが隠れています。

人間の思考や身の回りの出来事は、例えて言うならば、短周期の波(無秩序)と長周期の波(秩序)を足し合わせたようなものです。したがって、個人の生産性の向上を考えるとき、この二つの波を同時に捕らえることが重要になります。私はこれを実現するために、デジタル、アナログに関わらず、いろいろな方法を試してみました。そして最後に生き残ったのが、「紙」を使う方法でした。

PoIC では、頭の中の考え・身の回りの情報を、すべて 5x3 サイズの情報カードを使って捕らえます。バラバラのカードを使うことで、短周期・長周期の2つの波を同時に追跡し、生産性の向上につなげていきます。

カードシステムの構築

PoIC は、カードを使った生産性に関する本から様々な方法を取り込んだ、言わばハイブリッド・システムです。このシステムは、カードが増えるにしたがって、中・長期プロジェクトにおけるアイディアの貯蔵庫へと変化していきます。

シンプルなシステム

システムの中のカードの数は、日を追うごとに増え、すぐに数百枚・数千枚を超えるようになります。もしシステムが複雑ならば、すぐにコントロールを失い、破綻してしまいます。この傾向は、紙を使うアナログ・システムでは特に強いと言えるでしょう。

システムの中の情報の乱雑さ(エントロピー)は、時間と共に増えていきます。これは自然の摂理であり、どうしても避けられない問題です。そこでカギとなるのは、いかにしてシステムの中の情報整理にかかる労力を少なくし、余った力をアイディア収集に注ぎ込むかということです。

私は PoIC の中で、システムの崩壊をまねくような、いかなるルールも排除しました。他のシステムではうまく働いていたとしても、アナログ、カードという特有の状況から来る制約のために排除した機能もたくさんあります。例えば、「超」整理法型のシステム更新ルール(野口、1993)、デジタルが得意とする検索性・分類性、Mac OS のエイリアス(Windows のショートカット、Unix の ln)などです。このマニュアルを通じて証明したいことの一つは、これらを排除してもなお、知的生産は大いに可能であるということです。むしろ、これらを見切ることで活き活きとさえしてきます。

知的生産は一過性の流行ではありません。これからもずっと、それこそ一生続いていく活動です。そのような長い期間の使用に耐え得るには、結局のところ、Less is more、Simple is best という結論に辿り着きました。このシステムは、数年・数十年の単位で使い続けることを想定してデザインされています。ここでは、パソコンもプリンターもバッテリーも要りません。私たちに必要なのは、紙とペンと箱と、ちょっとした技術だけです。これ以上にシンプルなカードシステムは、存在しないかもしれません。

楽しいシステム

私は自分の好きなことを始めると、止められないという側面があります。良く言えば熱中性、悪く言えば中毒性です。このベクトルを、「消費すること」ではなく、なんとかして「生産すること」に向けることが、私自身の生産性を向上させる上で重要であることに気付きました。

これを実現する一つの簡単な方法は、自分で使っていて「楽しい」生産システムを構築することです。PoIC システムを構築するにあたり、私はいろいろな文房具を実際に買って試してみました。このカードシステムを楽しく使うためには、どういう文房具を使ったら良いかを考えることは、私にとって、とても楽しいことでした。そして、自分の大好きな文房具を使うからこそ、長続きします。

現在の PoIC システムを構成する文房具は、 私の試行錯誤の結果です。しかし、これらはあくまでも推奨であって、強制ではありません。カードの種類・サイズ、ペンの色などは、個人の用途と好みによるところが大きいでしょう。また、PoIC を使い続けていく中で、システムを構成する要素や、システムの役割が変化していくのは当然のことです。

一番大切なのは、私たちがこのシステムを楽しく使い続け、カードを書き続けることです。そこで、基本的なルール(4カード時系列スタック法など)を守った上で、あなたのお気に入りの文房具を積極的に使って下さい。このシステムの中心にいるのは、いつも私たち自身です。

Build for me

このマニュアルでは、カードシステムに関する、いろいろなコツ、裏技、ハックを紹介していきます。これらは全て、私が PoIC を使い続ける上で、いかにして楽しむかについて、あれこれと知恵を絞った結果です。PoIC は私自身のために構築したものです。しかし、そこからあなたの生産性の向上につながる「何か」を見つけていただければ、とても光栄です。

なにが新しいの?

PoIC は、1960年代から1970年代にかけて日本で書かれた、カードを使った個人の生産性向上に関する本(梅棹、川喜田、渡部、板坂)と、2000年代に入って書かれたGTD(David Allen)、さらにデジタル世代の経験を組み合わせたものです。

PoIC を楽しく、長く使い続けるために、私は以下の新しい機能を追加しました。

このカードシステムは、数年以上の単位で使い続けることを想定しています。機能を最小限に留めることで、システムを頑強にしています。

PoIC の在り方

PoIC は、「デジタル世代の私たちが、アナログの情報カードを使って何ができるの?」という問いに対する、一つの「実験」という側面があります。

そこで、このマニュアルでは再現性を重視します。ここで起こったことを追体験するには何が必要か(メインシステム他)、それをどう使うのか(4カード時系列スタック法カードを書く他)、その結果分かったこと(PoIC を通じて見えたこと)、そして参考にした資料が書かれています。

この結果を踏まえて、PoIC は生産的・建設的に乗り越えられるべきです。参考資料の後には、「あなたの PoIC」という白紙のページがあります。PoIC の一番最後のページに、新しいアイディアを書き加えるのは、あなたです。

メインシステム

カードを書く環境の実際。

PoIC を始めるには、コンピューターもプリンターも要りません。PoIC は、完全にアナログなシステムです。初めに必要なのは次の2つだけです。

  • 情報カード 5x3 方眼
  • カードボックス(ドック)

このシンプルさがシステムを頑強でパワフルなものにしています。箱はカードが入れば最初は何でも良いです。情報カードだけを準備するなら、初期投資は300円も掛かりません。これで私たちの生産性がグンと向上したら、とても面白いと思いませんか?

情報カード 5x3 方眼

コレクトの情報カード 5x3 方眼(C-3532)。100枚入り、税込み294円(2007年6月1日現在)。

情報カードは、5x3 サイズの「方眼(セクション)」を使います。

なぜ方眼を使うの?

情報カードの中で、日本で一番よく使われているのは、梅棹(1969)の影響で、横線だけの罫線カード(いわゆる京大式カード)かもしれません。

ここで方眼を使う理由は、文字や絵を描く時に、方眼の方がより自由な感じがするからです。方眼は、グリッドの間にも、上にも文字を書くことができます。その気になれば、縦書きもできます。罫線に比べてはるかに自由度が高いです。無地でも良いですが、方眼のグリッドをガイドにして書いた方が、格段にキレイです。

PoIC では、方眼カードの上辺に見えるグリッドが、タグを付ける時にとても重要になります。このタグは、方眼を使った時に一番きれいに書けます。数百枚・数千枚のカードをドックに入れた時、タグが一連の「コード」を構成します。私のブログの副題である「文化の遺伝子(cultural genetic code)」は、このコードが遺伝子のように見えるところから来ています。

自分に合ったサイズの決め方

ここでは、5x3 サイズを紹介しましたが、使用する情報カードのサイズは個人の好みと用途に大きく依存しています。大きさを決める時は、例えばレポート用紙や B6 情報カードなどの 5mm 方眼の紙を用意し、5x3(= 125 mm x 75 mm)、6x4(= 150 mm x 100 mm)、B6(= 183 mm x 129 mm)のサイズに切って、実際に書き込んでみます。実際に書くと、自分にあったサイズが分かります。サイズが決まったら、一パック買ってきて、実際に使ってみます。

ストックに関して

向こう6ヶ月分のストック。

一パック分のカードを書いてみて、「この大きさでよい」と決まったら、今度は一度にたくさん買ってストックしておきます。これは、PoIC ではカードをたくさん書くからということもありますが、書き損じたカードをどんどん捨てるためでもあります。たくさん買っておけば、手元にカードがどのくらい残っているか心配しなくても良くなります。カードの残量を気にしながら書くのは、バッテリーを気にしながらノートパソコンを使うようなものです。

梅棹忠夫氏は、「知的生産の技術」の中で、カードを使った情報組織術を紹介しています。この本の中で、カードのストックについては、次のように述べています。

「だいじなことは、カードをかく習慣を身につけることである。どうしたら、その習慣が身につくか。根気よくつとめるほかないのだが、たとえば、つぎのような方法はどうだろうか。それは、おもいきってカードを一万枚ぐらい発注するのである。一万枚のカードを目の前につみあげたら、もうあとへはひくわけにはゆくまい。覚悟もきまるし、闘志もわくというものだ。」(P. 64)

この驚くべき提案は、例えば野口悠紀雄氏の「超」整理法など、様々な生産性の本の中で引用されています。コレクトの情報カードは100枚で1.8cmですから、10,000枚積み上げたら、1.8mになります。これには大抵の人が怖じ気づいてしまうでしょう。個人のカードシステムで、これは実行するのは、なかなか難しいので、私は半年分として、一度に20パック(2,000枚)買うようにしています。

いずれにせよ、文房具をたくさん買ってストックしておくのは良い習慣です。私は、カードの他にも、測量野帳、水性ペン、クリアファイル、プロジェクトペーパー(レポート用紙)も、たくさん買ってストックしておきます。デジタルのオモチャに比べれば安いものです。

ドック

コレクトのカードボックス(C-153DF)。PoIC では、カードを入れる箱を「ドック」と呼ぶ。

カードを保存する箱は、最初は、どんなものでも良いです。紙箱、プラスチックの箱、木の箱、なんでも良いです。部屋を探すと、お菓子の箱などが見つかると思います。私も初めの頃は、100円ショップで買ってきたプラスチックのキッチントレイを使っていました。

カードが数百枚に増えてきたら、もうちょっと本格的な、大きいカードボックスを用意します。PoIC ではこれをドックと呼びます。それは、小さい船が埠頭(ドック)に入ってくるように、自分が書いた全てのカードがそこに集まってくるからです。

ドックの役割は、カードの数が増えるにしたがって、重要度を増していきます。言うまでもなく、カードはバラバラの状態ですから、その辺に適当に置いておくと、すぐに散逸してしまいます。全てのカードをドックに入れることを習慣付けることで、カードの紛失を防ぎます。

コレクトのカードボックス

右の写真は、私が家で使っているドックです。私はコレクトのカードボックス(C-153DF)を使っています。後のシステム拡張性を考えて、値段の手頃な MDF 製を選びました。これ一つで1,500枚(公称では1,000枚)の情報カードが入ります。コレクトのカードボックスには、カバーも付いてきます。しかし、中のカードがいつも見えるようにするために、普段は使いません。

私は、自宅に一つ(家ドック)、会社に一つ(会社ドック)、計二つのドックシステムを持っています。ドックは、家でも会社でも、机の上に堂々と置いています。私の作業環境では、他の人にドックの中をのぞき込まれるという心配が少ないからです。しかし、もし誰かに見られているとしたら、カードに正直なことは書けません。なんでも書いていいからこそ、いろいろなアイディアが出てきます。そのような場合には、ドックを机の引き出しの中に入れておくと良いでしょう。

ポケット一つ原則

野口(1993)は、「ポケット一つ原則」という考え方について述べています。もしポケットが一つしかなく、全てをそこに入れるのであれば、探すのはそのポケット一ヶ所だけで済みます。しかし、ポケットが二つ、三つとあったら、その全部を探さないといけなくなります。あとで探す労力を減らすのなら、ポケットは一つしか使わないのが賢明である、ということです。

ドックは、PoIC システムの中で、情報の貯蔵庫として働きます。私たちの書いたカードは、全てドックに集まってきます。「カードをどこにやったっけ?」といった類いの問題に悩まされることはありません。ドックの中を探せばそこに必ずあります。

しかし、ファイルやカードはいつも全て持ち歩けるわけではありませんから、アナログのシステムでは、この原則を完全に実践するのは難しいです。野口氏も、自宅と研究室に一つずつ、二つの独立なファイルシステムを持っていると述べています。いずれにせよ、ポケット(PoIC ではドックシステム)の数は少ない方が良いのは確かです。

人生そのもの

PoIC では、カードを使って生活を追跡していきます。ドックは、私たちが見たもの、考えたこと、発見したこと、やってみたこと、聞いたこと、読んだことで満たされていきます。これは、単なる日記以上のものです。いわば、私たちの人生そのものです。

Tips

  • 私は、以前は会社ドックを机の引き出しの中にしまっていましたが、今では机の上に置いています。やましいことを書いている訳ではないし、私の作業環境では、誰も中をのぞかない。それよりも、カードを書くには、ドックがいつも目に入っていることが重要らしい。Hawkexpress 19:04, 22 February 2008 (MST)
  • レザークラフトマンさんのドック。骨董品とのことで、味のある逸品。Hawkexpress 04:05, 28 February 2008 (MST)
  • ふぉくかふさんのドック。コレクト以外でもカードに合う箱があるんですね! :) Hawkexpress 04:09, 28 February 2008 (MST)

外部リンク

サブシステム

Transfer of cards in the PoIC

ここでは、さらに効率良く情報を収集するための道具を紹介します。一つ目は、測量野帳で、PoIC ではこれを一時的な記憶媒体(メモリ)として使います。もう一つは、モレスキンのメモポケットで、これを改造して、カードの持ち運びに使います(icPod)。

アイディア捕獲を昆虫採集に例えるなら、野帳は昆虫を捕まえる「アミ」、icPod は捕まえた虫を入れておく「カゴ」に当たります。チョウチョが目の前に現れた時にすぐ捕まえられるように、いつも備えておきます。

コクヨ 測量野帳

コクヨの測量野帳。ゴムバンドを自分で付けた。これだけの改造で野帳が格段に使いやすくなる。

測量野帳(field note、以下、簡単のため「野帳」)は、測量技師や野外科学者によって、長い間使われています。梅棹忠夫氏川喜田二郎氏は、ともに野外科学者(フィールド・サイエンティスト)であり、かつカードで生産性を上げる技術の本を書いています。彼らの本を読んでみると、この種の野帳を野外での研究活動の中で使っていたようです。

私自身、実際に仕事で野帳を使っています。この実経験を通じて、野帳は野外での研究活動だけでなく、個人的なアイディア捕獲メディアとして使えるのでは、ということに気付きました。

日本最大の文房具メーカーであるコクヨは、スケッチブック(3 mm 方眼)、レベルブック(測量用)、トランジット(これも測量用)の3種類の野帳を販売しています。私の知る限り、日本で野帳を売っているのは、コクヨだけのようです。3種類の中で、私はやはり方眼を使っています。コクヨの野帳はとてもシンプルなものです。私は、写真に示したように、自分でゴムバンドを付けて使っています(改造の手順)。

野帳の厚さは 8 mmですが、表紙の左右両端をグッと押すと背表紙が1cmぐらいまで広がります。ページの間にシャープペンシルを挟み、ゴムバンドでパチンとくくっておきます。こうすると、ちょうどシャープペンシルがしおりがわりになって、書き込むページをすぐ開けるようになります。

なぜ野帳を使うの?

コクヨ測量野帳(セ-Y3)。厚さ8 mm、80 ページ、80 g、3 mm 方眼。

頑丈さ:野帳は、もともと野外で使うことを前提に作られています。表紙が十分堅いので、どんな体勢でもメモを取ることができます。アイディアは、電車の中、ベッドの中、暗闇の中など、時と場所を選ばずに浮かんできます。しかし、カードを使いはじめると、いろいろな場面で、カードを書けない・書きづらいという場面に遭遇します。このような状況でアイディアを捕獲するメディアとして、野帳は最適です。

手頃な値段:コクヨの測量野帳は180円という手頃な値段にも関わらず、その品質は最高級です。私は野帳をコンピューターで言うところの「仮想メモリ」のように、一時的な記憶媒体として使っています。憶えておくべきこと、小さなアイディアをどんどん書き込みます。もし私の使う手帳が、1冊1,800円もしたら、こういう使い方は絶対にできません。高級なノートには、なにか素晴らしいことを書かないといけないような気がしてしまいます。しかし、そうして書いたアイディアがいつも素晴らしいわけではありません。むしろ、一見ちっぽけなアイディアの方が、後に重要になる場合が往々にしてあります。手帳は飾っておく「記念品」ではありません。手帳は毎日使ってこそ意味があります。野帳のこの手頃さは、私に「何を書いても良いんだ」という気分にしてくれます。穴を開けたり、ゴムバンドを付けたりと改造できるのも、この手頃な値段のおかげです。

Hipster PDA は使わないの?

Hipster PDA は、単に情報カードをクリップで留めただけのものです。名前の巧妙さと、手軽さから、最近人気を博しているようです。

PoIC は情報カードを使ったシステムですから、「どうして同じ情報カードを使う Hipster PDA は使わないの?」という質問はとても自然です。実際、私は野帳を使いはじめる前に、Hipster PDA を使ってみたことがあります。しかし、しばらくして気付いたのは、Hipster PDA は PoIC と全く互換性がないということでした。

その理由はいくつかあります。Hipster PDA は、

  • 情報カードを縦向きに使う:これは、カードをドックに保存する時に問題になります。また、横幅が狭過ぎて PoIC のカードの書き方には不向きです。逆に、Hipster PDA を横向きに使うのは、手にフィットしないのでとても書きづらい。
  • きれいな字が書けない:小さいカードを手に持った状態では、ペンを持つ手が安定しません。この状態できれいな字を書くのは難しいです。PoIC では、カードは後のデータベースを構成するデータとなります。そのため、視認性が良いようになるべくきれいな字で書いておきます。
  • 散逸しやすい:Hipster PDA は、クリップが外れると、すぐにカードがバラバラになってしまいます。また、小さいのでシャツのポケットにスッポリ収まってしまい、存在を忘れてしまいます。私は、そのまま洗濯してしまったこともあります。

PoIC と Hipster PDA を一緒に使おうとすると、様々なジレンマに直面します。一方で、野帳は、どんな体勢でも書くことができます。PoIC では、野帳を仮想メモリとして使うため、きれいな字を書く必要は最初からありません。また、一冊綴じなので、散逸してしまうこともありません。逆説的ではありますが、PoIC にはカードを使う Hipster PDA よりも、むしろ野帳の方が適しています。

Tips

モレスキン メモポケット(icPod)

モレスキンのメモポケットを改造した icPod。

私は、情報カードの持ち運びにモレスキンのメモポケットを使っています。PoIC では、GTD だけでなく、記録・発見・参照も取り込みます。多い時には、一日に書くカードが30枚を超えることもあります。カードをクリップで留めただけの Hipster PDA は、PoIC に向いているとは全く言えません。私たちに必要なのは、PDA のような「持ち運びのできる RAM」ではなく、むしろ iPod のような「持ち運びのできるハードディスク」です。

メモポケットで 5x3 カードを持ち歩くというアイディアは、Emory 氏によるものです。しかし、買ったままの状態では、ポケットが 5x3 サイズにぴったりすぎて、カードの出し入れにとても不便です。また、ポケットが深過ぎるので、中にどういうカードが入っているか見えません。

メモポケットの改造

これらの諸問題を解決するために、私はメモポケットを次のように改造しました(詳しい手順)。

  1. ポケットのアコーディオンを、谷折りから山折りにする。
  2. ポケットを、高さの半分だけ切り取ってしまう。
  3. 各ポケットに見出しカードを入れる。

メモポケットには6つのポケットがあります。奥の方から5つのポケットに月曜日〜金曜日、一番手前のポケットに Someday/Maybe と Next Action の見出しカードを入れます。そして、書いたカードは全て、見出しカードの手前に入れていきます。こうすると、最新のカードのヘッダ部分が目に入るようになります。

ドックとポッド

PoIC ではカードを入れる箱のことを "ドック" と呼んでいますから、モバイルのメモポケットを "ポッド" と呼ぶのは、私にとって自然な成り行きでした。Apple の携帯音楽プレイヤー iPod のコンセプトである「1000曲の音楽をポケットに」や、SF に出てくる「ポッド」と呼ばれる小さな宇宙船にも似ています。そこで、情報カード(Index Cards)用のポッド(Pod)ということで、固有名詞としては icPod と呼ぶことにします。

ドックの手前に icPod を置くと、その象徴的な意味が良く理解できます。据え置き型のドックと、持ち運び型のポッド。ドックの奥の方から手前のポッドに向かって、時間軸が過去から現在に、一直線に伸びているのが分かります。

どんなカードが入ってるの?

PoIC では、屋外でのアイディア捕獲には野帳を使います。icPod の中には、すでに書いたカードだけが入っています。屋外でもカードを書ける環境(例えば図書館や喫茶店)にいることが多いのであれば、カードも持ち歩きます。icPod には、計100枚程度の情報カードが入ります。

私は、会社では icPod を開いて机の上に置いておき、書き込んだカードを仕事・生活の区別なく放り込んでいきます。帰宅する時に、icPod をそのままパチンと閉じて鞄に入れ、自宅に持ち帰ります。週末に一週間分のカードを仕分けして、仕事のカードは会社ドックに、生活のカードは家ドックに入れます。この時に、一緒に、一週間分のカードをブラウジングします。

折り紙ポッド

A4用紙3枚で作る「折り紙ポッド」。

情報カードについて語るスレ2 >>476 氏は、紙を使ってポッドを自作されました。>>476氏のアイディアと、実際のメモポケットのアコーディオン折りを参考にして、誰でも作れる「折り紙ポッド」のテンプレートを作ってみました。必要なのは、A4 サイズの紙3枚です。簡易卓上ドックとしても使えますし、実際にメモポケットを icPod に改造する前に、その構造を理解しておくのにも良いでしょう。

作り方のポイントは、以下の3つです。

  • 折り畳み動作に耐え得る、厚手で柔らかい紙を選ぶこと
  • 折る前にカッターの先(刃を出さない状態)を使って折り癖を付けること
  • 強度を考えてノリではなくボンドを使うこと

折り紙ポッドは、折り紙を経験したことのある人であれば、誰でも簡単に作れるように設計してあります。拡大コピーすれば、大きなポッドを作ることも可能です。

作り方のコツは、Flickr の写真 icPod(英語+日本語)もしくはブログの記事 "OrigamiPod : icPod for Everyone"(英語)を参考にして下さい。

ダウンロード:折り紙ポッド テンプレート (PDF, 1.2 MB)

Tips

外部リンク

ガジェット

ここでは、PoIC システムを陰で支えるガジェット(道具たち)を紹介しましょう。

カード書き三点セット

ペン

(上)パイロットドローイングペン 0.5 mm (S-15DR5-L)

カードを描くのに適したペンを求めて、色々な種類のペンを実際に買って試してみました。鉛筆に始まり、ボールペン、水性顔料、そして油性染料。その中で、カードを書くのに必要なペンの機能は、以下の三点であることが分かりました。

  1. 視認性が高いこと
  2. 消えないこと
  3. 弱い筆圧でも書けること

私たちの書いたカードは、全てドックと呼ばれる箱に保存されていきます。ドックの中のカードを繰る時に、字が見えやすいということはとても大切です。また、PoIC は、長期間に渡って使うことを前提としています。カードの文字が消えてしまっては、その記録を失ってしまうことになります。三番目は、カードを何十枚書いても、手が疲れないようにするためです。物理的な労力は極力少なくしておきます。

コレクトの情報カードは表面がなめらかなので、そこに鉛筆で書くと、擦れた時に字がボケてしまいます。私は昔から字を濃く書く習慣があるので、ボールペンを使うとすぐに手が痛くなってしまいます。油性染料は、文字が太過ぎるし、臭いも気になります。最終的に残ったのは、水性顔料でした。

私がいま使っているのは、パイロットのドローイングペンです(S-15DR5-L)。このペンは製図用で、ペン先は十分強く、インクは耐水性です。筆跡幅 0.5 mm、目に優しい青いインクを使っています。

カードトレイ

カードトレイは手の届く範囲に置いておく。

新しいカードは、常に机の上に置いておきます。自然と目に入る場所、手の届く範囲に置いておくことがポイントです。

カードは、箱やトレイに入れておきます。私は以前、プラスチックの箱(コレクト CB-5332PE)を使っていました。しかし、新しいカードを縦にして置いておくと、とても取りづらく、これが心理的な抵抗となって、ゆくゆくはカードを書かないことにつながってしまいました。

カードをたくさん書く PoIC では、カードの取り出しやすさは重要です。この経験を踏まえて、PoIC のカード入れに対する要求は、以下のようになります。

  • 机の上においても場所を取らないもの
  • カードを横置き(pile)にするもの

私に必要なのは、「箱」ではなく「トレイ」でした。最適なカードトレイを求めて、文房具屋を渡り歩きましたが、なかなか見つかりません。ところがある日、文房具用品とは全く違うところでそれを発見しました。100円ショップのキッチンコーナーに売っていた料理用のプラスチックトレイです。3個で100円、サイズも 5x3 カードにピッタリでした。

マット

PoIC の特徴の一つであるタグを付ける時、どうしてもカードからペンがはみ出してしまいます。そこで、汚れても良いように、必ずマットを使います。私は、プラスチックの下敷きではなく、カッティングマットを使っています。サイズは 5x3 カードが4枚分ぐらいの大きさで、下敷きに比べて厚みがあります。緑色で、1cm x 1cm の方眼が入っています。Flickr に投稿するカードの写真を撮る時には、背景としても使います。

私の机の上には、ノートパソコン、本、ドック、カードトレイ、ファイルトレイ、ペン、スタンプなど、色々なものが置いてあります。マットを使うことでカードを書くスペースを確保します。マット、カードトレイ、ペンの3点セットを持っていけば、自分の部屋の机の上だけでなく、リビングの机の上、どこでもカードが書けます。出張の時には、カードだけでなく、マットも一緒に持っていきます。

タイムスタンプ

時計

時計が近いと、目の移動が少なく快適。

後ほど見るように、PoICのカードの書き方では、全てのカードにタイムスタンプを書き込みます。タイムスタンプに使う時計は、壁掛け時計、目覚まし時計、腕時計、パソコンのメニューバーの時計、腹時計など、なんでも良いです。

時計をカードを書く環境の近くに置いておくと、目の移動が少なく楽です。腕時計は、外して目の前に置いておくと良いです。アナログ時計の場合、時計の針を読んで、頭の中で4桁の数字(例えば15:58)に変換する必要があります。その意味では、タイムスタンプに使う時計としては、デジタル時計の方が幾分楽です。

私がいま使っているのは、カシオの電波時計 Wave Ceptor(DQD-230J)です。日付、曜日、24時間表示で、文字は大きくて視認性が高いです。その上、電波時計なので時刻も正確です。単三電池(x2)駆動で1年間持ちます。PoIC 用の時計としては申し分ありません。私は自宅用と会社用に2台購入しました。

スタンプ

野帳に使うスタンプ。

スタンプを使うと字がきれいなので視認性が高まります。私は野帳の日付にスタンプを使っています。このスタンプも100円ショップで購入しました。インクは、カードを書く時のペンの色に合わせて青を使っています。

手近にスタンプがある時に、野帳の各ページ上部にポンポンと日付を押していきます。一日に一・二回のペースです。野帳の日付がスタンプできれいに押してあると、カードへの転記もモチベーションが上がります。

Tips

ラベルプリンター

David Allen はラベルプリンターについて、「非常に重要なツールの一つ(surprisingly critical tools)」と述べています(Getting Things DONE, p. 93)。その理由はやはり「視認性」です。

私が使っているラベルプリンターは、キングジムのエントリーモデル TEPRA SR220 です。ラベルプリンターは以下の場面で使います。

  • ドックの月ごとの仕切り:9 mm 透明テープ
  • icPod の週ごとの仕切り:9 mm 透明テープ
  • 野帳のボリューム(何冊目か):12 mm 白テープ

手書きよりも、ラベルプリンターのきれいな字の方が、手を伸ばす(アクセスする)頻度が確実に高くなります。ラベルプリンターは、バインダーや文房具入れのラベルなど、色々な場面で役に立ちます。持っていて損はないでしょう。なにより、ラベルプリンターを使って、ラベルを作る作業自体が楽しいです。

SR220 は、電源アダプターがとても大きいので、電池を使います(単三電池x6)。実際の使用時間が短いのと、構造的に電池の消耗が少ないので、電池交換の頻度は半年に一度程度です。電源コードに束縛されないので、持ち運びにも便利です。

Tips

ダーマトグラフ

ダーマトグラフ。

‎ 私がダーマトグラフの存在を知ったのは、板坂(1973)梅棹(1969)を読んだ時です(梅棹(1969)ではデルマトグラフと表現)。

三菱鉛筆が、12色のダーマトグラフを販売しています。ダーマトグラフは、ロウの入った芯を、紙で巻いたものです。芯が短くなったら、ヒモを引っ張り、切れ目から紙をクルクルとむいて、新しい芯を出します。鉛筆削りは要りません。

ダーマトグラフは、本に線を引く時に使います。以前は鉛筆を使っていたのですが、黒一色で本を読むよりも、色を塗りながら読む方が断然楽しいことに気付きました(子供の頃のぬり絵と同じ)。色々な色を試してみて、一番良かったのは黄色とピンクでした。ピンクは、線の濃淡で重要度を表現することもできます。

ダーマトグラフは、買ったまま状態では長すぎるので、半分に切ってから使います。切った半分のうち、先端の方は、お尻のところで芯が露出します。このまま使っていると、芯が抜ける時があるので、ボンドを塗っておきます(乾くと透明になる)。

読んでいる本一冊に一本、しおり替わりに挟んでおきます(これは野帳とシャープペンシルの関係と同じ)。

外部リンク

4カード

ここからは、カードの使い方について説明していきます。まず初めに、私たちの頭の中の思考・身の回りの情報をより良く追跡するための、4種類のカード(記録、発見、GTD、参照)を導入します。私たちの内外の情報を表すには、この4種類だけで充分です。

記録カード

記録カード (拡大する)
  • アイコン :
  • タグ  : 左から二番目のブロック

タグとは、情報カードの上辺を一ブロック分塗りつぶしたものです。一番左はマージンとして使わず、二番目のブロックから始めます。詳しくは、後ほど「 PoIC 規格」で見ることにしましょう。

この記録カードは、私たちの身の回りの事実や現象を記録するのに使います。例えば、日記(生活、仕事、夢)、お金の収支、健康状態(体温・血圧・体重)、食事、天候(天気・気温・湿度)などが、この一番目の種類に属します。

日記から始めよう

PoIC をはじめるにあたって、一番簡単なのは、日記から始めることです。日記はこの記録カードに属します。私は一日のカードの書き始めを、日記から始めています。これが一日の単位でも、書きはじめるのに一番簡単な方法だからです。

カードを使って日記をつけていると、その中にはいくつかの「発見」が含まれていることに気が付きます。その時は、一つ一つの発見を、次に紹介する「発見カード」に展開します。

長期的なパターンを見つける

それぞれの記録カードは、単なる記録であり、一見すると役に立つ情報を含んでいないようにも見えます。時には、単に数字だけの場合もあります。アイコンが単なる円(ゼロ)なのは、これを象徴しています。

しかし、一見何の変哲もない記録カードは、長期的なパターンを見つける時に重要になります。しばらくあとになってから、記録カード上の数字をグラフ化した時にパターンが現れます。このようなパターンは、ある程度データが集まった時に初めて見えてきます。こうして見つけた長期的なパターンは、自分自身の記録に基づいた新しい発見・知識となります。記録カードが普通の日記やノートと大きく違うのは、1枚1枚がバラバラのパーツに分かれているということです。これにより、時間的・空間的に離れたカードの比較を容易にし、人間に特有の先入観を避けることができます。

発見カード

発見カード (拡大する)
  • アイコン : 電球 (ひらめき)
  • タグ  : 3番目のブロック

記録カードから得られる長期的なパターンの他に、私たちは一瞬にしてパターンを見つけることがあります。「分かった!」、「見つけた!」、「ああそうか!」という瞬間がそれです。このような直感的な発見は「発見カード」に属します。

私たちの頭・心から湧き出てくるものは、すべて発見カードに属します。例えば、生活・仕事のアイディア、発見、直感、理解、認識、ジョーク、詩、俳句などは、この二番目の種類に入ります。

発見を強化する

私自身の PoIC 経験から、4種類のカードの中で、この発見カードが一番楽しく、かつ重要であると言えます。発見カードは、私の書くカードの80 % 以上を占めます。

私たちの脳は、トレーニングによって発見を強化することができるようです。発見カードがドックの中で増えていき、次第に優勢になっていくのを見て、楽しくなるでしょう。なぜなら、これが自分の生活を基礎とした自分自身のアイディア、発見だからです。同時に、アイディアを収集・蓄積する手段がないとき、いかに多くのアイディアが忘却の彼方に消えていたかを見るでしょう。

なぜこれが楽しいの?

渡部昇一氏は、「知的生活の方法」 (1976) の中で、長い間理解できなかったものが理解できた瞬間、得も言われぬ幸福感を感じると述べています。彼はこの幸福感を「知的オルガスム」と表現しています。知的オルガスムにいたるには長い時間が掛かりますが、その幸福感は甚大なものです。また、最近の研究で、脳生理学者の茂木健一郎氏は、人間の脳が発見や「分かった!」という瞬間に、ある種の幸福を感じると主張しています。この時、脳の中の細胞は、0.1秒の単位で活性化されます。脳は、発見をすればするほど、幸せになり、さらなる発見を探そうとします。彼はこれを「アハ体験」と呼んでいます。

発見により幸福感を感じ、さらなる発見を促す。発見カードを導入することで、私たちの脳は、発見することに最適化されます。何よりも大切なのは、これらの発見が、他の誰のものでもなく、私たち自身の生活に基づいた発見だということです。そして、全ての発見は、信頼のおけるシステムの中で保存されます。問題解決への道は、蓄積された発見によってもたらされます。このような問題解決法は、完全に楽観的な方法と言えるでしょう。

PoIC をカスタマイズする

PoIC というシステムは、カスタマイズされて初めて、自分自身の PoIC になります。PoIC は汎用的ですから、百人いれば、百種類の使い方があって然るべきです。

PoIC のカスタマイズを考える道具として「発見カード」を使ってみましょう。PoIC を始めると、このシステムをどう使おうか、どんな文房具を使おうか、楽しいアイディアがたくさん浮かんできます。また、PoIC って何だろう?、こんな風に使ったらどうだろう?、カードを増やすにはどうしたら良いか?といった問いも浮かんでくるはずです。それを一枚一枚、発見カードに書いていきます。

目の前にある自分の PoIC システムについて、PoIC 自身を使って考えることは、自分の中から「発見が湧き出る」感覚をつかむのに最良です。しばらくすると、泉から水が湧き出るように、アイディアがとめどなく出てくるようになります。

GTD カード

GTD カード (拡大する)
  • アイコン : 四角 (チェックボックス)
  • タグ  : 4番目のブロック 最初に縁だけ書き込む

GTD とは、David Allen 氏が提唱するタスク処理システムです。GTD カードは、やるべきこと(To Do)を記述するカードです。

GTD って何?

GTD の詳細については、David Allen(2002)に譲るとして、ここでは本質的な部分だけを説明します。GTD の要点は、たった二つです。

  • 頭の中のモヤモヤを全て「紙」に書き出すこと
  • 大きいタスクを実行可能な小さいタスクに分解すること

例えば、部屋の電球が切れたとすると、「電球を買いに行く」というタスクが発生します。これを GTD では、電球のワット数・サイズを調べる、どこに行けば買えるか、いくらぐらいで買えるか、いつ買いに行くか、と細かく分解します。この作業を、頭の中ではなく紙に書き出すのがポイントです。PoIC では、この作業にカードと野帳を使います。

オープンループ

GTD カードのタグは最初は縁だけを書いておきます。これは、David Allen の言うところの「オープン・ループ(閉じていない輪 = 終わっていない仕事)」を意味します。タスクが終わった時に、チェックボックスにチェックを入れ、タグを塗りつぶしてはじめて「任務完了!(Get Thing Done!)」となります。

一枚の GTD カードに、いくつかの小タスクを含めても良いことにします。上述の例では、「電球を買いに行く」がカードのタイトルとなり、その下に小タスクが並びます。こうして、GTD カードの数を減らすと同時に、小タスクがバラバラになるのを防ぎます。全てのタスクが終わった時点で、カードのチェックボックスにチェックを入れ、タグを塗りつぶします。

Hipster PDA と icPod

私のドックの中の、GTD カードの数は全体の 5% 以下です。私の場合、GTD カードの数は、日に1〜2枚程度です。私はこれが、Hipster PDA と GTD の相性が良い理由だと考えています。従来の Hipster PDA + GTD では、情報は使い捨てで、完了したカードは保存しておく必要すらありません。

しかし、PoIC では、GTD 以外に、私たちのアイディア、身の回りの情報の全てをカードを使って捕まえます。カードの数は、クリップでは綴じられないくらい多くなることもあります。このような状況においては、モレスキンのメモポケットのようなカードホルダーがより便利です。「サブシステム」の項では、一例としてメモポケットを改造した icPod を紹介しました。

Tips

参照カード

参照カード (拡大する)
  • Icon : 帽子 (頭の上にある何か)
  • Tag  : 5番目のブロック

本・テレビ・ウェブからのことばの引用、料理のレシピなどがこの四番目に分類されます。これは、「自分以外の他の誰かのアイディア」を記すカードです。

このカードを書く時、そのタイトルは、私たち自身の言葉で付けるようにすると良いでしょう。他の人の言葉を、自分の言葉で表現できるということは、私たちがそのことをよく理解していることを意味します。

誰のアイディア?

参照カードを書く時は、記録/発見カードと明確に区別します。記録/発見カードは自分の中から出てきた情報です。一方で、参照カードは私たちの外側から入ってきた情報、つまり誰かさんのアイディアです。誰かのアイディアを、自分の記録・発見として書くことはできません。参照と記録/発見を明確に分けることは、相手の意見を尊重するだけでなく、自分自身のアイディアを守ることにもつながります。PoIC は個人のシステムですから、見栄を張ったり、ウソを書く必要はどこにもありません。知的生活の第一原則は「知的正直(インテレクチュアル・オネスティ)」です(渡部, 1976)。

情報のソースを忘れずに

もう一つ重要なことは、情報のソース(情報源)のない参照カードは全く利用価値が無いということです。本の場合、著者、本の名前、書かれた年、引用文があるページを記録するようにします。一つの本からたくさんの参照カードを書く時は、情報源の記録カードを作っておくと便利です。この記録カードに詳しい本の情報を書いておけば、各々の参照カードでは、著者、年、ページだけで済みます。この記録カードは本を読む時のしおりとしても使えます。

時系列スタック法

全てのカードをドックの中に時系列で保存していく。

PoIC では、「ドック」と呼ばれる箱の中に、全てのカードを書いた順に「時系列」で蓄積していきます。これを「時系列スタック法」と呼びます。時系列スタック法では、一番新しいカードがドックの一番手前に来ます。このような情報蓄積は、情報へのアクセス頻度を考えると非常に合理的です。

分類しない

4カード」では、頭の中のアイディアや身の回りの情報を記述する4種類のカードを導入しました。しかし、これはドックの中でカードを分類するためのものではありません。なぜなら、こういった分類は個人的なカード及びファイルシステムでは、必ずボトルネックになるからです。PoIC では、全てのカードを、書いた順にドックの中に蓄積していきます。

公共のシステムと個人のシステムの違い

分類が必要な場合について、野口(1993)は、非常に明解な判断基準を述べています。すなわち、個人のシステムでは時系列による情報蓄積、公共のシステムでは分類による情報蓄積が好ましい、というものです。公共のシステムとは、例えば図書館や博物館などです。図書館で、利用者から続々と返却されてくる本を時系列で管理したとすると、すぐにシステムが破綻してしまうことは容易に想像できます。公共のシステムでは、みんなが一つのシステムを共有します。そのため、共通の検索キーとしての分類が必要になります。逆に、共有する必要のない個人のシステムでは、こういった分類はほとんど必要ありません。

分類と時系列の比較実験

私は、カードシステムを構築する際に、分類と時系列のどちらが良いかを、自分のドックを使って実験してみました。

私は会社と家に1つずつドックシステムを持っています(簡単に会社ドック、家ドックと呼ぶ)。会社ドックでは、プロジェクト毎にカードを分類し、それぞれのプロジェクトの中でさらに時系列で管理しました。複数のプロジェクトを扱う場合は、分類の方が良いだろうと判断したからです。家ドックでは、それほど切迫した状況ではないので、時系列でカードを蓄積しました。

しかし、数ヶ月が経過すると、その違いは目に見えて現れてきました。会社ドックのカードは一向に増えなくなり、一方で家ドックのカードはどんどん増えていきました。この違いは劇的でした。この原因は、一つしかありません。やはり、分類がボトルネックになっていたのです。会社ドックでは、カードを書いた後、カードがどのプロジェクトに属するか、ほんの数秒にせよ考える必要があります。そのほんの数秒が積み重なって、やがて心理的な抵抗になってしまっていたのでした。

この実験を通じて気付いたのは、個人的なカードシステムでは、分類による利便性よりも、時系列で連続的にアイディアを引き出していくことの方が重要であるということです。カードシステムを導入すると、どうしても分類しなければならないような強迫観念にとらわれてしまいがちです。しかし、これこそが個人のカードシステムで最も有害であるといえます。

時系列ではグレイゾーンが発生しない

分類(左、空間2次元+時間1次元)と時系列(右、時間1次元)の違い。時系列ではグレイゾーンが発生しない。

分類を考えた時に、状況を難しくするのは、つねに「グレーゾーン」があるということです。Aのプロジェクトにも、Bのプロジェクトにも属するカードが常に発生します。悩んでいるうちに、「まあいいや」ということになって適当にAのプロジェクトに放り込んでしまいます。しかし、このような心理的な妥協は、カードが増えるにしたがって蓄積していきます。

分類の基準が曖昧なため、あとになって B のプロジェクトの所を探しても見つかりません。これが重なると、分類を導入したカードシステムは、自分でも信頼できないものになってしまいます。分類の判断基準があいまいな以上、分類にこだわるのは時間の無駄です。PoIC では、厳格にカードを分類することが目的でもありません。むしろ、積極的に分類しないことで、カードに多様性が生まれます。

分類と時系列の違いは、次元で考えてみると見通しが良くなります。分類は「空間」、すなわち2次元的 (x, y) です。一方で、時系列は「時間」、すなわち1次元的 (t) です。上述の実験では、会社ドックは分類+時系列で3次元、一方で家ドックでは時系列で1次元です。つまり、家ドックでは、考えるべき軸が一本しかありませんでした。

ある人が、ある瞬間に書くことのできるカードは、原理的に一枚しかありません。したがって、時系列では「グレイゾーン」が発生し得ません。これが、時系列スタック法で信頼のおけるカードシステムを構築できる理由です。

検索しない

PoIC のようなアナログ・システムで問題となるのは「いかに検索するか」ということです。検索は、カードの数が増えるにしたがって、より困難になります。

PoIC の時系列スタック法において、検索の基準となるのは、自分の中の時間軸、すなわち「歴史」に頼るしかありません。そうなると、今度は「歴史」を補うために、カードの索引が必要になるでしょう。カードの数が容易に数百・数千を超えることを考えると、これは現実的ではありません。また、カードをスキャンしてパソコンに取り込んだとしても、状況は変わりません。それどころか、デジタルに変換してしまうと、カードを操作して考える時に、机の上のような広い空間にカードを展開できなくなってしまいます。

このような心配事をよそに、私の PoIC 経験を通じて言えることは「検索する機会なんて滅多にない」ということです。これには色々な理由があります。

  • PoIC では主に新しいアイディアを引き出すことに集中する。
  • 完全に忘れてしまっている事柄を探す必要はない。
  • もし部分的に憶えているのであれば、そのカードを探すよりも、むしろ新しいカードにそれを書いてしまう。この方が速い。
  • 検索するとしても、その領域は実は限られている。せいぜい1週間以内。これは自分の記憶力による。

いずれにせよ、私がドックの中を全て走査するほどの検索をしたのは、1年の間に数回程度です。カードを書くのは「頭の中からはき出す」、つまり「忘れるため」ですから、記憶に頼って検索するのは矛盾しています。また、検索に熱中するあまり、そのカードを使って何をしようとしていたかを忘れてしまうこともあります。

何度書いても良い

時間の効果を考慮に入れると、同じカードに見えても、ちょっと違うカードになっている。

PoIC のようなアナログ・システムでは、「検索する」ということは手間がかかるだけでなく、アイディアを捕らえる上で危険にさえ思えます。分類・検索はコンピューターの得意とするところです。しかし、新しいアイディアを生み出すことは人間の脳にしかできません。検索しないことを逆手にとって、新しいカードをどんどん書いていきます。

似たようなことを何度も書くのは、時間と手間の無駄のようにも思えます。しかし、カードの内容を断片的に思い出すということは、そのカードに書いてからしばらく時間が経過したということを意味しています。時間をおいて書いたカードは、同じ話題でもちょっと違うカードになります。

これを利用すると、同じ話題に関して、色々な表現が可能になります。カードの枚数は、私たちがその話題を、いかに良く理解しているかを示す客観的な指標となります。また、同じ話題が何度も心に浮かんでくるということは、それが自分にとっていくぶん重要な話題であるということです。

時系列を更新しない

時系列による情報整理と言えば、真っ先に思い浮かぶのは野口(1993)の「超」整理法です。「超」整理法では、ファイルを時系列で並べていき、取り出したファイルは時系列の先頭(例えば本棚の右端)に置いていきます。こうすることで、システムを活性化させ、良く使うファイルとあまり使わないファイルが自然と選別されていきます。

しかし、PoIC では、時系列を更新することでシステムを活性化させるのが目的ではありません。「超」整理法と PoIC の時系列は、似ているように見えますが、取り扱う情報のサイズ、いかにしてシステムに秩序をもたらすかが全く異なります。この違いに関しては後ほど詳しく見ることにして、差し当たっては、書いたカードはすべて時系列で保存し、その順序を更新する必要はないと理解しておくだけで十分です。

パーティションの切り方

ドックのパーティションの切り方。

コレクトのカードボックスには、仕切り板が3枚付いてきます。ドックの中のパーティションは、時系列にしたがって作ります。例として、私が家で使っているドックシステムの写真を右に示しました。私は、家では2つのドックを使っています。

  • 左側のドック : 今日 / 今週 / 先週 + 過去三ヶ月
  • 右側のドック : 三ヶ月よりも前 / それよりさらに三ヶ月前

パーティションの切り方は、月ごとに一定ではありません。これは、アクセスの頻度が時間とともに直線的に減るのではなく、むしろ指数関数的に減るためです。「いま」という瞬間に良く使うカードは、せいぜい「いま」と、「いま」から1週間前までです。この部分がアクセスしやすい、一番手前にきます。

システムの拡張は容易です。カードが増えて、ドックが一杯になったら、新しいドックを追加するだけです。幸いにも、パソコンの HDD とは違って、システムを構築した後でも、パーティションはいくらでも変更できます。自分に合ったパーティションの切り方を試してみて下さい。

カタマリを「崩す」

パーティションを使わないでドックを使うこともできますが、カードが一つのカタマリのようになってしまい、アクセスしづらくなります。一つのカタマリにアクセスするというのは、意外に心理的な抵抗が大きいものです。そこで、パーティションを使って適当に崩します。頻繁にアクセスするように、うまくパーティションを切ってあげます。

聖域を作る

野口(1993)は、使う頻度の高いファイルを「神様ファイル」と呼び、時系列によるファイル管理から分離し、分類・保存しています(P.P. 40-41、51-52)。

再利用頻度の高いカードとしては、住所録、本のリストなどが考えられます。これらは、時系列から分離して、アクセスしやすいところに置いておくと、とても便利です。そこで、再利用頻度の高いカードを、野口(1993)にならい「神様カード」と名付け、ドックの一パーティションに保存しておきます。このパーティションは、神様のいるところですから「聖域」と呼ぶことにします。ここだけは、分類しない・検索しないという PoIC の基本ルールに関して、治外法権が適用されます。

検索・分類は最終手段

時系列でカードを蓄積していくと、自然の法則に従って、システムの中のエントロピー(情報の乱雑さ)は一方的に増えていきます。分類しない時系列では、なおさらです。このままでは、PoIC は破綻しそうにも思えます。私自身、カードが増えるにしたがって、このまま行ったらどうなるのだろうか、と心配になったことがありました。

この自然の法則に逆らってエントロピーを減らそうとする場合、人間の「努力」が必要になります。図書館や博物館では、「つねに分類する努力」によってこれを実現しています。そのために、図書館や博物館では高いコスト(人件費、時間)を払っています。しかし、前述のように PoIC では、積極的に(?)検索・分類しません。では、どのようにしてシステムの破綻を防ぐのでしょうか。

答えは簡単で、やはり検索・分類するのです。従来の方法と違うのは、これが一番最後に来ることです。PoIC において、カードを書くのは、個人の知識のデータベースを構築することです。しかし、これはまだ準備段階です。PoIC の本当の目標は、このシステムを使って、新しい知恵・知識・成果を再生産することです。そうして初めて "Get thing Done!" となります。

タスクフォースの編成

タスクフォースの編成。右側のドックが時系列、左側のドックがタスクフォース。

あるプロジェクトに関するカードが十分に蓄積したところで、ドックの中から、そのプロジェクトに関連するカードを全て抜き出します。渡部(1976) の言葉を借りて、これを「タスクフォース(機動部隊)を編成する」と言います(p. 132)。このタスクフォースを編成する時に、ドックの中のカードを検索・分類することになります。

つまり、PoIC では、検索・分類は最終目標のちょっと手前でようやく登場します。そして、それで十分なのです。従来のカードシステムが破綻してしまうのは、この最終手段を一番初めに使ってしまうからです。

お役御免

タスクフォースに選ばれ、最終目標である再生産を果たしたあとのカードは「お役御免」となります(渡部、1976、p. 133)。これらのカードを、元の時系列に戻す必要はありません。カードの内容を参照したい時は、再生産したものを参照します。ドックの中のカードの量は、再生産する毎に減っていきます。それ以外のカードは、将来必ず何らかの形で利用されると信じて、ドックに残していきます。

このように、PoIC では、システムのエントロピーは、私たちが再生産に使う努力により減っていきます。私たちが限られた力を、これまでは検索・分類することに消費していたことを考えれば、このアプローチは「一石二鳥」と言えるのではないでしょうか。

Tips


PoIC 規格

PoIC 規格で書いたカードの例 (拡大する)

PoIC で書くカードには、全てに共通する書き方があります。ここでは、情報カードの書き方の規格(standard、以下 PoIC 規格)について考えます。

PoIC 規格とは?

情報カードについて語るスレ2 >>652氏は、>>648氏の情報カードの書き方を指して「作法(アート)」であると述べています。作法をある程度「硬く」定義しておくことで、個々人が独自にスタイルを確立する時間を大幅に縮小し、残りの力を本来の目的である「楽しむこと」や「生産性」に向けることができます。

PoIC のカードの書き方は、私がカードを書いていく中で、不必要なものを全て削って、最後に残った結果です。「規格」というと難しく聞こえるかもしれませんが、これは決して、パソコンからプリントしなければならないほど複雑なものではありません。

ここで私たちに必要なのは、方眼の情報カードとペンだけです。PoIC 規格は、頭の中に入れて持ち歩くことができます。

Tips

ヘッダ

私たちの書いた全てのカードは、「時系列スタック法」に従って、ドックの中に時系列で保存されていきます。ドックの中のカードをめくっている時に見える部分は、せいぜい上の数行です。そこで、圧縮した情報をカード上部に記述しておきます。カードの上辺から3行を「ヘッダ」、それより下を「ボディ」と定義します。

ヘッダには、

  • タグ(上辺・左部分)
  • アイコン + タイトル(上から3段目)
  • タイムスタンプ(右部分)

が含まれます。カードをめくる時は、この部分に注目します。

アイコン

4カード」で見たように、PoIC の全てのカードは、記録・発見・GTD・参照の4種類に分類されます。重要なのは、私たちの内外の情報を表現するのには、実はこの4種類だけで足りる、ということです。

カードの内容に対して、適切なアイコンとタグが付け加えられます。アイコンは、そのカードの内容を視覚的にとらえるのに役に立ちます。

Four Icons. Left to right : Record, Discovery, GTD, and Reference

PoIC のアイコンを上の図に示しました。それぞれ、丸・電球・チェックボックス・帽子をデザインしたものです。参照カードが帽子なのは、自分の頭の上に載せるもの、すなわち「自分の上には必ず上がいるよ」という先人達に対する謙虚さを暗示しています。

記録・発見・参照の3つは、全て丸を基本としています。これは、記録・発見・参照の判断が難しい時があるという経験に基づいています。とりあえず丸を描いてから、この3つのどれにしようかと考える「間」ができます。

ここでは私の使っているアイコンを示しましたが、アイコンは、好きなようにカスタマイズして下さい。参照カードのアイコンに「本」を使っている人もいます。

Tips

  • マックライドさんは、丸+矢印のアイコンを使われています。インプット・アウトプットが直感的で分かりやすい。 Hawkexpress 19:42, 21 February 2008 (MST)

タグ

タグとは、方眼カードの上辺のブロック1つを塗りつぶしたものです。一番左のブロックはマージンとして使用せず、2番目からをタグとして使います。アイコンに対応して、記録が2番目のブロック、以下、発見・GTD・参照と続きます。

思考の指標としてのタグ

オープンループは3番目のタグに2つの点として見える。

ドックに保存されたカードを見た時に、タグを見ただけで、どの種類が優位であるかが分かります。私たちの行動がいまどこにあるのかを、一目で捕らえることができます。flickr におけるタグクラウド(タグの雲)、del.icio.us における タグロールの様なものであると言えば、理解しやすいでしょう。

ここで一つ強調しておくべきことは、このタグ(及びアイコン)の目的が、ドックの中でカードを分類するためではないということです。参照カードだけ分けておく、ということはしません。私たちは全てのカードを、時系列でスタックしていきます。私たちがカードを書く時、それがどの種類に属するか、どの順番かについて気にする必要はありません。

オープンループを見つける

タグが威力を発揮する局面の一つが、GTD カードのオープンループ(未完了のタスク)を見つける時です。GTD カードのタグは、その名の通り「開いた輪」として見えます。この単純さが、未完了のタスクを見つけるのを容易にします。ドックの中のカードのタグを見ていった時に、3つめのタグで(4番めのブロック)で二つの点があったら、それがオープンループです。タスクが終わった時に、オープンループは塗りつぶされ、他の3種類のカードのタグと見かけが同じになります。

どうして4種類だけ?

コレクトの方眼カードの上辺には25個の方眼が並んでいます。これらの全てをタグとして使う、もしくは、2つのタグを組み合わせて使う、という可能性も考えられます。それでは、どうして PoIC ではたった4つのタグしか使わないのでしょうか。

その理由の一つは、人間の認識力の問題です。野口(1993)は、「Magic Number of Three」という概念について述べ、「3」という数字が人間が無意識に扱うことのできる最大の数であるとしています。つまり、1、2、3 までは無意識に識別できても、それ以上は「いっぱい」になってしまうということです。4以上は途端に取り扱いが面倒になります。

この考えからいくと、理想的なタグの数は「3」ということになります。実際、私が PoIC を使い始めた頃は、記録・発見・GTD の3つしかありませんでした。しばらく使っているうちに、一つの記録カードでは、「私自身の記録」と「他の誰かの記録」を区別するのが難しいことに気付きました。そこで、「他の誰かの記録」を表す4番目の参照カードが生まれました。

タグを4つしか使わないもう一つの理由は、もっと実際的な問題です。あまり多くのタグを使うと、タグを付ける時に、カードの端から数えていくのがとても面倒になります。3つまでは、ほぼ無意識に、ブロックを数えることなく、一瞬にしてタグを付けることができます。4つめになると、端から1、2、3、4と数えていくことになります。10個のタグを使ったら、タグを付けるだけで5秒は掛かるでしょう。たった5秒でも、それが毎回蓄積すると、やがて心理的な抵抗になり、カードシステムを止めてしまう原因になります。

PoIC のカードの「4」種類というのは、必要にして十分、最小にして最大の数なのです。

タイトル

タイトルは、短く、かつ本文の内容を適切に反映したものを付けます。こうすることで、カードを繰る作業が容易かつスピーディーになります。タイトルは、上から3段目のブロックに書かれます。

タイトルは、ダイナミックで注意を引くような表現を心掛けます。例えば、板坂(1973)は、タイトルには名詞文よりは動詞文を使うことを推奨しています(p. 92)。

参照カードの場合、引用文をそのままタイトルにするよりも、それに対して私たちがどう感じか、考えたかを表現します。これが、引用文に対する私たちの解釈を与えることになります。

タイムスタンプ

タイムスタンプ用の時計。時計をカードに近いところに置くと、目の移動が少なく快適。

David Allen(2004)は、手で書いたもの全てに日付を入れる習慣を推奨しています(p. 108)。タイムスタンプは、自分の中の時間軸の中から記憶を呼び戻し、カードとカードの間の背景を浮かび上がらせます。ドックの中のカードをめくっている時、タイムスタンプを見ると、「この時はこういうカードを書いた」と記憶が蘇ってきます。それが確実に自分の書いたカードだからです。

タイムスタンプは、カードの右上に以下の形式で書きます。

2007.01.20 Sun
  13:49

個人の生産性において、タイムスタンプは「自分の歴史」に関する重要な情報を含んでいます。こういう重要な情報ですから、カードの下の方ではなく、必ずヘッダ部分に書くようにします。

曜日も入れる

曜日に関する情報も重要です。なぜなら、私たちの生活は、一週間を単位としたシステムをもとに動いているからです。「2007年1月13日に何をしたか」と考えるよりも、「先週の日曜日に何をしたか」と考える方が楽です。また、後ほど例で見るように、曜日に付随するパターンを見つけることもあります。

カードのタイムスタンプに、ゴム製のスタンプを使うことも考えられます。しかし、残念ながら、私は曜日まで含めたスタンプをいままで見たことがありません。また、スタンプを使うことは、カードを書き続けることを一時的に中断します。ペンを手から離し、スタンプを押し、またペンを手にするのは面倒です。手書きで書く方が、スタンプを使うよりも簡単で迅速です。

絶対参照名

PoIC では、タイムスタンプにはもう一つ大きな意味があります。タイムスタンプが、一枚一枚のカードに固有の名前を与えます。これを「絶対参照名」と呼びます。この絶対参照名は、カードとカードの間でリンクを張る時に使われます。タイムスタンプに、日付だけでなく、時刻まで含めるのはこのためです。

カードのタイムスタンプは、絶対参照名を定義するために、唯一である必要があります。しかし、必ずしも正確である必要はありません。例えば、あるカードを書いて、次のカードに進んだ時に、そのカードの時刻は前のカードの時刻+1分であっても良いのです。こうすることで、カードを書いている間に、何度も時計を見る必要は無くなります。一枚のカードを書くのに掛かる時間は、経験的に1分程度です。したがって、時刻スタンプの精度は「分」までで十分です。

このタイムスタンプによる絶対参照名の定義の仕方は、2ちゃんねるの「情報カードについて語るスレ(>>755, >>757)」において初めて紹介されました。

Tips

ボディ

発見カードの例(拡大する

カードの上辺から3行目以下は、ボディ(本文)となります。文字数にして120字程度の文章が書けます。

一つのトピックに対して、一つのカードを使うようにします。カードの再利用性を考えて、一枚のカードにあまり内容を詰め込み過ぎないようにします。

本文の書き方に関しては、カードを書いているうちに自分のスタイルを確立していくことでしょう。私の場合、まず本文を「起」「承」「転」の順で書き、「結」をタイトルにするとスムーズに書けます。こうすると、レビューの時にタイトルを見るだけで、そのカードの言わんとしていることをすぐに把握できます。また、タイトルを先に書くと良く起こる、本文とタイトルが食い違う、という事態を避けられます。

裏側は使わない

ほとんどの場合、一つの項目は一枚のカードの中に収めることができます。もし一つにおさまらない場合は、続きをもう一枚のカードに書き、タイトルに1/2、2/2 のように連番を付けておきます (梅棹、1969、p.p. 55-57)。

カードの裏側は使わないようにします。これは、ドックのカードを繰る時だけでなく、ブレインストーミングの時にも重要になります。「カードをめくる」という行為は意外に面倒です。裏側に何か書いてあっても、書いてあることを忘れてしまいがちです。

書きながら考えていると、結論は本文の最後に来る傾向があります。重要な内容が裏側に書いてあり、しかもそれを見逃してしまうということは致命的です。裏側を使わないのはこういう心配事を避けるために他なりません。

手書きの絵を含める

アナログ・メディアである紙を使う最大の利点は、絵を自由に素早く描けるということです。これこそが、私がデジタルの世界からアナログの世界に戻ってきた、大きな理由の一つです。発見を重視する PoIC では、この要素は特に大切です。

実際、パソコンで絵を描こうとすると、途端に面倒になります。ペンとカードでは10秒で描ける絵が、Adobe Illustrator を使うと、2分以上も掛かってしまいます。簡単な絵を描くのに時間が掛かっていたのでは、考えていたアイディアも吹き飛んでしまいます。また、パソコンを使って下手な絵を描くというのも、なかなか抵抗のあるものです。

良く使う絵は、デジタルでテンプレート化しておくという手もあります。しかし、ゆくゆくはテンプレートにない絵は描かない、すなわち、思考がテンプレートによって制約を受けるという状況に陥ります。パソコンと一緒にペンタブレットをいつも持ち歩くのも、現実的ではありません。

アイディアを捕まえている時には、多少汚くても分かり易く、かつ速いフリーハンドの絵が一番です。

めだまちゃん

めだまちゃん。カードの中に現れる、自分の分身。

カードに絵を書き込むことで、カードの内容を視覚的に捕らえることができます。たとえ小さな絵でも、本文を読むよりも的確に内容を把握できることがよくあります。言葉だけでなく絵でも表現することで、自分自身の理解を深めることにもなります。

ここで、私の書くカードに頻繁に現れる、お友達を紹介します。彼(彼女?)の名前は「めだまちゃん」と言います。めだまちゃんは、カードの中で私の代わりに考え、発言し、行動します。カードを書いたり、布団に入って眠ったりもします。発見カードに良く出没します。GTD カードはあまり好きではないようです。たいていは横向きで、たまに手が出てきます。二人、三人と増えることもあります。めだまちゃんのモデルは、私が中学生の時の理科の先生が「観測者」の絵として使ってた「目」です。 それが目玉になった後、体と足が生えて、現在のめだまちゃんになりました。長いまつ毛がチャームポイントです。

このようなお友達が一人いると、カードを書くのが断然楽しくなります。ぜひ使ってみて下さい。

リンク

タイムスタンプで定義する絶対参照名を使うことで、カードに限らず、いろいろなファイルの間で、一貫した方法でリンクを張ることができます。リンクを張る時は、Ref. (Refer = 参照せよ)を使って以下のような形式で書きます。

Ref. : 2006.07.14 18:06

実際、私は自分の手で書いたもの、コピーしたもの、プリントしたものに、全てタイムスタンプを書き入れるようにしています。アプリケーションによっては、プリントした時に自動的にタイムスタンプが入るものもあります(例えば、Safari や Eudora)。

写真の例では、下のカードの中で、絶対参照名を使って、上のカードにリンクを張っています。

絶対参照名を使ったリンクの張り方。下のカードで、絶対参照名を使って上のカードにリンク(ref. 2006.7.16 18:06)を張っている。

省略ルールと相対参照名

私の経験からすると、リンクを張るのが多いのは、圧倒的に「同じ日に書いたカード」間です。その際に便利なのが、「省略ルール」です。

  • もし同じ日に書いたカードの間でリンクを張る時は、時刻だけでよい

このルールを使うと、同じ日に書いたカードの間では、年・月・日・曜日を省略して、次のような短い形式でリンクを張ることができます。

Ref. : 18:06

これは、絶対参照名に対する、相対参照名です。HTML の相対リンク、UNIX の ./ や ../ に相当します。

トラックバック

トラックバックは、Weblog の一つの特徴で、自分の記事がどこにリンクされたかを知る機能です。これをカードに使うというアイディアは、flickr での議論の中で生まれました(riclav 氏のコメント)。トラックバックを実際に使うのは簡単です。リンクの張り方を逆向きにし、Ref. の変わりに T. B. (Track Back)を使います。

T.B. : 2006.07.16 21:15

私は、トラックバックを強調するために、赤色のペンを使っています。カードに赤い日付がたくさんあれば、そのカードはいろいろな所から参照されている、頼もしいカードであることを示しています。

デジタルファイルへのリンク

デジタルファイルに絶対参照名を付ける(拡大する

これは実験的ですが、私はデジタルファイルの名前にも絶対参照名を使っています。写真に示したのは、絶対参照名を UNIX のコマンドで作るハックです。Kevin Marsh さんは、"ymd" とタイプしただけで絶対参照名に展開してくれる Mac OS X のアプリケーション TextExpander を紹介してくれました。

デジタルファイルにも絶対参照名を使うと、カードの方では、次の形式でリンクを張ることができます。

Ref. : @PDF, 2006.11.02 18:02

コンピューター上でこのファイルを探す時は、ファイル名に "PDF"、"20061102"、"1802" を含む項目で検索します。ファイル形式を指定しておくと、自分の記憶を呼び戻す引きがねにもなります。

逆に、デジタルファイルの中でカードにリンクを張ることも可能です。しかし、本来カードの情報量は小さいので、そういう機会はありません。カードを再生産に使うと言う意味では、リンクを張るよりも、むしろデジタルファイルの方にその内容を書いてしまった方が良いでしょう。

接頭詞

リンクを張る時は、絶対参照名の前に接頭詞(Prefix)を書いておくと、どの資料を探せば良いか一目で分かります。

  • アナログ
  • デジタル
    • @mail : Eメール
    • @iphoto : デジカメの写真(Apple の写真管理ソフト "iPhoto")
    • @PDF : PDF ファイル
    • @Word : Word ファイル
  • Web
    • @blog : Blog
    • @Wikipedia : Wikipedia(注:Wiki と略さないこと)
    • @flickr : Flickr

外部リンク


仮想メモリとしての野帳

脳の機能の一部を外部記憶に頼ることで、脳を CPU・RAM として最適化する。

仮想メモリとは、OS がハードディスクを仮想的に RAM として使う技術です。これと同じように、PoIC では、野帳(ハードディスク)を脳(RAM)の延長として使います。野帳は、脳とカードの間をつなぐ一時的な記憶装置として働きます。

PoIC の野帳の始まり

コクヨの測量野帳。

私が野帳を使って記録をまめに取るようになったのは、仕事で野外観測に行くようになってからです。

私の所属するグループには、いわゆる「公式の」野帳があります。観測機器一台につき、野帳1冊を割り当て、その器械の担当者が責任を持って携行し、記録を行います。通常、大きい器械1台 + 小さい器械2台を使用するので、3冊の野帳を使うことになります。観測が終わると、これらの野帳はグループの責任者の元で保管されます。つまり、最終的にはグループで共有する野帳です。

これでは、自分の思ったことが自由に書けません。そこで、公式の野帳とは別に、自分の野帳を肌身離さず持ち歩くようにしました。これが、今 PoIC で使っている野帳の始まりです。ちなみに、会社から支給される野帳は、表紙が布張りで、ペンホルダーが付いています。これが私には使いづらいので、自分でコクヨの測量野帳(セ-Y3)を購入し、さらに改造したものを使っています。

自分の野帳を持つ

私が自分の野帳に全てを記録しようと思い立ったのは、以下の3つの理由からです。

  • 私の記憶力の弱さを補うため
  • いくら他の人の記憶力が良いとしても、それは当てにならないため
  • 起きたことが重要かどうかは、その時点では判断できないため

記憶力の弱さは、まめに記録を取ることでいくらでも補うことができます。いかに記憶の良い人でも、それが何らかの記録として残っていないものは、全く当てにはならないし、してもいけません。人間の記憶は、自分の都合の良いように物事を解釈してしまうからです。自分の目で見、耳で聞き、肌で感じて野帳に書いたことだけが、自分の信頼できる情報です。

観測期間中は、これまで行ったことのないところで、これまで経験したことのないことが雪崩のように押し寄せます。何が原因で、何が結果か判断できない時があります。とりあえず野帳に記録を書き残しておいて、重要かどうかはあとで判断します。

野帳を書く習慣の獲得

この観測期間中、身に起こったこと(記録)、気付いたこと(発見)、やるべきこと(GTD)を、朝起きてから眠るまで、時刻も含めて全て野帳に記録しました(この当時はまだ記録と参照を区別していなかったので、3種類しかなかった)。

私の場合、全ての情報を捕らえる習慣は、このたった1週間の練習で身に付いたものです。そして、それは今でも続いています。梅棹(1969)は、手帳をつける習慣を「獲得」し、「二十数年後のいまでも、きえることなくづづいている」と述べています(p. 22)。この習慣は、確かに訓練によって、誰にでも獲得できるもののようです。

一冊目は「捨て石」のつもりで

アイディアや発見は、止めるものが何もないと、どんどん出てきます。野帳を使い始めると、「ひらめきすぎる」、「発見しすぎる」という経験をします。これは、今まで自分の脳にかけていたフィルタを外した反動です。キノコを一つ見つけると、ここにも、あそこにも、色んなところにキノコが見つかるのと同じです。

初めの1冊目の野帳は、「捨て石」のつもりで使い倒します。あとでカードに転記することは考えず、身に起こったこと、思い浮かんだことは、文字通り「なんでも」書くようにします。まずは、脳の中のフィルターを外し、発見を楽しむところから始めます。

仮想メモリとしての野帳

野帳に記録する習慣が付いたところで、徐々にカードに転記するようにしていきます。野帳を、脳とカードの間をつなぐ中間的・一時的な記憶媒体として使います。パーツごとのカードにしておくことで、後の再利用性を高めます。

カードとの連携

1週間貯めた結果。野帳は、あくまでも一時的な記録媒体として使う。

PoIC における野帳とカードの使い分けは、コンピューターを使って例えると良く理解できます。

  • 脳 = CPU, RAM
  • 野帳 = 仮想メモリ(HDD)
  • カード + ドック = HDD

脳の中の記憶する機能(HDD)を外部に頼ることで、脳を発見すること・考えることに最適化します。野帳はあくまでも一時的な記録媒体(仮想メモリ)です。野帳の内容は、全てカードに写し、ドックに保存していきます(HDD)。

野帳に溜めないコツ

カードへの書き出しはこまめに行い、野帳には溜めないようにします。私は、会社に行くまでに野帳に書いた分は朝の日記の後、昼食の散歩の時に浮かんだ分は昼食の後など、空いた時間に暇を見つけては写すようにしています。1週間分貯めてしまうと、一気に100枚近くのカードを書くことになり、写すのがとても大変になります。外出が多いと、この傾向が強くなります。なるべく時間を見つけてまめに写すようにします。

野帳に情報が溜まってしまった場合は、溜まってしまった項目を最初からカードに転記するのではなく、いま頭に思い浮かんだことを最優先にして書きます。その後、野帳の最新の項目→野帳の古い項目の順でカードに書いていきます。転記している間にも、新しいアイディアが浮かんでくるので、それも新しいカードに書いていきます。こうして転記の先延ばしを防ぎます。

野帳は、最初からカードに書き写すことを前提に使っているため、内容は簡略的に書いておきます。記憶を呼び戻す程度のキーワードであったり、ラフスケッチで十分です。カードに書く時に、キーワードやラフスケッチに圧縮した情報を展開します(Zip にして転送量を減らすイメージ)。こうして、カードに書き写す際の労力を少しでも減らしておきます。

小さな GTD タスク(例えば○○を買う、など)は、野帳の上で処理すれば、必ずしも GTD カードに書いて残す必要はありません。作業記録として残しておきたい場合は、チェックボックスとタグを埋めた形の GTD カードとして書きます。

RAM を解放する

アイディアは、思い浮かんだ瞬間に、すぐに野帳に書き込むようにします。「後で書こう」と思っていると、覚えていることに労力を費やしてしまったり、時には忘れたりしてしまいます。歩いている時は、立ち止まってでも野帳に書き込みます。これは「仮想メモリにデータを書き込み、物理メモリ(RAM)を開放すること」に例えることができます。こうして、確実に記録を残した上で、安心して他のことを考えられます。

いつでも書く

私は気分転換も兼ねて、歩いて15〜20分ぐらいの距離のところに昼食に行きます。実際、一日中座っているよりも、散歩に出た方が、さまざまな発見や疑問に気付きます。あまり知らない道を歩いていると、新しい発見にとらわれてしまって、考え事ができません。歩きながら考え事をする時は、歩き慣れた道の方が良いようです。

PoIC では、野帳を使って浮かんでくるアイディアを捕まえます。どんな小さなアイディア、発見も野帳に書き留めるようにします。野帳は、私たちの関心のレーダーアンテナにも例えることができます。

どこでも書く

野帳はいつも肌身離さず持ち歩きます。私は、いつもワイシャツの胸ポケットに野帳を入れておきます(ズボンの尻ポケットに入れておくと、湿気で表紙がふやけ、曲がってしまう)。そのため、私は胸ポケットのないシャツは着られなくなってしまいました。普段は、この上にジャケットを羽織ります。ジャケットのポケットに入れないのは、ジャケットを脱いだ時に野帳を忘れてしまうからです。

人込みの中でも、電車の中でも、布団の中でも、どこでも野帳を取り出して書きます。この光景は、端から見るとちょっと奇妙に見えるかもしれません。しかし、生産性を向上させるためと割り切って、堂々と野帳を書きます。立ちながら書く時は、野帳を開いて左手の手のひらの上に載せ、人さし指から小指までの四本指で野帳の上部をグッと掴むようにして持ちます。野帳は表紙が十分硬いので、これで安定してメモを取ることができます。

アイディアは、時と場所を選びません。タクシーや電車に乗っていたり、新幹線や飛行機で移動している時の方にも、ポンポンと浮かんできます。むしろ、移動時にはすることがないので、考え事をするのに適しています。こういった移動時にアイディアを捕まえる手段として、野帳は最適です。

野帳の書き方

野帳の書き方は、基本的にカードの場合と同じです。

  • 時系列:仕事・生活の別無く、起こった順・思い浮かんだ順に書いていきます
  • 4アイコン:内容に応じて、記録・発見・GTD・参照のアイコンを付けます。
  • タイムスタンプ:日付スタンプは、各ページの上部にスタンプを使って押しています。時刻スタンプは、個人的な用途の場合は、あまり厳格である必要はありません。思い出した時に時計を見て書いておき、カードに書き写す際に、飛び飛びの時刻を埋めていきます。
野帳の書き方。Flickrの写真に細かいメモを付けてあります。

不思議なことに、日付スタンプがきれいに押してあると、カードに移す時のモチベーションが格段に上がります。なるべくまめに、きれいに押すようにします。各トピックの横にある青ペンのチェックは、カードに書き写したことを表しています。チェックを入れた時点で、野帳の方の情報は「捨て」となります。

野帳は、カードに比べて面積が広いので、思考をより自由に表現できます。野帳は、下書き的な書き込みに向いています。まだ固まっていないアイディアでも、思い浮かんだ時に、どんどん書き込みます。絵は、カードに描く時よりもラフに描けます。

野帳を書く時には、「まあいいや」、「あとで」はあり得ません。とにかく書いておいて、カードに書き写す段階で、内容を吟味します。

グラフィティ

携帯端末 Palm には、アルファベットを1〜2ストロークで書けるようにした「グラフィティ」という独自の入力方法があります。ペンを画面から離すことなく書けるので、慣れると素早く入力できます(注:ただし、日本語の場合は、まずローマ字で入力し、さらに漢字に変換する必要があるため、遅くなってしまう)。

私が野帳に書く字は、これを応用したものです。野帳を書く時は、なるべく紙面からペンを離さないようにして書きます。きれいなものではありませんが、素早く書くことができます。きれいな字を書くことよりも、むしろ、アイディアを捕まえることの方に専念します。

字は、カードを書く時に判読できる程度であれば良しとします。私は、眠る前に布団の中で思い浮かんだことを、電灯もなしに野帳に書くこともあります。暗闇の中で書いた字でも、朝になって見てみると、何とか読めるものです。野帳は一時的な記録媒体ですから、これで良いです。

野帳の書き込みには、プラチナのプレスマンを使っています。その名の通り、記者(Press Man)が速記に使うシャープペンシルです。芯が0.9 mm で太く、力を入れなくても、サラサラと書くことができます。カードと野帳では、紙質が違うので、ペンとシャープペンシルを使い分けます。シャープペンシルは、野帳の紙の上での滑りが大変良いです。ペンと違い、フタを取る必要がないので、すぐに書く体勢に入ることができます。

カレンダー

野帳に貼るカレンダーを自分で作る(拡大する

野帳の最後のページにカレンダーがあると便利です。野帳はだいたい1ヶ月で1冊使い切るので、今月±1ヶ月で、3ヶ月分のカレンダーがあれば十分です。

自分でカレンダーを作る一番簡単な方法は、UNIX の cal コマンドを複数回使うことです。

% cal 02 2007 ; cal 03 2007 ; cal 04 2007

これで2007年2月〜4月までの3ヶ月分のカレンダーが縦に並んで出てきます。

これをエディタなどにコピー&ペーストし、整形した後、プリントします。Mac OS X では、ターミナルのウィンドウをそのままプリント(command + P)できます。あとは、はさみで切り取って、野帳の後ろのページに糊で貼り付けておきます。

もう一つの方法は、Dave Seah さんが作成した、"Compact Calendar" を使うものです。こちらは、見た目もきれいです。PDF ファイルがダウンロードできます。

カードを書く

Great habit of collection.

カードを書く習慣を生活の中に実装します。カードを書き続けるのは難しいことでしょうか?そんなことはありません。ここでは、カードを書き続けるコツを伝授します。

日記から始める

日記から始める。

4カードのところで書いたように、PoIC の導入として一番簡単なのは、情報カードを使って日記を書くことです。

私が情報カードを使いはじめた頃、一番難しかったのは、「いかにしてその日の最初のカードを書き始めるか」でした。カードを前にして、何を書こうかと悩んでいるうちに時間だけがどんどん過ぎていきました。ひどい時には、一枚のカードも書けない日もありました。

しばらくして、これを克服するコツを発見しました。答えは単純で、「なんでもいいからとにかく書き始める」ということです。しかし、なんでもいいから書くという漠然とした目標には、ある種の抵抗を感じます。むしろ「日記でも書こうか」と自分に言い聞かせると、すんなりと書き始められます。

カードの本文には、「晴れ」、「くもり」など、その日の天気から書き始めます。続いて、朝の出来事を記録します。例えば、「7:00に起床」、「朝ご飯はトースト、スクランブルエッグ、ベーコンにコーヒー2杯」、「8:30に出勤」など。このカードは記録カードとなります。アイコンは丸、タイトルは「日記 + 日記の要約」とします。

結局、一日のカードの書き始めの引き金となるのは、フタを開けてみれば、その日の天気を表す2・3文字だけで良かったのでした。これは単なる事象の記録ですから、「何から書き始めようか」と考える必要はありません。書くことがなくても、とにかくペンとカードを取り出すのが大切なようです。

雪崩式著述

雪崩式著述。

私は、会社の自分の席に着いてから日記を書き始めるようにしています。会社に向かう間に、電車の中でいろいろ考え事をしたり、駅から会社に向かって歩いている時に、大抵何かを発見します。日記を書き始めると、「そういえばこんなことも考えた」、「こんなものも見つけた」と思い出してきます。手を動かすことで記憶が蘇ってきます。頭に浮かんだことを、そのままの順番で書いていきます。

カードを使って日記を書き始めると、5x3 という情報カードのサイズが、日記を書くには小さいということにすぐ気が付きます。そこで、書ききれない部分を次のカードに書きます。最初の日記を書き終えたら、考えたこと・発見を、忘れないうちに、一つ一つの独立した発見カードに書いていきます。この発見カードを書いているうちにも、昨晩寝る前に考えたことや、朝起きる前に布団の中でウトウト考えていたことも思い出してきます。野帳にメモを残していたら、それもカードにしておきます。

会社に着いてから初めの15〜30分はこうして過ごします。この時は、仕事だけでなく、生活に関すること、とりあえず頭の中に浮かんだことをすべてカードに書いていきます。こうして、記録カードから始め、次々と発見カードを書いていくことを、私は「雪崩式著述(Avalanche writing)」と呼んでいます。重要なのは、この雪崩を起こすのは、ちっぽけな石ころ(日記としての記録カード)でも十分であるということです。

朝の段階で、一枚の記録カードと、平均5枚の発見カードを書いたとしても、一ヶ月で100枚以上のカードが、確実にドックに貯まっていきます。ドックを自分の書いたのカードで満たすことは、決して難しいことではありません。

PoIC の中の GTD

PoIC を導入したての頃は、GTD カードがたくさん出ます。これは、頭の中にくすぶっていたモヤモヤが、カードという形で一気に放出されるからです。一つ一つのタスクをカードにしていくと、あまりの多さにビックリしてしまうかもしれません。これは、GTD を単体で導入した時でも起こることです。初めの頃は、カードではなく、もっと大きな紙(例えばレポート用紙)を使った方が良いかもしれません。

しばらくして、GTD のコツを掴むと、中間の小タスクは頭の中で処理できるようになります。書き出すとしても、そのほとんどは、一時的な記憶媒体として使用する野帳で処理できます。また、過去の GTD カードを参照するという機会はあまりないので、野帳で処理済みのタスクをカードにして残しておく必要は、必ずしもありません。結果として、ドックの中に残る GTD カードは少なくなります。

PoIC は、長期の目標を達成するためのカード・システムです。その中で中心的な役割を果たすのは、発見カードと、それをサポートする記録カード・参照カードです。しかし、日々のタスクを地道に処理していくことも大切です。PoIC における GTD カードは、「やらなければならないこと」を素早く処理し、残った力と時間を「やりたいこと」に有効に使うための切り札と言えます。

朝のマインド・スイープ

GTD の用語の一つに、「マインド・スイープ(mind sweep)」というものがあります。頭の中・心の中にある「やらなければならないこと」、「モヤモヤ」を全て紙に履き出す(sweep)作業です。

毎朝、日記を書く段階で、気が付いたことを発見カードとして書きます。その日にやるべきことも、この時に一緒に浮かんできます。これを GTD カードに書いておきます。他のカードと一緒にスタックすると、GTD カードが迷子になってしまいます。したがって、GTD カードは、その日に処理すべきカードとして、他のカードとは別に仕分けておきます。机の上に広げておくと、タスクを一覧することができて効果的です。処理し終わったところで、チェックボックスとタグを埋め、ドックに入れます。

本との付き合い方

本に線を引き、メモを書き込む。

本の読み方に関しては、様々な本が出ているので、それを参考にして、自分のスタイルを確立していくことでしょう。私は、読んだ本の内容を抜き出すのに、参照カードを使っています。参照カードを取ることで、インプットの過程がドックの中の時系列に「歴史」として残ります。一方で、参照カードを書くのは、情報源(ソース)に関する記述が必要なため、他の3つのカードに比べて気を遣います。

参照カードの取り方

私にとって本を読むことは、「食べること」と同じ意味です。読みたい本は自分で買い、ダーマトグラフでどんどん線を引いていきます。空いているスペースには、ペンや鉛筆でメモを書き込みます。文字だけではなく、イメージが浮かぶこともあります。各々のメモには、4アイコンをつけておきます。

本から参照カードを取るには、2種類のスタイルがあります。時と場合に応じて使い分けます。

  • 読書の最中:これは読書を中断しますが、カードを書いている間、そのトピックに関して考える時間ができます。技術書や教科書などの難しめの本を考えながら読む時に向いています。
  • 読書の後:これは読書を中断しません。趣味の本などの軽めの本を読む時に向いています。

もちろん、この二つの中間も可能です。読書の最中にカードを取るけれども、一つの章を読み終わってから、など。自分に都合の良い長さで調整します。

読書の後にカードを取る場合は、本に鉛筆でメモを残しておき、参照カードを書く時に、タイトルに使います。一つの事柄を二つの表現(作者の表現、自分の表現)で表すことになり、より理解が深まります。自分の言葉で付けたタイトルの方が、カードをめくっている時に記憶を呼び戻しやすいです。

参照カードを取らない工夫

専門書を線を引きながら読むと、時には1ページのほとんどが線だらけになる、ということもしばしば起こります。これを全てカード化するのは、非常に骨の折れる作業です。本を読むたびに「後でカードを取らなくては」と考えてしまうのでは、本を読むのがおっくうになってしまいます。

インプットがあってこそ、アウトプットが生まれます。したがって、ここでは「参照カードを取ること」よりも「本を読み続けること」を最優先にします。そもそも本がすでに手元にあるので、線を引いたところを全てをカード化するのはあまり意味がありません。必要であれば、いつでも本に戻って確認することができます。フィルターを掛けて、なるべく参照カードを取らない工夫をします。

本は、まず黄色のダーマトグラフを使って線を引きながら読みます。一通り読み終わったら、今度は黄色で線を引いたところだけを読み流し、重要だと思うところにピンクのダーマトグラフで線を引いていきます。最後に、ピンクのダーマトグラフで線を引いたところの中で、重要だと思うところの行頭に星マークを付けておきます。3回読むことで、特に重要と思うところを絞り込みます。

本を開けば、星マークにすぐ辿り着くことができます。カードとして残しておきたい時は、参照カードとして書いておきます。

本が買えない時は、図書館で借りてきて、コピーを取って読みます。私は10〜20ページの単位で、コピーを取りつつ読み進めるようにしています。良い本の場合は、途中まで読んで「やっぱり本として持っていたい」と気が変わり、購入することもあります。10〜20ページの単位でコピーを取ると、「ここまで読む」という目標が明確になります(GTD の2分ルールと同じ)。分厚い英語の本などは、既に自分で持っていても、わざわざコピーしてから読むこともあります。コピーであれば、躊躇せずにメモを書き込んだり、線を引くことができます。読み進むほどコピーが貯まっていくという楽しみもあります。コピーした分を読み終わったら、カードと同じようにタイムスタンプを付けておきます。読み終えたものから封筒に入れていき、「超」整理法(野口、1993)で管理します。

本から発見カードを書く

本を読んでいる最中に、本の中の情報と自分の中の情報がリンクし、頭の中で電球が光る瞬間があります。こういう事柄を積極的に「発見カード」として残しておくべきです。自分の経験をベースにしているので、より再利用性が高いと言えます。この種の発見カードが増えることは、本を読む・カードを取るという行為自体を楽しいものにしてくれます。

また、本を読んでしばらくして、本の内容が心に浮かんでくることもあります。自分の記憶をフィルターとして使い、それでもなお残ったところは、自分にとって大切なところだと判断できます。こうして書くカードは、発見カードにするか、参照カードにするか、迷う時があります。自分の中から出てきた比率が多い時は「発見カード」とし、参考資料を必ず「Ref. : 」の形で書いておきます。参考資料を見ながら書いた時は、「参照カード」とします。

能動的にカードをくる

過去のカードから新しいカードを産む。

時系列スタック法では、PoIC の「3ない(分類しない・検索しない・時系列を更新しない)」について述べました。知的生産におけるカードの使い方に関して、梅棹(1969)は次のように強調しています。

「くりかえし強調するが、カードは分類することが重要なのではない。くりかえしくることがたいせつなのだ。いくつかとりだして、いろいろなくみあわせをつくる。それをくりかえせば、何万枚のカードでも、死蔵されることはない。」(P. 59)

ここでいう「くる」とは、カードをパラパラとめくり、いくつかを取りだし、組み合わせを作るという操作です。つまり、知的生産に使うカードは、何かの必要に駆られて「受動的にくる(検索・分類)」のではなく、むしろ、「能動的にくる」ベきであるということです。この二つは、外から見た時には、同じ「くる」行為ですが、やっている本人の心構えは全く違っています。

ブラウジング(拾い読み)

週末に面白そうなカードの写真を撮り、Flickr にアップロードする。

ウェブを閲覧する時に使うソフトを「ブラウザ」といいます。この私たちに馴染みの深い言葉には、元来、「草食動物が若葉を見つけてはムシャムシャ食む」という意味があります。私は、カードをパラパラとめくる行為には、「ブラウジング」という言葉の持つ「食べ歩き」、「気ままさ」、「拾い読み」といったイメージの方が合うと思います。お茶やコーヒーを飲みながら、気ままにやるのが良いでしょう。

週末など、時間に余裕のある時にドックの中のパラパラとカードをめくります。カード一枚一枚にタイムスタンプを付けているので、「この時にはこんなことを書いた」と思い出してきます。それは、タイムスタンプが自分の「歴史」に則したものだからです。時間が経過することで、カードの内容を客観的に見ることもできます。それは、(肯定的な意味で)忘れているからです。

ブラウジングの際、あるカードに対してコメントがあるときは、時間の経過が分かり易いように赤ペンで書き込みます。過去の自分(青ペン)と今の自分(赤ペン)の対話です。新しいアイディアが浮かんだ時は、それを新しいカードに書き、時系列の一番先頭に放り込んでおきます。「超」整理法の時系列では、ファイルの順序そのものを更新します。PoIC ではカードの位置は保ったままで、アイディアの方を更新します。このような、小さな再生産を繰り返すことで、自分のアイディアの純度を高めていくことができます。

PoIC マニュアルの第一世代(Ver. 1.*)を書いていた頃は、週末に面白そうなカードをドックから拾い出し、それを元に記事を書いていました。また、デジカメで直接カードの写真を撮って、Flickr にアップロードし、Cardlog として公開していました。

フラグを立てる

カードをめくっている時、一時的にカードを取り出して作業したいときがあります。例えば、何枚か抜き出して、新しいカードを書いたり、Blog の記事を書く時などです。2〜3枚なら良いですが、10枚以上にもなると、戻す時の面倒を考えて、取り出すのもおっくうになります。

こういう時は、抜き出すカードのすぐ後ろのカードを90度回転し、立てておきます。ポストイットなどは使わないで、カードそのものを目印として使います。カードの右側を上げておくと、ちょうどタイムスタンプが見えます。カードを戻す時は、まず取り出したカードを手元で時系列に並べておき、フラグのカードのタイムスタンプと見比べながら戻していきます。

カードの価値

カードや野帳には、どんなちっぽけなアイディアでも書くようにします。実際のところ、自分が書いているカードの価値って、どのぐらいなんだろうと考えることもあります。カードに書いた時点ではちっぽけなアイディアでも、後になって他のカードと組み合わせることで、新しい価値を生み出すものもあります。

私がいつも思うのは、自分の書いたカードの本当の価値は、書いた時点では判断できない、ということです。それが判断できるようになるのは、ある程度時間が経過してからです。例えば、今日の日経平均株価が高いのか、安いのか、それは数ヶ月先・数年先になってからしか判断できないのと同じです。ですから、PoIC では、カードを書いた時点で、そのカードに重要度(Priority)を付けることもしません。それが無理だからです。

現時点の私たちにできるのは、「どんなアイディアも、とりあえずカードに書いておく」ということだけです。そして、それが将来何らかの形で、必ず自分の役に立つと楽観的に考えることだけです。指針となるのは、自分の中の「ビジョン」です。それは、自分の目標であったり、どうしたいのか・どうなりたいのかといったことです。ビジョンは磁場のような働きをします。磁場は目には見えませんが、コンパス(カード)を置けば、必ず同じ方向を指します。

らせん階段を昇る

どんなちっぽけな事柄もカードにしていくと、必然的にカードの量は多くなります。カードの「質と量」の問題は、カードを書いていく上で、必ずぶつかる問題です。ドックの中のカードが1,000枚ぐらいになると、「本当に役に立つのかな」と不安になったりもします。

私たちの書くカードの質は、いつも同じレベルではなく、むしろ、書いていくごとに向上していきます。同じフロアをぐるぐると回っているのではなく、らせん階段を一段一段昇っていくようなものです。「質より量」ではなく、「量とともに質も向上」です。だから、迷わずたくさん書きます。

ドックの中のカードをブラウジングしていると、過去に書いたカードの中に、自分が今まさに考えていたことと全く同じことを発見することがあります。時間をかけてもまた出てきたという「事実」を知ることで、一つ上の段階に上がることができます。数ヶ月という歳月のフィルターを掛けてもなお残るということは、その事柄に「普遍性」があるからです。

少なくとも、カードを書くことで、らせん階段を下るということはありません。気分的に落ち込んだ時でも、その状況をカードに書くこと、そしてそれを改善するにはどうすれば良いかをカードに書くことができます。これはマリノフ(2002)PEACE 法 における、P(問題発生)→E(感情)→A(分析) の過程です。頭の中だけで考えるよりも、カードに書きながら考えた方がうまくいきます。カードは完全な記録として残るので、必ず将来役に立ちます。逆境の時にこそ、上にジャンプします。

再生産する

アイディアを可視化する。

始めの頃は単なる日記の延長だった PoIC が、しばらくすると知識のデータベースとして機能するようになります。ここでは、PoIC というデータベースを使って、新しい知恵・知識・成果を再生産する過程を見てみます。

データベースとしてのドック

私は PoIC システムを使って、自分自身の生活や、PoIC を通じた生産性の向上について考えてきました。頭に浮かんだことを、一日5枚から10枚のペースで書いていったところ、家ドックの中のカードは、10ヶ月後には2,000枚近くに膨れ上がりました。

アイディアを可視化する

人間の脳は、それ自体が巨大なデータベースです。しかし、脳の中の情報は目に見えず、時間が経つと消えてしまうものもあります。どの情報が消え、どの情報が残っているかを目で確かめることはできません。

そこで重要となるのは、目に見えない情報を可視化し、頭の外にデータベースを構築するということです。PoIC では、情報をカードという形で可視化し、ドックに蓄積していきます。紙に書いた情報は、脳と違って「忘れる」ということがなく、完全な記録として残ります。情報を可視化することで、積み重ねたり、並べ替えたり、新しい情報を付け加える作業が明確になります。

「データマイニング」という手法

データマイニングとは、データベースから新しい知識を生み出す一つの手法です。統計的・数学的手段を使い、データ(data)から鉱脈を探し出します(mining)。統計的・数学的手段を使うことで、人間に特有の先入観から逃れ、「思わぬ発見」が生まれます。

渡部(1976)は、化学者が長年蓄積したカードを使って推計学的な処理を行い、新しい接着剤を開発したエピソードを紹介しています(P. 126)。この推計学的処理とは、データマイニングの先駆けです。Fayyad et al. (1996) は、データマイニングの手法について詳しく述べています。石川慎也氏の「データマイニングの宝箱」では、データマイニングの基礎が分かり易く解説されています。

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このデータマイニングの手法を PoIC 的に解釈したのが、上の図です。データマイニングの観点から見ると、カードを書き、ドックの中に収集・蓄積(collect)することは、実はまだ準備段階です。しかし、最初からデータベースを構築しようと気負うことはありません。毎日の記録や発見をカードにしていけばよいのです。楽しんで書いているうちに自然とカードの数が増え、データベースができあがります。こうなれば「新しい何かを生み出すこと」はすぐそこです。ドックからカードを選り抜き(select)、それに解釈を加え(interpretation)、新しい知恵・知識・成果を再生産します。

ドップダウン? ボトムアップ?

プロジェクトを遂行する上で、トップダウン(演繹的)と、ボトムアップ(帰納的)があります。この違いは、最初に目標(上の図のピラミッドの形)が具体的に分かっているかどうかです。PoIC では、最初に目標を決めて情報収集することも、目標が漠然としているけど、取りあえずカードを書いて収集していくこともできます。

PoIC マニュアルに関して言えば、「完全に」ボトムアップです。PoIC を始めた当初は、PoIC についてマニュアルを書くことまでは想定していませんでした。「PoIC のマニュアルがあればいいな」という、楽観的な、漠然とした目標はありましたが、具体的なものではありませんでした。私はただ PoIC に関する日々の発見をカードに書いていきました。それが私には楽しかったからです。

カードを書き始めてから、第一世代のマニュアルを書き始めるまで半年間、第二世代になると一年間掛かりました。重要なのは、マニュアルを書く段階になって初めて、それまで自分がやってきたこと(PoIC に関するカードを書いてきたこと)の意味が理解できた、ということです。マニュアルにしようと思い立った時には、すでに素材がそこにありました。

玉石混交で良い

私のドックの中は、全てが宝石のようにきらめくカードばかりという訳では決してありません。もちろんキラリと輝くものもあるでしょうが、全てがそうであるとは思ったこともありません。むしろ石のようなカードがたくさんあります。しかし、データベースの観点から言えば、この「玉石混交」の状態の方が良いのです。

例えば、単なる石でも、ある規格にしたがって大きさを揃え、数を集め、良く組織化することで、エジプトのピラミッドのような偉大な建造物になることができます。また、数個の石を組み合わせるだけでも、新しい価値が産まれます。PoIC で目指すのは、私たち自身の考えや、身のまわりの出来事の背後に隠れた「パターン」を見つけ出すことです。それ自身にはあまり価値のない記録カードでも、複数の記録カードの間にパターンを見い出すことができれば、それは新しい知恵・知識(=宝石)となります。情報の価値を決めるのは、情報自体ではなく、むしろパターンを見つけようとする私たち自身の姿勢に掛かっています。

逆に、ドックの中が宝石のようにきらめくカードで一杯だったとしましょう。これは、自分が本当に良いと思う情報だけを選んでカードに書くことです。聞こえは非常に良いですが、これは情報を自分の中の「先入観」というふるいに掛けて選別していることを意味しています。全てのアイディアを捕らえるのに成功していません。

その時点はちっぽけな考えでも、後になって考えてみると正しかった、ということはよくあることです。Steve Jobs(2005)は、人間は人生における出来事を、過去に向かってつないでいくことしかできないと述べています。ドックの中は、一見価値のないカード、ちっぽけなアイディアで一杯になります。しかし、自分の書いたカードの本当の価値を知ることができるのは、ずっと先のことです。だからこそ、どんなアイディアでも無意識から意識にポップした時点でカードや野帳に残しておきます。

現時点の私たちにできることは、将来なんらかの形で必ず役に立つと信じてカードを書き、ドックに蓄積しておくことだけです。ドックの中のカードは、一枚たりとも捨てることはありません。

PoIC とデータマイニング

PoIC を使ったデータマイニングの一例として、私が記録カードから生活の役に立つ知恵を得た話をします。

原因不明の頭痛に悩まされる

私は、原因不明の頭痛に悩まされていました。この頭痛が起こると、孫悟空の金の輪っかがはめられたように脳が締めつけられ、仕事に集中できなくなるほどでした。その他の健康状態には全く問題ありませんでした。

医者、会社の上司、同僚に相談してみましたが、原因は分かりませんでした。私は頭痛の原因を探るため、自分で脳と精神に関する本を読み始めました。物理的に改善するため、水泳も始めました。しばらくして、脳に関する知識と水泳の技術に関しては進歩が見られたものの、頭痛に関しては何も改善しませんでした。

記録カードから生活のパターンを見いだす

ある日、自分の書いたカード使って、頭痛の記録を追跡してみようと思い立ちました。私は自分自身の健康状態を、日記として記録カードに残していました。頭痛がひどい時には、その症状を日記とは独立の記録カードに記録しています。それらを全てドックの中から選り抜き、机の上に並べてみました。

私は、これらの記録カードの間に、面白いパターンを見つけました。土曜日と日曜日には頭痛が起きたことがなかったのです。平日と土日では何が違うでしょうか。答えは簡単で、会社に行っているかいないかです。

次に私は、会社と自宅における行動・環境の違いについて考えました。会社での対人関係が本当に精神的な問題を引き起こしているでしょうか。いいえ。むしろ逆に、頭痛が引きがねとなって、憂鬱になっているようです。他にはどういう原因が考えられるでしょうか。食べ物や飲み物はどうでしょうか。食べ物に関しては、会社でも自宅でもそれほど違いません。飲み物に関しては、私はオフィスでも自宅でも、コーヒーをよく飲みます。どちらも同じ銘柄を使っています。では、コーヒーをいれるのに使う水はどうでしょう。

先入観から逃れる

水?しかし、水質って場所によってそんなに変わるものでしょうか。次の日、自分でも半信半疑のまま、とにかく計画を実行に移しました。会社の水道水を飲まないようにしたのです。その結果は明白でした。その日は頭痛が起きなかったのです。確認のため、その次の日も試してみました。やはり頭痛は起きませんでした。

こうして、ようやく頭痛の原因が判明しました。私の頭痛の原因は、会社の水道水でした。原因が分かりにくかった理由は、朝イチにオフィスで飲むコーヒーです。これを飲んでしまうと、その日一日、起きている間中はずっと頭痛に悩まされることになります。私はこの発見以降、飲み水に気を配るようになり、あの頭痛からは完全に開放されました。

実は、頭痛の原因が判明してからも、私自身その結果をすぐに信じることはできませんでした。だって、場所によってそんなに水質が変わるとは思えません。しかし、これこそが私の中の常識から来る偏見だということに気付きました。そして、この常識のために、私は長い間、会社の水道水に関しては少しも疑いませんでした。私の PoIC だけは、真実を知っていました。

PoIC と KJ 法

今度はカードをたくさん使ってピラミッドを作ります。時系列で蓄積してきたカードを机の上に展開し、分析を通じて新しい解釈を加え、情報の「再生産」を行います。時系列スタック法の原則である3ない(検索しない・分類しない・時系列を更新しない)は、この再生産の段階でようやく登場します。情報カードの分析方法として、KJ 法(川喜田, 1967)を取り入れ、PoIC マニュアルを書く過程を見てみます。

収集

PoIC では、頭の中の考え・身の回りの情報を日々カードにして蓄積しています。アイディアが浮かんだ時点で捕まえているので、情報収集の作業は完全にストレス・フリーの状態でなされています。再生産しようと思い立った時には、その素材は既にそこにあります。

タスクフォース編成

タスクフォース編成。左が分類ドック、右が時系列ドック(拡大する

機が熟したところで、プロジェクトに関するカードを全て選り抜きます。これを渡部(1976)の言葉を借りて「タスクフォースを編成する」と言います。タスクフォースとは「機動部隊」のことです。タスクフォースに選ばれたカードは、あなたのプロジェクトを遂行する、有能なエージェント達です。

タスクフォース編成には、まず空のドック(もしくは箱)を用意します。時系列ドックと区別するため、これを「分類ドック」と呼びます。時系列ドックの中のカードを過去から現在に向かって走査し、プロジェクトに関するカードを分類ドックに抜き出していきます。一枚一枚のカードにタイムスタンプを付けているので、「これはちょっと違うかもしれない」というカードでも、後で時系列ドックに戻すことができます。少しでも関連性があるカードは全て抜き出します。

右の写真では、家ドックの約2,000枚のカードから、PoIC マニュアルに関連したカードを、約600枚抜き出したところです。PoIC のマニュアル(Ver. 2.*)では、章建てがほぼ決まっていたので、分類ドックにあらかじめ章ごとのパーティションを作っておきました。この段階ではまだ、抜き出したカードの前後関係について気にする必要はありませんが、大まかなグループ分けをしておくと次の作業が楽になります。

グループ化

グループ化(拡大する

PoIC における情報の蓄積は、ここまでは時系列(時間軸)で行われてきました。ここからは平面(空間軸)でカードを操作していきます。カードは実質的に、この段階で初めて「分類」されることになります。カードを広げると意外に場所を取るので、広い机や畳の上でやると良いでしょう。

タスクフォース編成が済むと、分類ドックの中には章ごとの大きなグループができます。これを一章ずつ机の上に広げ、さらに小さなグループに分類していきます。これを「グループ化」と言います。

グループ化の段階では、カードの内容に注目し、カードとカードの間の文脈(context)やパターンを探します。カードを一枚一枚吟味し、似たような内容のカードが出てきたら、それを積み重ね(パイル)ていきます。なければ、新しい場所にどんどん置いていきます。カードの数が多ければ多いほど、パターンは見つけやすくなります。カードを分類し眺めている間にも、新しいアイディアが浮かんできます。それを赤ペンで書き込んだり、改めて新しいカードに書いていきます。

検索しないことで、内容の似たカードが出てきます。それらのカードはこの段階で同じパイルに集まってきます。自分にとって重要な物事は、いつも考えていることなので高く積み上がることになります。つまり、重要度は「パイルの高さ」として自然と浮かび上がってきます。

名付け

名付け(拡大する

次の「空間配置」に向けて、それぞれのパイルに名前を付けていきます。これは分かり易さのためなので、短くて良いです。各パイルの一番上のカードに大きめのポストイットを貼っていきます。各パイルを構成するカードの内容を眺めて、パイルの名前を考えます。この作業は、「パイルの名前を決める」というよりも、「パイル自身に名前を聞く」といった方が適当な表現かもしれません。パイルが訴えかけてくる声に耳を傾けます。

ここで大きめのポストイットを使うのは、使用後に輪ゴム束ねた時に、区切りを分かり易くするためです。ポストイットの代わりに情報カードを使い、ペンの色を変えておくという方法もあります。カードの書き方は PoIC 規格に従います。パイルの情報カード同士をつなぐこの特殊なカードを「コネクターカード」と呼びます。コネクターカードの内容は、パイルの内容をまとめて文章にする際のポイントを書いておきます。

グループ化の段階では、空いた空間にどんどんパイルを作っていきました。そのため、机の上での各パイルの配置はまだランダムな状態です。

空間配置

空間配置(拡大する

この「空間配置」の段階では、各パイル間のパターンを見つけていきます。「名付け」の段階でパイルに付けられた名前を元に、似たような内容のパイルを一列に並べていきます。

パイルの集まりに対して名前を付けるため、机の上にポストイットを貼ります。これが文章を書く時の「章」に当たります。KJ 法では、文章構成は小さい単位から大きい単位へ、ボトムアップに構築されていきます。その過程において、文章構成や文脈は、情報カード自身が決めていきます。タスクフォース編成の段階でおおまかな章に分けましたが、カードの内容に沿った本当の章分けはこの段階で決まります。

グループ化の混沌とした状態から空間配置の秩序へ。ランダムに並んでいたパイルの山が、整然と配置されていきます。机の上という2次元平面上での分析を通じて、情報の乱雑さ(エントロピー)が小さくなっていく様子が一目瞭然です。

タスクフォース編成からここまで約4時間。情報カードを収集・蓄積し、エントロピーを増加させるのに約10ヶ月経過していることに比べれば、エントロピーを減少させるのに掛かる時間は、まさに「ほんの一瞬」と言えるでしょう。

コンパイル

コンパイル(拡大する

机の上の作業スペースを確保するため、章立てに沿った順序でパイルを分類ドックに格納します。パイルを一つずつ取り出し、カードを眺めながら、内容をまとめていきます。パイルをまとめるので「コンパイル」(com + pile)です。文章にしやすいように、パイルの中でも、カードの並べ替えを行います。文章を書く時は、カードの一語一句をそのまま書くのではなく、パイルの文脈・印象・パターンを書いた方が、文章としてまとまりが出ます。

PoIC を通じた再生産では、この段階でようやくパソコンが登場します。必要に応じて、Illustrator などを使って絵を描きます。一つの章を書き終えたら、カードを輪ゴムで束ね、分類ドックに戻します。ポストイットを貼っているので、グループがどこで区切られているかが分かります。そして、必要な時には、いつでも取り出して机の上に展開することができます。

全ての文章を書き終えたところで、プロジェクト終了、「Get Things Done!」となります。タスクフォースに選ばれたカードはここで「お役御免」となります。これらのカードは、もとの時系列に戻さず、別の場所に保存しておきます。ドックの中のカードの数は、再生産のプロセスを経ることで減っていきます。

情報カードの延長としてのブログ

ブログでは新しい記事が一番上に表示されます。ポストした記事は上から下に向けて、時系列で並んでいきます。PoIC の時系列スタック法と同じ感覚で使うことができます。

ブログの使いはじめ

私がブログを書き始めたきっかけは、Flickr で PoIC の写真を公開し始めた時に、友人の一人に「あなたの写真は面白いから、ブログを書いてみたらどうですか?」と勧められたことでした。ブログ初心者だった私がまず最初に使ったのは、RapidWeaver という Macintosh 用のソフトでした。このソフトは、GUI でブログや Web ページを作ることができます。その代わり、ページのカスタマイズに融通が利かなかったり、コメントに外部サービスを使っていたりと、不便なところもありました。

WordPress への移行

ブログ開始から半年ほどして、コントリビューターの一人である Erik さんからアドバイスを受け、今のサーバに移転しました。新しいサーバでは、PHP と MySQL を使うことができました。RapidWeaver に物足りなさを感じていた私は、WordPress に乗り換えました。必要なファイルをダウンロードし、解凍したものを自分のサーバへ FTP でアップロードします。サーバの方では、ブログ用のデータベースを一つ準備しておきます。あとは、ブラウザからインストール作業を進めることが出来ます(インストール手順)。RapidWeaver のファイルは、一度 RSS 形式で出力してから、WordPress に取り込みました(注:ただし、HaloScan のコメントは取り込めず、私は一つずつ手でコピー&ペーストしました)。

WordPress では、文章作成やテーマの変更などの作業をブラウザから行ないます。WordPress で便利な機能の一つは、Flickr との連携です。Flickr で写真を開くと、タイトルの下に「Blog This」という小さなボタンがあります。これをクリックすると、HTML が WordPress に送られ、写真入りのブログ記事が一つできます。WordPress は、Mac OS X にローカルに環境を構築することも出来ます。WordPress には、日本語版や、サーバを用意しなくても使える WordPress もあります。

実験場としてのブログ

私にとってのブログは「実験場」という位置付けです。ブログは、その使い方、文章の書き方、情報の発信の仕方を試す場所です。始めの頃は、一枚の情報カードの内容を一つのブログ記事にしていました。PoIC マニュアルの骨格ができてからは、5〜10枚のカードでタスクフォース編成し、日々考えることを記事にしていました。私のブログの使い方も変遷してきています。

私の場合、ブログは成功よりもむしろ失敗の方が多いです。本当に上手く書けたと思う記事は 10% に満たないかもしれません。しかし、ブログを実験場と考えると、失敗してもまた書けば良いと楽観的に考えることができます。そして、失敗の経験は全て、このマニュアルを書くのに活かされています。

Tips

情報を集約する場所としてのウィキ

私は、何年・何十年という時間が経過しても、このマニュアルだけを読めば、PoIC の全てが分かるようにしたいと考えています。PoIC に関する全ての情報(情報カード、Flickr の写真、ブログの記事、リンク)は、最終的に全てこのウィキ版のマニュアルに集約されます。

ブログからウィキへ

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ブログでは、文章が時系列で流れていきます。マニュアルを書くのにブログだけを使っていると「この記事はあの記事よりも先に書いておけば良かった」ということがよくありました。ある程度ブログ記事が貯まってくると、時系列の気軽さと文章構成の難しさのジレンマに悩まされます。

そこで、私はより柔軟に文章を書く道具として、ウィキを導入することにしました。ウィキであれば、ブログと同じようにウェブサーバ上に環境を構築することができます。その時々で書きたい文章はブログに書き、最終的な文章構成はウィキですることにしました。この使い分けは、ちょうど PoIC の時系列スタック法(時間軸)とタスクフォース編成・再生産(空間軸)に対応しています。PoIC の観点からすると、デジタルでも時間・空間の二つの軸を持っておくことは、とても自然に見えます。

MediaWiki の導入

当初、このマニュアルを書くのに使用するウィキとして、TiddlyWiki, PukiWikiXoopsMediaWiki の四つの候補がありました。

一通り試してみて、私は最終的に MediaWiki を選びました。その理由は、使っていて一番心地良かったということです。ウィキペディア で見慣れたインターフェイスで、キャメルケースの仕方や操作性もカギとなりました。システムとしての頑強性は、同じくウィキペディアで証明されている通りです。当然のことのようにマルチリンガルに対応しているので、メニューその他を日本語に変更することも簡単にできます。

MediaWiki のマークアップは、とても簡単です。個人として使う分には、太字、見出し、リスト(箇条書き、番号)、内部リンク、外部リンク、画像、これだけで十分です。ページの編集は、全てブラウザから行います。したがって、インターネットが使える環境であれば、どこからでも文章を更新することができます。画面上部の「edit」タブをクリックすると、編集画面に移ります。MediaWiki の強力な機能の一つは「編集履歴の自動保存」です。これが通常のエディタやワードプロセッサとの大きな違いです。必要であれば、いつでも過去の状態に戻すことができます。

「作る楽しさ」を保証する頑強さ

アナログでもデジタルでも、書きながら考えると上手くいくのは同じようです。PoIC のマニュアルは、書いては消し、消しては書くの繰り返しの中で徐々に形作られてきました。各ページの「history」を見ると、このマニュアルが本当にボトムアップに組織化されてきた様子が分かると思います。私にとって、この「作る楽しさ」は、子供の頃の LEGO ブロック遊びとまったく同じように感じます。MediaWiki の頑強さは、このような激しい編集作業にも追従してくれます。

Tips

外部リンク

量を計る

アナログの「紙」を使うことで、カードの数そのものからも、役に立つ情報を抽出することができます。ここでは、一例として、私の家ドックの中のカードを使って、PoIC が私の生産性・創造性に与えた影響を見てみます。

アイディアを計る

重さを量って枚数を算出する。

私は会社と家に、2つの独立したドックシステム(会社ドックと家ドック)を持っています。会社ではファイルシステムも併用していて、システムが多少複雑なので、ここでは簡単のために、家ドックをサンプルとして統計を取ります。私が本格的に 5x3 方眼カードを使い始めた2006年2月以降のカードの数を数えます。

家ドックの中のカードは、主に、PoIC に関すること、自分で考えたライフハック、生活に関する記録(日記)などです。タグを見てみると、その 80 % 以上が「発見カード」であることが分かります。カードの枚数は、どのぐらいのアイディアが私の頭の中から出てきたかを表しています。

アイディアの「重さ」

カードも枚数を丹念に数えることも可能ですが、ここではもっと簡単に、「カードの重さ」を量ることで枚数を算出しました。はかりは100円ショップで購入しました。

  • 一カ月分のカードの重さをはかりを使って量る。
  • それをカード一枚当たりの重さ 1.5 g (100枚で150 g)で割る。

これも一枚一枚がバラバラで、かつサイズの揃ったカードだからこそできる裏技です。一枚のカードを、一つの「アイディアの単位」と考えることができます。

カードを使ってアイディアを可視化・顕在化することで、それは確実に「重さ」を持つようになります。

統計とその解釈

2006年2月から2007年7月までの、月ごとのカード数をグラフにしました。これを見ると、5x3 方眼カードを使い始めた2月には、一ヶ月で20枚しか書いていないことが分かります。これは、カードを使いはじめたから数が少ないという訳ではありません。なぜなら、私はこの半年も前に、カードシステムを導入していたからです。

面白いのは、その翌月にカードの数が一気に267枚/月にまで跳ね上がり、年間の最高記録を達成していることです。極小から極大へ。一体何が起きたのでしょうか。

2006年2月からの一カ月毎のカードの枚数。

PoIC メソッドの確立

個々のカードの内容を調べることで、2006年2月から3月に掛けて起こったイベントを追跡することができます。

こうして見ると、現在の PoIC メソッドのほとんどが、この時点で確立されたことが分かります。

中でも、時系列スタック法を確立したのが最も重要だと思われます。分類から時系列への移行は、一種の「見切り」です。私は、アイディアは分類しにくいことに気付きました。時系列でカード蓄積することで、分類の煩雑さから来る物理的・心理的抵抗から開放されました。ボトルネックが解消され、これまで脳からのアウトプットを止めていたものが無くなりました。その結果、頭の中でくすぶっていたアイディアが、一気に放出されました。

カードの数は、日を追うごとに増えていきます。私自身、PoIC が本当に効果的で楽しいものだと気付きました。カードの内容を読んでみると、発見カードが圧倒的に多く、カードを書くのが楽しい様子がうかがえます。

2006年2月から3月にかけてのこの劇的な変化は、「適切な方法を導入したところ、アウトプットが増えた」という事実を示しています。

サブシステムの充実

2006年4月、5月とカードの数が低迷しますが、それから8月にかけて、再びカードの数が増えていきます。この頃は、以下のようなイベントが続いています。

  • 野帳の導入(2006年5月)
  • icPod(Moleskine Memo Pockets)の導入(2006年7月)

これまで仕事で使っていた野帳を PoIC にも導入することで、どんな小さなアイディアでも捕まえるようになります。いつでも・どこでもアイディアも捕まえることが可能になりました。情報は最終的にカードに一元化して蓄積するので、結果としてドックの中のカードの数は増えます。また、icPod を導入することで、家・会社間でのカードの移動が容易になりました。icPod は PoIC を象徴するアイテムの一つとなります。

5月からのカードの増加は、アイディアをさらに効率良く捕獲・運搬するためのサブシステムを確保したことによるものです。

季節変化

カードの数の変動の原因として、もう一つ考えられるのは、季節的なものです。私は、春から秋にかけて出張が多くなります。カレンダーを確認してみると、2006年9月、2007年6月は丸2週間出張に行っていました。こうなると、出張の準備と後始末で、生活にかなりの擾乱が起こります。この間、生活に関するカードはなかなか落ち着いて書けません。

逆に、冬になると、相対的に机に向かって仕事をしていることが多くなるので、会社に着いた後のマインドスイープや、昼休みなどの空いた時間を利用して、生活のカードも書くことができます。

ドックの中のカードの増加

下の図は、カードの数の積算をグラフにしたものです。赤い線は、ドックの中のカードの増え方を表しています。これを見ると、家ドックの中のカードの数は、ほぼ一直線に増加しています。生活に関するカードの数は、2006年2月から2007年7月までの17ヶ月間で計3,376枚(月平均で198枚、一日平均で約6.6枚)となりました。一日5枚程度のカードを書くことは、決して難しいことではありませんでした。ちっぽけな石ころ(記録カード)で雪崩を起こすだけで良かったのです。

カードの数の積算。

ドックの中のエントロピー

カードを使って頭の中の考えを書き出すことは、頭の中のエントロピー(情報の乱雑さ)を、ドックに受け渡すことを意味します。頭とドックを一つの系として考えると、そのなかでエントロピーはほぼ保存しています。カードを書くことで、これまで頭に掛かっていた負担を減らし、ストレスから開放する。これが PoIC のミソです。

その一方で、ドックの中のエントロピーは日に日に増加していきます。ドックの中のカードが増えに増え、エントロピーが最高潮に達した時が再生産の時です。あるプロジェクトに関するカードを分類・検索し、タスクフォースを編成します。この再生産の過程を経ることで、ドックの中のカードは減り、エントロピーは一気に減少します。

「ミネルバのフクロウは黄昏に飛び立つ」という言葉があります。ミネルバとは、ローマ神話の知恵の神様で、フクロウはその使いです。この言葉にを PoIC 流に解釈すると、あたりが暗くなり始める黄昏どき(ドックのエントロピーが最高潮に達した時)になってようやく、フクロウ(再生産とその成果)がやってくる、といったところでしょうか。

PoIC の法則

PoIC における生産性を「規模と頻度」の観点から見ると、このシステムを支配する単純な「法則」が現れました。

タスクフォース編成の頻度と規模

PoIC に関する私の活動は、「情報カードを書くこと」、「Blog を書くこと」、「マニュアル(Wiki)を書くこと」の三つの規模に分けることができます。これらは、どのような頻度で発生したでしょうか。ここでは、サンプルとして、2006年2月1日から2007年11月30日の間に、私が書いた情報カードを使って分析してみます。

ぞれぞれの活動の規模を測る共通の単位は、タスクフォースに含まれる情報カードの枚数です。情報カードを書くことは、それ自身がすでに、アイディアをまとめ、小規模のタスクフォースを編成することです。したがって、ドックの中のカードの枚数が、そのまま小規模タスクフォース編成の頻度となります。Blog を書くのに使ったタスクフォースは、そのつどドックに戻しているため、使用したカードの枚数を正確に見積もることは、今となっては困難です。ここでは、単純化して Blog に関しては平均10枚(誤差±3枚程度)のカードを使ったと仮定します。マニュアルに関しては、「お役御免」となり、別の場所に保存してあったタスクフォースの枚数を数えます。これは正確に数えることができます。

PoIC の法則

タスクフォース編成の頻度と規模の関係。PoIC を通じた再生産の過程は「べき乗則」にしたがう。

この計測の結果を表したのが右の図です。横軸を頻度、縦軸を規模で、両対数で表示しています。図の中では、左から、マニュアル、Blog、情報カードの点を結んでいます。タスクフォースの規模が大きければ大きいほど頻度は少なくなり、逆に、規模が小さければ小さいほど編成頻度が多くなるのは、直感的に理解できます。ここで一番重要なのは、両対数グラフで表現した時に、これらの点が、ほぼ「一直線」になったということです。

両対数グラフの中の直線ですから、PoIC の中で起きる現象の規模(S)は、頻度(f)の「べき乗」に比例していることを示しています。この両対数グラフの中の直線が、次のような形で表されると仮定し、

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直線の傾き(指数 b)を求めてみると、PoIC を使った生産性に対して、b = 0.9 という値を得ます。つまり、タスクフォースの規模は、頻度のほぼ逆数(1/f)に比例しています。

情報カードを使った生産性の裏には、このような数式で表すことのできる「法則」があるようです。情報カードを使った生産性を支配するこの単純な法則を「PoIC の法則」と呼ぶことにします。

自然界の至るところに現れる「べき乗則」

上に示した式に従うような法則は「べき乗則(power law)」と呼ばれ、この他にも、自然界のさまざまな現象の中にも現れます。

例えば、ある高さから連続的に砂を落として、砂山ができる様子を観察するとします。砂山の高さは、砂を落とすにしたがって、徐々に高くなっていきます。そして、砂山の勾配がある臨界点に達したところで、雪崩が発生します。小さな雪崩は頻繁に起こり、やがて、大きな雪崩が発生します。この時の雪崩の規模(砂粒の数)と頻度を両対数で表すと、上の図で見たような、一つの直線になります(Grumbacher et al., 1993)。

地震のマグニチュードと発生頻度、株価の変動の大きさとその頻度にも、このようなべき乗則が現れることが知られています(井庭, 福原, 1998)。指数係数 b は、その現象を特徴付けます。地震の場合は地域によらず b = 1 (グーテンベルグ・リヒター則、例えば茂木, 1981)、雪崩の場合は実験的に b = 2(Grumbacher et al., 1993)、株価の変動に対しては b = 3 と求められています(例えばGavaix, 2003)。

また、オンライン書店 Amazon の収益モデルを説明するために提唱されたロングテールも、本質的にはべき乗則と同じことであると解釈されています(注:ロングテールを両対数で表すと、上の図と同じような直線になる)。その意味において、すべてのアイディアを余すことなく捕らえ、個人の生産性の向上に役立てようとする PoIC は、まさにロングテール現象の一つであると理解することもできます。

このように、情報処理(PoIC)、自然現象(雪崩・地震)、人間の群衆行動(株価・ロングテール)といった、全く異なる現象が、「べき乗則」という自然法則で一つにつながるのは、とても興味深いことです。

雪崩モデル

次に、PoIC の法則を使って、PoIC システムの「ふるまい」を説明する簡単なモデルを考えます。「地震」というとタイムスケールが大きすぎるので、ここでは、砂山の雪崩をイメージして、これを「雪崩モデル」とします。つまり、砂山(Pile of Sand)と、情報カードの積み重ね(Pile of Index Cards)のアナロジーです。

このモデルの条件は次の三つです。

  • カードは毎日コツコツと書いていく
  • 適当なところでタスクフォースを編成し、再生産を行う
  • タスクフォース編成の頻度と規模には「PoIC の法則」が成り立つ

経験的に、ドックの中のカードは、毎日ほぼ一定の割合で増えていきます。カードの増え方はあくまでも、「コツコツと」、時間とともに線形的に増えていきます。多少変動はあれど、その数は確実に積算されていきます。これは、両対数グラフの横軸で点が右方向に移動していくことに相当します。雪崩を起こすファクターは、あくまでも「カードの総量」です。ドックの中のカードのテーマは一つに限りません。そして、書いたカードはその後、再生産に利用されます。

このモデルの新しい点は、タスクフォース編成の頻度と規模に、常に「PoIC の法則」が成り立つと仮定することです。この経験則を仮定すると、タスクフォース編成の頻度と規模のグラフで、どの瞬間にも「傾きが一定の直線」を引くことができます。この直線は、時間とともに進化していきます。すなわち、その時点で編成可能なタスクフォースの規模は、カードの数が増えるとともに(= 時間とともに}大きくなっていきます。

PoIC の歴史

この雪崩モデルを使って、情報カードを書くことから Wiki マニュアルを書き始めるまでの歴史をたどってみます。時間軸は、タスクフォースの編成頻度に合わせて、対数で表現しています。PoIC の中の歴史的転換点は対数軸上で発生します。図の中の丸印が、情報カード、Blog、Wiki を表しています。雪崩の発生は二つの丸をつなぐギザギザの線で表現します。

PoIC の雪崩モデル。小雪崩が中雪崩をトリガーし、小雪崩と中雪崩が大雪崩をトリガーする。

第一段階 - PoIC を始めたばかり : ドックの中の情報は、初期段階が最も混沌としています。この状態でタスクフォースを編成を編成することは困難です。初めの段階では、分類・検索をしたり、再生産することを気にせず、時系列スタック法にしたがって、カードを蓄積してきます。カードを書き続けていくうちに、自分にとって本当に「面白い」と思うことがしぼられてきます。ドックには、自分の興味のあること、面白いと思うことのカードが増えていきます。

第二段階 - Blog を書き始める:私の PoIC システムに「中規模の雪崩」が発生しはじめます。半年ほどすると、自分のドックの方向性が決まってきます。同時に、カードが増えて「これだけ書いてきて、さてどうしようか」と悩む時期でもあります。私は、Flickr での友人の助言もあり、ドックの中のカードを使って、Blog を書き始めることにしました。考えてみると、ドックの中の内容は、自分にとって何百枚もカードが書けるほど「面白い」と思うことです。この面白さを他の人と共有できれば、素晴らしいことです。Blog に書くべき内容は、すでにドックの中のカードが知っています。

第三段階 - Blog を書き続ける:カードが増えるとともに、Blog の記事も少しずつ増えてきます。私は、PoIC システムを使って、PoIC システム自身のことを考えていました。Blog を始めた頃は、本当に初歩的で、情報カード1〜2枚の内容をそのまま Blog の1記事にしていました。その後は、アイディアをカードに書き留めていき、10枚程度書けたところで Blog の記事を書くようにしていました。Blog のタスクフォースは規模が小さいため、毎回「お役御免」にはせず、カードはドックに戻すようにしています。

第四段階 - Wiki を書き始める:PoIC に「大規模の雪崩」が起きます。Blog では、記事が時系列に並ぶので、書けば書くほど流れ去ってしまいます。初期のマニュアルは、Blog の記事を内容で並べ替えた「Selection」でした。その後、MediaWiki の導入に伴い、それまでに書いた Blog の内容を全て Wiki に集約しました。加えて、PoIC に関するすべてのカードをドックから抜きだし、大規模なタスクフォースを編成しました。情報カードは、Blog の内容を補完するのに使われます。日本語化の要望もあり、日本語版も書き始めます。現在の Wiki 版マニュアルは、これまでの情報カードと Blog の集積の結果です。

「積み重ね」が崩れるときに新しい何かが生まれる

ここでは、PoIC に実際に起きた現象から、情報カードを使った生産性に現れる一つの単純な法則を見つけました。この結果については、今後、その再現性の確認を待つ必要があるでしょう。しかし、PoIC の中に、自然界と同じ現象が現れるのは、私にとって純粋に驚きであり、とても興味深いことです。

そこからさらにもう一歩議論を進めて、情報カードを使った生産性に関する一つのモデルを作りました。小雪崩が、中雪崩を起こし、小雪崩と中雪崩を足したものが、大きな雪崩を起こします。このモデルでは「PoIC の法則」が成り立つと、先験的に仮定しました。これは、個人の生産性において、「カードを使って何かをしよう」という動機がある限り、どの瞬間にも必ず一本の直線を引くことができることを意味しています。その「何か」は、最初の頃はモヤモヤとしたものであっても、カードの量が増えるにつれて具体的になっていきます。

指数係数 b の値は、状況・時期・個人によっても変化します。制約のない自然な状態では、b の値はほぼ 1 になるのかもしれません。なぜなら、私の PoIC の活動は、誰から強制されたものではなく、自分が好きでやってきたことだからです。逆に、b を 1 にすることで、より自然な生産性を実現できるかもしれません。指数係数 b の値を仮定すれば、その時点で起こるべき再生産の規模と頻度は、それまで書いた情報カードの数を使って推測することができます。

PoIC を通じて見えたこと

PoIC は、情報カードとドックを使った、極めてシンプルなシステムです。しかし、そこからは脳や情報に関する、とても興味深いものが色々と見えてきました。ここでは、カードを使った情報整理の経験を通じて、私が気付いたことを書いてみたいと思います。

発見について

脳の中のフィルターを外す。

PoIC の4カードの中で一番面白く、かつ重要なカードは「発見カード」です。発見を効率良く捕獲する手段として、野帳も使いました。

脳の中のフィルター

日常生活における発見を考えると、脳は、入ってくる信号にフィルターを掛け、量を制限しているようです。脳の中のフィルターの存在は、養老(2003)の中で指摘されています。このフィルターのはたらきは、簡単な式で表すことができます。y を脳への入力信号、a をフィルター、x を目からの入力信号として、

y = a x

この式によると、いくら目からの入力信号(x)が大きいとしても、フィルターの除去効率が高ければ(a ~ 0)、脳への入力(y)は減ってしまいます。

バナー・ブラインド

例えば、私の家のソファーには、アフガニスタン産の敷き物が敷いてあります。長年使っているため、真ん中に約 20 cm の穴が空いています。普段生活している限りにおいて、私はこの穴の存在をほとんど気にすることはありません。

しかし、もし私の友人が遊びにきて、この敷き物を見た時、その友人はビックリするかもしれません。私と友人の違いは、その穴を日常的に見ているかどうかです。私はその敷き物を日常的に見ているので、私の脳の方では「穴」という情報にフィルターを掛け、除外しています。

自分の見慣れているモノや興味のないモノは、目では見えていたとしても、脳の方では簡単に見えないことにできるのです。

Web サイトにはバナー広告が貼られています。ほとんどの人は、一つ前のページに表示されていた広告を思い出すことができないのではないでしょうか。この現象は、バナー・ブラインドと呼ばれています。

キノコの法則

今度は逆の例を挙げてみます。森にキノコ狩りに行ったとします。初め、森に入ったばかりの時は、一面落ち葉ばっかりで、キノコなんてどこにも見当たりません。しかし、しばらく目を凝らしていると、キノコを一つ発見します。そうすると、今度は至るところにキノコが生えているのに気付きます。

もちろん、この間、森が急激に変化してキノコが一気に生えてきた訳ではありません。変化したのは目(もしくはその先の脳)が、キノコを探すのに最適化されたのです。一つ見つければ、いっぱい見つかる。この現象を、私は「キノコの法則」と呼んでいます。

脳の中のフィルターは外すことができる

脳の中のフィルターによって、脳は入ってくる情報を制限し、インフレを防いでいます。しかし同時に、このフィルターによって、私たちが見慣れていると思っているもの、日常生活のすき間に隠れた面白いものも除外されています。

私の PoIC の経験から言えることは、「脳の中のフィルターは、簡単な訓練で外すことができるらしい」ということです。フィルターを外すと、いままでとは違う世界が見えてきます。至るところにキノコ(なにか面白いもの)が生えているのに気付くでしょう。

フィルターを外す訓練として一番簡単なのは、目に入ったものに対して、「なぜだろう?」と問い掛けることです。問いに対して、思いついたことを、思いついた時に、野帳やカードに「発見」として書いていきます。これはクイズ番組ではありませんから、時間制限はありません。すぐに答えを出す必要はありません。一つの問いに対して、答えを出すのに1年以上掛かることもあります。

もちろん、人に聞いたり、本を調べたり、ウェブを調べたりすることは構いません。しかし、答えそのものよりもヒントを探すようにします。こうして、「自分の答え」を出すことができます。自分で考える過程においては、ポリア先生の問題解決法ポリア、1954)や、マリノフの PEACE 法マリノフ、2002)が指針となるでしょう。

時系列について

PoIC では、全てのカードは時系列でスタックされます。これを「時系列スタック法」と呼びました。時系列による情報管理について言及したのはこれが初めてではなく、先鞭として「超」整理法(野口、1993)があります。ここでは、「超」整理法と PoIC の時系列情報整理の違いについて考えてみます。

時系列の公・私

単純に「時系列」と言った時に、そこには二つの種類があります。その一つは、公共的・歴史的・絶対的なもので、誰にでも共通の「公的な時系列」です。世の中の出来事は全て、この一つの時間軸を基準にして語られます。一方で、私たちの心の中の時間軸は、個人的・相対的なもので、どれ一つとして同じものはない「私的な時系列」です。

「超」整理法の時系列は、本棚からファイルを引き出す、戻すといった、自分の行動を元にしています。PoIC の時系列でも、思い浮かんだことを思い浮かんだ時にカードに書き、そのままの順番で並べていきます。「超」整理法と PoIC で「時系列」と言った時、それは「私的な時系列」を意味しています。この点では共通です。

カードの場合、私的な時系列にしたがって、いま頭に浮かんだことからどんどん書いていく方が合理的です。人間の記憶は、「いま・ここ」の記憶が一番強く、そこから急速に忘れていきます。エビングハウスの忘却曲線によると、人間は、20分後には42%、1日後には74%を忘れてしまいます。短期記憶に限ると、その90%は15秒で消えてしまうという報告もあります(Peterson & Peterson, 1959 via 苧阪, 2002)。カードは最初からバラバラなので、必要な時にいつでも公的な時系列に並べかえることができます。

「超」整理法と PoIC の時系列

二種類の時系列。

さて、Flickr やブログで、「PoIC の時系列スタック法は、「超」整理法と同じでしょう?」という質問を多く受けます。例えば、Edward 氏は、カード版の「超」整理法として PoIC を紹介しています。しかし、誤解を避けるために言えば、「超」整理法と PoIC の時系列は、似ているようで全く異なります。

「超」整理法 = 時系列 + 更新ルール

「超」整理法の時系列は、実は単純な時系列ではありません。

「超」整理法では、まず初めにファイルを本棚に時系列で並べていきます。その状態から、ある一つのファイルを取り出して使ったとします。使ったファイルを戻す時は、元の位置に戻すのではなく、常に本棚の右端(一番新しいファイルがある方)に入れていきます。

したがって、ファイルを取り出し、戻すたびにシステムが更新されることになります。良く使われるファイルは、常に本棚の右側に駐在し、逆に、あまり使われないファイルは、時間とともに本棚の左側にスライドしていきます。

「超」整理法の時系列は「更新ルールのある時系列」です。この更新ルールがあることが、ファイルシステムをダイナミックなものにしてくれる要因です。

PoIC = 時系列

一方で、PoIC では、ドックの中から数枚のカードを取り出したとしても、一番手前ではなく元の位置に戻します。また、タスクフォースを編成し再生産が完了した時、使ったカードはドックに戻さず、他の場所に保管します。PoIC の時系列には更新ルールがありません。これが、「超」整理法の時系列と同じであると言えない理由です。

PoIC を構成しているのは、ファイルに比べて情報単位の小さいカードです。システムの中のカードの数は、容易に数千を超えます。したがって、「超」整理法型の更新ルールをそのまま適用し、秩序を保つのは困難です。「検索しない」ことが原則ですが、もし仮に検索する場合、タイムスタンプが検索キーとなります。更新ルールを導入して時系列を崩すことは、その検索キーをも失うことになります。

PoIC に一貫性と頑強さをもたらすのは、唯一、「純粋な時系列」だけです。

ファイルとカードの違い

「超」整理法型の更新ルールが PoIC ではうまくいかない理由。

「超」整理法と PoIC の時系列をもう少し詳しく見てみましょう。

「超」整理法と PoIC の時系列の違いを説明すると、今度は、「「超」整理法と同じように、更新ルールを導入してはどうですか?」と良く言われます。

私自身、ファイルや本の整理に「超」整理法を導入しており、その仕組みや有用性を理解しています。しかし、ファイルシステムでは上手くいく「超」整理法は、カードシステムではうまく機能しません。このことは経験的には知っていても、それがなぜ上手くいかないのかを説明するのに、非常に苦労しました。Jeevs 氏が flickr に寄せたコメント を読んだ時に、その理由がようやく分かりました。

「超」整理法では、システムに加わる新しいファイルの数は、個人の事情にも大きく依存しますが、日にせいぜい1〜2ファイルか、それ以下ではないでしょうか。加えて、封筒を使っていくつかのファイルをまとめ、システムの中のファイルの数を減らしています。システムからファイルを取り出す頻度は、システムに新しくファイルが加わる頻度よりも高いでしょう。これを式で表すと、次のようになります。

「超」整理法 : 新ファイルが加わる頻度 < レビューの頻度

一方で、PoIC では、カードは日に5〜10枚の単位で増えていきます。カードは、ファイルに比べて情報の単位が小さく、したがって、新しいカードがシステムに加わる頻度はもっと高くなります。また、ドックの中のカードを何枚かまとめて束ねるということもしません。仮に、「超」整理法型の更新ルールを導入したとしても、新しく加わるカードの数が圧倒的に多いために、更新したカードは新しいカードの後ろにすぐに埋もれてしまいます。この状況を式で表すと、次のようになります。

PoIC:新カードが加わる頻度 >> レビューの頻度

この二つの式の違いは不等号の向きです。この違いがファイルシステムとカードシステムに大きな違いをもたらしています。違いを生む原因は、二つのシステムで取り扱う情報のサイズです。時系列での更新は、不等号が "<" (または "=") の時だけうまく働きます。

PoIC のカギはタスクフォース編成

PoIC の目的は、更新ルールを導入することで、カードシステムを活性化することではありません。データベースを構築するのはまだ準備段階で、そこから何かを生み出すこと、再生産することが最終目的です。

再生産の段階で、タスクフォースを編成する時、必要なカードはドックから全て抜き出されます。更新するとしないとに関わらず、タスクフォースに選ばれるカードは同じです。

これを簡単な例で見てみましょう。初めに二つのプロジェクト(a、b)がドックの中に混在し、カードが abaa の順番で並んでいるとします。途中で新しく aba という3枚のカードを左から加えます。最後に b のプロジェクトに関してタスクフォースを編成するという条件で、更新あり(「超」整理法型)となし(PoIC 型)の違いを見てみます。

更新あり:abaa -> baaa -> ababaaa -> bbaaaaa -> bb, aaaaa(計4ステップ)

更新なし:abaa -> abaabaa -> bb, aaaaa(計2ステップ)

結果は同じなのに、ステップ数は倍も違います。これは、タスクフォースを編成する(= 自分のアイディアを将来何らかの形で再利用する)ことを前提とすれば、「更新あり」の途中のステップは、全く意味がないということを示しています。したがって、カードに書いたアイディアは、順序を更新せずに、時系列でどんどん蓄積していけば良いのです。

時系列による情報蓄積は、頭に思い浮かんだこと、見たことを、その順序で書くことです。順番さえ気にしなければ、これは普通のノートでも実現できます。しかし、タスクフォース編成は、パーツ毎に書いたカードであって初めて可能になります。つまり、カード・時系列スタック法・タスクフォース編成は、三つでワンセット、互いに切っても切り離せない関係であるということです。

情報とエントロピーについて

「エントロピー」とは、「情報の乱雑さ」を表す概念です。自然界では、エントロピーは時間とともに増えていきます。例えば、コップに入れた水に一滴のミルクをたらすと、ミルクは時間とともに拡散し、コップの中の「乱雑さ」は増していきます。放っておいても、元の水と一滴のミルクに戻ることは決してありません。私たちは、エントロピーの低い状態を「秩序」、エントロピーの高い状態を「混沌」と呼んでいます。

システムの中のエントロピー

PoIC では、ドックの中のカードは日に5〜10枚の単位で増加していきます。情報の単位が小さいカードであることと、時系列で種類の区別なくスタックしていくことで、ドックの中の情報の乱雑さは、時間とともに一方的に増えていきます。分類しないので、ドックの中のエントロピーが途中で減ることはありません。更新なしの状態(「時系列について」の例では、abaabaa)は、更新ありの状態(同じく、bbaaaaa)に比べて乱雑さが大きく、エントロピーが高い状態です。

ファイルシステムのエントロピーについては、野口(1993)でも度々触れられています。「エントロピー」という考えは、情報整理を考える上で、避けて通れない話題のようです。一つ一つの情報量が小さいカードシステムでは、エントロピーの増え方はさらに急激です。したがって、PoIC を使っていく上で、エントロピーの話題に敏感になるのは当然のことです。

エントロピーとサイクル

PoIC のエントロピーモデル。ドックの中のエントロピーはサイクルを繰り返す。

エントロピーという考え方を一度理解すると、それが自然界の様々なシステムの中に存在することに気が付きます。例えば、四季、生物の一生、遺伝、株式市場など。興味深いのは、これらのシステムの中で、エントロピーがサイクル(周期)を持って変動しているということです。

時が満ち、エントロピーが頂点に達すると、情報の乱雑さを下げようとする存在が現れます。ここではこの存在を「レギュレーター(調整者)」と呼ぶことにします。先の例で言うと、レギュレーターは冬、死、減数分裂、暴落です。これらはシステムのエントロピーが一方的に増え、インフレーションが起きるのを防いでいます。レギュレーターの出現は、一見ネガティブな出来事ですが、エントロピーという観点から見ると、システムの中での役割が良く理解できます。自然界は、極めて巧妙な手を使うものだと、つくづく感じさせられます。

PoIC を使う私たちの目標は、カードを使って何かを成し遂げること(Get Things Done)です。PoIC におけるレギュレーターは、システムの死ではなく、あくまでも再生産に払われる私たちの「努力」です。

知識・知恵の使者は、決して朝イチにやって来るのではないようです。ドックの中のカードが増えに増え、心理的に「本当にまとまるのか?」と不安になり、エントロピーのインフレーションが起きそうなところで、ようやくフクロウが飛んできます。

カードが増える → エントロピーが増大 → 再生産 → カードが減る → エントロピーが減少

右上の図は、カードを使った知的生産におけるエントロピーの増減をモデル化したものです。時系列スタック法でドックに蓄積してきたエントロピーは、タスクフォースの編成(abaabaa -> bb, aaaaa)とその後の再生産(bb -> B)に伴い、一気に減少します。ドックの中のエントロピーは、数ヶ月から数年のスケールで、このようなサイクルを繰り返します。自然界のサイクルを考えると、カードを使った知的生産の過程は、自然な現象にも見えてきます。

環境エントロピー

「情報」という立場からすると、PoIC におけるシステムとしての最小単位は、「脳」と「ドック」です。脳の中の情報は、野帳とカードを介してドックに受け渡されます。脳の中のエントロピーが高いと、人はストレスを感じたり不安になります。そこで、紙に書き渡すことで、脳の中のエントロピーを減らします。その代わり、ドックの中のエントロピーは確実に増加していきます。脳とドックを一つと考えると、その中でエントロピーはほぼ保存しています(ただし、人間の脳は「忘れる」ので、完全には保存しない)。

この最小単位の一つ上の層として、「作業環境」を含めたシステムを考えることができます。生産性の観点から見ると、作業環境まで含めたシステムの方が、私にはより自然に見えます。

机の上にモノを散らかしていると、集中力が散漫になってしまいます。あれもこれもと、いろいろなものに手を出す一方で、あとで気付くと何もできていないこともあります。私が常に机の上をきれいにしておくのは、私が几帳面だからではなく、むしろそうしないと仕事が進まないと自覚しているからです。

私は、個人的には、常にカードを机の上に散乱させておくことには、あまり賛成できません。なぜなら、カードが散乱している状態は、それだけでエントロピーが高く、人に不安感を与えるからです。また、いつまでもカードを散乱させておくと、今度は、脳がフィルターを掛けて、見えないことにしてしまいます(脳の中のフィルター)。よって、カードは普段、ドックの中にしまっておき、使うときだけ取り出します。

エントロピーのホットスポット

エントロピーが低い状態で何かを生産するというのは、「無」から「有」を生み出すようなもので、これも無理な話です。どうやら、生産性の向上を考える上で重要なのは「システムの中のどこかにエントロピーを集中させる」ということのようです。

モノが散乱した机の上は、それ自体が情報が乱雑な状態、つまりエントロピーが高い状態です。しかし、いくら机の上のエントロピーが高くても、集中力を散漫にさせるだけで、生み出されるものは多くはありません。散らかった机は、脳・ドック・机のシステムの中で、限られたエントロピーを消費してしまいます。一方で、脳の中の情報は、時間とともに散逸してしまいます。それは、脳には情報量を少なくする極めて重要な、「フィルターを掛ける」機能と「忘れる」機能があるためです。

そこで PoIC では、ドックの中でエントロピーを集中・極大化させていきます。

脳の中の情報(アイディア)は、日頃からカードにして、ドックに渡しておきます。ドックの中のエントロピーが増大しても、ドックの注意力が散漫になったり、ドックが不安を感じるということはありません。そして、機が熟した時に、ドックからカードを選り抜きます。検索・分類・再生産により、ドックの中のエントロピーは一気に下がります。

知的生産について

生産性を向上させる技術には、古今東西、様々な方法があります。ブレインストーミングKJ 法マインドマップGTD、そして、PoIC。ここに挙げた5つは全く異なる方法に見えます。しかし、これらの間には、ある共通点があるようです。

知的生産の共通点

ブログで「この5つの方法の共通点はなに?」という問を出したところ、次のような回答が寄せられました。

  • 脳(CPU)や心を自由にする。整理しない。
  • 全ての方法は(目には見えない)心の物理的な状態を表現している。
  • 一言で言うと「書くこと」。

皆さん大変良い点を突いています。私が用意していた答は、「この5つの方法はすべて PoIC エントロピーモデルで理解できる」ということでした。これらの方法は、共通して、頭の中の情報を外部(例えば紙)に書き出し、システムの中でエントロピーを増加させていきます。システムの規模は方法により異なります。そして、エントロピーがピークに達したと思われるところで、分類・整理・処理し、一気にエントロピーを減少させます。上記の5つの方法は、すべてこのようなサイクルを通じて、何かを生産・創造しています。

一つの同じ方法

では、なぜこれまでこれらの方法の共通性が見えなかったのでしょうか。それは、この5つの方法の間で、1サイクルが終わるまでに掛かる時間が違うためです。ブレインストーミングや KJ 法では、2時間程度で一つのサイクルが終わります。マインドマップは30分から1時間程度。GTD は、最小単位を2分(2分タスク)として、全てのタスクを処理し終わるまで数日、長くて数ヶ月。PoIC ではさらに長く、数ヶ月から数年に及ぶことも考えられます。

この5つの方法は、時間をパラメーターとした、一つの同じ方法とも言えます。使用する媒体をすべて統一して5x3 の情報カードを使えば、あとは時間というパラメーターの取り方一つで、KJ 法にも、GTD にも、マインドマップにもなります。PoIC 規格でカードを書いて、ドックに時系列でスタックしておけば、あとはどの方法にも利用できます。実際に PoIC と KJ 法を組み合わせた例は、「再生産する」の項で見た通りです。

情報の流れと「時空の輪」

PoIC の中の情報は、時系列スタック法にしたがって蓄積され、その後のタスクフォースの編成再生産の過程で、机の上に展開されます。私は、PoIC の中の情報は、現在〜過去〜空間という道筋を通り、その成果は「現在」に反映されると考えていました。

43Tabs システムの登場

そこに新しく登場したのが、野ざらし亭さんの提唱する 43Tabs システムでした。43Tabs システムは、工業生産におけるカム・アップシステムと、GTD の Tickler File の考えを合わせ、情報カードシステムに応用したものです(詳しくは 43Tabs の原文を参照)。43Tabs システムでは、月12個+日31個、計43個の見出しインデックスを使い、未来から現在に流れてくるタスクを処理します。

この新しいカードシステムの登場に、私はとてもビックリしました。なぜなら、そこには、PoIC にはなかった「未来」から「現在」への情報の流れが明確に示されていたからです。PoIC と 43Tabs を組み合わせたシステム(PoIC+43Tabs システム)で、ドックの中の時間軸は、未来から過去まで一直線につながります。

PoIC+43Tabs システムにおける「時空の輪」

PoIC + 43Tabs システムにおける情報の流れ。

時間は未来に向かって進み、情報は過去に向かって蓄積していきます。PoIC のドックは、上流から流れてくる川の水を一時的に堰き止めて、ダムを作る様子にも似ています。

タスクフォースの編成は、過去となった情報を空間、すなわち「ここ」に持ってくることに相当します。そして、再生産の段階では、「ここ」に展開した情報を2次元平面上に展開し、分類・分析を経て、新しい知恵・知識・成果を得ます。

この様子は、逆行する時間と空間の2本の軸、もしくはそれを膨らませた、一つの「輪」で表現することができます。右の図は、下半分が時間軸を、上半分が空間軸を示しています。性質のまったく異なる2つの軸は、「未来」と「過去」で接続しています。そして、PoIC+43Tabs システムの中の、43Tabs、時系列スタック法タスクフォースの編成再生産という4つの工程は、それぞれ「輪」の1/4ずつを占めます。

「輪」から「らせん」へ

43Tabs システムが登場し、PoIC と接続されたときに初めて、私にはこの「時空の輪」とその中の「情報の流れ」が見えました。この統合されたシステムにおける「時空の輪」構造を考えた時、再生産の結果は、現在ではなく、むしろ「未来」に反映されると考えた方が自然です。なぜなら、新しく得られた知見は、未来から流れてくるタスクをも変化させるからです。

再生産の結果は、現時点での「未来」を「未来'」に変化させます。すなわち、PoIC+43Tabs システムを導入し、何かを成し遂げようとすることは、「輪」を「らせん」へと変化させることを意味します。

PoIC 的生活

量を計る - PoIC の法則」では、このシステムに現れた「べき乗則(1/f)」について述べました。この法則は、「ロングテール」や「80:20 の法則」と本質的に同じです。

生活習慣へのフィードバック

私が驚いたのは、このような法則が、私の目の前のカードシステムから現れたということです。"To see is to believe" - この目で見てしまったものは、信じるより他ありません。そこで私は、この法則を自分の生活習慣にも取り込みはじめました。例えば、

  • 一日のうち、10時間は働き、2時間は自分のための時間に充てる(80:20)
  • 午前中2時間は必ず書き仕事のために確保し、午後8時間は読書や雑用に充てる(ロングテール)
  • 一日に読む本は、仕事の本が8割、趣味の本が2割(80:20)
  • 一週間7日のうち、5.5日を働き、1.5日を休む(80:20)

これによると、朝9時から働き始めれば、仕事が終わるのは20時(昼休み1hを含む)となります。また「6日働いて1日休む」といったことは、旧約聖書の昔から言われていることです。これといって特別には聞こえません。しかし、私は「べき乗則」というレンズを通して見たときに初めて、その理由を非常に合理的に理解できるようになりました。

私の中で一番大かった変化は、これを知ったことで、自分の「趣味」や「休息」のために時間を使うことに対して感じていた「罪悪感」から開放されたことです。今では、日曜日も気兼ねなく休めるようになりました。

べき乗則とリズム

ただし、あまり厳密にしすぎても融通が利かなくなってしまうので、ある程度の流動性は残すようにしています。例えば、午前中の書き仕事で気分が乗ってきたら、無理に止めず午後も続けるようにする、など。この場合は、アウトプットとインプットの比率が 20:80 から 80:20 に入れ替わることもあります。いずれにせよ、午前中に書き仕事を据えることで、一日の仕事のペース配分に余裕が生まれます。

不思議なのは、上記4つの生活習慣を取り入れたことで、私の生活に「リズム」が現れ始めていることです。最近では、朝6時に自然に目が覚めてしまいます。私は寝起きがとても悪い方で、以前の私にしてみれば、目覚まし時計もなしに6時に起き出すなんて、全く考えられないことでした。この生活習慣の導入は、私がこれまで早起きをするのに試したどんなライフハックよりも効果的でした。

複雑に見える私たちの日常生活の中にも、実は、単純な法則があるのかもしれません。

デジタルとアナログ

PoIC を使っていく中で強く感じたことは、私にとってアナログの世界がとても心地良いということでした。この心地よさはどこから来るのでしょうか。

カードが増えることは幸せ

動物行動学者であるデズモンド・モリスは、「裸のサルの幸福論」(2005)の中で、いくら私たちの生活が近代化されたとしても、狩猟者(ハンター)としての本能は消えないと主張しています。現代の生活においては、食料とする動物を実際に自分の手で狩ることはほとんど無理です。そこで、人間は「代償行為」として、お金を稼いだり、本を買ったり、スポーツを楽しんだり、おもちゃを集めたりします。こうすることで、人間の脳の中に眠る野生の本能を慰めているようなのです。

このマニュアルの中で、アイディアを書き留めることを、「捕まえる」、「捕獲する」という言葉で表現してきました。アナログ・メディアであるカードは、書けば書いた分だけ手元に残ります。書いたカードには、厚み・重みがあります。めくったり、箱に入れた時の音を聞くこともできます。「量を計る」の項では、捕獲したアイディアの重さも量りました。

PoIC を面白くする一つの要素は、アイディアを捕まえたり、ドックが自分の書いたカードで満たされていくという、脳の原始的な部分を刺激する満足感なのかもしれません。代償行為には、「生産行為」も「消費行為」もあり得ます。幸いにも、カードを書くことは、自分の将来の「生産行為」に必ず結びついています。

アナログの安心感

デジタルの世界では、電源を消してしまえば、ファイルは目の前からは消えてしまいます。一行しか書いていないファイルと、何万行も書いたファイルの外見は全く同じです。パソコン上の全てのファイルは、有るのに無い、すべて仮想現実のものです。私は、自分がパソコンで書いた文章は必ず紙にプリントし、ファイルしておきます。こうすることで、私の中に眠る本能の幾分かを満たしているのだと思います。

生産性を向上させる携帯端末としては Palm が理想に近いかもしれません。それでも、バッテリーの残量を気にしたり、落として壊さないように注意する必要があります。しかも重い。サイズはポケットサイズでも、重さはポケットサイズではありません。野帳のように、「いつでも・どこでも・どんな体勢でも」というのは、難しいのが現実です。また、デジタルのデータはすぐ消えてしまうという危うさもあります。必要なファイルをうっかり削除してしまったという経験は誰にでもあるでしょう。UNIX では、rm -rf * のコマンド一行で、数年分のファイルが一気に消えてしまいます。

ドックの中のカードは、私たちが物理的に捨てない限り、いつまでもそこに居てくれます。個人のシステムでは、こういう安心感が大切なのかもしれません。

「紙」の復権

私が PoIC を通じて感じたのは、生産性の向上、とくに個人の発見をうながすという意味においては、パソコンはあまり役に立たないということでした。パソコンはよくよく考えて使わないと、かえって生産性・創造性を下げてしまう可能性があります。情報のペーパーレス化が進む世の中ですが、それは莫大な量の情報を処理・発信する事務や新聞の分野では真実です。しかし、個人的な生産性、特に創造性に密接に関わる部分においては、ペーパーレス化など全くあり得ないというのが私の実感です。

これまで生活の中心にあったパソコンは、机のすみに追いやられ、私の作業環境の中心には紙が戻ってきました。机の上にはいつも十分な量のカードがあり、野帳は常に肌身離さず持ち歩いています。また、本が読みやすいように机の高さを変えたり、照明の明るさを考えたりもしています。PoIC を通じて、私の生活は確実に変わりつつあります。

文化の遺伝子

文化の遺伝子のらせん構造。

DNA(デオキシリボ核酸)は、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)の四種類の塩基を組み合わせることで、生物の遺伝情報を伝えます。

PoIC では、一枚一枚のカードに、4つのアイコンに対応したタグを付けます。この「4」という数字は、これ以上でも、これ以下でもない、必要十分な数でした。これは偶然にも DNA の塩基の数と同じです。ドックの中に数百枚・数千枚のカードがたまった時、タグは一連のコードを形成します。また、再生産の際にタスクフォースが編成される様子は、まるで染色体の減数分裂のようです。

これらの類推から、PoIC におけるドックは「文化の遺伝子」、一枚一枚のカードはその遺伝子を構成する情報と言えるのではないでしょうか。PoIC の本質も遺伝子と同じで、「良い情報を伝えること」にあります。

カードを書くことが、自分の「文化の遺伝子」のらせん構造を紡いでいくことだと考えると、なんだか楽しくなってきませんか?

まとめ

カードを使って何ができるのか。どうしたら効率良くアイディアを収集できるのか。どうしたらカードシステムを楽しく使えるか。PoIC は私自身の、カードを使った生産性向上の実験でもありました。

PoIC の定義

記録カード (See large size)

PoIC は 5x3 方眼カードドックを使った、極めてシンプルなカードシステムです

  • カードは、PoIC 規格で書かれます
  • 書かれたカードは、ドックと呼ばれる箱に時系列で保存されます
  • 機が熟したら、ドックからカードを選り抜き、知恵・知識の再生産を行います

新しい点

4 カード

4カードとは、次の4種類のカードのことです。

この中で、個人の生産性の向上を考える上で特に重要だと考えるのは、「発見カード」です。

時系列スタック法

ドックの中に時系列で保存されたカード。

PoIC では、書いたカードをドックに時系列で、書いた順番に貯めていきます。その際に大切なのは、以下の三点です。

  • 分類しない
  • 検索しない
  • 時系列を更新しない

これは、以下の立場を取るために可能となることです。

PoIC の時系列と「超」整理法(野口、1993)の時系列が異なるのは、以下の点です。

  • 更新ルールの有無
  • 情報の単位(ファイル v.s. カード)
  • システムのエントロピーの減少のさせ方(更新 v.s. タスクフォース編成)

その性質は、同じ時系列でも全く異なります。

カードの統計から分かること

統計とその解釈」では、家ドックのカードを使って、PoIC が私の生産性に与えた影響を見ました。そこで分かったのは、

  • 適切なシステム・メソッドを導入すれば、脳からのアウトプットは爆発的に増加する
  • 書くカードの量は、年間約2,000枚、日平均5〜10枚(実際にはこれに仕事のカードが加わる)
  • タスクフォースの編成に伴い、ドックの中のエントロピー(情報の乱雑さ)は、一気に減少する

エントロピー

KJ 法のグループ化の過程。まだエントロピーが高い状態。
KJ 法の編纂の過程。分類により、エントロピーが低くなった状態。

エントロピーとは、「情報の乱雑さ」を表す概念です。情報整理はこのエントロピーという観点から見ると、見通しが良くなります。

エントロピーは、

  • ドックの中のカードの増加とともに一方的に増えていく
  • タスクフォースの編成とその後の再生産に伴い、急激に減少する
  • 増加・減少には、サイクルがあり、一方的な情報の増加を防いでいる

これらを通じて、PoIC では、タスクフォースの編成とその後の再生産が、システムの崩壊を防ぐ重要なカギとなることが分かりました。

エントロピーのシステム

カードを使った個人の生産性を考える時、エントロピーのシステム(系)として考えられるのは、次の三つです。

  • 私たちの脳
  • ドック
  • 作業環境

エントロピーは、このシステムの中で、ほぼ一定です。人間の脳が一度に扱うことのできるエントロピーには限りがあります。それを超えると、脳は、入ってくる信号に意図的に「フィルターを掛け」たり、すでにある記憶(記録)を「忘れ」たりする。PoIC では、ドックの中でエントロピーを集中・極大化します。

生産性を向上させる上で大切なのは、以下の点です。

  • 作業環境のエントロピーはできるだけ下げておく(机の上をきれいにしておく、雑音を減らす etc.)
  • 脳の中のエントロピーを増加させる(例えば、読書、情報収集、禁欲など)
  • それをカードに書き出し、ドックに蓄積する(脳の中のエントロピーは減少し、ストレスは減る)
  • カードが十分貯まったところでタスクフォースを編成する
  • エントロピーを下げた状態で情報を脳に読み込み、処理する

アナログとデジタル

アナログの媒体である「紙」が得意とすることは、

  • 簡単な絵を素早く描くこと
  • いつでも・どこでも・どんな体勢でも情報を捕獲すること(野帳の使用)
  • 半永久的に記録が残ること
  • 書いたカードの量を眺めること、重さをはかること(無から有への変化)
  • カードを机の上に広げて、概観すること

これらが、私の個人的な生産性を向上させる上で、とっても心地が良かった。

一方で、デジタルにしかできないこともあります。

  • きれいな体裁(フォント、絵)
  • 瞬間的な分類・検索
  • 膨大なデータの保存
  • インターネットを使った情報の共有・交換

しかし、私が PoIC の経験を通じて気付いたのは、デジタルが得意とすることが、個人の生産性、特に発見を促すという意味においては、あまり意味がないということでした。

参考資料

このマニュアルを書く際に参考にした資料。

書籍・文献

参考資料

カードと生産性(カード五書)

時系列による情報整理

脳生理学・認知心理学

問題解決のアプローチ

複雑系・べき乗則

さらに知りたい人のために

Weblog

2ちゃんねる

文房具板

生活板

Flickr

Group

Photoset

情報カードの比較

コレクトの5x3方眼カード。

いわゆる情報カード(英語では Index Cards、インデックスカード)とは、5インチ x 3 インチ (127 mm x 76 mm) のカードです。日本では、この他に、6インチ x 4 インチ、B6 サイズ、また、海外では 5インチ x 8 インチのサイズなども存在します。5x3 サイズは、図書館で蔵書の索引(インデックス)を作るのに長い間使われてきました。また、6x4 と B6 サイズは、研究者の間で人気があるようです。

日本における情報カード

世界堂のインデックスカードコーナー

日本の文房具メーカーの一つであるコレクトは、様々な種類の情報カードを販売しています。サイズは名刺、5x3、6x4、B6、紙幣サイズ、種類は無地、罫線、方眼があります。世界的に見ても、これだけバラエティに富んだ情報カードがあるのは、日本だけのようです。

それでは、情報カードは日本ではポピュラーであると言えるでしょうか。私は「Not yet」だと思います。情報カードは、まだまだマイナーな存在です。実際、文房具屋に行ってインデックスカードを見つけるのは大変です。5x3のサイズがないこともしばしばです。

このような中で、B6 サイズの情報カードは、研究者の間で人気があります。文房具屋や大学の生協では比較的見つけやすいです。これは、1960年代に、梅棹忠夫氏(元京都大学教授、現・国立民俗学博物館顧問・名誉教授)が、著書「知的生産の技術」の中で、B6 サイズのカードを使った情報整理技術を紹介したことによります。B6 サイズのカードは、「京大式カード」として良く知られています。

コレクトの方眼カード

コレクトの方眼カードについて、ちょっと詳しく見てみます。世界のカードの比較表を見ると、コレクトの方眼カードだけが世界で唯一の5 mm 間隔グリッドです。6mm 間隔グリッド に比べると、全体的に引き締まった感じがします。コレクトの方眼カードの束を上から見ると、切り口に現れるグリッドの線がちゃんと揃っています。これも世界的に見て非常に珍しいようです。タグを付けた時に、ピチッと揃っているのを見ると、なんだか気持ちいいものです。

大きさは、一般の5x3カードよりもほんの少しだけ小さくなっています(125 mm x 75 mm)。グリッドが "5" mm 間隔で、サイズが "125" mm x "75" mm。125と75は5で割り切れます。これが、コレクトの方眼カードの上辺のグリッドがいつも揃っている秘密です。

コレクトのカードは、再生紙を使っていません。そのため、表面はツルツルで、ペンのインクがしみ込んでしまうこともありません。これは、カードを書く時の労力を幾分か減らしてくれます。

私の主観で言えば、コレクトの方眼カードはマスターピース、職人芸の域に達していると思います。これがその辺の文房具屋で買えるのは、実はとてもすごいことなのかもしれません。

東京・新宿での調査

東京・新宿での情報カードの販売状況を調べるため、「世界堂 新宿本店」に行ってきました。新宿本店は、地下鉄丸ノ内線、新宿3丁目駅から徒歩5分の距離です。

世界堂本店は、5、6階からなるビルで、文房具・画材を販売しています。インデックスカードは、1階に置いてありました。ほとんどがコレクトの製品で、サイズは名刺、5x3、6x4、B6 があり、種類は、無地、プリント用、方眼、6 mm 罫線、8 mm 罫線がありました。カードボックス(ドック)、見出しカード、パース(携帯用カード入れ)も置いてありました。

東京でも、これだけ情報カード関連製品が置いてあるところは珍しいです。

情報カードを使う人にとっては、まさにメッカと言えるかもしれません。:)

アメリカにおけるインデックスカード

Patrick & Co.のインデックスカードコーナー

仕事でサンフランシスコに行った際に、空いた時間を利用してインデックスカードを探してみました。SFMOMA の近くに、Patrick & Co. という文房具屋を発見しました。店舗はビルの一階を占め、規模からすると中規模。世界堂と比べるのはあまりフェアーではないかもしれません。店員さんは気さくな方で、写真の撮影を快く許可して下さいました。

ペン類、ポストカード、封筒などが大量に売っています。インデックスカードのコーナーは、店の奥の方にありました。 5x3、6x4、さらに大きいサイズ(8x5?)も置いてありました。作っている会社は、Oxford 社、Mead 社の2社。在庫の量は、日本でもアメリカでもあまり変わらないように見えました。日本の情報カードと違っていて面白かったのは、青・黄色・赤など、カラーバリエーションが多かったことです。種類は、無地・罫線がありましたが、方眼は見当たりませんでした。

Patrick & Co. からしばらく歩くと、今度はオフィス・デポを見つけました。ここには、オフィス・デポブランドのインデックスカードが置いてあり、その中に方眼カードを発見しました。

アメリカの方眼カード

アメリカで売られている方眼カードを見て、非常に驚かされました。Lepard 氏と Gregkise 氏が指摘しているように、カードの束を上から見た時、グリッドの線がまったくバラバラだった、ということです。これでは、タグを付けるためにカードの方眼を利用する方法が使えません。コレクトの方眼カードしか見たことの無かった自分にとっては、これは衝撃的でした。

その他に気付いた点としては、グリッドの間隔が違っています。コレクトのものは 5 mm 間隔なのに対し、オフィス・デポの方眼は 6 mm 間隔です。コレクトの方眼カードを使い続けてきたので、私の目には 5 mm の方眼の方が、全体に引き締まった感じに見えました。

5x3 情報カードの比較表

製造元タイプ*カットとグリッド**グリッド間隔**
コレクト(日本)p, pp, r, rl, rv, q揃っている5 mm
L!fe(日本)p, r, c, q揃っている6 mm
コクヨ(日本)p, r--
Oxford (U.S.)p, r, c, qランダム6 mm
Office Depot (U.S.)p, c, q ランダム 6 mm
Mead (U.S.)p, r, c--
Ampad (U.S.)p, r, c--
3M (U.S.)rs, rs+c--
Exacompta (France)q+c 揃っている5 mm

\* : p : 無地, pp : 無地プリント用, r : 罫線, rl : 罫線図書, rv : 罫線タテ, rs : 罫線ポストイット, q : 方眼, c : カラー \*\* : 方眼カードに関して

情報提供:Leopard [1], Gregkise [2], John [3], Ayalan [4], David [5], Alina Mikadze [6], Picolin (in personal communication).

追加情報をお待ちしております。

外部リンク

PoIC 用語集

PoIC 
Pile of Index Cards の頭文字。カード-ドックシステムとこれに付随するメソッドを総称して PoIC と呼ぶ。"Pile" とは、「積み重ね」の意味。当初は、"Indexcarding"、"Pile of Indexcards (PoI)" と呼んでいた。Flickr や Manual Ver. 1.* にはその名残が見える。その後、Tom 氏の指摘で、英語としては "Indexcards" の間にスペースが入るのが正しいと判明、現在に至る。
ドック 
情報カードを貯める箱。埠頭(ドック)に船が集まってくるイメージから。
ポッド 
情報カードを持ち運ぶフォルダのこと。特に、モレスキン・メモポケットを情報カード持ち運び用に改造したものを icPod と呼んでいる。
icPod 
情報カードを持ち運ぶために改造したモレスキン・メモポケットの固有名詞。開発コードネームは KM2P(Kaizo Moleskine Memo Pockets)。
インデックスカード 
インデックスとは索引のこと。本の索引や図書館で目録を作るのに使われていた。英語では、"index cards"。Index と cards の間にスペースが入るのが正しく、一般的に複数形で表されることが多いようだ。日本では「情報カード」という呼び方が定着している。
カード五書 
カードと生産性を取り扱った、梅棹(1969)渡部(1976)板坂(1973)川喜田(1967)Allen(2002)の五冊をもって、「カード五書」と定義する。カード使い必読の書。
パイルとスタック 
どちらも「積み重ね」の意味。このマニュアルでは、カードを平積みした状態を「パイル」、カードを立てて並べた状態を「スタック」と呼んでいる。

引用コレクション

書くことについて

内なる声を聞く

あなたの内なる声を、他人の意見で埋もれさせてはならない。一番大切なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです。それらは、あなたが本当になりたいものを既に知っています。その他の全てのことは二次的なものです。

スティーブ・ジョブス、スタンフォード大学 学位授与式、2005年6月12日.

PoIC のようなパーソナルシステムでは、自分の頭、心で考えたことを素直に書くのが一番大切。自分の「内なる声」に耳を傾け、それをカードに書いていく。

書くことの慣性

書く作業でもっとも難しいのは、「始めること」だ。イナーシャ(慣性)が大きいのである。

「超」整理法, 野口悠紀雄, p. 177, 1993.

慣性とは「動き出しにくさ」を表す言葉。0から1にするよりも、1から2にする方がたやすい。

メモの効用

心に浮かんだ考えや見聞きした事実は、必ず書き留めておく習慣を付けるべきだ。そのほうが強く印象に残り、重要なことを忘れずにすむ。ベーコンは数多くの草稿を残して死んだが、それには「執筆用に書き留めた断想」というタイトルが付けられている。

パイ・スミスは、若いころ父親のもとで製本工の見習いをしていたが、当時から自分の読んだ本は抜粋して写し、自らの批評も書き留めるという習慣を養った。彼は、生涯を通じて資料収集に熱心に取り組んだが、「常に学び、常に進歩し、常に知識を蓄積していった」と伝記作家にいわしめるほどの努力家であった。こうして書き留めたメモ帳が、書物を著す際に古今の事例の無尽蔵の宝庫になったのは、言うまでもない。

名医ジョン・ハンターも、記憶力の弱さをメモで補っていたし、折りにふれてメモの効用を説いていた。彼はこう語っている。「考えたことや見聞きしたことを書き留めるのは、商人が棚卸しをするのと同じだ。それをしないと、自分の店に何が置かれていて何が足りないのか、さっぱり分からないじゃないか。」

自助論—人生の師・人生の友・人生の書, サミュエル スマイルズ, 2003.

一万アイテム

だいたいコンピューターが本格的に威力を発揮するのは、人間の脳では処理しきれないような大量の情報に対してである。ところが、一万アイテム程度の情報管理なら、蔵書の例を見てもわかるように、人間の脳で簡単にできるのだ。

「知」のソフトウェア, 立花隆, 1984.

名前を付ける

人間は他人の名前などいっこうに気にとめないが、自分の名前になると大いに関心を持つものだということを、ジム・ファーレーは早くから知っていた。自分の名前を覚えていて、それを呼んでくれるということは、まことに気分のいいもので、つまらぬお世辞よりもよほど効果がある。

人を動かす, デール・カーネギー, p.p. 105-106, 1999.

PoIC では、そのカードに固有の名前(絶対参照名)を付ける。カードにとっても、名前で呼んでもらえることが嬉しいに違いない。人の動かし方は、カードの動かし方にも通じる。逆もまた真なり。

時系列について

過去に向かって点をつなぐ

あなたは、点を将来に向かってつないでいくことはできません。あなたができるのは、点を過去に向かってつないでいくことだけです。だから、各々の点が、将来何らかの形で必ずつながるという信念を持たなくてはならなりません。あなたは、ガッツ、運命、人生、カルマ、どんな形であれ、信念を持っています。このやり方のおかげで、私は人生において、ねじ伏せられることはありませんでした。そして、全ての場面において、私の人生を変えてくれました。

スティーブ・ジョブス、スタンフォード大学 学位授与式、2005年6月12日.

重要なのは、点は過去に向かってのみつなぐことができる、という事実。点の間のパターンは、将来にならないと分からない。私にとって、一枚一枚のカードはジョブス氏の言う「点」に当たる。カードとカードの関係は、あとになって振り返った時に、ようやく分かる。いまの私たちにできるのは、ただカードを書いていくことだけです。

ぼくの歴史順1

(ロブをライブに誘おうとディックが家に訪ねて来る)

ディック:「レコードの整理をしてたんだね。・・・並べ方は年代順?」
ロブ  :「いいや」
ディック:「ABC 順でもないよね?」
ロブ  :「違う。・・・ぼくの歴史順だ」
ディック:「そんな手のかかる・・・」
ロブ  :「ディープ・パープルからハウリン・ウルフまでは25枚。
      そして、フリートウッド・マックのこれは、1983年の秋、贈り物として買ったけど、
      結局個人的な理由で送らなかったことを思い出せば見つかる」
ディック:「それはなんだか・・・」
ロブ  :「落ち着く」
ディック:「ああ」

ハイ・フィデリティ(DVD 版), ジョン・キューザック主演, スティーブン・フリアーズ監督, 2005.

自分の時間軸(歴史)にそった並べ方が、いちばん落ち着く(comforting)。

ぼくの歴史順2

ローラがいたころ、レコードはアルファベット順に並んでいた。その前は年代順だった。最初はロバート・ジョンソン、最後はワム!か、もしくはアフリカのミュージシャン。ローラと出会ったころに聞いていたレコードだ。しかし今は、違うやりかたを試してみようと思っている。レコードを買った順に並べることはできるだろうか。そうすることで、ペンをとらずに、自伝をつづってみたい。ぼくはレコードを棚から全部出し、いくつかの山にわけて床じゅうに積み上げていく。最初に探すのは《リボルバー》だ。そうやって進めていき、作業が終わると、ぼくは自分でいることの充足感にひたる。結局のところ、これがぼくだ。どうやって、たった二十五枚で、ディープ・パープルからハウリン・ウルフまでたどりついたのか、よくわかる。独身生活を強いられながら、そのあいだずっと〈セクシュアル・ヒーリング〉を聞いていた時のことも胸を痛めず思い出せるし、十代の頃、みんなで集まってジギー・スターダストやトミーのことを話せるように、学校でロック愛好会を作ったときの記憶も恥ずかしくならずに思い出せる。

だが、なによりよかったのは、新しいファイリング・システムを創造して、すっかり安心できたことだ。ぼくは、自分自身を必要以上に複雑にしていた。ここには二千枚からのレコードがある。ぼくでなければ ー もしくは、ロブ・フレミング学の博士号でもなければ、なにがどこにあるか見つけだすことはできないだろう。もしジョニ・ミッチェルの〈ブルー〉が聞きたくなったら、一九八三年の秋、ある女の子にあげようと思って買ったレコードだったことを思い出せばいい。なぜ彼女にあげなかったのかは、ここでは明かしたくない。とにかく、そういうことを知らなければ、誰にも特定のレコードのありかなどわからないわけだ。ぼくに頼んで、ひっぱりだしてもらうしかない。そのことが、なぜだか、とても心地よく感じられる。

ハイ・フィデリティ, ニック ホーンビィ, p.p. 77-78, 1999.

「ハイ・フィデリティ」の原作の方。こちらの方が PoIC の時系列スタック法に近い。「なぜだか、とても心地よく感じられる」のは、それが一番自然な方法だから。

問題解決の指針として

いかにして問題をとくか

  • 問題を理解しなさい:「何が未知か、何が与えられているか、何が条件か」を自分に問いかけなさい。
  • 絵を描きなさい:素描、グラフ、マインドマップなど。問題を視覚的に理解しなさい。
  • 似たような問題を探しなさい:多分、これと同じような問題を、過去に経験しているはずです。常にゼロから出発する必要はありません。
  • 関連する問題を解きなさい:その問題を解くことができそうにない時は、関連した問題を解いてみなさい。
  • 検算しなさい:答えが出たら、確認しなさい。正確な答えを知らない時は特に重要です。


ジョージ・ポリア, いかにして問題をとくか, 1999.

ポリア先生は「いかにして問題をとくか」で、数学の問題を解く際の指針を示しました。この指針は、数学の問題に限らず、答えがまだ分からない一般的な問題を解く時にも便利です。暗い森の中を歩く時の、コンパスのようなものです。

PEACE 法

  1. Problem(問題)
  2. Emotion(感情)
  3. Analysis(分析)
  4. Contemplation(思索)
  5. Equilibrium(安定)


ルー・マリノフ, 考える力をつける哲学の本, 2002.

問題が発生したあと、不安になったり、心配になったりします。しかし、これは誰にでも起きることです。重要なのは、この感情の段階で止まらず、次のステップに進むことです。

至るところにパターンがある

(マックス・コーヘンは数学者。株価のパターンを探す過程で、次のような仮定を考えた)

  1. 数学は、自然を表す言語である。
  2. 私たちの身の回りの事象は、全て数字を使って表現できる。
  3. 任意のシステムに現れる数字をグラフにすると、パターンが出現する。
  4. したがって、私たちの身の回りには、至るところにパターンがある。


π, Darren Aronofsky, 1998. Aronofsky.Net

記録を残し、グラフにしてみる。面白いパターンが見えるかもしれない。

Think different

クレイジーな人を讚えよう。
反逆者、やっかい者、トラブルメーカー。
四角い穴に打ちこまれた、丸い杭。
モノゴトを違うところから見ている人々。

彼らはルールが大嫌い。
現状維持など気にもかけない。

あなたは彼らを称賛することも、反論することも、引用することもできる。
疑うことも、美化することも、中傷することもできる。
一つだけあなたにできないことがあるとしたら、それは彼らを無視することだ。

なぜなら、彼らはモノゴトを変えるから。
彼らは発明し、想像し、癒す。
冒険し、作り、鼓舞する。
彼らが人類を前に押し進める。

彼らはたしかにクレイジーには違いない。
そうでなければ、いったい誰が無地のキャンバスに芸術作品を見いだすことができるだろうか。
いったい誰が静寂の中に座り、いままで書かれたことのない歌を聴くことができるだろうか。
あるいは、赤い惑星をじっと見つめて、移動実験室の夢を見ることができるだろうか。

人々に「クレイジー」としか見られない人の中に、私たちは「天才」を見る。

「自分は世界を変えることができる」と考えるほど十分クレイジーな人が、
本当に世界を変えるのだ。

Think different.

アップル宣言, アップルコンピューター, 1998. (真野 流氏, 北山 耕平氏の訳を Hawkexpress が改変)

PoIC を見た海外の人に、"crazy" とか "insane" と言われることもある。でも、この詩を読むと、"crazy" でも良いかなといつも思ってしまう。

見捨てられた石

家を建てる者たちの見捨てた石。
それが新しい家の礎の石となった。

マタイ, 21:42

なにか新しいモノを作ろうとする時に励みになる言葉。

良いデザインとは

  • 良いデザインは単純である。
  • 良いデザインは永遠である。
  • 良いデザインは正しい問題を解決する。
  • 良いデザインは想像力を喚起する。
  • 良いデザインはしばしばちょっと滑稽だ。
  • 良いデザインをするのは難しい。
  • 良いデザインは簡単に見える。
  • 良いデザインは対称性を使う。
  • 良いデザインは自然に似る。
  • 良いデザインは再デザインだ。
  • 良いデザインは模倣する。
  • 良いデザインはしばしば奇妙だ。
  • 良いデザインは集団で生起する。
  • 良いデザインはしばしば大胆だ。


ハッカーと画家, ポール・グレアム, p. 137-150, 2005.

ユーリー先生の教え

人間はどんなところでも学ぶことができる。
知りたいという心さえあれば。

MASTER キートン, 勝鹿北星, 浦沢直樹, vol. 17, p. 132, 1994.

トイレの中でも、電車の中でも。学校や会社が変わっても、住む国が変わっても。PoIC というシステムさえあれば、どんなところでも研究できる。

システムとしての PoIC

再帰性と予測不可能性

自分自身について考えるシステム。

再帰的列挙とは、新しいものが古いものから一定の規則によって出現する過程のことである。そのような過程には、びっくりすることがたくさんあるように思われる ー たとえば Q 列の予測不可能性がその一例である。再帰的に定義されるその種の数列には、行動の複雑さのある本質的な増大が伴うらしく、先に進めば進むほど、予測がさらに困難になる。このような考えをさらに推し進めると、適度に複雑な再帰的システムはどんな予定されたパタンからも逃れられるくらい強力であるらしい。そして、これこそ知性の要件のひとつではなかろうか? 自分自身を再帰的に呼び出す手続きから成るプログラムを考えるだけでなく、もっと技巧的な、自分自身を修正できるプログラム ー 自分自身に働きかけて拡大し、改良し、一般化し、修理できるプログラムを発明するのはどうだろうか? この種の「もつれた再帰性」はおそらく知性の核心部分にかかわっている。

ゲーデル、エッシャー、バッハ ー あるいは不思議の環, ダグラス・R・ホフスタッター, p. 165, 1985.

カードを使って生産性を向上させたいと考えた時、ドックの中には、PoIC に関するカードも自然に含まれている。つまり、システムは、システム自身について考えている。考えた先のシステムは、またシステム自身について考えている。これが、合わせ鏡のように続く。その中で、自分自身を改良していく。

適応するシステム

適応とは組織の持つ本質的な性質の現れとして、つまり栄養作用の一つの姿として考えられる。新しい、思いがけない状態は、さまざまな姿で生起するが、生理作用もそれと同じく多様に変化する。しかし、不思議なことに、成し遂げようとする目的に向かって自己を形成していく。時間と空間を、知性で考えるのと同じには評価しないように思われる。組織は、すでにあるものも、まだできていないものも、その空間的な形に応じて同じ平易さで構成していく。胎児として成長している間、網膜と水晶体は将来目となるもののためにと連合している。適応力は組織および体全体が持っているばかりでなく、組織を構成しているそれぞれの要素も有している性質なのである。個々の細胞は、ちょうど蜜蜂が巣のために働くように、全体のために行動するように見える。そして、未来のことを知っているように思われる。その未来のために、組織は構造や機能を前もって変え、それに備える。

人間 この未知なるもの, アレキシス カレル, p.p. 265-266, 1992.

未来を知り、それに合わせて自分自身を適応させ、変化していくシステム。ドックの中の一枚一枚のカードは、将来自分が何になりたいのかをすでに知っている。

情報カードは「エージェント」

複雑適応系はまず第一に、並列に働く数多くの「エージェント」 ー 要素的な機能単位をこう呼ぶ ー のネットワークである。そこではシステムの制御は高度に分散化されている。

第二に、複雑適応系は数多くの組織化のレベルをもち、一つのレベルでの各エージェントは、上位レベルのエージェントにとって「積み木」のような役割を担っている。その際、システムはこれらの「積み木」の配列をつねに訂正し再調整している。この訂正や再結合が「適応」という現象の基礎的メカニズムであり、その意味では「学習」も「進化」も「適応」も同様の過程と見なせる。

第三に、すべての複雑適応系は未来を先読みする。すなわち、外界に関する無数の内的モデルに基づいた予測を立てて行動する。この過程は、コンピューターのプログラミングや生物の遺伝子のようなあらかじめ設定された見取図に従う受動的なものではなく、システム自体の「経験」から得られる能動的なものである。

最後に、複雑適応系は開かれたシステムであり、新しい可能性が常にシステムそのものから自発的に生み出される。だから、複雑適応系にとっては、閉じたシステムでア・プリオリに決定されるような「平衡状態」という概念は何の意味も持たない。システムはつねに展開中で、推移の途上にある。平衡状態とはシステムの死にほかならない。

このことはまた、システムの各エージェントが適応度や有益度のようなパラメーターによってはけっして「最適化」ー もっとも効率のよい状態に落ち着くこと ー されないことを意味している。選択の可能性はあまりに大きく、最適解を見いだす実際的な方法を、各エージェントはもたない。各エージェントがなし得ることは、手近にある他のエージェントのふるまいと関係しながら、自らを変化させ、改良していくことである。ひとことでいえば、複雑適応系は「永遠の新しさ」によって特徴づけられるということだ。

「複雑系」とは何か, 吉永良正, p.p. 79-80, 1996.

PoIC の中の一枚一枚の情報カードは、システムの中の有能な「エージェント」。だから、あまり手を掛けすぎない方が良い。エージェントに任せてしまった方が、よっぽどよく働いてくれる。

「創発」という考え方

PoIC は、ボトム・アップに得られた知識から、トップ・ダウンにフィードバックが掛かるシステム。

ラングドンの図式を借りれば、下位のレベルにある個々の構成要素間の局所的相互作用から、上位レベルにあるなんらかの大域的構造が出現する。この構造によって規定された全体的な特性が今度は下方へフィードバックされ、構成要素のふるまいに影響を及ぼす。この図式を下からだけ見れば機械論的な見方になるし、上だけから見れば生気論的ないしは目的論的な見方になる。唯一、複雑系の科学だけが上下双方向の見方を統一的に捉えることができ、その際のキーワードが創発だというわけである。

構成要素間の局所的な相互作用が系全体の大域的構造を生成するという点では、創発は相転移以外の ー 外部条件の有無という決定的な違いはあるにせよ ー 何ものでもない。また、創発される構造が、要素だけを見ていては予測できない、言い換えれば「全体は部分の総和ではない」という点では、非線形現象の特性そのものである。

「複雑系」とは何か, 吉永良正, p.p. 106-108, 1996.

PoIC では、ボトム・アップで得られた知識から、トップ・ダウンにフィードバックが掛かる。つまり、ボトム・アップとトップ・ダウンの「両方」。ボトム・アップだけでも、トップ・ダウンだけでもない。

ランダムの中から秩序が立ち上がる

さて、生命現象もすべては物理の法則に帰順するのであれば、生命を構成する原子もまた絶え間のないランダムな熱運動(ここに挙げたブラウン運動や拡散)から免れることはできない。つまり細胞の内部は常に揺れ動いていることになる。それにもかかわらず、生命は秩序を構成している。その大前提として、"われわれの身体は原子にくらべてずっと大きくなければならない" というのである。

それは、すべての秩序ある現象は、膨大な数の原子(あるいは原子からなる分子)が、一緒になって行動する場合にはじめて、その「平均」的なふるまいとして顕在化するからである。原子の「平均」的なふるまいは、統計学的な法則にしたがう。そしてその法則の精度は、関係する分子の数が増せば増すほど増大する。

ランダムの中から秩序が立ち上がるというのは、実はこのようにして、集団の中である一定の傾向を示す原子の平均的な頻度として起こることなのである。

生物と無生物のあいだ, 福岡 伸一, p. 141, 2007.

PoIC を始めたばかりの状態が一番無秩序な状態。そこで悩まずに、カードを増やす。ドックの中のカードが増えれば増えるほど、システムは秩序に向かう。

センス鎖とアンチセンス鎖

今、重要なのは、ラセン構造そのものよりも、DNA がペアリングして存在しているという事実のほうである。これは生物学的にどのような意味を持つのだろうか。それは情報の安定を担保するということにつきる。

DNA が相補的に対構造を取っていると、一方の文字列が決まれば他方が一義的に決まる。あるいは二本の DNA 鎖のうちどちらかが部分的に失われても、他方をもとに容易に修復することが可能となる。

DNA は紫外線や酸化的なストレスを受けて、配列が壊れることがある。ATAA という部分配列がなくなったとしても、相補的なもう一方の鎖に TATT という構造が保存されていれば、自動的に穴を埋めることができる。事実、DNA は日常的に損傷を受けており、日常的に修復がなされている。この情報保持のコストとして、生命はわざわざ DNA をペアリングして持っているのだ。そのうち一本は、たとえば、this is a pen という情報を配列としてダイレクトに持つ鎖、すなわちセンス(意味)鎖である。もう一方は、このセンスの影武者(あるいは映し鏡)としての鎖、すなわちアンチセンス鎖である。

生物と無生物のあいだ, 福岡 伸一, p.p. 71-72, 2007.

私は、家ドックと会社ドックの二つを運用しています。こうすると、どちらか一方が上手くいっているときに、なぜ上手くいくのか、もう一方がなぜ上手くいかないのかを考えることができます。性格の違う二つのドックを同時に運用することは、PoIC を続ける一つのコツかもしれない。

PoICer 共有リソース

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PoIC マニュアル

Version 1.*

第一世代(Ver. 1.*)のマニュアルは、蓄積した情報カードを抜き出し、ブログに書いたものが元となりました。一つの記事に一つの話題のみを書き、それをあとで並べ替えてマニュアルとしました。情報カードをそのままデジタルに置き換えたものに相当します。ライセンスは、Creative Commons ライセンス(表示-非営利-改変禁止)です。

Version 2.*

第二世代(Ver. 2.*)からは、Wikipedia で採用されている MediaWiki を導入しました。これによって、より自由に文章を編集でき、第一世代では取りこめなかった残りカードも、取り込むことが可能となりました。ライセンスは、GFDL および GPLです。

Version 3.*

安定版。ライセンスは、GFDL および GPLです。

  • Version 3.0 (- 2008.06.04)

折り紙ポッド

サブシステムで紹介した、折り紙ポッド(=自分で作る icPod)。卓上簡易ドックとしても使えます。ライセンスは、GFDL および GPLです。

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